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この世界はラノベなんかよりよっぽど面白いっ!  作者: 御堂寺祐司
■第三章 『ライトノベルなんて・・・』
25/29

プリンセス・ニコ


 部室の扉をくぐり異世界へ。


 これで何度目になるのか分からないファンタジー世界の風景。もはや目にしたところで僅かな感動すらも感じることはなく、所詮その程度の世界なのだと、まるで自分の筆力の無さを突きつけられているようでなんとも歯がゆい。


 その世界を遥か遥か進んだ先で―――


 俺達4人の前に姿を現したのは、どこかおどろおどろしい雰囲気を漂わせた古城。


 中世ヨーロッパをベースにしている世界観通りの、幾重もの城壁が周囲を取り囲む集中式城郭。堅牢を誇ったであろう城壁は既にいたるところが崩れかけていて。


 永い年月の間に幾度となく激闘が繰り返されたことを物語るその光景は、血のように赤い空と相まって、まさしく魔王の居城と呼ぶのにふさわしい威容を示している。


「まったく……時間が無いってそういうことだったのね……」


 ここまでの道中、ニコに関する痕跡が消え始めていることを伝えると、由香子は呆れ混じりにそう息を吐いた。


 不幸中の幸いとでも言うべきなのか、この4人はニコのことをまだハッキリと覚えていた。比較的ニコと近しい間柄だったせいなのかもしれない。


 目の前にそびえ立つ不気味な城塞に、早苗がゴクリと喉を鳴らす。


「……本当に、ここにニコちゃんがいるんでしょうか?」


「おい由香子、どうなんだ? ここを目指そうって言い出したのはお前だろ?」


「魔王はここに居るのよね?」


「ああ。それは間違いないはずだ。ここは魔王の城であり、原作では最終決戦の舞台となった場所でもある。ニコが原作を再現しようとしているなら、魔王のいる場所はここ以外には考えられない」


「なら、あの子も間違いなくいると思うわよ」


 確信を持った表情で頷く由香子。


 なんでそんなことが分かるのか? その理由を尋ねても曖昧にはぐらかすばかりで、はっきりとした答えは返ってこない。


「それにしても、今回は魔王が邪魔しに来なかったっすね?」


「まあ、『我が城で待つ』なんて言ってたしね。そりゃあんな台詞を吐いておいて、ノコノコ自分から顔を出せないわよね」


「? 何の話っすか?」


「なんでもないわよ。さあ、行きましょう」


 一人先を進もうとする由香子に続きながら、開け放たれている城門を潜り抜ける。


 そのまま中庭を通って、薄暗い城内へと足を踏み入れると、広大で殺風景なエントランスホールが俺達を迎える。蛍が興味深そうに周囲を見回しながら小声で訪ねてくる。


「そういえば、こんなファンタジー感バリバリの世界なのに、モンスターとかは出てこないんすね。もともとそういう設定なんすか?」


「いや、そんなことはないぞ。本当だったらこの城の中にも凶悪な魔物がワンサカいてな、主人公パーティが大立ち回りを演じるアツいシーンだったりするんだが――」


 しかし、そんな設定など忘れ去られたかのように城の中からは生物の気配がしない。


「まあ理由はなんであれ、モンスターがいなくて助かったじゃない」


「だな。こんな貧弱極まりないパーティじゃ、低級モンスター一匹にだって勝てやしないだろうからな」


 改めて自分も含めた4人の姿を見返しそう確信する。各自が何となく役に立ちそうだと思ったものを持参したリュックに詰め込んだだけで、武器になりそうなものは誰一人持っていない。


