5.消されたメール
真帆の計画は複雑ではなかった。
だが、十分に残酷だった。
慎吾に、美里と森下猛が関係を持っていると思わせればいい。
そうすれば慎吾は理性を失う。
怒りに任せて、森下家へ押しかける。
真帆は森下が眠っているあいだに、彼の携帯電話を使って美里へ艶めいたメールを送った。美里は約束どおり返信した。文面は、二人が本当に駆け落ちを約束しているように見えるものだった。
送り終えると、真帆は森下の携帯電話から記録を消した。
美里の携帯には、記録をわざと残した。
その後、慎吾が外へ飲みに行っているあいだに、美里は少しだけ金目のものをまとめた。家の中を、慌てて出ていったように乱した。そして携帯電話を机の上に置き、ひそかに実家の近くへ身を隠した。
慎吾が家に戻ると、散らかった部屋があった。
消えた妻がいた。
そして、携帯電話に残されたメールがあった。
怒りはすぐに理性を押しつぶした。
彼は酒を飲んでおり、もともと胸の中に鬱屈を抱えていた。森下猛は自分の商売を奪い、集落での顔を奪った。今度は妻まで、その男に奪われたように見えた。
慎吾は自分の改造釘打ち機を手に取り、森下家へ向かった。
その後のことは、真帆の想定どおりに進んだ。
慎吾は押しかけ、森下を怒鳴り、右脚を撃った。
負傷した森下は脚を引きずって違法改造の空気銃を取り、慎吾の胸を撃った。
慎吾が倒れたあと、室内には真帆と森下、そしてまだ終わっていない状況だけが残った。
森下は床に倒れていた。
脚の傷で、立ち上がれない。
彼は真帆を見た。
その瞬間、何かがおかしいと気づいたのかもしれない。
真帆はためらわなかった。
以前、自分が猿三から買うよう強く言った改造釘打ち機を取り出し、夫の胸に向けた。
三発目の弾丸は、そこで撃たれた。
森下猛を本当に殺したのは、黒川慎吾ではない。
真帆だった。
犯行に使われた釘打ち機は、後に森下家の裏庭に埋められた。
慎吾と森下がどちらも死ねば、現場は酒に酔った男二人の撃ち合いに見える。真帆はそう考えていた。佐伯が三発目の弾丸に目をつけることも、猿三が自分のことを覚えていることも、彼女は想像していなかった。
事件後、真帆は大和を連れて実家へ帰った。
美里も霧原を離れた。
二人はしばらく身を隠し、そのあと海坂駅から離れるつもりだった。北陸方面への切符を買い、駅前の簡易旅館に潜んだ。部屋に余計な荷物はなかった。ただ、狭い空間に二人の女が座り、列車が何度も到着しては去っていく音を聞いていた。
美里はずっと黙っていた。
真帆も、これからの話はしなかった。
二人ともわかっていた。
逃亡は新しい人生ではない。
捕まる時間が、少し遅くなるだけだ。
逮捕後、真帆が先に全体の流れを供述した。美里もそれ以上否認しなかった。警察は二人の供述どおり、森下家の裏庭から改造釘打ち機を掘り出した。
証拠は、ようやく一つにつながった。
慎吾が一発目で森下の右脚を撃った。
森下が反撃し、慎吾を殺した。
真帆が三発目を撃ち、森下を殺した。
これは、二人の男が撃ち合って相討ちになった事件ではなかった。
二人の女が、二人の男の怒りを利用して、それぞれの復讐を終わらせた事件だった。
藤井が再び美里と向き合ったとき、彼女は最初の取調べのときよりも落ち着いていた。
椅子に座り、両手を膝に置いている。うなじの傷は髪に隠れていた。見ていなければ、この沈黙した女の体に、あれほど長い痛みが刻まれているとは誰も思わなかっただろう。
藤井は尋ねた。
「どうして森下さんを手伝ったんですか」
美里は顔を上げた。
「真帆さんだけが、私に優しくしてくれました」
ゆっくりと言葉を続ける。
「霧原に、私の友達はいません。みんな慎吾が私を殴っていることを知っていました。でも誰も何も言いませんでした。実家も私を戻してはくれません。真帆さんだけが、家に来てもいいと言ってくれました。お茶を出してくれました。私は、怒鳴られて、殴られて、子どもも産めない女でいるだけじゃないんだと思わせてくれました」
藤井は遮らなかった。
美里は机を見つめたまま、続けた。
「慎吾は、いつか私を殺したと思います。あの人にうなじを切られた日から、それはわかっていました」
声は小さかった。
だが、もう震えていなかった。
「だから私は、誰かのために犠牲になったわけじゃありません。私も、私のためにやりました」
別の取調室では、真帆が佐伯の前に座っていた。
彼女はもう否定しなかった。
すべてを話し終えたあと、ただ一つだけ尋ねた。
「大和は、どうなりますか」
佐伯は彼女を見た。
「それは、今のあなたが決められることではありません」
真帆は目を閉じた。
その言葉は、どんな追及よりも重かった。
彼女は、すべての計画が自分と子どものためだと思っていた。だが、殺すと決めた瞬間から、自分の手で大和を別の深い場所へ突き落としていたのだ。
佐伯は尋ねた。
「後悔していますか」
真帆は長く黙った。
「後悔しています。でも、あの夜だけを聞かれたら、私はたぶん、同じように撃ったと思います」
佐伯は何も言わなかった。
真帆の目は冷たく、ひどく疲れていた。
「猛は私にとって、最初の男で、唯一の男でした。一緒に苦労することもできた。この家のために危ないものを背負うこともできた。でも、私を信じさせながら、前に立たせて、自分の代わりに刑務所へ行かせようとしていたことだけは、どうしても許せませんでした」
彼女はうつむいた。
「最初から殺したかったわけじゃありません。でも最後には、もうそれしか道がないと思ってしまったんです」
佐伯は調書を閉じた。
彼は多くの犯人を見てきた。
最初から悪意に満ちた者もいた。
欲に引きずられていく者もいた。
痛みを理由にする者もいた。
真帆と美里は同じではない。
それでも、同じ場所で足を踏み外した。
二人には、助けを求める道もあった。
逃げる道も、通報する道も、別の選択肢もあった。
けれど最後に選んだのは、最も戻れない道だった。
事件は海坂地方裁判所へ送られ、裁判員裁判で審理された。
検察官は、森下真帆が夫を殺害する計画を立て、実行したと主張した。さらに、黒川慎吾の嫉妬と暴力性を利用して現場を混乱させたとした。黒川美里については、艶めいたメールを作って慎吾を森下家へ向かわせ、真帆の計画に重要な役割を果たしたと指摘した。
美里は三発目を撃っていない。
それでも計画への関与は大きかった。
弁護人は、真帆が夫に利用され、違法な鳥捕りが発覚した場合に主な責任を押しつけられる危険に置かれていたと訴えた。美里についても、長年家庭内暴力を受け、孤立無援の中で追い詰められていたと述べた。
二人の置かれた状況は、平穏な日常の感覚だけで判断できるものではなかった。
森下真帆には明確な殺意と高い計画性があり、夫を自ら殺害したと認定された。黒川美里もまた、慎吾を現場へ誘導し、真帆の計画を助けたとして、相応の刑事責任を負うことになった。
判決が言い渡された日、真帆は傍聴席を見なかった。
彼女の両親は来ていた。
大和は来ていなかった。
美里は別の席に座り、自分の名前を呼ばれたとき、ただ小さくうなずいた。長い悪夢からようやく目を覚ましたようにも見えたし、目を覚ましたあと、どこへ行けばいいのかわからなくなった人のようにも見えた。




