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第三王子はお姫様  作者: はにか えむ


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13.トータルビューティーサロン

「というわけで、お姉様の服も今後作ってほしいのです」


 デザイン画も書き終わってマリーが到着すると、お母様以外を部屋から出して密談する。そして今日までに起こったことを説明した。


「このお仕着せのデザイン……さすがアリアン殿下です! 間違いなく流行りますよ! それにキュリア殿下の衣装も、露出が少なくて上品なのにどこか煽情的で革新的です。レースのこんな使い方があるなんて……」


 頬に手を当て深いため息をついたマリーは、前世で好みのデザインに出会った時の自分と同じ顔をしている。恍惚としているというのが正しいか。

 長い黒髪が美しく、目鼻立ちのはっきりとしたお姉様には、体にそったラインのドレスがよく似合う。

社交界の暗黙の了解でスカートの下にパニエをはくのが普通だけど、今回はパニエを極力膨らまないものにして、すとんとしたラインにした。

 そして今回のデザインではドレスの背中を大きくあけた。その背中部分に密度の濃いレースを取り付けて肌を隠す。綿棒が入る程度の大きさのレースの隙間から、ちらりと肌色が見えるのが望ましいとマリーに頼む。さすがにお姉様が露出狂と思われては困るから、見え方次第でレースの内側に肌色の生地を張るつもりだ。

 熱心にデザイン画を眺めているマリーに僕は問いかける。


「今日も材料を持ってきてくれた?」


「もちろんです。化粧品の材料とリンゴ酢……こちらは特に香りが薄いものをお持ちいたしました」


 マリーが持ってきてくれたのは秘密の品だ。使用人に頼んでは製法がばれてしまう。そうなると今後始めようと思っている事業に影響が出るので、マリーと契約まで結んで取引している。マリーは元々王家御用達のお店のオーナーだから口が堅い。しかも僕のデザインの信奉者と言ってもいいから仲間にするには最適な人材だ。

 そしてリンゴ酢を何に使うのか。これはリンスにする。石鹸で髪を洗うとアルカリに傾き、キューティクルがひらいてごわごわになる。それを酸性の酢を使うことで中和し、表面を滑らかにすることでサラサラの髪になるのだ。

 ついでに大量の蜂蜜も持ってきてもらったので、石鹸に混ぜれば髪をもっと優しく洗うことができるだろう。後は色々香りなんかをつけたりして売りさばく予定だ。

 開業はだいぶ先になるだろうけど、それまではお母様とお姉様を磨き上げて、二人の美しさの秘訣は何なのかと社交界で噂になるように持っていく。前世は動画配信者だったから、セルフマーケティングは得意だ。


「ありがとう。これからもよろしくね。化粧品と洗髪材はマリーの店に優先的に卸させてもらうよ」


「まあ! 私の店は仕立て屋ですわ」


「仕立て屋が服以外を扱っちゃいけない決まりはないよ。現に宝石店と取引してネックレスなんかも置いてあるでしょう? それに美容が加わるだけだよ。……そうだ、いっそトータルビューティーショップにするのはどう? メイクのお試しとか、髪結いとか、美容にいい飲み物とか置いてさ」


 軽い気持ちで思い付きを話したつもりだった。マリーの頬がバラ色に染まり、瞳が窓から差し込む明かりでキラキラと輝く。


「アリアン殿下。それは絶対にご自身の手で実現するべきです! アリアン様のトータルビューティーサロン。招待状を欲しがる方は大勢いるでしょう。そしてその際にはこのマリー、仕立て屋として協力を惜しみません!」


 僕は隣に座っていたお母様を見上げる。お母様がよくわかっていない僕に説明してくれる。


「サロンは招待制の社交場よ。お茶会に目的を追加したものね。私もアリアンが生まれる前までは、時々歌劇を鑑賞するサロンをひらいていたわ」


 なるほど、それは楽しそうだ。カワイイ同盟の活動をするサロンをひらいたら、きっと盛り上がるだろう。カワイイを広める僕の目的も達成できる。

 でも僕はまだ小さい。僕がサロンをひらいたとして、客は困惑するだけだろう。


「サロン、ひらきたい! 最初はお母様の名前を借りちゃ駄目?」


「そうね、アリアンがあまり目立ちすぎるのも良くないから、かまわないわ。アリアンが生まれてから一度も開催していなかったし、ちょうどいいわね。内容と招待客は好きにしていいわ」


 お母様は優しく笑う。そっか、昔はお母様もちゃんと社交をしていたんだな。でも僕のことが気がかりだったから、お披露目まで最低限の国の行事にしか参加しないようにしてたのかも。一応乳母は居るけど、王と正妃の息がかかった人間だ。僕が殺される可能性もあったと思う。

 僕はにこりと笑ってお母様の手を握った。僕は愛されている。だからお母様の社交界での地位を上げるための手伝いもかねて、最高のサロンをひらこう。


「マリー。しばらく忙しくなるよ。この間の披露目の儀で、お母様の美しさが話題になった。その熱が冷めないうちに仕掛けたい」


 僕は紙にいくつかのデザインを描いた。飾りの全くないシンプルな、ある程度サイズ調整がきくように作られた試着用のドレス。それを革新的なラインの物を含めて数十種類。


「これは何にお使いになるので……?」


 美容サロンをひらくからといって、一度に全ての情報を開示するのは違う。一回一回少しずつ情報を小出しにして、サロンの価値を高めるのだ。

 僕が一番最初に選んだのは、自分の体形に合ったラインのドレスを探すこと。招待客に色々なラインのドレスを試着させ、よりスタイルがよく見えるものを探してもらう。そしてその場でデザインを考え、後日仕立てたものをプレゼントする。お金はかかるけど招待客に広告塔になってもらえるから、サロンの価値を高められる。最終的に社交界でお母様のサロンに招かれることがステイタスと言われるようにしてみせる。


「最初は社交界で影響力のある人を数人だけ招待して、特別感のあるものにしたい。お姉様に誰を招待するのがいいか聞いた方がいいよね。当日は、マリーも参加してね。頼りにしているから」


 夢見る少女のように弾んだ声で「もちろんです」とマリーが言う。本当に働かせすぎだから、こんどお母様に頼んで特別報酬を出そう。今は国で割り当てられた予算から払うしかないけど、いずれは自分で稼いだお金で支払いたい。これはシャンプーとリンスを早く売り出さないと。

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