第二十ニ話 一摘みの希望と共に
「とりあえずは、城下町の人達に聞き込みするしかないですよね」
「アセリア、大丈夫?」
アルブスに声をかけられ、おもむろに返事をするアセリア。それを眺めながら、全員の顔を見ていくシャロームは、少し考えた後に口を開いた。
「今ここに居るのはボクを含め────七人。分かれるとしたら──エンチーシスさん、スペクターさん、探索箇所としては幾つありそうですか?」
「えぇと……エンティで良いですよ、シャローミュさん。僕の名前長いって、エリザさんに言われたので、きゃきゃ、きょ共通の愛称ですから……」
しどろもどろになりつつ、エンチーシスは頷く。代わりに、スペクターが片手を腰に当てもう片方を若干前に出して言う。
「城下町は店の並んでるとこと、あとは居住区みたいなとこかな。人が沢山いるとなれば、二つでいいと思うぜ」
「わかりました。では……そうですね、二手に別れたいのですが、何か確定で組ませた方が良い、といった意見はありますか」
それぞれが周囲を見渡し、見つめ合っては視線をそらす。
暫くの沈黙の後、ホーリーが口を開いた。
「怪我しとるイデーちゃんとウチは一緒に居った方が都合いいと思うよ。あとはそうやな……これは質問とは逆やけど、イデーちゃんとスペクターちゃんは別々の方がええ。話がややこしくなるかもしれへん」
「それは、僕もそう……思いは、おも……思います」
「そも、俺が町に行ったらそこの人達全員に奇異の目を向けられたぞ! 何が悪いんだ……」
「いや、明らかにアンタの服装やね、囚人やんか」
ショックを受けたスペクターは少し項垂れ、イデーがその頭を軽く小突く。
一先ず、ホーリー・イデーのコンビと、スペクターの三人は分けられた訳だが……。
「姉さんも、一応ホーリーさんのところに居た方が良いかな。ボクは……」
「一緒に居てもええんとちゃう?」
「……いえ、スペクターさんの身なりをどうにかしないといけませんから、ボクはそっちに」
へぇ、とホーリーは小首を傾げる。
シャロームの判断が意外なようだ。もしかしたら、彼のアセリアに向けられた感情に勘付いているのかもしれない。何となく、イデーからスペクターへの、とは違っているが……重いのは間違いない。
アセリアはアルブスの肩を小さくつつき、耳元で囁く。
「アルブスはシャルをお願い」
「……分かった。シャローム、僕も一緒に行くよ」
シャロームはアセリアを見てから、それを了承した。
そして、今もなお慌てて口を陸に上げられた魚の様に開閉しているエンチーシスの方を見る。
彼は身震いして、周りを見渡し上目遣いになった。
「ぼぼぼっ、僕はどうしたら良いでしょうか」
「どっちの方が居て気が楽か、って感じで選んでいいと思うぜ。俺は君のことが分かってきたが、周りは皆して君と接してる時間が短い。初対面のやつも居る……だが」
スペクターがエンチーシスの肩に手を添える。
「魔女に魔女の弟に狼。大分頼りになる面子だろ」
「狼……そうだけどちょっと違うかな」
「ん?」
「僕、雪山の聖獣だよ」
「────」
※ ※ ※ ※ ※
暫くして、噴水近くのベンチにアルブスとエンチーシスが座る。城下町に入るのは何の準備無しに成し得る普通の事だが、スペクターはシャロームに背を押されながら茨の中に戻って行った。
「……大丈夫でしょうか」
「問題ないと思うよ。シャロームは手品師、どうとでも出来るし、他人の視線に敏感だしね」
「そう、なんですか」
アルブスは獣耳をピンと立てて、背伸びをする。
「ねぇ、エンティ。ペロネーがここに居るって、どうして分かったの?」
「……み、みみっ見かけたんです。手枷を付けられて、静かに騎士の人に連れられて、城の中に入ってくのを」
エンチーシスは既に鎧を全て脱いできていたが、その中に来ている服は城下町の人々とあまり変わらない。バツ印の並んだ服の下に白シャツを着ていて、紺色のズボンを履いている。そこに小さな王冠が乗っけられているのだから、違和感があるかと思えば、彼に似合っていた。……似合っていた。
王冠。見ながら、アルブスはふと空を仰ぐ。
「聖獣だって言ったけど、ホントはあんまり強くないんだ、僕」
エンチーシスは「え」と口の端から声を漏らした。
「その……雪山のしぇ、聖獣って」
