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女性専用刑務所の面会室:一線を越えた【危険な女たち】の犯罪告白  作者: 熾星


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【消えた恋人】八年愛した男を殺し、私は犬に食わせた 1.洗濯女のバッグにあった鍵

2007年11月6日、福岡県北九州市内の所轄署に、一件の行方不明届が出された。


届け出に来たのは、二十三歳の若い女性だった。仕立てのよいコートを着て、バッグも靴も高価なものだった。化粧もきちんとしている。だが、受付の椅子に座った彼女の顔には焦りがにじみ、ここ数日まともに眠れていないように見えた。

彼女の名前は、白石莉央。


四か月前、彼女は瀬川蓮と名乗る男と出会った。二人はすぐに交際を始めた。ところが三日前から、蓮と突然連絡が取れなくなった。電話はつながらず、メッセージにも返事がない。彼が勤めていると言っていた会社へ行っても、何の手がかりも得られなかった。


捜査員は基本情報を聞き取り、

「瀬川蓮」という人物の身元確認を始めた。

結果は、すぐに出た。

そんな人物は存在しなかった。


名前も、携帯番号も、勤務先も、すべて一致しない。最近の行方不明届の中にも、蓮に似た人物はいなかった。家族や親族からの届出もない。そこまで調べたところで、所轄署の捜査員たちは同じ結論にたどり着いた。


莉央は、だまされた可能性が高い。

そういう相談は、決して珍しくなかった。


偽名で恋人を装い、感情や金銭を利用したあと、目的を果たすと姿を消す。ネットや短期間の交際では、似たような事例が何度も起きていた。捜査員はまず、莉央に金銭被害がないかを確認した。


「ありません。お金を貸してと言われたことも、渡したこともありません」


捜査員は彼女を見た。


「何かを買わされたり、どこかの口座へ振り込むよう言われたりしたことは?」


「ありません」


莉央はバッグを握りしめた。指先が白くなっていた。


「あの人は詐欺師なんかじゃありません。きっと何かあったんです」


捜査員は、すぐには否定しなかった。

行方不明の届出は受理された。ただし、相手に関係する口座へ金を振り込まないこと、蓮の知人を名乗る人物を安易に信用しないことも伝えられた。だが、その忠告は莉央の心にはほとんど届かなかった。

彼女は椅子に座ったまま、同じ言葉を繰り返した。


「あの人を知っています。そんな人じゃありません」


警察署を出るとき、莉央の足取りは重かった。

自分がだまされたとは思えなかった。


四か月のあいだに受け取った優しさや寄り添う時間が、すべて嘘だったとは、どうしても信じたくなかった。


それから数日、莉央は自分で蓮の行方を探し始めた。

けれど、すぐに気づいた。彼女が持っている手がかりは、あの顔だけだった。名前は偽名。勤務先も嘘。携帯もすでに電源が切られている。二人で行った場所を一つずつ回ったが、何も見つからなかった。


11月10日。

蓮が姿を消して、ちょうど一週間が過ぎた朝だった。

洗濯代行をしている女性が、洗い上がった衣類を届けに来た。


その女性は、藤原詩織といった。莉央より五歳年上で、近くの高級住宅街を回りながら、個人で洗濯代行の仕事をしていた。手洗いやアイロンが必要な服、クリーニングに出したい衣類を預かり、約束した日に届ける。彼女はいつも中古の軽ワゴンでやって来た。


莉央は以前、近所の高級クリーニング店へ服を出していた。だが、近所の人に紹介されて詩織を知った。仕事が丁寧で、衣類の扱いもきれいだった。家まで取りに来て、届けてくれる。近所の独身女性や裕福な家庭の多くが、詩織を利用していた。


やがて、莉央と詩織は親しくなった。

莉央は体が弱く、喘息もあった。大学を出てからも本格的に働くことはなく、両親が買ってくれた一軒家で静養に近い生活をしていた。両親は海外で仕事をしており、一年に何度も帰ってこない。普段話す相手は、家政スタッフくらいしかいなかった。


詩織は、ただの洗濯代行の女性には見えなかった。

言葉遣いはきれいで、礼儀もあった。音楽や本の話をしても、ただ相づちを打つだけではなかった。莉央は彼女に親しみを覚え、よく家に上げてお茶を出し、自分の近況を話すようになった。


