腕一本
クララに振られてパウロもこれからヤサトに向かうということで、一人食事に出たマキンタは閉店まで粘っていた。
この世界における飲食店はほとんどが神が用意したNPCによって運営されているのだが、NPC故に他所の街から来た新参者にも分け隔てない態度なのがマキンタには都合がいい。
店に移動するまでの短い時間でも半裸の格好もあって稀有な目線を向けられたのだから仕方がないが。
「閉店デス。オ帰リクダサイ」
酒もたらふく飲んでいたので居眠りまでしていたのだが、店員に叩き起こされてマキンタはしぶしぶ店をあとにした。
千鳥足で歩く彼を見る人間は誰もいない。
先日まで強盗ビリーが暴れまわっていたのもあり、フナバシの住人は早めにマイルームまで戻るからだ。
ビリーとは同じ街から来たマキンタだけが暗闇の中をヨチヨチと歩いていた。
「あん?」
そんな彼の前に誰かが現れる。
夜の闇と酔いによりマキンタには相手の顔がわからないが男なのは来て取れていた。
「ご機嫌だなマキンタ」
「誰だ? おれのことを知っているようだが」
「俺もヤサトから来たからな」
「そうかい。ここで会ったのもなにかの縁だ。これからおれの部屋で飲むか?」
ヤサトから来たと名乗る男にシンパシーを感じたマキンタは彼を飲みに誘う。
これがもし昨日までのマキンタであればこうもフレンドリーに接してはいなかったであろうが、酒の力とここがフナバシという比較的ヤサトよりも安全な街だという先入観が彼の警戒心を下げていた。
「いいや。外で充分だ」
「でもよぉ。この街の酒屋は今日はもう店終いだってよ。そこいらで歩き飲みでもしようってのか?」
「ククク……グレイスからも一目置かれていた剛斧のマキンタも型なしだな。今のアンタはただの酔っぱらいだよ!」
「あ!?」
そんな脇の甘いマキンタを男はあざ笑う。
さすがにそれにはマキンタも敵意を向けるのだがその判断はもう遅い。
男はマキンタの胸をナイフで串刺しにすると、心臓の中にあるエーテル核にまで突き刺さったナイフをそのままにマキンタを地面に這いつくばらせた。
ダメージで身動きができないマキンタの「ふくろ」を物色し男はジェムと邂逅の斧を取り出す。
「HPがアホほど高いから死なないだろうが、『ふくろ』の中身は全部貰っていくぞ。特にこの邂逅の斧はアンタには勿体ない」
「うぐぐ。て、テメーは……」
「あの御方を裏切った落とし前だ。エンコとして右腕は頂いていく」
「あ、あがぁぁあ!」
男は奪った邂逅の斧を起動させてギロチンの刃のように整形すると、それを倒れているマキンタの右腕にむけて垂直に落とした。
激痛に悶るマキンタの酔いはとっくに冷めており、彼の声に呼応するように傷口からは血が溢れた。
男はそのままマキンタの腕が再生できないように切り落とした右腕を切断面を下にして持つと、血が滴っているのも気にせずに去っていった。
「て、テメー……生きていたのか?」
男の肩に知った人間の顔を見たマキンタは苦悶の表情で問いかける。
だが男はそれに一切の返事をせずにこの場を後にした。
マキンタが見た顔はハイジのもの。
あの状況から生還できたとは思えない以上に、男の肩に寄り添うその姿は幽霊そのままだった。
男とハイジの幽霊らしきものがどのような関係なのかマキンタは知らないが、直感で放置してはいけないと彼は感じ取る。
早く二人に教えるべき。
そう思ってマキンタはエリアチャットを開こうとしたのだが、そのまま意識を失ってしまった。
腕を切られたことによる失血もあるのだが、それ以上に胸に刺さったナイフでエーテル核が傷ついたのが不味い。
ビリー対策としてフナバシ協会が街中を警戒していたことで手早く発見されていなかったら、おそらくマキンタはそのまま死んでいた。




