↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
第三王子はお姫様  作者: はにか えむ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/14

8.王女の苦悩

 結局その後は地獄のような空気で食事をとることになった。王が緊急の呼び出しで退席したからだ。しかもその緊急事態の内容が、祖父とその取り巻きからのクレームらしく、僕とお母様はこのことに一切関与していないのだなとしつこく聞かれた。

 祖父は昨日僕がしでかしたことのせいで焦っているのだろう。一日経って、やっとなんとかする方法を思いついたのかもしれない。

  これは後で王に、祖父が何を企んでいたか聞かないと。

  王が退席した後はみんなひたすら無言だった。そもそもこういう席では一番身分の高い正妃が話題をふったりするものだが、それが全くなかった。王子たちも何を話せばいいのかわからなかったのだろう。固い表情で料理を口の中に押し込んでいた。

 僕は焼きたてのお肉にありつくことができて満足だったけど。お母様は緊張からか食が進んでいないようだった。後で別館に甘いお菓子を持ってきてもらおう。

 

 食事がすむと、正妃が僕たちに馬車を用意するよう使用人に言いつける。……使用人の管理は正妃の仕事だ。先程断罪された使用人も、正妃の管理下にあった。それが王の前で不手際を指摘されたものだから、少なくともしばらくはちゃんとするだろう。

 僕たちへの使用人の嫌がらせを、正妃は故意に見逃していたのだろうか。表情からはいまいちわからない。これは今後要注意だな。

 

 馬車に乗って別館に戻り、お母様とゆっくりとお茶を飲む。母は疲れ果てて話す気力もないようだった。僕のように神経が図太くないから仕方がない。お母様は砂糖菓子のように繊細なんだ。

 僕はまあ、前世女装子で動画配信者だ。どちらも強メンタルじゃないとやっていけないから、ずいぶん鍛えられた。

  眠るまでお母様とゆっくりしようと思った矢先。使用人が来客を告げた。……先ぶれもないなんて、つくづくなめられてるな。今後改善されるといいんだけど。

  僕は急な来客に怯えるお母様の代わりに入室を許可した。僕は祖父が来たのかと思っていたが、入ってきたのは全く別の人だ。

 

「突然お邪魔して申し訳ありません。第二妃殿下、王子殿下にご挨拶いたします。第一王女、キュリアにございます」

 

 優雅に礼をしたのは十二歳の第一王女だった。真っ赤なドレスがよく似合う、正妃と同じ黒髪と王と同じ碧い目を持つ王女は、色の組み合わせもあって神秘的な印象だ。

  正妃の子だが、第二妃でも王の妃であるお母様と王子である僕の方が身分が高い。それをわきまえた挨拶ができるあたり、しっかりとした子のようだ。

 

「本日は第二妃殿下にお願いしたいことがあって参りました」

 

 王女が手を軽くあげると、後ろから小さな檻をもった使用人が前に出る。中に入っているのは動物のようだ。テンとかオコジョに似ている。イタチ科みたいな茶色い毛の動物だ。なかなかにカワイイ。そういえば王女は無類の動物好きで有名だって、母が言ってたっけ。

 

「こちらは北の国で神の眷属とされる貴重な獣でございます。私のコレクションの中では最も珍しいものです。こちらと引き換えに、どうか昨日第二妃殿下の化粧をした使用人を貸していただけないでしょうか」

 

 予想外すぎる要求に、僕もお母様も開いた口が塞がらない。王女はかなり緊張しているようで、僕たちの返答をこぶしを握り締めて待っている。

 よく見ると、王女は十二歳にしてはかなり化粧が濃かった。顔のパーツはかなり整っているように見えるのに、厚化粧のせいで老けて見える。

 お母様は困り顔で僕を見た。なにせ昨日お母様の化粧をしたのは僕なのだ。僕はとりあえず事情を聞いてみることにした。

 

「どうしてですか?」

 

 晩餐会での会話から通用しないかもしれないが、できるだけ小さな子供の純粋な疑問を装って問いかける。化粧ができる人間を求めるということは、恐らく顔に悩みがあるんだろう。問い詰めては話しづらくなるだろうし、なるべく優しく聞こえるように頑張った。

 

「……今日の第二妃殿下と昨日の殿下はだいぶお顔が違います。昨日は化粧をしておられたのでしょう? でも化粧をしているようには見えなかったのです。とても自然で、美しかった。私はこれまで色々な化粧を試しましたが、あれほどの技術をもった人間を知りません。……報酬が足りなければもっと用意いたします。あれほどの腕前の使用人なら誰にも貸したくはないでしょうが、どうか少しでいいのです。お願いいたします」

 

 その顔は切実だった。僕も女装をしていたからわかる。本物の女性に見えるようにしたくて、化粧にだいぶ悩んで研究した。顔のコンプレックスというのは、自尊心まで壊してしまうものだ。化粧は自己肯定感を生む魔法。僕はまだ幼い王女を助けてあげたくなった。

 お母様も同じ気持ちになったのだろう。静かに僕を見ている。僕は力強く頷いた。

 

「昨日母の化粧をしたのは僕です。お悩みでしたら僕が聞きます」

 

 王女は唖然としている。しかし先程の僕と王の会話を思い出したのだろう。もしかしたら冗談ではないのかもしれないと思ったようだ。

 でも自分のコンプレックスを明かすのには勇気がいる。話そうか話すまいかしばらく悩んでいた。僕はあえて何も言わずに、王女が決断するまで待つ。やがて王女は口を開いた。

 

「私の悩み、聞いて下さいますか」

 

  僕はお母様に頼んでドレッサーを借りると、王女を椅子までエスコートした。

 

「まずはその分厚い化粧を落としましょう」

 

  僕は使用人にお湯を持ってくるように指示すると、オイルを化粧に馴染ませて拭き取ってゆく。そもそもこの国ではメイク落としというものはなく水で流すだけだから、僕の行動に王女はかなり驚いていた。お母様も最初はそんな反応だったっけ。

 みるみる落ちてゆく化粧に隠されていた素顔を見て、僕は王女の悩みに気がついた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。