脱出
用心のために各々は武器を携えて出発の準備を整える。
さてこれから檻のある部屋を出るわけだが、ここで行き先について意見が食い違った。
パウロやマキンタは事務室に殴り込むのだと思っていたわけだが、クララはそれに異を唱えた。
「まずは車を確保して、そのまま別の街まで逃げましょう」
「しかし……私は灰村を放っておけない」
「俺もダンナと同意見。ダンナにならって灰村と呼ぶが、あの男からは下手に逃げようだなんて考えないほうがいい。アイツがこの街にいる間に街から脱出したヤツはいないほどだからな。どうやっているのかは知らないが、市街地から出るとアイツはすぐに気づいちまうんだ」
「それはおそらく教会の設備によるものだな。市街地や結界の境界線をを出入りする人間はすべて教会のカウンターが補足していて、人数が変わればどこから出入りしているのかを把握できるんだ」
「へぇ」
「それにクララが言うように撤退したところでこの街は変わらない。むしろ私たちを経由してこの街の現状が他所に拡散することを灰村は嫌がっているようだから、何があってもそれは阻止しようとするんじゃないか? だったらこちらから攻め込んだほうが後手に回らなくていい」
「だな」
二人はクララは思うように簡単には逃げられるわけがないという考えだ。
それに目的は違えど、二人はハイジと決着をつけたいとも考えていた。
「わたしはだからこそ、この街を脱出しないと話にならないと思うんです。さっきの様子では説得も難しそうですし、何よりこの街は言わばハイジさんの体の一部。そんな場所で真正面から戦いを挑んでも、返り討ちになるだけです」
「言われているぜダンナ」
「マキンタさんもですよ。そもそもマキンタさんの場合は、ハイジさんにコテンパンにされたから子分をやっていたようですし」
「言われているぞ変態全裸男」
「下ははいてるだろうが」
「やめてください二人とも」
喧嘩を始めるパウロマキンタだが、恋慕と恩義で方向性は違えどもクララを慕う二人は彼女の仲裁には弱い。
声を合わせて「はーい」と返事をする二人は、表向きでは仲直りだ。
「とにかく、今のままじゃ戦いになったら勝てないのは明白ですよ。だから一旦逃げましょうよ」
「そうは言っても……仮にフナバシまで戻って援軍を呼びに行こうとも、クララより強いネオスドリフトなんていないぞ」
「そんなことありません。第一、わたしは人を傷つけるのは苦手ですから」
「クララの方こそそんなに謙遜することはないさ。キミが他人を傷つけたくないのは知っているが、それを加味してもキミは誰よりも強くてかわいい」
クララもパウロも、ハイジを説得するためには戦って屈服させる必要があると感じていた。
だからこそクララの強さを信じるパウロは力押しを主張するし、自信のないクララは逃げを主張した。
食い違う二人の意見は固定観念に囚われているのだが、それを外側から比較するマキンタにはそんなものはない。
忌憚のない意見がこの後の行動を決める。
「うーむ……クララの言う『他の街から援軍を呼ばれたくない』っていう予想はいい目の付け所だと俺も思う。それに俺たち三人で灰村以外にもブラクモたち手下の極道者だって相手にしなきゃならないから、無策で突っ込んで勝てるわけがないのもな。
でもダンナがクララを見込んでいるのも俺は否定したくないから、間を取ってこうしよう。とりあえず逃げることにして、追手が来たら各個撃破ってのはどうだ?」
「それは何か意味があるのか?」
「江戸時代のサムライが使っていた戦法だと聞いたことがある。追手のほうが数が多い場合、追ってくる速さには個人差があるから、一旦逃げてバラけるのを待つ方が利口なんだとさ」
「それだと先回りをされたら意味がなくないか?」
「それは問題ないだろう。クララより強いヤツなんてそうそう居ないんだろう? だったら灰村が追ってくるまではゴリ押しで突破すりゃあいいし、灰村が来たら俺が盾になる。俺は別に他所の街に逃げたくて二人に手を貸すわけじゃないから気にするな。援軍を連れてきて、最終的に灰村たちをギャフンと言わせればいいからよ」
「良いんですか? もしハイジさんたちに捕まったら殺されてしまうかもしれませんのに」
クララはさきほどの死んでもおかしくはない制裁を踏まえた上でマキンタの身をあんじる。
「無論俺だって簡単には捕まらねえって。もしもの場合は気にするなってだけよ。
じゃあそろそろ車を取りに行くからついてきな。車庫はこの部屋の下だ」
「そうだな。あまりここでのんびりしていたら、灰村に気づかれる」
「それじゃあ二人は少し下がってくれ。せーの!」
マキンタは形状、サイズをイメージに合わせて任意に変えられるSSR武器「邂逅の斧」の刃を円柱状に整形すると、そのままそれを地面に叩きつけた。
ゴンという大きな音を立て、それが事務室にまで響いた頃にはもう遅い。
床をぶち破って車庫に降りた三人は聖帝号を整備していたウラシマを気絶させると、そのまま奪取して車庫から飛び出した。
入口はマキンタが力づくで破壊したので修理するまで閉じられない。
センサーで異変箇所を把握し、ハイジが確認に来たときには三人の姿は遠くなっていた。




