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10人の{厄災}と4人の魔女  作者: Aster/蝦夷菊
第四章 化物の煌めき
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第四十四話 どこまでも透き通った空を望んでいる

 弓を構えたアルブスは、息を整えて耳をそばだてる。五感のすべてに意識を集中させて、糸を引っ張っていく。

 その矢は離されると、真っ直ぐにミラジェイの鬼灯の中の剣へと向かった。


 しかし、鬼灯の形を取っていた刃の間がしまり、矢は挟まれてしまう。ただ、折れることは無くそこに残ったままだ。


「…………シャル、動ける?」


 シャロームはまだブツブツと言葉を紡いでいる。彼の種族関係故か、それとも現状の打破の難しさからか、大分精神にきているように見えた。

 アルブスはシャロームの瞳を覗いた。それは深呼吸と共にゆっくりと伏せられ、


「……………………」


 ふぅ、と何度目かの息を吐き、シャロームは剣を握りしめる。


「──問題、無いよ」


「────!」


「皆さん、マナが消えました! 魔法魔術の使用が不可能になってしまっています、気を付けて下さい!」


「成程、マナを燃焼させて魔法に転換するから“燃えずの塔”ですか…………なら、俺達にある勝機は、ただただ物理でのゴリ押ししかないってこと?」


 ホーリーに抱えられながら、アセロラが煩わしそうにぶらぶらと揺れている。斧を持っているので、それごと抱えているホーリーも疲れてきている。


「あ、ホーリー。離していいよ」


「了解やぁ」


 ホーリーが翼を羽ばたかせるのと同時、手を離す。宙でクルクルと回りながら、勢い良くミラジェイに目掛けて斧を振り下ろした。

 地が揺れ、斧が深く突き刺さり、なんと────ミラジェイの足の刃を、ひしゃげさせた。すぐに別の足が彼女の喉元目掛け伸びるも、それはカストールが双剣を取って走り、滑り込んで軌道を変える事で受け流す。


 カストールは双剣の片方をポルックスに投げ渡す。綺麗にバク宙しながらそれを受け取ると、構えて一気にミラジェイに詰め寄った。少し驚いた様子のミラジェイに、睨みをきかせて飛ぶ。カストールが持っていた剣の刃に足を載せて、華美な服が翻る。

 刃に絡めとられること無く、人形のような身体と見た目で、アセロラが湾曲させた刃に同時に刃を食い込ませて切断しようとする双子。


 唖然としていたシャロームとアルブスも駆け出す。


「はぁぁっ────!」


 全員に向け放たれていく斬撃。アルブスとシャロームは互いに位置を入れ替えながら、スルリと距離を詰めていく。ホーリーは上から、翼を広げて滑空していった。

 アルブスがシャロームと片手を取り合い、遠心力で回りながら上へ飛ぶ。それから、アルブスは素早く弓を構えて矢を連発する。雨のような矢が、ミラジェイの体に向かっていった。

 しかし、その殆どが、刃の表面に弾かれて落ちていく。


 矢の入っている筒へ伸ばした手。アルブスはハッとする。


「…………この刃を構成するものって、もしかして──────」


 地に降り、飛んできた斬撃を足を捻って仰向けになり、身を反らしながら躱す。


「シャル、この刃────マナの塊だ!」


「お主らに魔法が使えないというのに、わっちゃには許されている事実がたまらなく苛立たせるじゃろう!」


「剣をどうにかして破壊しないと……」


「駄目そうですっ!!」


 エンチーシスが、花弁を舞わせながらレイピアを振り回している。と、ポルックスが間一髪の所で彼を抱え岩場を移って行った。


「すみませぇぇんっ!」


「どうにも、こっちだって持久戦になりそうな勢いだね……はぁ、時間はないのに」



 奥歯を噛み締めながら刃の猛攻を捌ききっているシャロームが、突然何かを思い出してニヤリとする。アルブスに目配せした。

 アルブスは口を噤んでシャロームの襟を掴んで引き寄せ、上に投げ飛ばした。


「シャル!」


 カストールが目を丸くする。飛んだシャロームは、塔の一番上、結晶がシャンデリアのような形になって垂れ下がっている部分に足を着いていた。

 そのまま足に力を入れ、ミラジェイの鬼灯部分目掛けて剣を伸ばす。


 ミラジェイに近付くに連れ、シャロームの耳から下がる羽型の耳飾りが金色に輝き出し────、


「────」


 しかし、その身体は、足を上へ閉じたミラジェイの内部へと、すっぽり消えて見えなくなってしまった。



 金色の光が、内部で走る。悲鳴も絶叫も聞こえない。ただわかるのは、確実に蠢く足が彼を切り刻んでいることだけ。アルブスは喉を鳴らし、カストールとポルックスが目を見張り、ホーリーとエンチーシスが悲鳴を上げそうになる。アセロラは冷や汗をたらしながらも、目を細めて斧を投げた。


