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10人の{厄災}と4人の魔女  作者: Aster/蝦夷菊
第四章 化物の煌めき
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第三十九話 提案は何度でも、約束は一度だけ

「…………はぁ?」


 スペクターが、言葉に詰まった周囲の中で1人、呆れる程気の抜けた声を漏らした。絵斗はまだ苦笑していて、イデーもシャロームもポルックスも、アルブスも皆目を見開いている。

 信じられない。いくらライターの友人とは言え、同じライターで無いなら、ミラジェイのような化物と一対一で戦わせているなど、悪寒が背に走って当然なものだろう。無論、絵斗は自分の言ったことに青ざめる皆を見て焦り、慌ててこう付け足した。


「安心してください。ライターで無くとも、渚君は僕よりも戦闘能力が高いんです。それに、種族だって純粋な人間ではありませんから──その、えぇっと…………」


「みんなで今すぐに行ったほうが良いと思うけど」


「けどそれじゃあ、計画が無駄になるかもしれねぇだろ、イディ。俺達にはまだ、準備する必要がある。今すぐは無理だ」


「せめて、今必要な道具を取りに行っているホーリーさん達が戻ってきてから、ですね」


 シャロームが焦燥感に駆られて声を震わせている二人をなだめるように、淡々とそう発する。


「……僕がここに走ってきた目的は、果たしました。燃えずの塔で、皆さんの準備が出来るまで消耗させておきますから」


 と言いつつ、絵斗は横目でシャロームとアルブスに目配せし、書庫から出ようとする。

 その腕を、イデーが掴んだ。


 振り返った絵斗を、下から睨みつけるイデー。それを止めようとして伸ばされたスペクターの手を、強く振り払う。


「あ……」


「イデー、止めて」


 アルブスが耳を下げてイデーに話しかける。


「一個、聞かせてよ」


「…………はい、何でしょうか」


 イデーの瞳孔が更に鋭くなり、相対して掴んでいた腕から手が離れた。絵斗は怖気づく様子も無く、眼鏡をつついて振り返る。

 カーテンが揺れ、イデーはうつむいている。


「────君、ミラジェイみたいなのを殺せるって、本当に思ってる?」


「やってみないと分かりません。だから、最大限の施しと手助けになれればと、こうして動いているのです」


「……そう。分かった」


 イデーは後ろに下がる。出ていく絵斗を見ながら、スペクターがイデーの頭を撫ぜた。

 そして、優しい声色で────あの日々を思い出させるような、その声で、


「イディ」


「本当に聞きたかったことを聞いただけだよ。少し混乱して、聞き方が悪かったとは思ってるけどね」


 不思議と、言葉の端にいつもあったはずの棘が無い。イデーは目を伏せて、スペクターの角とは反対の頭に手をやった。スペクターも、イデーの同じところを触る。

 その様子に、小首を傾げてアルブスが唸る。


「うーん……?」


「ポック、二人はお互いにお互いの角を一つ引き抜いたことは知ってる。詳しい事情は、彼女ら自身から聞かせてもらって」


 ※ ※ ※



 外へ出た絵斗の後ろで、シャロームとアルブスは彼を見つめる。

 先程の合図が付いてきてほしい、なのは何となく理解できたが、その理由が分からない。それ故か、シャロームは黒い羽型の耳飾りに触れながら息を静かに吐く。吐ききって、青い瞳で彼を見る。


「貴方達二人に、提案がありまして」


「それは、全員には言えないことなんですか?」


「えぇ。正確には、言ってしまうとフォーメーションが崩れる可能性があります。希望を見せすぎてもいけないんです。僕は戦場でそれを学びましたから」


「…………聞きましょう」


 アルブスとシャロームが、手を繋いで唾を飲む。







「もし、先代魔女達を呼び覚まし、再びこの地に降り立たせ、ミラジェイとの闘いを優位に立たせることが可能だとしたら、どうしますか?」


 瞬間、時が止まったかのようだった。衝撃を受け、と同時に、非現実的な場所に立っているような浮遊感に包まれて。二人はまた、目を見開く。

 シャロームが、「は」と息を細切れに出した。


「それはもちろん、現実にしたいよ」


 アルブスが先に言葉を発する。確固たる意志を金色の双眸に宿し、燃やしているのが良く伝わってくる声だった。

 絵斗は微笑む。そう答えてくれるのだと分かっていても、実際に返答を聞けばほころんでしまう。彼はシャロームを見た。嘘ではないと、瞳だけでその少年に訴えかけた。


 シャロームは少し迷う様子を見せてから、


「ボクも、同じ想いです」


「良かった……では、やり方を教えましょう」


 指を鳴らす。



「────」


 不快感を感じさせる黒々とした物体が、渦を巻きながら球体になり、それが割れて分裂しながら、ロザリオに変化する。


 黒曜石のように輝くそれを、絵斗はシャロームの手にしっかりと握らせた。


「渡し守“カロン・ゾーイ”が拾い上げた、優良な魂のかけらを閉じ込め造ったロザリオです。それをカロンに突き刺せば、願った人物の魂と肉体を生前の状態で呼び戻すことが出来ます」


「……カロン、という人はどこに居るの?」


「燃えずの塔で会える筈です。彼はマイペースですが、不思議とベストタイミングでやってくるんですよ。ですから、彼がやって来た時、実行に移せば────最良な時機で魔女達を呼べる」


「信頼して良いんですよね」


「勿論です」


 自慢気に語ることはないが、その一言に彼の全てが詰まっていた。シャロームはそれを理解して、アルブスに向いて微笑む。


「では、気を付けて向かってください。すぐにボク達も加勢しに行きますから」


「何かあった時に、アリスさんを呼ぶ事、躊躇しないでくださいね」


「はい」



 ※ ※ ※


【人物記録】


カロン・ゾーイ

 渡し守。ゴーストライターの一人であるが、想華達とはまた違う分類にある。ゴーストライターは全員で二十四人居て、それぞれ“ギリシャ文字”という彼らからすれば謎の文字を隠し名として持っているんだとか。


 中性的な風貌だが一応男性で、少し変な性格らしい。

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