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女性専用刑務所の面会室:一線を越えた【危険な女たち】の犯罪告白  作者: 熾星


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2.父の目に映った悪い子


澪が八歳のころ、両親は離婚して一年以上が経っていた。

母はすぐに再婚し、海坂県を離れた。父の望月誠司は、澪と二歳の弟、蓮を一人で育てることになった。誠司は地方の公立小学校で非常勤講師をしていたことがあり、子どもの勉強にはとても厳しかった。


澪は四歳半のころから、父に連れられて学校へ通っていた。


同じ教室の子どもたちより年が下だったぶん、理解が遅れるのは当然だった。けれど誠司は、それをなかなか受け入れられなかった。焦れば焦るほど声は大きくなり、声が大きくなるほど澪は怖くなった。

窓の外では、子どもたちが遊ぶ声がしていた。

澪はその声を聞きながら、机の前に座らされ、同じ字を何度も書かされた。


ある日、漢字の書き出しを間違えた。

誠司が直したばかりだったのに、澪はすぐにまた間違えた。

頬に平手が落ちたとき、澪は避けられなかった。


顔が焼けるように痛かった。

それが、父に初めて叩かれた記憶だった。

その後、叩かれることは彼女の生活の一部になっていった。

沙也香は澪を見た。


「あなたの記憶の中で、お父さんはずっと厳しい人でしたか」


澪は小さくうなずいた。


「いつ爆発するのかわかりませんでした」


机の下で、彼女の指が少し曲がった。


「父と話すときは、この言葉を言っていいのか、この一言で怒らせないか、ずっと考えていました。一文字でも間違えたら、急に怒るかもしれないと思っていました」


その恐怖が一番深く刻まれたのは、八歳の夜だった。


その日も、誠司は勉強のことで澪を叩いた。澪は泣きもせず、許しを求めることもしなかった。ただ父の目が離れた隙に、一人で家を出た。


奥沢町の山沿いを走る県道には、街灯がなかった。

夜は、湿った布を顔にかぶせられたように暗かった。

澪は白線に沿って歩いた。

歩いているうちに、目を閉じた。


そのとき、頭の中には一つの考えしかなかった。

車が来てくれたら、もう帰らなくていい。

八歳の子どもが、死を逃げ道として想像していた。

沙也香は胸の奥をそっとつかまれたような気がした。

澪はただ、うつむいていた。


「そのときは、死ねば何も考えなくていいと思っていました」


声は平らだった。


「今思うと、変ですよね。まだ八歳だったのに」


取材の前に、沙也香は誠司にも会っていた。


髪は半分ほど白く、顔には深い疲れが刻まれていた。カメラの前に座ると、彼は反射的にしわの寄った上着を整えた。長く教師の仕事をしていたせいか、話し方は落ち着いていて、むしろ不自然なほどはっきりしていた。


「昔、あの子に体罰をしていました。あれは間違ったやり方でした」


誠司は目を落とした。


「母親がいなくなってから、私が二人をちゃんと育てなければと思い込んでいました。特に澪には、きちんとした子になってほしかった。人に後ろ指をさされない、素直な子に。でも、私が管束しようとすればするほど、あの子を遠ざけてしまったんだと思います」