 唯一蛍のリュックだけがやたらと大きく膨れているが、何が入っているのか尋ねても「乙女の秘密っす☆」と意味深に笑うだけだ。


 俺たちは念のため、全方位を見張れるよう輪になりながら城の中を進んだ。


 普段の生活であれば感じることが無い程の静寂、大きく響き渡る自らの靴音を聞きながら、単調な通路を進む。


 やがて辿りついたのは見上げるほどに巨大な両開きの扉。


「原作通りなら、魔王が居るのは―――この中だ」


 真っ赤に塗り込まれた鋼鉄製の扉に手を当てると、わずかな力を込めただけで扉は重厚な音を響かせながらゆっくりと開いていった。


 その先に広がるのは、この城の主と謁見するために作られたであろう、やたらと天井の高いホール状の空間。


 入り口から伸びる柔らかそうな赤い天鵞絨の絨毯の先には台座と玉座があり、


 そして……その玉座に深く腰掛ける漆黒のシルエットは、


「……よくぞ来た」


 足を組み、ひじ掛けに頬杖をつきながら感情の籠らない瞳でこちらを一瞥してくる魔王。


 その台詞も定番過ぎるポーズもやはり原作の描写そのままだ。


 ただひとつ、原作と異なっていたのは。


「――え? ……せん……ぱい?」


 玉座の隣に置かれている鳥籠を模して造られたような巨大な檻。


 見るからに頑丈そうな鉄格子の向こうには、純白のドレスに身を包んだ少女がスカートをフワリと広げながら座り込んでいた。少女の大きな瞳が動揺するように揺れる。


「ニコちゃん!」


 早苗が声を上げると、その少女――ニコは驚愕に彩られた表情のまま勢いよく身を起こし、両手で鉄格子を掴んだ。


 視界の先に並ぶ二人のニコ。白と黒。無表情と驚愕。相反する要素を持っていても、やはりパッと見ただけでは見分けがつかないほどに同じ容姿をしている。


「皆さん……なんでここに? なにしに来たんですか?」


「バーカ、お前を迎えに来たに決まってるだろ」


 ビクリと震えるニコ。眉間に刻まれる深い谷間。


「……私は迎えに来て欲しいなんて言ってません」


「ああ、知ってるよ」


「なら、なんで来たんですか!」


「はあ? 来ちゃわりいのかよ。俺はただ来たかったからここまで来た。それだけだ。お前の都合なんか知ったこっちゃねえな」


「なっ……!」


 我ながらあんまりな言い草だと思う。当然のようにニコの眉が吊り上がり、蛍以外の二人が「ちょ、ちょっと祐介?」「岩岡先輩?」と慌てて声を上げる。


「ほんと、なんなんです? わざわざこんなところまで喧嘩を売りにきたんですか?」


「ったく、迎えに来たって言ってんのに、ほんとお前は人の話を聞かねえな。まあ、お前は初めて会った時からずっとそうだったもんな。いつも自分勝手に行動しては周囲を振り回して。俺が文句を言っても聞く耳持たず、むしろ自分にはなんの非も無いとばかりにニコニコと笑っている無責任さと薄情さ。本当にどうなってるんだよお前の頭の中は――」


 再会して早々の罵詈雑言。顔を赤くしたニコがぷるぷると震えるのが分かる。


 うん? お、おかしいな。さすがにここまで言うつもりは無かったんだが。ニコの顔を見たら不思議と言葉が口をついて出てしまう。


 ……けれど、それらは本心でもあって、


「結局、いつも被害を被るのは俺ばかり。いい迷惑なんだよ―――だけどな」


 だからこそ、告げる。



「いいか! この俺がいつも振り回される側の人間だと思ったら大間違いだからな! 俺だって好き勝手やらせてもらう! これからは覚悟しておけよ!!」



 これまでさんざん振り回されてきたことへの恨みつらみと、


 これから先は違うのだと―――


 つまり、これからも共にいたいのだと、言外に滲ませながら。



 ……この想いがアイツに伝わったのかは分からない。ただニコの瞳は大きく歪み、口元が震える。何かを言いかけるように口を開いては、閉じるを繰り返し、


 ――だけど結局その口から零れたのは、



「……もう、放っておいてくださいよ」



 突き放すような冷たさだった。


「ニコちゃん? なんでそんなこと言うの?」


「もういいんですよ。もう疲れちゃったんです」


 虚ろな瞳に乾いた笑いを添え、ニコは言う。


「私はね、ずうっと考えていたんですよ。……嫌なことばっかりのこんな現実に、なんの意味があるんだろうって。私はなんでこんな世界にいるんだろう、私が生きたいのはもっとキラキラと輝いた……ライトノベルみたいな世界なのにって。考えて、悩んで……そうして気が付いたら、いつの間にかこんな力が使えるようになっていたんです」


「そんな馬鹿な話があるわけ―――」


「ですよね。でも実際そうだったんです。私はずっと、この力を面白いラノベを書くための能力なんだと思ってたんです。この能力を使って、普通であれば出来ないような取材をすれば、より面白い作品が書けるんじゃないかって……でも――」


 俺達が向ける視線の先で――ニコは、笑った。



「――そうじゃなかった」



 見る側が顔を顰めたくなるような、そんな痛々しい笑み。

 いつもニコニコの――そう能天気に笑っていた面影はそこにはない。


「やっと解ったんですよ。この力は、こうして自分だけの世界を作るためにあったんです。大好きなライトノベル作品の世界で生きていたい――それがやっと叶ったんです」


「だからって本当に現実世界から消えちゃうのはどうなのかしらね」


「そうっすよ。それにニコちゃんは、それで本当に良いんすか?」


「……どういう意味ですか?」 


 蛍の言葉を引き継ぐように。俺は告げる。


「――お前は、最高のライトノベルを書くのが夢なんじゃなかったのかよ」


 俺が告げたひとことに、ニコの表情がさらに歪む。



「その夢までも諦めるつもりかよ! あんなに一生懸命取材を繰り返していたくせに! こんな世界で誰がお前の小説を読んでくれるっていうんだよ!」



 俺の投げつけるような言葉にニコは強く歯を喰いしばると、



「ああ、その通りですよ!」



 ヤケクソのように叫んだ。


「でもね! 書けないんですよ! 私には才能が無いんです! 頭に浮かぶのはありきたりな物語ばかりで面白いものなんて生まれてこない! だからせめて取材をすれば良いアイデアが浮かぶんじゃないかって思って! でも駄目だったんです! 私の書いた小説を皆さんに見せようとしなかったのは―――自信が無かったからなんですよ!」


