湖
川沿いを下流に向かって進む三人は、曲がりくねる川に従って北東に進んでいた。
リュウガサキの街を迂回する形で通過し、次第に広くなっていく川幅。
そろそろ海に辿り着くのだろうかと睨む三人は、大きな湖にたどり着いた。
一見すると海のようだが海水でなければ魚もなく、波も立っていない。
クララの視力で遠方を凝視すれば対岸には陸が見えたので、海ではないのは間違いない。
おそらくこのまま沿岸を走っていけば、対岸にたどり着くのだろう。
「海に繋がってなくて残念だったね、クララちゃん。それにお魚もいないみたいで」
「別にいいですよ。そもそもこの世界に元の世界と同じお魚がいるとも限りませんので」
「それがそうでもないらしい。海辺にあるオーマの街では、私たちの世界と同じ海産物が取れるそうだからな」
「お! 詳しいね、よっちゃん」
「真面目に仕事をしていればわかることだ。うちの部署で知らないのはずっと休んでいたお前だけだぞ」
「へいへい」
湖を眺めながらの雑談の最中、クララの耳にふとパウロの言葉が引っかかった。
別に聞く必要もない他愛のない内容だったのだが、話を繋ぐのに丁度いいかとクララは指定してみる。
「あの……ハイジさんが休んでいたって言うのはどう言うことですか?」
「深い意味はないっスよ。だって……いきなりこんな姿に改造されて、異世界に放り投げられたんスよ。こんな状態で働けっていうほうがバカらしくじゃないっスか。クララちゃんだってこっちに来てからも学校が残っているからって、登校する気にならないでしょ? 僕が休んでいたのはそれと同じ。別に具合が悪いわけじゃない」
ハイジの主張は本心からのモノ。
クララとしても「こんな状況で学校に行くことになったら面倒そうだ」という点では同意しかない。
だが学校から連想して友人や教師……そして幼馴染のことを考えるとまた違ってくる。
ハイジとは違い元の世界での知り合いが一切いないクララにとっては、そのつながりの証明である学校は「もしこの世界にもあるのならば、彼と一緒に通いたい」モノだった。
なので一瞬頷きかけた首をクララは横に振る。
「そうですね。学校に行くのが億劫っていうのはわたしも同じ。ですが、学校に行きたくないかと言われたら別ですよ」
「そっか。クララちゃんはいい友達に恵まれていたようね。よっちゃんとは大違いっス」
「どういう意味だよ灰村」
「これ以上は言わないっスよ。僕の口から言ってしまえば困るのはよっちゃんだし」
「う……ぐぬぬ」
「ま、まあ。そろそろ先に進みましょうよ。あんまりゆっくりしていたら日が沈みますし」
「そ、そうだな」
自分の回答からハイジによるパウロいじりが始まりそうだったので、クララは先に進むことを催促して話題を切り替える。
パウロもそれに乗って聖帝号のハンドルを握ったので、イタズラができずにふてくされるのはハイジだけだ。
だが彼のイタズラ心もクララにはなんとなく理解できた。
自分にとってのトーキチのように、ハイジにとってはパウロの存在が大きいのだろうと。
男同士の友情って良いなと、クララは少しだけ勘違いをしてしまうのだが、女装をしてまで友人をからかうハイジの姿から彼らの関係を誤解するのは仕方がなかろう。
この時点で時刻はもうすぐ午後の四時。
迂回したことで移動距離が伸びた結果、この時点で日中にヤサトにまで到着しないのは確定していた。




