4.ひらめいちゃった
次の日、僕とお母様は祖父の勉強させろ命令を完全無視してお茶を楽しんでいた。嵐の前の静けさといった感じだ。
お母様曰く、お母様と僕の世話をする使用人は全員王が選んだらしく、祖父の息のかかった使用人は居ないから大丈夫。祖父の来訪も、王によって制限がかけられているようで安心した。
今日はマリーが作ったカワイイテーブルクロスでお茶会だ。僕の気分も上がる。茶器は花模様が描かれた陶磁器で、フルーツで飾られたお菓子はティースタンドに綺麗にならべられている。
今日のお母様のドレスはアリスのようなブルーのAライン。僕のセンスで青いリボンを髪に飾った。この世界ではお出かけでもないのに髪飾りにこだわることはないみたいなんだけど、僕がごり押しした。
ちなみに僕の衣装もおそろいだ。世界一カワイイお姫様なお母様と一緒のお茶会は楽しい。このままずっとお話ししていたい気分だ。
「この国には王族しか入れないバラ園があるのよ。私もまだ行ったことはないのだけど、いつか陛下の許可をとって見に行きましょうね」
今日のお母様は饒舌だった。僕に積極的に外の話をしてくれる。たまに政治的な話題も出てくるから、祖父に目をつけられた僕が知っておいた方がいいことを教えてくれているんだと思う。
こうして話すと、僕には知らないことが多すぎた。今までは巻き込まれないようにお母様が守ってくれていたんだろう。
頬の腫れは引いたけど、あまり眠れなかったんだと思う。目の下のクマが気になった。
お母様はまだ十八歳。前世の感覚でいったらまだ子供だ。でもこの世界では自分の足で立たなければならない年齢。この歳で子供を産んで育てるなんて心から尊敬する。しかもお母様にはまともに頼れる大人がいないのだ。僕が手のかからない転生者だから負担は少ないだろうけど、それでも心労は蓄積されているだろう。
「お母様、甘い紅茶もおいしいよ」
どうやら高価らしいが、お母様の紅茶にも僕用に出された蜂蜜を入れる。甘いものを食べて、ゆっくり体を休めてほしい。
のほほんと会話を楽しんでいると、扉がノックされた。使用人だろうと思ったお母様が入室を許可すると、扉が開く。
そこにいたのは、使用人と背の高い男の人だった。髪と瞳は僕と同じ金髪碧眼。鍛えているのか体ががっしりしている。服装的に貴族かな?
「陛下!?」
お母様が慌てて立ち上がって腰を深く曲げる。まさか王だと思っていなかった僕もとっさに立ち上がり、ただ頭を下げた。でも僕はこの世界の目上の人間へむけた挨拶なんて知らない。不敬罪で殺されないかとひやひやした。
「顔を上げろ」
指示があったので顔をあげると、王は僕をじっと見ていた。怖すぎなんだが。一応父だけど生まれてから一度も会いに来なかった人だ。僕の気分的には赤の他人である。
「昨日フォレス侯爵が、そこの王子に家庭教師をつける許可を求めてきた。しかし、王族には専属の家庭教師がいる。フォレス家が勝手につけることは許可できない」
僕としてはそのままその話自体握りつぶしてほしい。勉強なんて最低限でいい。
「王族の慣例では確かに三歳から教師がつくが、我は第三王子にはのびのびと育ってもらいたい。アルタナ。教師は必要か?」
「陛下のご判断に従います」
お母様が震えながら返した。そうか、お母様は王が怖ろしいのか。僕は震えるお母様の手を握った。二歳の子供が母の手をとることは自然だろう。さすがにこんなことで首を切られたりしないよな。
しかし王は本当に僕たちのことが嫌いらしい。王はお母様の倍近く年上なのに、まだ年若いお母様にも攻撃的だ。命令に逆らえずに嫁いできたのだと、お母様の態度を見れはわかるだろうに。こんなに威圧する必要などないと思わないのか。体型は立派だけど、懐の狭い男だな。
お母様の手を握って笑いかけると、お母様の震えは止まった。王はじっと僕を見ているけど、僕が動揺したり怯えたりしたらお母様はきっと僕を守ろうとするだろう。だから堂々としていよう。
「なるほど、公爵の言う通り聡明な子のようだ。だが第三王子に過ぎた教育は必要なかろう。今まで通り茶会でもして過ごすといい」
王は僕を睨みながら言う。目をつけられたかもしれない。王の態度からして、祖父をよほど危険視しているみたいだし、早急に対策を考えないとまずいことになりそうだ。
「ああ、もうすぐ披露目の儀があるな。支度は最低限だ。肝に銘じろ」
披露目の儀。この国では子は三歳になるまでどうなるかわからない。だから三歳になった時に初めて子供のお披露目をするのだ。一応王子なので、僕のお披露目もしなくてはならない。
王は嫌だろうな。僕を王子とは認めたくないと、顔が言っている。だったらなんで白い結婚にしなかったんだと心から思う。お前がその気にならなきゃ子は生まれないんだよ。ヤることだけヤって責任を放棄すんな糞ヤローが。
おっと、思わず暴言を吐きそうになってしまった。とにかく披露目の儀ではおとなしくしていよう。
言いたいことだけ言って王が出ていくと、お母様が力なく床に崩れ落ちた。安心して力が抜けたみたいだ。お母様の怯えようは尋常ではない。
「ああ、ごめんなさいアリアン。せめてあなたが女の子だったら……」
僕はお母様の手を引いて椅子に座らせる。すっかり冷めた甘い紅茶を飲むように勧めると、お母様も少し落ち着いたみたいだ。
「ごめんなさい。言ってはいけないことを言ったわ。アリアンが男の子でも生まれてきてくれただけで嬉しいのよ。ただ、姫だったほうが怖い思いをしなくてすむのにと思ってしまったの……」
「大丈夫だよ。ちゃんとわかってる。お母様の子供に生まれて僕は幸せだよ」
たしかに姫だったなら、王位継承権はない。王も王位簒奪の心配をしなくてよかっただろう。……ん? 姫だったら?
その時僕はひらめいた。この八方塞がりな状況を改善する方法を。
「お母様。今すぐマリーを呼んで! 僕、いいこと思いついた!」
喜色満面で言う僕に、お母様は不思議そうな顔をする。
勝負は披露目の儀。僕は自由を勝ち取って、お母様のことも守って見せる!




