裏の顔
クララたちがブラクモに捕まっていた頃、ヤサトの街に一人の男がやってきた。
ポケバイにまたがって鼻息混じりに教会を目指す彼を見る目は二種類。
一つは飢えをこらえながら、憎しみと己の無力を混ぜたような濁った目線。
もう一つは彼の威を得ようとする羨望の眼差し。
彼の名はグレイス。
この街ではそう呼ばれていた。
「戻ったっスよ」
協会に到着したグレイスはポケバイを「ふくろ」に収納すると、スタスタと事務室を目指す。
中に入るなり作業をしているAIや茶を飲んでいる極道者をぐるりと目線を向けて確認してから、奥にある自分の椅子に座って皆に告げた。
「早速だが、連絡しておいたフナバシから来た二人は丁重に扱ってるっスか?」
「手筈通り、檻の中に閉じ込めてあります」
グレイスの質問に答えたのはブラクモ。
彼も彼で相棒のマキンタやウラシマが下半身だけで生きているクズなので、グレイスの副官役として苦労が多いようだ。
グレイスには敬語を使う姿からもそれは滲んでいた。
「ですが……どうして二人だと知っているんです? 予定では三人でしたが」
「だってトーゼンっスよ。その三人目ってのは僕なんだから」
ブラクモの疑問に答えるようグレイスは顔を変化させた。
体つきはあいも変わらず細身の男性なのだが、顔立ちのせいか妙に色気がある女性としか思えない雰囲気。
捕まっているクララたちが見たら驚くのは確実な容姿に早変わりした彼にブラクモも驚く。
「グレイスさん……その顔は?」
「これは僕のプライベートとしての顔っスよ。普段のはGMとしての顔。S社のお仲間にはプライベートの顔を僕だと認識させているから、今回二人を連れ込むためにそっちの顔を使ったってわけ」
「なるほど。ですがそれだと、例の二人とはぐれた理由がよくわかりませんが……」
「そっちは別問題っスよ。フナバシに行く前に僕がまいた種が思ったより育ちすぎて、無差別に襲われた自業自得ってやつっスけどね」
「???」
「とりあえずみんなにも注意勧告は出しておいてくれ。『街の外、南部二十キロ圏内に巨人が出現した』って」
「わかりました。とりあえず連絡を回しておきましょう」
「お願い。僕は早速二人に会いにいくから、他の人が邪魔しないようにしてね。特にマキンタあたりはクララちゃんにイタズラしそうだし」
「そのことならば俺も既に釘を差しておいたのですが……そういえばマキンタの姿が見えませんね」
「まあ……オイタをしてたら殺しておくからいいっスよ。ブラクモくんの責任にはしないから心配しなくても大丈夫」
「ありがとうございます。では俺は早速、その巨人について情報の拡散を」
「よろ」
グレイスは自称「プライベートの顔」を維持したまま、クララたちが囚われている檻のある部屋に向かう。
男物の神父の服装だが妙な色気を醸し出す女顔をした彼の正体はハイジ。
教会には「環境の変化を理由にしたサボタージュ」と語っていた彼は、どういう訳かヤサト教会の責任者グレイスを兼任していた。
実のところ教会の中の人である元運営の人間たちにグレイスの中身が誰かを知る人間は居なかった。
これはハイジが普通とは異なる二つの顔が融合したバグ的な存在であること以外にも、丸山班の中でも他の部署との折衝役をしていて顔が広い灰村亮二だからこそ出来た大嘘だった。