けれど、その日の莉央に、ゆっくり話をする余裕はなかった。

頭の中は、蓮のことでいっぱいだった。


詩織が洗い上がった衣類を玄関へ運び込むと、莉央はいつものように長く引き止めることもなく、代金だけを支払って送り出した。ドアを閉めてから、彼女は玄関脇の棚に詩織のショルダーバッグが置き忘れられていることに気づいた。


莉央はバッグを手に取り、すぐに追いかけようとした。

そのとき、バッグに付いたキーホルダーが目に入った。

それは、茶色い革のキーリングだった。


特別な品ではない。駅ビルの雑貨店でも買えそうなものだった。だが、莉央には見覚えがあった。革の端に、小さな黒いインクの染みが残っていたからだ。


蓮とデートをした日、寒さの中で莉央は彼のコートのポケットに手を入れ、指を絡めた。ポケットの中の鍵が邪魔だったので、自分のバッグへ移した。だが、バッグの中の万年筆のキャップが外れていて、キーリングにインクが付いてしまった。


莉央は何度も拭いた。

それでも、その小さな染みは消えなかった。

蓮は笑って、彼女を慰めた。


「いいよ。莉央がつけてくれた印だと思っておく」


その染みは、ずっと残っていた。

今、それが詩織のバッグについている。


莉央は、その場で問い詰めなかった。必死に平静を装い、バッグを持って玄関の外へ出た。詩織は何も気づいていない様子でそれを受け取り、笑って礼を言うと、車に乗って去っていった。


ドアを閉めた瞬間、莉央は車のキーをつかんだ。

詩織の軽ワゴンを追った。


車は高級住宅街を抜け、北九州市の郊外へ向かった。建物は少しずつ減り、道路沿いのコンビニや住宅もまばらになっていく。莉央の手のひらには汗がにじんでいた。それでも、彼女は止まらなかった。

詩織の車は、古い一戸建ての前で止まった。


最寄り駅からはかなり離れていた。小さな庭には、二台の洗濯機と何本もの物干し竿が置かれていた。さまざまな衣類が干され、風に揺れている。その光景は、遠目には人影が並んでいるようにも見えた。


莉央は車を降りなかった。

少し離れた場所に停めた車の中から、その庭を見つめた。

詩織には、きちんとした店舗などなかった。


客の服を自分が借りている古い民家へ持ち帰り、庭と小さな倉庫で洗い、干して、また車で届けていた。店舗の家賃を払わずに済むから、どうにか商売を続けられているのだろう。


けれど、蓮の鍵がどうして彼女のバッグにあるのか。


莉央が最初に考えたのは、裏切りだった。


蓮と詩織に関係があるのではないか。そう疑った。自分が庭へ踏み込み、二人が笑い合っているところを見る場面まで想像した。だが、車から降りることはできなかった。そんな現実をどう受け止めればいいのか、わからなかった。


もし蓮があの家にいたら。

もし蓮がいなかったら。

どちらにしても、莉央は自分が何を言えばいいのかわからなかった。

だから、待つことにした。


もし二人に関係があるのなら、蓮はいつかこの庭に現れるはずだった。

莉央は車をさらに遠くへ移し、古い民家を見張った。

昼が過ぎ、午後になった。

蓮は現れなかった。


午後四時ごろ、詩織が鉄の洗面器を抱えて家から出てきた。庭の隅にある犬小屋を開けると、黄色い大型犬が飛び出してきた。詩織はしゃがみ込み、洗面器の中から肉の塊を一つずつ取り出して、犬の前へ投げた。

その表情は穏やかだった。

どこか、ほっとしているようにも見えた。


莉央は最初、それをただの生肉だと思った。

犬が頭を下げ、その一つをくわえた。口元から何かが垂れ下がった。

五本の硬直した指が見えた。

莉央の呼吸が止まった。

次の瞬間、彼女は震える手で携帯を取り出し、110番へ通報した。


福岡県警が詩織の家へ到着したあと、家の裏手と倉庫の中から処理された遺体が見つかった。DNA鑑定の結果、遺体は莉央が探していた


「瀬川蓮」だと判明した。

ただし、瀬川蓮という名前は本名ではなかった。

死者の本名は、瀬川蓮太。

警察はその場で、藤原詩織を逮捕した。

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