4.妹が着た同じワンピース
一依を疑うことは難しくなかった。
難しいのは、彼女がどうやって最初の事件を起こしたのかを証明することだった。
悠斗が死亡した夜、一依は奥沢町霧原地区の実家にいたはずだった。陽太を連れて帰省しており、チケットの記録も駅のカメラ映像もそれを示していた。7月25日の昼、一依は奥沢方面へ向かう高速バスの乗り場に現れている。7月29日には、海坂へ戻る便の改札口にも姿があった。
表向きは、少なくとも悠斗の死と一依は結びつかない。
それでも佐伯は、何かが引っかかった。
彼は駅の映像を何度も見返した。
実家へ向かうとき、一依は陽太の手を引き、いくつかの荷物を持っていた。動きは自然だった。海坂へ戻る日の映像では、同じワンピースを着た人物が帽子を深くかぶっていたが、動きが少し硬かった。
背中も、行きの一依より薄く見える。
急いでいるようにも見えた。
佐伯は奥沢町へ行くことを決めた。
このことは、多くの人間には知らせなかった。
海坂市から車で二時間。霧原地区は山沿いにあり、雨上がりの空気には土と草木の匂いが混じっていた。神谷一依の実家は古い木造家屋で、入口のそばには農作業用の軽トラックが停まっていた。
突然刑事が訪ねてきたことで、一依の両親は明らかに動揺していた。
二人は素朴な山間町の住人で、言葉を選ぶように慎重に話した。母親は、一依が家で一番できる子だったこと、看護専門学校へ進み、町を出て働いた唯一の娘だったことを、何度も繰り返した。
佐伯は多くを語らなかった。
奥の部屋から一人の若い女性が出てきた瞬間、映像への違和感の正体がわかった。
神谷一依の妹、佐和子だった。
一依より二歳下。
双子ではない。だが顔立ちはよく似ていた。同じ服を着て、帽子を深くかぶれば、遠くの防犯カメラでは同じ人物に見えても不思議ではない。
佐伯は佐和子を見た。
「7月29日、駅に映っていたのは、あなたですね」
佐和子の顔が、一瞬で青ざめた。
彼女は長くは耐えられなかった。
事情はすぐに明らかになった。
一依は実家へ戻ったとき、妹にワンピースを一枚買ってきていた。市内の店で買ったブランド物で、佐和子にとっては高価な服だった。一依も同じものを買っており、姉妹で同じ服を着て、子どものころみたいだと笑い合った。
だが7月28日、一依は突然、海坂で急用ができたと言い出した。理由は説明せず、陽太を実家に残し、知人の車に乗って霧原を出た。
出発前、一依は佐和子を部屋に呼んだ。
「お願いがあるの」
佐和子は不安そうに姉を見た。
「何?」
「明日、このワンピースを着て、私の帽子をかぶって、駅の改札口に少しだけ立って。チケットは取ってあるから、実際にバスに乗らなくていい。カメラに映ればいいの」
佐和子は理由を尋ねた。
一依は答えなかった。
結局、妹は頼みを聞いた。
霧原の家では、一依はずっと一番勉強ができ、一番物事を決められる人間だった。両親も彼女の言うことを聞き、妹も彼女を信じていた。
誰も、その協力が殺人事件のアリバイ作りになるとは思わなかった。
佐伯はすぐに海坂へ戻った。
その夜、警察は神谷一依を逮捕した。
逮捕されたとき、一依は家でワンタンを包んでいた。食卓には粉が広がり、陽太の小さな茶碗が横に置かれていた。刑事たちが入ってくるのを見ても、彼女は驚かなかった。
手についた粉を軽く払い、静かに立ち上がった。
佐伯は彼女を見た。
「これだけ時間があったのに、なぜ逃げなかったんですか」
一依は自分の手を見下ろした。
「最初は、少しだけ都合よく考えていました」
顔を上げた。
「青柳さんを殺したあとで、もう終わりだと思いました」
「それなら、なぜ自首しなかったんですか」
一依は小さく笑った。
その笑みは薄く、空っぽだった。
「あなたたちは、もう知っていると思っていました。あの日のカメラが壊れていたなんて、私は知らなかったんです。とっくに映っていると思って、捕まえに来るのを待っていました」
少し間があった。
「それに、私はHIVに感染しています。どこへ逃げても、私は私のままです」
佐伯は何も言わなかった。
一依は看護師だった。普通の人よりも、HIV感染がすぐに死を意味するものではないと知っていた。早く見つけ、治療を続ければ、長く生きることもできる。
だが彼女が本当に耐えられなかったのは、医学的な死ではなかった。
自分の人生が、夫ともう一人の男によって、取り返しのつかない屈辱の中へ引きずり込まれたことだった。