長い沈黙があった。


「あの子がああなったことには、私にも責任があります」


誠司に、愛情がなかったわけではない。


澪を叩いたあとには、彼女の好きな料理を作ることもあった。机の上に菓子を置いておくこともあった。誠司にとって、それは埋め合わせだった。


けれど澪にとって、父の愛情と暴力は同じ場所で絡まり合い、いつまでも読み解けないものになっていった。

父が怖い。


それでも、父にとっていい子でいたい。

その二つは、彼女が幼いころから固くねじれていた。

澪が中学生になると、父の疑いはさらに強くなった。


学校から家までは、早く歩いて四十五分。誠司が許した時間は一時間だった。それを少しでも過ぎると、彼の顔色は変わった。


ある日、澪が帰宅したころには、もう外が暗くなっていた。

玄関へ入ったばかりの澪を見て、誠司は立ち上がった。


「どうしてこんなに遅い」


澪はうつむいたまま、まだ靴も脱げていなかった。


「ちょっと、途中で……」


誠司の声が冷たくなった。


「途中で何があった。誰といたんだ」


澪は固まった。

誰ともいなかった。

けれど説明しようとするほど、言葉は喉につかえた。

誠司が一歩近づいた。

怒りはもう抑えられていなかった。


「男か」


その一言は、これから来るかもしれない暴力よりも澪を傷つけた。

自分が何を間違えたのか、彼女にはわからなかった。

どうすれば父に信じてもらえるのかも、わからなかった。


後になって、誠司は同じ学年の男子が澪を好きらしいと耳にした。彼はすぐに相手の保護者へ連絡し、大きな騒ぎにした。誠司にとって、早い恋愛は絶対にあってはならないものだった。


しかし澪の心には、その疑いが汚れた水のようにかかった。

彼女は何もしていなかった。


それなのに、父の目には「言うことを聞かない子」として映っていた。

この話をする澪の声は、意外なほど落ち着いていた。


「私にとって、お父さんは人生で一番大事な人でした。お父さんの中で、ちゃんとした子になりたかったんです」


澪は顔を上げた。


「でも、うまくいきませんでした。頑張るほど信じてもらえなくて、最後には恥ずかしさと怒りが混ざって、誰かにぶつけるようになりました」


沙也香はペンを止めた。

澪は、自分を納得させる理由を見つけていた。

すべての苦しみを、

「男の子」

という言葉に押し込めたのだ。


「嫌いでした」


澪の声は小さかった。


「男の子がいなければ、父は私を疑わなかった。私が苦しかったのは、全部そのせいだと思っていました」


そのころの澪はまだ知らなかった。

その考えが小さな火種となり、何年もあとに、一人の何の罪もない人間を焼き尽くすことを。


澪の暴力的な反応は、中学時代にはすでに表れていた。


ある日の放課後、彼女と折り合いの悪かった数人の女子が、校舎裏で澪を取り囲んだ。先頭に立っていた背の高い女子は、目の前に立ち、強い口調で言った。


「昨日、先生に呼び出されたの、あんたが告げ口したからでしょ」


澪は答えなかった。

相手の目だけを見ていた。

右手はずっと、制服のポケットに入っていた。

別の女子が先に手を出した。


「黙ってんじゃないよ」


頬を叩かれ、他の女子たちも近づいてきた。澪は壁際へ押され、髪を引かれ、顔にはすぐに青い痕ができた。彼女は一言も声を上げず、最初に叩いた女子だけを見つめ続けた。

その目に、相手も少し怯んだ。


次の瞬間、澪はポケットから小さな刃物を取り出した。

周囲の女子たちは、一斉に後ずさった。


混乱の中で、一人がけがをした。悲鳴を聞いた教師が駆けつけ、男性教員が澪の手から刃物を取り上げた。


学校では保護者面談が開かれた。


相手の保護者は補償を求め、学校は転校を勧めた。澪は、自分が大変なことをしたとわかっていた。家に帰れば、父にひどく叩かれるだろうと覚悟していた。

けれど、このとき誠司は指一本触れなかった。


夕食を作り、そのあと自分の部屋にこもった。扉の隙間から煙草の匂いが漏れた。翌朝になると、誠司は古い知り合いや以前の同僚へ電話をかけ始めた。娘を受け入れてくれる学校を探して、何度も頭を下げていた。


澪は扉の外で聞いていた。

父の声は、電話をかけるたびに低くなっていった。


そのとき彼女は、叩かれることよりも、父が人に頼み込む姿を見ることのほうが苦しいと思った。

沙也香は尋ねた。


「そのあと、別の学校は見つかっていたんですよね。どうして行かなかったんですか」


澪はうつむいた。


「行けませんでした」


声が少し曇った。


「自分で起こしたことなのに、父にそこまでさせて、どんな顔で学校へ行けばいいのかわかりませんでした」


数日後、澪は服を数枚まとめ、こっそり貯めていた三万円を持って家を出た。

父には言わなかった。

弟にも言わなかった。

その年、彼女はまだ十八歳になっていなかった。


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