3.七年前の白骨
山崎兄弟の遺体が見つかると、噂はすぐに奥羽村全体へ広がった。
村人たちは道端に集まり、声を潜めて話した。ふだん老人の血圧を測り、子どもの擦り傷を手当てし、正月や盆には野菜を分けてくれた久美子が、そんなことをするとは思えない。多くの人が、そう口にした。
「あの人が人を殺すなんて」
「うちの子が小さいころ熱を出したときも、面倒を見てくれたんだよ」
「あんなにやさしい人が、人を殺せるわけない」
だが、地下貯蔵庫の遺体は嘘をつかなかった。
さらに警察を驚かせたのは、その日のうちに二組の家族が届け出に来たことだった。
彼らが訴えたのは、何年も前の失踪だった。
一人目の行方不明者は、藤原雪乃。久美子の弟の妻だった。
二人目は、三浦浩司。久美子の妹、静香の夫だった。
雪乃は2015年11月に、浩司は2013年3月に姿を消していた。二人とも奥羽村の住人だった。失踪後、家族には携帯からメッセージが届いている。外へ働きに行く、しばらく戻らない、という内容だった。
家族は当時、所轄署に届けを出していた。だが、地方の若者が仕事を求めて県外へ出ることは珍しくない。明らかな犯罪の痕跡も、遺体もなかった。二件の失踪は、そのまま未解決になっていた。
山崎兄弟の遺体が見つかって初めて、雪乃と浩司の家族は気づいた。
あのときのメッセージも、本人のものではなかったのかもしれない。
岩城は古い捜査資料を開き、胸の奥が重くなるのを感じた。
二つの失踪にも、久美子の影があった。
地下貯蔵庫の掘り起こしは続いた。
鑑識係は、汚物と表土の下、約三十センチの場所から、白骨化した遺体を発見した。そばには女性用の衣類の一部が残り、髪も長かった。初期の見立てでは、女性と考えられた。
雪乃の家族は、規制線の外で声を上げた。中へ入って確認しようとした者は警察官に止められ、そのまま現場確認のため連れて来られていた久美子へ向かっていった。
「雪乃を返して!」
「あの子が何をしたっていうの!」
久美子はパトカーのそばに立っていた。表情はなかった。聞こえているようにも、何も聞こえていないようにも見えた。
警察は雪乃の両親からDNAを採取し、白骨のDNAと照合した。結果はすぐに出た。
白骨は、藤原雪乃だった。
この時点で、事件は山崎兄弟の失踪だけではなくなった。
七年のあいだに、奥羽村では四人が姿を消していた。二人の遺体は地下貯蔵庫で見つかり、一人はさらに深い土の下から白骨で発見された。そしてもう一人の遺体は、まだ見つかっていない。
久美子は最初の二日間、黙秘した。
三日目の夕方、彼女の心の防壁は崩れた。
取調室の灯りが、久美子の顔を白く照らしていた。彼女はうつむき、手錠が机の縁に小さく触れた。
「話します」
岩城は向かいに座ったまま、急かさなかった。
久美子は目を閉じた。
「全部、私がやりました」