 その表情に無念と悔しさを滲ませ、衝撃の告白とばかりに声を荒げる。


「いつも偉そうなことを言っておきながらっ、本当は、こんなヘボヘボな私なんですよ! ……口先ばっかりでまともに作品を仕上げることすら出来ない……はは……どうですか? 意外でしたか? 皆さんもさぞかし驚いていることでしょうね――」


 諦観の滲む表情を向けられ、思わず顔を見合わせる俺達。


 そして、同時に口にしたのは。



『いや、知ってたけど?』

「知ってたんですね!?」



 ポカーンと口を開けるニコに、今更だろと笑って返す。


「そりゃあれだけ書いたものを見せようとしないんだから、察しはするだろう」

「というか書くのが嫌だから、形だけでも取材取材言ってたんじゃなかったの?」

「むしろちゃんと小説を書こうとはしてたんすね。ちょっとビックリっす」

「ごめんね、実は私もイラストを描いて欲しいための口実なのかなってちょっと思ってた……あ、で、でも本当にちょっとだけだからねっ」

「ああああああああああああああああ!!」


 羞恥の表情で頭を抱えるニコ。


 頬を染めるのは自分では上手く隠していたと思っていたことが実は周囲にはバレバレだったという事実。これは恥ずかしい。


 というか、こいつ、本当にバレてないと思ってたのか?


 一人苦悩するロリ姫は、うっすらと目尻に涙すら浮かべて拗ねたように口を尖らせる。


「だ、だからもういいんですよう。結局、私にはせんぱいみたいな作品は書けなかったんです。それだけを目標としてきたのに自分には才能が無いと悟った時の絶望が分かりますか? せめてもう一度あの作品が読めれば何かが変わるかもしれないと、縋るような気持ちで見つけた原稿は、その作者自らが全否定して破り捨ててしまうし……」


 あはは……と乾いた笑いの末に大きく息を吐く。


「だから、なんかもう……疲れちゃったんですよう」


 そして、一旦、言葉を区切ると、「それに」と前置きしてから言葉を続けた。


「……私は、本当はもっと早くにこの世界から消えているはずだったんですよ」



 だからもういいんです―――とニコは笑う。



 その言葉を聴いた瞬間、由香子から聞いた話が頭を過った。


『――この現実に絶望し、自ら命を断とうと思うぐらいには――』


 ニコに対して感じていた違和感。それがようやく分かった気がした。


 呆れるくらいに諦めが悪いくせに、時にはこうして意外なほどあっさりと諦めたりもする。その基準がどこにあるのか、俺にはずっと分からなかった。


 思い返してみれば、ニコが諦めの悪さを見せていたのはいつだって小説を書くために何かをしようとしていた時だ。



 抱いた目標――俺の作品みたいな小説を書くこと。


 誰かを救ってあげられるような作品を作ること。


 ――それに関することであればコイツは諦めない。



 諦めてしまったら、一度絶望した現実に再び負けてしまうことになるから。そしてそれは大好きな俺の作品を否定することにも繋がるから。だから諦めない、いや諦めたくない。


 それなのにニコは自身のことになると、初めから全てを諦めてしまっている。


 ニコニコと笑う笑顔の裏で、『どうせ私なんて』と、どこか自分のことを安く見積もっている。自分自身に価値を見出せない。ニコがこれまでどんな人生を送ってきて、そう思うようになったのか。それは分からない。


 分かるのは、今のコイツが、諦めたくなかった分野でも先を見失い、自分みたいな人間に誰かを救うことなんて出来るはずもなかった、とそう結論づけてしまっていること。


 ……でもな、そうじゃないんだよ。今の俺だからこそ分かることもある。


 お前は根本から間違っている。絶対に無価値な人間なんかじゃないんだよ。


 ――何故なら。


「なんだよ、それ……」


「…………え?」


「だからこのまま消えようってのか!?」


 ニコは答えない。しかし、すっと伏せられた視線は肯定のそれだ。


「そうはさせるかよ! ふざけるなよ! ふざけんな! 絶対にそんなことさせねえぞ! たったそれだけのことで全てを諦めるつもりなのかよ!」


「……『それだけ』ですって? せんぱいに私の何が分かるっていうですか!」


「分かるわけねえだろ、バーカ!」


「なあっ!?」


「でもな! これだけは分かるぞ! お前は俺の小説を読んで救われたんだろ! それは言い換えれば俺の作品に価値を作ったってことだ! それなのに……また無価値なものにするつもりかよ!」


