お見舞い
フナバシに戻ってきてから一晩が開け、もうすぐ正午という遅い時間に起きたクララはメッセージを見て驚く。
昨夜別れた後に強盗に襲われたマキンタが重症を負い、病院に運ばれていったという連絡に。
この世界における病院は教会と隣接しており、飲食店と同様に神が用意したNPCによって運営されている。
ジェムやゴールドを追加することで回復速度を早める高度な治療を受けられるのだが、マキンタの場合は病院の回復薬や回復魔法では治せないほどの重症なので、長期の入院が必要な事態になっていた。
知らせが届いて病室に向かったクララの前にはベッドに寝てNPCから点滴を受けているマキンタの姿。
彼の右腕には包帯が巻かれているのだが、上腕の途中から先がなくて痛々しい。
「どうしてこんな事に?」
彼の姿を見れば大半の人が抱く質問をクララか投げると、マキンタは淡々と昨夜のことを語る。
彼を襲い右腕を奪っていった犯人についての最後にマキンタはクララも驚く人物の名を口に出した。
「あとこれはおれの勘違いかもしれないんだが、おれを襲った男の肩には灰村の幽霊が取り付いていたんだよ」
「まさか。でもゲームそっくりの世界だし幽霊がいても不思議じゃないか───」
最初は幽霊だけを聞いて「不思議なこともあるものだ」としかクララは思わなかったが、妙なひっかかりにマキンタの言葉を思い返してハッと驚く。
灰村……つまりハイジの幽霊だとマキンタは言ったのかと。
「て、え? 灰村っていうと、ハイジさんのですか?」
「そうよ、そのハイジよ。クララも知ってるあの金髪の女顔が肩の上に乗っていたんだ」
「あわわわわ」
「おいおい。しっかしろよ」
あまりホラーが得意ではないクララは驚いて腰を抜かしてしまう。
少し休憩してから立ち上がったクララは深呼吸をして、マキンタが語った話を頭の中で整理した。
曰く、マキンタは自分を襲った犯人にハイジの幽霊が取り付いているのを見たという。
最初は元の世界の常識で「ありえないし、本当だったら怖い」と腰を抜かしたのだが、思考を切り替えて考えてみればここは異世界だ。
魔法やスキルは当たり前だし、ほぼ全員が元の世界の基準で考えれば身体能力だけでも超人の部類。
加えてセカンド・ユートピアにもゴースト系のモンスターは存在していたので、逆に幽霊がいないと考えるほうが視野が狭いか。
「もう大丈夫です。ハイジさんの幽霊と聞いて、驚いただけなので」
「急に膝から倒れるからびっくりしたよ。その様子じゃオバケは苦手なんだな」
「まあ人並みには苦手ですよ。でももう大丈夫。ここは今まで生きていた世界とは違うって頭を切り替えたので」
「言われてみればそうだな。モンスターが普通に出てくるんだから、幽霊っぽいのがいてもおかしくないか」
クララの切り替えに納得しつつも「でも街の中では結界があるからモンスターは入れないし、やはりアレはモンスターとは別なのでは?」とマキンタは気づいてしまう。
だがそれを言うとまたクララが腰を抜かすかもしれないのでマキンタはあえて掘り下げなかった。
「正体が気になりますし、なにより危険な強盗は放っておけません。わたしがその強盗を捕まえてみます」
「大丈夫か? いくら強盗とはいえ、人間を攻撃するのは苦手だって言ってたじゃねえか」
「たしかに苦手ですよ。でもマキンタさんの具合を見ていたら、わたしでも戦うことくらいはできそうだなと」
「おれの?」
「ええ」
クララがマキンタの様子から気づいたことは実際に引き金を弾くときのお楽しみ。
ひとまずクララは様々な考えからマキンタを襲った強盗と戦い、その人物を逮捕することに決めた。
昼間はおそらく出没しないであろうと考えて、本番の夜に向けてクララは準備を整える。
彼女が持つ二丁拳銃にそれぞれ異なる弾丸を用意したクララはそれらを「ふくろ」に収納すると、早めの夕食と入浴のためにスパへと向かった。




