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第三王子はお姫様  作者: はにか えむ


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9.王家の怪物とは

 化粧を落としぬるま湯で念入りに顔を洗うと、整った顔があらわれる。しかし、その顔には細かなそばかすがいくつもできていた。

 そばかすというのは十代になると濃くなっていくことが多い。今十二歳の王女はちょうど思春期真っ只中、日々濃さを増してゆくそばかすに悩んで濃すぎる化粧で過剰に隠そうとしていたのだろう。

 

「醜いでしょう。こんな汚い肌じゃ、人前に出られないわ」

 

 王女は悲しげに視線を落とす。完全に自信を失ってるみたいだ。

 

「大丈夫。これなら隠せます」

 

 僕はドレッサーの上に置いていた複数の容器を手に取る。王女の使用人に手順を見ているように言うと、化粧を始めた。

 この世界の化粧品はあまり品質が良くない。科学技術が発展していないからしかたないけど、これ顔に塗っても大丈夫なのかと思うような物も多かった。

 その化粧品を毎日ふんだんに顔に塗っているのだ。間違いなくそれの刺激のせいでそばかすが悪化していると思う。

  だから僕はお母様に化粧をするにあたって、マリーの協力の元に天然素材の化粧品を作った。

 蜜蝋にオイルを混ぜてクリーム状にした軟膏に、植物由来の色を付けた。ただそれだけだけど、肌には優しいし顔に自然に馴染む。

 

 僕はイエローのクリームを王女の肌に乗せた。そばかすは肌と同色で隠すよりも、イエローで隠した後薄く肌色を乗せる方が綺麗に消える。

 そばかすが濃い部分には厚く塗っても大丈夫。今までは顔の全部におしろいを塗っていたから老けて見えたけど、王女はまだ若いからそばかすの部分だけ隠すように化粧していく。よく動かす部分は薄塗にしないとよれるから要注意だ。

 さらに上から肌色のクリームを塗ると、そばかすは目立たなくなった。

 前の世界の化粧品よりカバー力が無いので、よく見ると薄っすらそばかすが見える。でも前の白さの強いおしろいをはたいた顔よりはずっと自然だ。近づかないと化粧をしているとはわからないだろう。

 

「仕上げにこれを……」

 

  ドレッサーの鏡は王妃から贈られた物よりはるかに写りが悪い。だから王女はまだ自分の顔がどうなっているのかわかっていない。

  頬に血色のクリームを薄く塗りこむと、顔が明るくなる。そうなればもうそばかすはほとんど気にならない。我ながらいい出来だ。

  王女の手を引いて、王妃からもらった鏡の前に移動する。この鏡なら顔もよく見えるだろう。

 

「嘘……」

 

  自分の顔を見た王女は、自然な仕上がりに驚いている。鏡に近づいて色々な角度から眺めていた。

 

「そばかすを薄くしたいなら、オレンジを食べるといいですよ。美容にいいので」

 

 シミやそばかすにはビタミンが効く。栄養学には詳しくないからオレンジくらいしかビタミンの多い食べ物が思いつかないけど、幸い僕らは王族なので毎日食べようと思えば食べられるだろう。

 化粧で隠すだけじゃなく、少しでも薄くなれば自信も戻ると思う。

 

「すごいです。王家の怪物は必ず何かしらの才に恵まれていると聞きましたが、これほどとは……」

 

 嬉しそうに笑う王女に、僕も満足だ。やっぱり女の子は笑っているのがカワイイよね。

 

「せっかくなのでお茶でもいかがですか?」

 

 ちょうどお母様とお茶をしていたから、お菓子はたんまりある。王女とは仲良くなっておくにこしたことはない。それに聞きたいこともあった。

 テーブルまでエスコートすると、王女は緊張が解けたのだろう周囲を楽しそうに見回している。

 

「なんて可愛らしいテーブルクロス。カーテンも素敵。第二妃殿下はセンスがいいですね」

 

「ありがとう。キュリア。でもこれは全てアリアンのデザインなの」

 

  お母様は部屋を僕の好きに飾ってもいいと言ってくれた。だからピンクを基調とした姫部屋になっている。僕の好みはもっと落ち着いたクラシカルなものだけど、お母様がピンクが好きだから甘ロリな部屋にしたのだ。

 マリーが本当に頑張ってくれて、僕が提示した納期を数か月前倒しにして完成させた。他の王族や貴族家の衣装も担当しているはずなんだけど、僕のデザインを形にするのが楽しくて仕方ないのだと言って睡眠時間を削っている。倒れられると困るからほどほどにしてほしいのだけど、聞く耳をもたない。

 

「もしかして、その服のデザインも殿下が? 昨日のドレスも今日のドレスも、本当に素敵。みなこれからは第二妃殿下のドレスが社交界のトレンドになるではないかと噂しておりましたのよ。それに親子で揃いの衣装というのも、真似したいという方が多かったですわ」

 

 三歳児がホールを歩き回るのはどうかと思っていたので貴族たちとは会話をしなかったけど、そんなことになっていたのか。これはいい兆候だ。社交界の流行を作る貴婦人となれば、誰もお母様を侮らないだろう。

 王女は気さくな性格らしく、物静かなお母様とも気まずくなることなく話している。僕の手作りの化粧品を定期的に届ける約束もしたし、お姉様と呼ぶ許可ももらった。僕のことも弟なので名前で呼んでほしいと言ったら、嬉しいと返してくれた。これから友好的な関係を築けそうだ。

 

「お姉様。聞きたいことがあるのですが……。王家の怪物について知っていることを教えてくれませんか?」

 

 僕がおずおずと尋ねると、お姉様は少し考えるようなそぶりをした。

 

「恐らくお父様は、アリアンには秘密にするつもりだと思います。でも、知っておいた方がいいでしょう。過去の怪物の中には、国を滅ぼそうとした者がいたのです。その理由は、彼を閉じ込め能力だけを搾取しようとしたからです。それから怪物を決して軽んじてはならないという決まりができました」

 

 国を滅ぼそうとした。たしかに大変なことだけど、なぜそれを僕に秘密にする必要があるのかわからない。

  過去にはそういう怪物もいたとそれだけの話ではないのだろうか。

 

「怪物を軽んじてはならない。その決まりは教会によって決められました。怪物は神々の眷属である。教会がそう定めたのです。お父様はアリアンが教会と結びつくことを恐れると思います。教会にも、怪物が現れたとは報告しないでしょう」

 

 この国では大陸最大の宗教組織であるリア教会が国教と定められている。王家が執り行う様々な式典もリア教の教えに習って行われる。だから教会の影響力はすさまじい。教会自体が政治には関与しないと言ってはいるが、神の名を大義名分に首を突っ込んでくることもある。

 教会が王家の怪物を神々の眷属と認めているなら、僕を理由にいくらでも王家に口を出せるということにもなる。そりゃあ面倒だろう。

 

「何かあったら、教会を頼るといいわ。私から聞いたということは内緒にしてね。しかられてしまうから」

 

 お姉様は多分僕を心配してくれているんだと思う。まだ十二歳ではあるけど、王族としての教育をうけているからきちんと周りが見えている。

 王と王妃にとって僕らは邪魔者だけど、お姉様は感情で僕らを排斥しなかった。十代にしてすでに物事を俯瞰で判断することができるとは、なかなか賢いのではと思う。

 すでに他国に嫁ぐことが決まっているから、急いで大人にならなければならなかったのかもしれない。そういえばお姉様の婚約者はどんな人なのだろう。聞いてみようかな。

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