H
ヤサトの街を脱出し南に向かうクララたち。
そしてそれを聖帝号に仕込んでいた発振器を頼りに追うハイジとブラクモ。
そんな両者の追いかけっこをモニター越しで眺める男がいた。
彼こそが神を自称する人類の生き残り。
不死鳥になぞらえてフェニクスと名付けたエーテル体によって蘇生した新人類の経過観察をする神の一人はクララとハイジに注目していた。
「その少女を熱心に見ているなH。惚れたのか?」
クララのことを観察しているの彼を同じ神はHと呼ぶ。
Hに呼びかけたMもそうなのだが、お互いをイニシャルで呼び合う彼らの外見は白衣を着た老紳士にしか見えない。
いわゆる研究者の格好をする彼らもまた延命のために身体をフェニクス化しており、見た目よりずっと頑丈で特別な力も有していた。
「判らんか? 武藤」
「名前で俺を呼ぶとは何百年ぶりだな。まさか本当にこの娘を気に入ったわけではあるまい。そんな感情すら残っているとは思わなかったぞ」
「お前の言うとおり残っていなかったさ。この子を見つけて蘇ったという方が正しいよ」
「それは驚いた。驚くという感情すらなくなった俺でも驚くべきだと理性が覚えている程度に。羨ましいくらいだ」
「フフフ」
「ニヤニヤして自慢しおって。それにしても神となって消えていたお前の感情を蘇らせるとは、まるで御伽噺の聖女だ」
「たしかにこの子はおれにとっては聖女のようなものさ。おれがこの世で一番大切にしていたあの子の成れの果てなのだから」
「なるほど……そういうことか。子煩悩だったお前らしいな平井」
「そう言うことだ。それでは早速、おれは特別にこの子を贔屓してやろうではないか」
「直接手を出すなよ。実験にならん」
「わかっているさ。この子には道中に接触した巨人を利用して追手から逃げるように刷り込みを行っている。だからあとは、それに合わせて巨人の方を誘導するだけさ」
「巨人なんて今まで天然モノにはいなかったし、今回の実験で用意した人工モノにもいないぞ?」
「なあに。巨人とはアイテムの効果で巨人に変化した別のフェニクスよ。自我が希薄なまま暴れまわっているようだから、洗脳してハイジとかいう追手にぶつけるのなど容易いことさ」
「まあ程々にな。それ以上干渉したら、実験にならんとAに俺まで叱られてしまう」
「わかっているよ。これでも本当ならあの子を騙したハイジとか言うヤツにはおれが直接落とし前をつけたいくらいなのを我慢しているんだ」
クララに味方をし、ハイジを邪魔しようとしているH。
彼は明らかにクララに対して特別な感情を抱いていた。
彼はクララを特別視しているからこそ、そのクララを騙し討ちにしたハイジにはお仕置きが必要だと考えている。
ハイジが神を倒す計画をしていることや、二つのアカウントデータが絡み合った異常な存在故にこの世界の秘密を知っていることに彼らは気づいていない。
気づいていたのなら、Hだけでなく神々総出でハイジは実験体として捕らえられていたであろう。
クララに少しだけ助力したHのおかげでクララたちは優位にある。
そしてハイジはHが気づいていないからこそ、その身は安全なままだった。




