表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女性専用刑務所の面会室:一線を越えた【危険な女たち】の犯罪告白  作者: 熾星


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
2/18

2.別人の指

 

 岩城は、修二が過去に送ったメッセージをすべて確認した。

 修二の文章には、はっきりした癖があった。句点も読点もほとんど使わず、区切りたいところで適当に空白を入れるか、勢いのまま一文で打ち切ってしまう。妻や友人、取引先に送った文面は、短く、誤字があり、いかにも本人の口調だった。


 だが、あの告白めいたメールだけは整いすぎていた。

 文は自然に区切られ、句読点も正しい。語調も修二本人のものではない。あれほど粗い文章を書く男が、失踪して数日のうちに急にきれいな文面を打つとは考えにくかった。

 岩城は携帯を同僚に渡した。


「これは修二さんの文じゃない」


 同僚が声を落とした。


「では、この携帯は誰が持っているんでしょう」


 誰もすぐには答えなかった。

 だが、答えはもう見えかけていた。


 修二の家族は、メールが届くたびに何度も電話をかけ直していた。だが、メールが届いた直後に発信すると、相手はすぐに電源を切った。


 その後も、修二の携帯から数通のメッセージが送られてきた。どれも、自分の失踪と佐伯久美子は無関係だと示したがっているような内容だった。

 そう見せようとすればするほど、不自然さは増した。


 後日、修二の妻は一冊の貸付帳を警察に差し出した。家で人に金を貸すときに使っていた帳面で、金額、利息、返済日が細かく記されていた。警察が久美子のこれまでの話と照らし合わせると、彼女が口にした借金関係はあまりにも正確だった。修二夫婦しか知らないはずの細かな数字まで、久美子は把握していた。

 岩城は、修二の妻が言っていた一言を思い出した。


「夫の携帯のメモにも、同じような帳面が入っていました」


 久美子が修二の携帯を持っているなら、その内容を見ることができる。

 警察は久美子から改めて事情を聴いた。

 彼女は相変わらず落ち着いていた。山崎兄弟のことを聞かれると、いつも別の債務者の名前を出した。


「修二さんは、人にお金を貸すとき、利息をきっちり取りました。村で嫌っていた人は、一人や二人ではありません」


「誰ですか」


 久美子はいくつかの名前を挙げた。金額も時期も利息も、驚くほど明確だった。

 岩城はすぐには遮らなかった。彼は久美子の手元を見ていた。ほかの債務者の話をしているとき、彼女に緊張はない。だが、


「山崎の兄弟」という言葉が出ると、指先がわずかに曲がった。

 刑事たちは、久美子が少なくとも何かを知っていると見ていた。

 しかし、彼らにはまだ最も重要なものが欠けていた。

 遺体である。


 5月19日の午前、岩城と数人の刑事が再び佐伯家を訪れた。

 佐伯家は雪国によくある古い農家だった。母屋の横には物置があり、庭の隅には古い農具やプラスチックの桶が積まれている。軒下には干した大根の葉がつるされていた。だが、庭の一角だけ、雑草が不自然なほど厚くかぶさっていた。

 岩城は庭に立ち、しばらくして久美子を見た。


「この家の貯蔵場所はどこですか」


 久美子の表情が初めて変わった。


「うちには、そういうものはありません」


 岩城は視線をそらさなかった。


「ここは豪雪地帯です。古い農家なら、冬を越すために野菜や漬物をしまう場所が多少なりともあるはずです。雪室でも、芋穴でも、裏手の小さな貯蔵庫でもいい。何かしら残っているでしょう。なぜこの家にはないんですか」


 久美子の手が、体の横で強くこわばった。


「昔はありました。でも、もう使っていません」


「入口はどこですか」


 久美子は答えなかった。

 岩城は庭の隅の雑草へ向かった。数人の刑事が枯草とビニールシートをどかすと、すぐに重い木のふたが現れた。

 ふたの縁は黒ずみ、隙間から言いようのない臭気が漏れていた。

 木のふたをこじ開けた瞬間、久美子が飛び出した。


「だめです!」


 彼女は入口を体でふさぎ、血の気の引いた顔で叫んだ。


「ここはうちのものです!入らないでください!」


 二人の女性警察官が彼女を押さえた。久美子はふたたび入口へ戻ろうとし、靴底が泥に乱れた跡を残した。その瞬間、これまで見せていた穏やかさも、冷静さも、協力的な態度も消えていた。

 残っていたのは、恐怖だけだった。


 地下貯蔵庫は深さ三メートルほどあった。懐中電灯で中を照らすと、底には汚物と台所ごみ、生活ごみが積もっていた。臭気は息が詰まるほど濃く、ごみの下から古いシーツの端がかすかにのぞいていた。


 刑事が農具で表面を慎重にかき分けた。

 破れたシーツの隙間から、人の足が現れた。

 現場はただちに封鎖された。


 鑑識係が防護服を着て地下へ下りた。簡単な除去作業のあと、シーツに包まれ、布切れと麻縄で縛られた二つの遺体が姿を現した。

 遺体は腐敗していたが、衣服と所持品の特徴から、行方不明になっていた山崎健一と山崎修二であることが確認された。


 司法解剖の初期所見では、二人の死因はいずれも窒息死だった。

 久美子がパトカーに乗せられたとき、彼女はもう暴れなかった。後部座席に座ったまま、魂を抜かれたような目をしていた。


 奥羽村の風が、誰もいなくなった庭を吹き抜けた。地下貯蔵庫のふたは開いたままだった。

 一か月以上隠されていた秘密が、掘り起こされた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