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第三王子はお姫様  作者: はにか えむ


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12/14

12.ヴィクトリアン様式こそ至高

 新しく入った四人の使用人たちは有能だった。しかし僕のことを化け物でも見るような目で見るのはいただけない。三歳児が流暢にしゃべり、お母様の身支度までやっているのだからしょうがないのかもしれないが、じっと見られると落ち着かない。

 身支度を終えた後は、使用人たちにお母様の部屋の隣の控えの間にいるように指示した。太い紐を通して部屋と控えの間はつながっている。紐の先にはベルがあって、いつでも使用人を呼べるようになっているのだが、昨日までの使用人は控えの間にいつもいなかった。だから使用人をわざわざ探して呼びに行っていたのだ。

 これからはきっと控えの間に一人は待機してくれていると信じたい。


「シスリー。後でロッカのために小さいクッキーをたくさん作ってって、料理人にお願いしてくれる?」


 ロッカは犬並みに賢いというから、おやつで芸を教え込めるかもしれない。僕の肩に乗るように躾けたらきっとカワイイ。


「アリアン。今日はまたマリーが来てくれる日よ」


 お母様の言葉で、僕はあることを思いついた。忙しくなってマリーには悪いが、使用人たちの掌握のためには必要だろう。僕は急いで引き出しから紙と筆を取り出すと、デザイン画を描きはじめる。


「レイリーだっけ? 使用人のお仕着せを新調するから、四人のサイズのメモをマリーが来るまでに用意しておいて」


 僕が命じると、レイリーは顔をしかめてあからさまに嫌そうにする。


「この服は王家の使用人の証です。新しい物は城の服飾班が用意します」


 そう言うが、正確にはこのお仕着せは王の妃専属の使用人である証だ。使用人の役職ごとに微妙にデザインが違うのである。妃専属のお仕着せは正妃の専属も着ている。だから第二妃であるお母様専属のお仕着せがあってもいいと思うのだ。


「正妃様の専属と紛らわしいでしょ。それにお母様の専属にしては地味すぎると思うんだ。もっと華がないと、カワイイお母様の後ろに控えるには足りないよ」


 四人とも僕の発言に怒りをおぼえたみたいだ。試すためにあえて偉そうな言い方をしたけど、反応的に予想通りみんな正妃様の息がかかってるのだろうな。正妃様の使用人は地味だと言ったと同義なのだから。

 別にそれはそれでかまわない。もとより完全に信用するつもりはない。でもお母様に仕えるのならもっとカワイクあってほしいというのは本心だ。

 今のお仕着せは前世で言うエドワーディアン様式に近い。ようはシンプルで飾りが少なく実用的。僕はそれも好きだけど、若いお母様の後ろに立つならもっと華やかなヴィクトリアン様式がいい。フリルが多くヘッドドレスもついた、メイド服と言って現代人がイメージするものに近い様式だ。

 この国では女性は脚を見せないから、もちろんロングスカートではあるのだけどフリルがいっぱいのカワイイデザインにする。

 黒のワンピースにフリルたっぷりのエプロン。ワンピースの方には襟と袖と裾に白いレースをあしらって、エプロンの前には段々フリルとレースに、後ろには大きなリボン。頭にはボンネットに見えるくらいフリルを飾ったヘッドドレス。

 自分でもほれぼれするくらいいいデザインだ。エプロンにはお母様の大好きなピンクで花模様を小さく刺繍してもらおう。誰が見てもお母様の使用人だとわかるように。


「しかし、王家の品格を損ないます」


 確かバリアだったかな、茶髪でメリハリのあるスタイルの長身の使用人が怒りに任せて言い放つ。多分四人の中ではバリアが一番僕らを嫌っているのだろう。隣にいる小柄で赤毛のトリトンは、僕が描いているデザイン画に少しだけ興味を持っている様子だから、おそらく懐柔は可能だ。シスリー、レイリー親子は冷静に状況を見極めようとしているみたい。


「第三王子である僕の描いたデザインが、王家の品格を損なうものだと? どんな経緯であれ、君たちはお母様の専属になったんだ。僕らに忠誠を誓えないなら送り返すよ。やはり王家の使用人は信用できないから、フォレス侯爵を頼ろうか」


 そうは言ったけど、たぶん僕のデザインは今の常識では完全にアウトだ。でも僕はこの国の流行の最先端をいくと決めた。僕が王家の怪物である限り、強気に出ても大丈夫だとわかったから派手にやらせてもらう。

 使用人たちにはせいぜい僕の生み出す新たなトレンドの広告塔になってもらおう。


「……申し訳ございませんでした」


 バリアはすぐに謝罪したが、悔しそうだ。使用人たちは僕の機嫌を損ねて追い出されることができないのだ。だって前の使用人の怠慢で、使用人の管理を任されている正妃の名前に傷がついた。二度目はないのである。正妃だってそれがわかっているから、自身の立場と状況を理解して立ち回れる頭のある人間を送り込んだはずだ。


「わかったならいいよ。君たちの主は僕とお母様だと、ゆめゆめ忘れないでね」


 最後にまったくもって子供らしくない不敵な笑みを浮かべて話を終える。使用人たちは怯えているようだけど、今後のためにも幼児らしく振舞うことはしない。使用人の前でずっと子供のふりをし続けるのも面倒だしね。どうやら「王家の怪物」の存在は国の上層部とリア教の上層部しか知らないらしいから、さぞ不気味に思っていることだろう。


「そろそろマリーが来るね。お出迎えよろしく」


 今度は柔らかく笑ってそう言うと、使用人たちは方々に散っていった。


「……アリアン。あまりいじめちゃ駄目よ」


 お母様が困ったような顔で僕の頭を撫でるから、ちょっとやりすぎたかなと反省する。でも僕とお母様が今後平和に暮らすためには必要なことだ。僕だって悪者になりたいわけじゃない。


「善処します!」


 最高の笑顔で手をあげると、お母様はまた困ったように笑った。

更新がたいっへん遅くなって申し訳ございませんでした!

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