6.待遇を改善してもらおうか
お披露目会の次の日、各貴族から贈られたお祝いの品を確認する。派閥としては祖父の派閥より王の派閥の方が大きい。王の派閥の貴族は僕のお祝いなんて適当に済ますかなと思っていたのだけど、そんなことはなかった。
まあ、祖父の領地はこの国の食糧庫だ。内心忌々しく思っていても表立って敵対したくはないのだろう。そのおかげで、宝石と生地と工芸品が大量に手に入った。僕が王子だからカワイイものは少なかったけど、生地に関しては使いようだ。
こうして並べてみるとこの国は本当に生地の種類が豊富だ。もちろんナイロンなんかはないので絹や綿、麻やウールばかりだけど、織り方と染料の豊富さには僕も満足だ。あとは毛皮なんかもあってとても創作意欲をそそられる。
「でもなんでこんなに種類が豊富なんだろう」
僕が呟くと、一緒に贈り物を確認していたお母様が教えてくれる。
「この国では新しい生地や染料を開発すると、国から莫大な賞金が出るの。百年くらい前の王様が制度を作ったのよ。国がきちんと不正がないか調べて、製作者本人が大きな利益を得られるようにしたら、民の間で新開発で一攫千金がブームになったの。おかげで国も豊かになって、制度を作った王様は賢王と呼ばれているわ。アリアンにもその賢王の血が流れているのよ」
その王様のおかげでこんなに生地が充実しているのか。僕はご先祖様に感謝した。
ちなみに今僕はマリーにまとめて仕立ててもらったドレスを着ている。今日は柔らかいブルーのドレスだ。もちろんお母様とおそろいである。今日から毎日ドレスで過ごせると思うと僕のテンションはうなぎのぼりだ。
しばらく楽しく贈り物の仕分けをして、もうそろそろ夕食かなという時間になった。
いきなり部屋の扉が開いて僕らは驚いた。そこにいたのは年配の使用人だ。使用人がノックもせずに扉を開けるなどあってはならない。お母様は第二妃で、僕は第三王子だぞ。
「第三王子殿下、第二妃様。陛下が晩餐に参加するようにと仰せです。今すぐに来なさい」
今まで僕たちは、この別館に運ばれた食事を食べていた。それが急に晩餐に来いとは。しかも使用人のくせに命令口調だ。
王がいる晩餐では妃や王子は正装しなければならない決まりがある。それなのに今すぐに来いとは、お母様に恥をかかせる気だろうか。僕は腹が立ってしょうがなかった。
お母様は慌てている。僕はあえてお母様の手を握って大丈夫だとウインクすると、早く来いという使用人について行った。お母様は今完全に部屋着のワンピースドレスだ。化粧も最低限しかしていない。僕もおそろいなので、完全に人と会わない時の楽な格好だ。
これで王がいる晩餐に行ったら完全に礼儀を知らない無礼者だ。さてこれは王の命令なのか、使用人の嫌がらせなのか。どちらにしても戦ってやろうじゃないか。
また城まで長距離を歩かされて、王族の居住区に入る。使用人の歩くスピードはとても速い。どう考えても三歳児が追い付けないような速さで歩くので、見失いそうになった。そして大きな扉の前に着くと使用人が中に許可をとり、扉を開けた。
中にはすでに王と王妃、王子たちと王女が座っていた。そこで僕は大声で叫んだ。
「陛下! ご無事ですか!?」
僕の叫びに晩餐会場は静まり返る。しばらくして王が口を開く。
「無事とは何のことだ……?」
僕はわざとらしくホッとしたような表情をして、ご無事でよかったですと微笑む。
「使用人がノックもせずに部屋に入ってきて、今すぐ晩餐会に来いと怒鳴りつけたので、なにかあったのかと思いました。はぁはぁ……申し訳ありません。別館からここまで使用人にあわせて走ってきたので、息が切れて……」
僕はわざと呼吸を荒くし、座り込みそうなほどに足をふらつかせる。お母様が僕の芝居に気がついて支えてくれた。
視界の隅で、使用人が慌てている。王の驚いた様子を見るに、使用人の嫌がらせだったみたいだ。
「使用人頭よ。どういうことだ?」
おおこいつが使用人頭だったのか。王に問い詰められて震えている。だったらもっと嫌がらせしてやろうか。この先お母様の待遇を改善させるために。
「この方が使用人頭なのですか? でしたら提案があります。前々から、王家の使用人が不足していることと、使用人の教育も進んでいないことが気になっていたんです。だから祖父に母の実家から人を送ってもらえるようお願いしようと思っていました。使用人たちは忙しいのか頼まれたことしかせずにいなくなってしまいますし、お茶の入れ直しを頼める使用人がいてくれた方がいいなって」
お前がしたことは王家の品格を落として、王の政敵である祖父に付け入る隙を与える行為だぞと暗に言う。
実際そうなのだ。僕が祖父に城の使用人の教育が不十分だと訴えてそれが事実であったなら、祖父は喜び勇んで大量の人員を城に送り込むだろう。過失は王家にあるので、王はそれを拒めない。
僕がにやりと笑って使用人頭の顔色をうかがうと、蒼白になっていた。気がつくのが遅すぎるんだよなぁ。王が冷遇しているから自分もやっていいなんて考えは、この身分社会じゃ致命的だ。
現に王は、射殺さんばかりに使用人頭を睨んでいる。自分の行動が彼女を増長させたとは考えないのだろう。生まれながらに人の上に立つべく育てられた人間の傲慢さが感じられる。僕からしたらどっちもどっちだ。
「アリアン……アルタナも、すまなかった。別館の状態を我は把握していなかった。城の人員は足りている。すべては使用人頭の独断だ。すぐに処罰し、別館の使用人も教育の行き届いた者と入れ替える。今後何かあったらすぐに我に言え」
はい、見事な責任転嫁。使用人頭があまりのことに気を失ったのか、床に崩れ落ちた。日本では考えられないくらい重い罰があたえられるのが確定してかわいそうだけど、自分の行いのせいだからな。身分社会って怖いね。
「席につけ。二人の服装に関しては不問とする。今日は家族しかいないからな」
王は苦々し気に言う。家族だなんて絶対に思っていないだろう。
王としては今日の晩餐で僕たちに立場をわからせようとしていたのだと思う。しかし完全に出鼻をくじかれた。しかも僕が祖父の名前を出して、いざとなったら助けてもらうと言ったから、よけいに僕らの扱いをどうしようか悩ましいと思っているだろう。
この晩餐では僕の要求を王にしっかり理解してもらわなければならない。じゃないと邪魔者認定されて殺されかねないから、慎重にしかし舐められないように振舞おう。




