激走
教会を脱出した三人は道なりに聖帝号を走らせる。
目指すはヤサトの東南にあるチヨダの街。
直線距離で二十キロ程だ。
「本当にそっちでいいのか? 北にあるカサマの方が距離が近いぞ」
「作戦があるんです。結界を出たらすぐにこれを使います」
マキンタの疑問に対してクララが「ふくろ」から取り出して見せたのは小さな笛。
敵寄せの笛と呼ばれるこの笛はクララが元のゲームで使用していた素材収集用のアイテムだ。
対象をイメージした上で吹き鳴らすことで一度遭遇したモンスターを自分の周囲に呼び寄せる効果を持つ。
クララはこれを用いてアレを呼び出すつもりであり、パウロも出発時に笛を彼女から見せられた時点で作戦を理解していた。
その場にいなかったので、マキンタだけがポカンとしてしまうのは無理もない話ではある。
「たしかモンスターを呼び寄せる笛だよな。使えるのか?」
「たしかに、試したことがないのでこの世界のモンスターには効果が可能性はあります。ですが使えなくても運良く遭遇出来る可能性に賭けるだけの価値があるモンスターがチヨダ方面に居るんです」
「おいおい。そんなヤツに遭遇したら、撹乱に利用するよりも先に俺たちがやられちまわないか?」
「その時は運がなかったということで」
「大丈夫かよ」
クララが呼ぼうとしているのは移動中に遭遇した巨人なのだが彼女は巨人の正体を知らない。
そもそも敵寄せの笛が効果を発揮するのは神が実験体として世に放った人工モノのモンスターに対してだけで、出発早々に撃退した巨大蛇のような天然モノのモンスターには効果がないことを彼女は知らない。
本当はモンスターではなく、改悪した薬によって巨人化し暴走したロブスタという人間には笛の効果はもちろんない。
それでもクララはチヨダ行きの道中に彼と遭遇できることを予感していた。
そしてパウロもその予感が正しいと信じていた。
二人が胸中に抱える根拠のない自信は神のお告げ。
気まぐれなのかそれとも神にとってハイジは邪魔な存在なのか。高みから外界を眺めている存在が二人に手を貸していた。
「この床に開いた穴は邂逅の斧でやったようっスね。まさかあの色情魔を味方につけられるだなんて、クララちゃんも意外と自分の色がわかっているじゃないっスか。まだミセーネンだっていうのにこれでは、彼女ゼッタイにオボコじゃないっスね」
一方その頃、荒らされた車庫と天井に空いた穴を見てハイジは呟いた。
ハイジとしては力を封じる檻の中からクララが脱出するのは想定外だったが、考えてみれば制裁を加える前からマキンタが檻の中にいたのは彼が勝手に鍵を開けて中に入ったからという簡単な話を見落としていた自分のミスだと自嘲する。
クララが簡単に首を縦に振るとは思っていなかったが、怖がらせるためにマキンタを九割殺しで放置したのは失敗だったかと。
だがそれ以上に、自分を強姦しようとした相手すらも味方につけたクララの胆力にハイジは驚く。
生娘ならば嫌悪感が勝って見殺しにしそうだし、そして彼女がマキンタを治療して仲間にしていなければこんな簡単に聖帝号を奪い返すことが出来ようか。
「よっちゃんたちの説得も邂逅の斧の回収も、両方やらなきゃイケないのが反逆者の辛いところっスね。むしろこれは僕の計画を察した神の連中が手を貸しているのか? こうなったら是が非でもよっちゃんには協力してもらわないと」
ハイジの言う計画。
それは神を探して交渉しようという教会の方針とは半分同じで半分異なっていた。
ハイジはこの世界が異世界ではなく、本当は荒廃した未来であると知っている。
だから彼らの都合で自分たちを生き返らせた神に反感を持っていた。
自分たちよりも前に実験体となっていたであろう他のゲームのプレイヤーたち。
彼らが今この世界に居ない理由は神々によって「切り捨てられらから」だと考えているハイジは、神を相手に戦う戦力を神に直接妨害されるよりも先に得ようとしていた。
そのために必要なのは兎にも角にもジェムである。
多くの人間がセカンド・ユートピアのモノと同じく「レアアイテムを手に入れるための交換アイテム」と認識しているこのジェムを、ハイジは純粋なエーテル資材として神との戦いに用いることを計画していた。
神がクララに手を貸しているのは間違いない。
そしてハイジは神の介入を極力避けるべく、神が動向を探っているであろう教会からの干渉を嫌っていた。
だが神はどこまでハイジを妨害するつもりなのか。それは神のみぞ知る。




