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この世界はラノベなんかよりよっぽど面白いっ!  作者: 御堂寺祐司
■第三章 『ライトノベルなんて・・・』
24/29

書いて書いて書いて。そして。


 カタカタカタ―――と切れ間なく響き続けるリズミカルなタイピング音は、どんな美麗な音楽にも劣らない至極のBGM。旋律を奏でるような滑らかな指の動きが、適度な集中状態と相まって、自分でも驚くほどの速度で物語を紡いでいく。


 放課後に入ると同時に部室に駆け込み、それからずっとノートPCのディスプレイと睨めっこを続けている。


 俺が扉を開けると物語の世界へと繋がってしまう都合上、部室の扉はずっと開けっ放し。

 通りすがる生徒達から向けられる視線が若干気恥ずかしくもあるが、そんなことは些末な問題だと割り切る。


 今日はみんな来るのが遅いのか、室内に居るのはまだ俺一人。僅かな時間とはいえ一人で作業に没頭出来る時間が出来るのはありがたかった。この時間を少しでも有効に使うべく、俺は休むことなくキーボードへと指を走らせる。


 あの世界に挑戦しては追い返され、何度も何度も辛酸をなめさせられ、ようやく頭も冷えてきたのか、段々と分かってきたことがある。



 なんでニコはあんな世界を作ってまで、俺達の前から姿を消したのか。



 もちろん、きっかけとなったのは俺の部屋での一件だろう。それは間違いない。


 しかし、それだけが原因なのかというと―――それもきっと違う。


 だって、もし俺から「消えろ」と言われたことだけが原因なら、単純に部活を辞めて学校に来なければ済む話だろ。アイツはこれまでもそうしていたのだから。


 だから他にもきっと理由はあって。

 ニコニコと笑う笑顔の裏側でアイツが抱えていた苦しみは、きっとそんな単純なことではない。


 でも仮にそうなのだとしたら、俺に一体何が出来るのだろうか。


 アイツが何に苦しんでいるのかも分からず、それどころかアイツが学校に来れなくなるぐらい苦しんでいたことにすら気付けなかった俺に。


 まずはちゃんと謝って―――でも、その後は?


 破られた原稿を見て涙を流していたニコ。好きな作品がもう二度と読めなくなった、というのはアイツにとっては相当なショックだったはずだ。


 だったら、あの作品をもう一度書き直して読ませてやれば。


 ……いいや、駄目だ。それではただの罪滅ぼしにしかならない。

 それで許してもらえても、俺がアイツにしてしまったことが消えるわけじゃない。

 それにアイツの隠された一面を知ってしまった今、元通りの関係に戻れるかは分からない。

 そんなのはゴメンだ。


 だったら、俺が今すべきことは―――


 俺は思考を巡らしながらも休むことなくキーボードを叩き続ける。


 それは『眠れる聖剣カリバーン物語』の世界から追い返された初日から、ずっと続けていること。


 自宅ではもちろんのこと、早めに登校しては部室で書き、休み時間にもノートにペンを走らせ、授業中だってそのことばかり考えて。


 書いては消して。消しては書いて。

 止まることなく十本の指は動き続ける。


 頭の中に浮かぶイメージが、腕を通って、指の先から画面の中に流し込まれていくような感覚。かつて一度だけ味わった集中と高揚感。いや、今はきっと、あの時よりも。


 ニコが待っているんだ、アイツはきっと俺を待っている。


 根拠なんてなにも無い。ただ俺がそう信じたいだけ。「絆」なんて大層な言葉を使うつもりも無いけれど、そう信じるに足る何かが俺とアイツの間にはあったのだと信じて。


 はやくアイツに届けたい、と。


 書いて、書いて、書いて――。


 そして、エンターキーをひときわ強くたたいた瞬間、早苗が扉の外に姿を現した。


「大変です! 皆が……皆がニコちゃんのことを忘れていってるんです!」


 言葉を失う俺に駆け寄ってくると、彼女にしては珍しいほどの早口でまくし立てる。


 今日、ニコのクラスに行くとニコの机が消えていた。

 クラスの連中に理由を尋ねても「アマツさん?……って、誰?」と本気で分からないような反応を示した。決定的だったのはクラスの名簿。そこにあったはずの天津爾瑚の名前が―――無かった。


 早苗が告げた内容をまとめるとそうなる。


 消息不明になってから数日、さすがに誰も騒がないのはおかしいと思っていたら――そういうカラクリかよ。


 もう理屈なんて分からない。


 『俺の前から消えてくれ』


 ――アイツは、その言葉通りに消えてしまおうというのか。


 俺の目の前からも。そして、この世界からも。



 そうはさせるかよ。



 印刷ボタンをクリック。プリンターの稼働音がやかましく響く中、俺は席から立ち上がると、凝り固まった背筋をぐいと逸らした。


「……アイツを迎えに行くぞ」


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