「うん。氷雪の王、かつて天候を操ったとされる真っ白な毛並みに金色の瞳を持つ、狼」
「でも、そんなふうには、みみみ見えないでしゅけど」
「……僕が弱いのであって、聖獣は強い。だからきっと、エンティを守ってくれるよ」
「…………」
──聖獣を否定しないのは、自身の名を汚すに値するから。自らで自分を否定するのなら、そこには何も残らない。貰ったばっかりの自分に、自分が否定する権利は最初からない。
「あっ、シャローム!」
スペクターを連れ、シャロームが合流する。
彼女はシャロームの手により、ただの女性に変貌した。
ボサボサな髪は解かれ、サラリと靡いている。短いローブのような上着に、長いワイン色のスカートを履いていて、先程までの姿よりよっぽど魔女という称号は似合いそうである。ただ、誰も彼女に嫌な視線を与える事なく、城下町に溶け込むことが出来たのは確かだ。
「うぇ、スカートなんていつぶりだ……?」
「スペクターさん!?」
「お、おう、どした」
エンチーシスは酷く驚いた様子で、ベンチから立ち上がる。
「ホントにホントにスペクターさんですか? 凄く可愛いです、あっ、気持ち悪かったですよね、ごめんなさい……。でも、可愛いです!」
「なんだか、嬉しいような物哀しいような……。まあ、なんだ。ありがとう」
「シャローム、いつの間に服とか持ってきてたの?」
その質問に、シャロームは口元に人差し指を添えて静止する。おそらくは奇跡、だろう。
思ったが、彼の力に代償や制限は無いのだろうか?
「……やっぱスカートってスースーすドゥッ────!」
と、自分で自分の発言を止めるスペクター。苦笑しながら、エンチーシスがシャロームに向き直る。
「ただ、これだと女性一人男性三人の……いえ、かえって怪しくなりませんか?」
「今しれっと爆弾投下したけど、大丈夫大丈夫。エンティパッと見中性寄り美少女だから」
「……む」
妙に納得した様子だ。
シャロームはアルブス、スペクターはエンチーシスの近くに寄り、更にニ・ニに別れて行動を開始する。
情報収集、主に“少し前にやって来た罪人”について。
詳しい様子は省略するが、集められた情報は以下の通りだ。
・その罪人は明日処刑される
・その罪人が“ペロネー”もしくは“針の魔女”かどうかは城の民は知らない
・罪人は処刑を待つ間地下牢に入れられている
・処刑は城内部の処刑用中庭にて行われる
・地下牢は元々茨の魔物が襲来してきた時用の避難経路であった
「……さしゃ、さ流石に、容姿は見間違えてませんっ。確実にあれはペロネーさんでした」
「そこは疑わないですよ。嘘を吐けど特にメリットは無いように思えますから」
「次はどうする? 地下牢には二人位見張りが立ってる。外側を見りゃ分かるが、一応地下牢に行く道は二つだ」
スペクターは城に続く橋の横、石垣から乗り出て指をさす。その先には城の一部である円柱の部分、その下から、伸びていくトンネルのようなガワが見えた。
※ ※ ※ ※ ※
「…………んぐ、けほっけほっ」
「まだまだ未熟じゃのぉ、ペロネー」
「……言われたくないね、アンタには…………。年下な筈────……あ?」
何かに勘付いたように、“ペロネー”は喉に手を触れたまま首をかしげる。そのまま顔にかかる髪を払い、掻いて再出血している傷がある左目を無理やり開ける。
「……なんでアンタがここに居るんだ? アタシの見間違えじゃなきゃ…………」
「ふん、さきの言葉は見張りに見えておったからか? とすると、お主の口は一度ひん曲げんといかんようじゃな……。わっちゃの広い心では三度まで許してやるが。というより、そのような軽口を言っておきながら、お主の精神は随分とくたびれておるようじゃな?」
ペロネーは目を細め、檻を掴む。
「はぁ……。死に損ないのアタシのことなんて、アンタが気にすることじゃない。折角信用してた仲間に介錯をして貰えたというのに、これでは申し訳が立たないからな」
「……確かに、その表現が一番じゃな。死に損ない……ふん、お主の他にあと三人、似たような奴がおると言ったら信じるか?」
「アセリアか? あとの二人はホント、分かんねえな……」
檻が少し揺らぐ。その様子を見て、眼前の小さな女の子の容姿をした魔女はニヤついている。
「お主らの頑張りがどんな結末を呼ぶか、楽しみじゃな」