 それはミラジェイの体に大きなへこみを付け、それごとシャロームも壁に打ち付けられる。


 足を開く音が聞こえ、アルブスの方へとシャロームが鮮血と共に吹き飛んできた。それにより、ミラジェイと反対の壁に、二人は勢い良くぶつかる。


「────がはっ」


「シャローム、アルブス!」


 突然、塔全体が揺れる。張り巡っている結晶がはらはらと粒子を光らせて、棘状になり、全員に伸びた。


 先程のグロテスクな様子を見て、皆気が動転してしまっていた。故に、全員に結晶の棘による薙ぎ払いが当たってしまう。ふっ飛ばされ、岩と岩の間にホーリーが撃ち落とされる。姿が見えなくなった。

 エンチーシスは花弁に包まれていたが、手のような形に即座に変貌した結晶によって、至るところに棘が刺さってしまっている。彼を抱えていたポルックスも同様だ。髪飾りの花が完全に砕けちっていた。


「クソ、何なんだ!? カストール、アルブス!」


 カストールは間髪入れずに棘を伸ばしてくる結晶を避け続けているが、声を掛けてきたアセロラの後ろから大きな塊を作っている────ハンマーのようなそれに青ざめ、振り下ろされようとした瞬間に、彼女のもとへ駆け寄る。

 が、抱えて避ける程の猶予も無く、潰されたように見える。



 ※ ※ ※



「………………」


 ────あの瞬間。

 シャルの耳飾りが光ったら、喉を鳴らした。ミラジェイは、その光を怖がって、急に殻に閉じこもるみたいに……。そして、結晶に命じたのか、動かしたのか…………みんなを一斉に惨たらしく攻撃しだした。

 死んだ? みんな、呆気なく。死んでしまったの?


「……はーっ、はぁ、はぁっ」


 呼吸が乱れる。だめだ、落ち着かないと。


 背中が痛い。結晶は壁にまんべんなくあったから、多分内臓まで刺さってるよね。周りの状況は……駄目だ、岩による高低差で皆が見えない…………。

 というか、今の今まで本気を出してないように見えるけど────これ、勝ち目ないんじゃ……。


「はぁっ、はぁ、は────っ、はーっ」


 息が苦しい。肺? 肺、刺された?

 耳もうまく聞こえない。衝撃が強すぎた、足は、体は動くか?


 下を見る。血だまりができていた。それが僕のなのか、シャルのなのかはわからない。

 あの一瞬で……人数差だってあるのに。ミラジェイ、十三騎士、一体なんなんだ? 勝てるの? 本当に?


 いや、まずはシャルの確認をしないと。


「シャル」






「シャル、ねぇってば」





 出血が酷い。剣ももう原型を留めてない。身体はかろうじて、肉は全部繋がってるけど…………。


「シャル、このままじゃ……──────ぁ」


 ────何かあったとき、アリスさんを呼ぶ事、躊躇しないでくださいね。


「……アリス」


 ひとつまみの希望に賭けて。

 でも、シャルが呼ばなきゃ意味がない。アリスとのつながりを持たされたのは、シャルなんだから。


「シャル!」


 頬を軽く叩く。僕に顔を埋めて静かすぎる呼吸を繰り返すシャルは、一瞬ピクリと反応した。

 もう一度、頬を叩く。さっきよりも強く。そして、僕は迷わず羽型の耳飾りに手をかざして、マナを集結させた。金色の光がまた灯る。僕は意を決して、オーシェにたくそうとまた目を瞑った。でも、瞑ってすぐに、


「──────ぁ、る…………す」


 シャルが、僕の手を握った。ゆっくりと、起き上がって、僕の顔を見上げる。


「────呼、ばなきゃ……だ、……よね」


「…………うん」


「────」


 息を吸って、血の垂れるその口から、三文字だけでいい、あと三文字だけで。







「アリスさ……──────」



 光に気付いたのか、ミラジェイの動く金属音が耳に入る。神頼みをするみたいに、僕は手を合わせて握った。


 今までよりも大きな、凝縮された斬撃が、何重にも重なって僕達の方へ迫ってくる。








「──────呼ぶのが遅い。いやホント、マジでおっそい」


 斬撃が、一瞬にして岩を削りながら進行してくる音が、消えた。瞑っていた目を開ける。眼前に立って、細身の剣を携えている少女に、僕ははっとする。そして、安堵の息を漏らした。

 シャルも、眉を下げつつ微笑んで、ゆっくりと振り返った。


「もっと遅かったら、絵斗との約束忘れるところだった。マリが教えてくれて良かったぜ」


 ただ、一つ違う点があった。

 アリス・ウッド────彼女の隣には、三つ編みの──ミュリラという少女に良く似た子が車椅子に乗ってそこに居る。そして、アリスの頭から、二本の長い角が生えていた。

 加えて、振り返ってしたり顔をした彼女の瞳孔は縦長で、龍のように見える。


「マリ、指示頼むぞ」


「……えぇ、分かった」

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