6.幼稚な嘘の果て
須藤と莉子が行方不明になったあと、警察はすぐに動き出した。
須藤の姉は、あの不自然な電話を受けたあと警察へ通報していた。園田家の家族も、莉子がいつまでも帰らないことから、所轄署へ行方不明届を出した。二つの事件は最初、無関係に見えた。だが通話記録、口座情報、防犯カメラの映像が確認されるにつれ、線は少しずつ香織の部屋へ集まっていった。
警察は須藤が最後に姿を見せた場所を突き止めた。
美羽がクリニックを訪れた日の映像も確認した。
莉子の口座と香織の関係も明らかになっていった。
香織と剛は、追い詰められて白川町を離れた。二人は十数日間、各地を転々としたが、最終的に埼玉県内で逮捕された。美羽はニュースを見たあと、一人で警察署へ出頭した。
取調べの中で、三人はそれぞれ重い責任を他人に押しつけようとした。
剛は、二人の女の借金をどうにかするためだったと言った。
香織は、自分はずっと止めたかったが、どうにもできなかったと言った。
美羽は、最初に誘拐を言い出したのは自分ではないと主張した。
だが、記録に残された証拠は、誰の涙にも合わせて形を変えなかった。
須藤を標的に選んだこと。
彼を部屋へ誘い出したこと。
須藤を殺すべきだと判断したこと。
莉子の口座が危険だとわかったあと、彼女を消すことを受け入れたこと。
そのすべての重要な場面で、美羽は一度も本当に退いてはいなかった。
彼女はかつて、被害者だった。
しかし最後には、他人を逃げられない場所へ追い込む人間になっていた。
事件は前橋地方裁判所へ送られ、大きな注目を集めた。
若い女性がクリニックの院長から長く不適切な行為を受け、その後、親族とその交際相手とともに院長を誘拐し殺害した。さらに口座の線を消すため、無関係の友人まで殺害した。
どこから見ても、救いようのない事件だった。
公判では、須藤が生前に美羽へ行っていたことも取り上げられた。
弁護側は、美羽がクリニックで不当な扱いを受け、長く精神的に追い詰められていたと主張した。検察側は、須藤の問題を否定しなかった。しかし、セクハラは誘拐と殺人の理由にはならず、まして園田莉子の死を説明するものではないと指摘した。
莉子の夫は、傍聴席に座っていた。
彼はずっと黙っていた。
最後の意見陳述で、ようやく低い声を出した。
「妻は、友人を信じただけでした」
法廷は静まり返った。
「何も知らなかったんです。口座を貸しただけで、家に帰ってこなくなりました」
香織はその場で泣き崩れた。
美羽は泣かなかった。
ただうつむき、指を強く組んでいた。
判決の日、沙也香も傍聴席にいた。
裁判長が判決を読み上げる間、三人の被告は被告席に立っていた。それぞれの顔に、違う色が浮かんでいた。
春日井剛は、身代金目的誘拐、殺人、死体遺棄などの罪で死刑を言い渡された。
佐倉美羽は、標的の選定、被害者の誘い出し、二人の殺害への関与、そして犯行全体における重要な役割を認定され、死刑を言い渡された。
武藤香織は、誘拐、殺人、死体遺棄に関与し、友人を自ら罠へ呼び込んだとして、無期懲役を言い渡された。
判決が終わると、香織は立っていられなくなり、そばの職員に支えられた。
剛はうつむいたまま、肩を強張らせていた。
美羽は、最後まで顔を上げなかった。
閉廷後、沙也香は美羽と最後に面会する機会を得た。
面会室の美羽は、最初に会ったときよりもさらに痩せていた。
沙也香は彼女を見つめた。
「今でも、すべては須藤院長から始まったと思っていますか」
美羽はしばらく黙った。
「恨んでいました」
声は小さかった。
「でも途中から、ただ恨んでいただけではありませんでした。お金が欲しかった。借金取りに追われたくなかった。面倒なことから逃げたかった」
沙也香は何も言わなかった。
美羽は目を伏せた。
「最初は、あの人みたいな人間なら、ひどい目に遭っても仕方ないと思っていました。でも莉子さんが死んだあと、私はもう被害者だなんて言えないとわかりました」
その言葉は、懺悔のようにも聞こえた。
だが沙也香には、その中に死者への後悔がどれだけ含まれているのか、それとも自分の運命への恐怖なのか、判断できなかった。
彼女は多くの罪を犯した人間を見てきた。
涙を流すのは、他人の痛みをようやく理解したからとは限らない。
自分が報いを受ける番になったから泣く人間もいる。
この事件の恐ろしさは、三人が緻密だったことではない。
むしろ逆だった。
彼らは幼稚で、短絡的で、慌てていた。どの一歩にも穴があり、どの判断も浅かった。それでも恐怖と欲に追われるたび、もっとも残酷な選択を重ねていった。
美羽は、職場の力関係の中で傷つけられた。
香織は、最初は従妹を助けたいだけだった。
剛は、二人の女の前で、自分には何とかする力があると見せたかっただけだった。
だが、他人の命を困難から逃れるための道具にした瞬間、その理由はすべて意味を失った。
一つの小さな嘘を隠すために、次の嘘をつく。
その嘘を守るために、さらに大きな罪を犯す。
そして最後には、誰も戻れない場所まで落ちていく。
須藤誠一は死んだ。
園田莉子も死んだ。
自分たちはただ問題を解決したかっただけだと思っていた三人は、他人の人生を壊し、自分たちの人生も壊した。




