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第三王子はお姫様  作者: はにか えむ


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5.合法的な女装の方法

「アリアン、本当にいいの? 今ならまだ引き返せるわ……」

 

 お披露目の儀の当日。鏡の前で出来栄えに満足する僕にお母様が問いかける。

 

「お母様。心配しないで、僕こういうの大好きだから」

 

 鏡の前でポーズを決める僕の服装は、お母様とおそろいだ。しかも今回は共布で仕立てたというレベルではない。完全なる双子コーデ。すなわちドレスである。

 淡い桃色の絹のローブデコルテドレスに、可能な限りフリルとリボンを取り入れたデザインはカワイイの一言。残念ながらこの国ではロングスカートしか許されていないので、上半身の飾りを少なくしてスカートを限界まで膨らませた。腰には定番の大きなリボンをあしらい、フリルとレースを何段も重ねる。そして頭には共布のヘッドドレスをつけ、生花を飾った。

 マリーは本当にいい仕事をしてくれたと思う。どこからどう見ても僕はカワイイお姫様だ。前世ぶりの女装に胸が高鳴る。

 

「お母様。一緒に行こう」

 

 僕は真っ白なローブで全身を隠して、お母様の手をとった。会場まで僕の服装を見られるわけにはいかない。

 お母様の手は冷たい。緊張しているんだ。この作戦がうまくいくかどうかは賭けでしかない。

 迎えに来た使用人はローブで姿を隠した僕をいぶかしげに見る。しかしローブを奪うようなことはしなかった。

 今回の主役である僕とお母様の入場は最後だ。こうして歩くと、僕らの暮らす建物は城からとても遠かった。城の大ホールまでの廊下も大理石のような上等な石造りで、僕らは本当に狭くて貧相な建物に押し込められていたのだということがわかる。

 というか、普通これだけ離れていたら馬車を用意するものじゃないか? 三歳の子供に歩かせる距離じゃないし、王族の移動が徒歩とかおかしくないか。王と正妃、どちらかの嫌がらせだろうか。どちらもありえそうだ。

 

 ホールの入り口の扉の前に着くと、お母様とつないだ手がこわばった。それに気がついたお母様がより強く、手を握ってくれる。

 扉の向こうから王の声がした。

 

「どうやら今日の主役が到着したようだ。みな祝いの言葉をかけてやってくれ」

 

 その声を合図に楽器の音がして、ドアボーイが扉を開けた。割れんばかりの拍手が聞こえるが、すぐにどよめきにかわる。そりゃあ主役がローブで姿を隠していたらこうなるだろう。

 お母様は僕の手を引きながら、堂々と歩く。僕デザインの革新的で派手なドレスを着て歩くお母様はこの会場の誰よりカワイイ。ちなみにメイクも僕が担当した。この世界では珍しいナチュラルメイクだ。自然だけど整形級に美しく見せる技術が僕にはある。だてに女装で稼いでいたわけではないのだ。

 王がお母様と僕を見て思いっきり顔をゆがめている。お母様が王の前に立ち、口を開いた。

 

「陛下。我が息子であり第三王子であるアリアンが、陛下にお伝えしたいことがあるそうです。本日はアリアンの祝いの席。どうかアリアンの言葉を聞いていただきたいのです」

 

 お母様の手は震えている。やはり王が怖いのだろう。でも、僕のために頑張って話してくれている。お母様のためにも絶対に失敗できない。

 

「よい、聞いてやろう」

 

 僕は勢いよくローブを脱いで投げ捨てた。その瞬間、会場中の貴族が息を飲んで僕に注目する。そこにいるのはどこからどう見てもカワイイお姫様だ。

 会場中の視線が僕に集中したのを確認すると、僕は大きく息を吸って悲壮な顔を作った。目に力を入れて涙を零そうと頑張る。そして大声で叫んだ。

 

「僕、王子様じゃなくてお姫様になります! だって王子様だったらお兄様たちと喧嘩しないといけないんでしょう? 僕、お兄様と仲良くしたいです。だから王子様じゃなくてお姫様になります!」

 

 肺の空気がなくなるまで大声を出したら、自然と涙が一粒流れた。観客たちのざわめきが聞こえる。大丈夫。僕は今ちゃんと悲劇の子供を演じられているはずだ。

 

「何を言っている!?」

 

 祖父が大声で叫んで僕に近寄ってきた。その顔には焦りが見える。ざまあみろだ。子供を利用しようとして、その子供に出し抜かれたのだ。さぞ屈辱だろう。

 

 数秒の沈黙の後、王はいやらしく笑った。王からしたら棚から牡丹餅、突然幸運が降ってきたようなものだ。

 王位継承争いの中心人物が多くの貴族の前で、継承権を捨てて和平の道を選ぶと宣言したようなものなのだから。言った僕が子供だろうが、多くの貴族がそれを聞いてしまったのだ。第二妃の派閥に味方するものは減るだろう。

 

「おお、そうか。我が息子アリアン。兄弟と引き離されて、それは寂しかったのだろう。やはり家族は共に過ごすべきだ。侯爵よ。そなたの言ったように、アリアンは実に聡明だな。これからはその才覚を、兄のために使うといい。我は歓迎するぞ」

 

 よしひとまずこれで僕らが祖父と同じ考えではないと、王にアピールできただろう。これから僕はこの城で、王である父親に守られながらお姫様として過ごすことができる。きっと王は僕の女装をとがめないだろう。だって僕が王子としてふさわしくないほど、王は助かるのだから。お母様の待遇も良くなるようお願いできる。

 

 ああ、憧れの西洋プリンセスライフ! 素敵な響きに胸が躍る。

 これからもきっと祖父はあきらめないし、危険な事には変わりないだろう。でもなんとか乗り越えてみせる。前世分の人生経験を生かして、お母様とこの城で生き残るんだ。

 周囲を見ると、僕を見て涙ぐんでいる女性もいた。権力争いの駒にされた幼児が、涙ながらに争いたくないと訴える。なんて健気でかわいそうなのだろうか。僕の美少女ぶりも相まって、きっと美談として語られるだろう。

 

「はい、僕。お兄様の役に立てるように頑張ります!」

 

 最後にとっびきりの笑顔を振りまいて、今日のミッション完了だ。お母様が肩をなでおろすのに、握った手の力を強めることで返す。

 その後は僕は座っているだけで良かった。もとよりただのお披露目だ。顔だけ見せたら三歳児は何もしなくていい。お母様も僕の隣に座って、僕の口にお菓子を運んでくれる。

 僕はカワイ子ぶりながら横目で周囲を見回す。お母様と僕の美しさがどうやら話題になっているようだ。しめしめとほくそ笑む。僕は僕の理想のファッションをこの世界で広めたい。今日はその第一歩でもあるのだ。

 僕は計画がうまくいったことに浮かれて、正妃が静かに僕らを見ていたことに気がつかなかった。

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