「……え?」


「お前のせいで俺は思っちまったんだよ! ライトノベルを避けてきた俺が! ラノベ嫌いの俺が! ライトノベルってのも案外悪くないかもって、ちょっぴり思っちまったんだ! 俺の作品がお前を救った? ああ、確かにそうかもな。でもそれだけじゃない――それだけじゃねえだろ! いいか? お前はな…………俺のことも救ったんだよ!」


「っ―――!」


 大きな瞳がさらに大きく見開かれ、黒曜のような輝きが格子の向こう側で微かに揺れた。


「わたしが……せんぱいを……?」


「そうだ! その責任は取ってもらうからな! 逃げようたってそうはいくか!」


「せんぱい……」


「待ってろ。すぐにこの世界から連れ出してやる。それで―――」


 俺は言う。にやりと口端を吊り上げて。きっとムカツクぐらいのいやらしい笑みで。



「――また、取材に行こうぜ」



 ニコの頬を、一筋の涙がつたった。



 しゃくりあげる少女を見つめながら、俺は吐き出した酸素を荒い呼吸で取り戻す。


 アイツに対して―――ニコに対して、言いたかったことは全て言ってやった。


 だから俺は魔王の方へ顔を向け、宣言する。


「と、いうわけでニコは連れて帰るぞ」


「……我がそれをさせると思うか?」


 そう答える魔王の姿は俺達がこの部屋に足を踏み入れた時から微塵も変わっていない。その顔に浮かんでいるのは、自らが人外の存在であることを主張するかのような感情の削げ落ちた無表情―――なのに。


 何故か今は、纏っている雰囲気が、その声が、この状況をどこか楽しんでいるように感じられた。


「岩岡とやら、この世界の創造主たるお前ならば……分かっているであろう?」


 玉座から腰を上げ、立てかけられていた錫杖をその手に取る。


「この世界における我の役割――それは、姫を助けに来た勇者どもを打ち倒し、そしてその勇者の死をもって、この世界そのものを無に帰すことだ」


「待てよ、俺はお前にも話したいことが―――」


「もはや問答は無用」


 その刹那、錫杖を握り締めた魔王からすさまじい程の威圧感が放たれる。


 物理的な力は無いはずなのに、ただ危険を感じた本能が身体をあとずらせる。現実世界ではそう味わうことは無いであろう、気圧されるという感覚。


 力の差は歴然。ニコの下へ近づくことすら容易ではないという現実に、「ふざけるなよチート野郎」と早くも弱音のひとつも吐きたくなってくる。


 しかし、人数はこっちの方が上なのだ。上手く分散して注意を引けば、チャンスも出てくるかもしれない。


 そんな俺の思惑を嘲笑うかのように。魔王ニコは空いている手を顔の高さまで持ち上げると――パチンと指先を鳴らした。


 次の瞬間、床一面に巨大な円形の魔法陣が出現し、



 ―――グオオオオオオオオオオオ!



 地の底から響いてくるような雄叫びに、城全体が振動を始める。


 息を飲む俺達の眼前に……最初に出現したのは、その太さだけで俺の身体の数倍はありそうな岩石の塊だった。


 金属のような不思議な光沢を放つ巨大な岩石の腕が魔法陣の中央から生え出している。

やがて腕がもう一本が現れ――顔――肩――上半身と、まるで地中からせり上がって来るかのように徐々にその姿を露わにしていく。


(――そうだ、思い出したぞ!)


 魔王との決戦直前、最後の障害として姿を現すガーディアン。


 他のモンスター達の姿が見えなかったせいで、魔王以外の敵は出てこないのだと勝手に思い込んでいた。なのに―――よりにもよってコイツが出てくるとは。


 ついに全容を現したのは天井に届きそうなほどの巨大な体躯。

 視界を覆わんとする巨体の頂上に、やたらとトゲトゲしたデザインのいかつい頭部がちょこんと乗っている。


 呆然とその威容を見上げる俺達。ゴーレムの顔に埋め込まれた紅玉のような双眸が血のように鮮烈な光を放つのを見て、ようやく俺は声を上げた。


「あれは……絶対無敵ゴーレムだ!」


『ぜ、絶対無敵ゴーレム!?』


 驚愕に彩られた声が見事に重なる。


「……絶対無敵……って、え? 笑うところ? ツッコむところ? それとも驚くところなのかしら? どう反応して良いか分からないんだけど」


「馬鹿! 笑うトコでも、ツッコむトコでもねえよ! アイツは本気でヤバイんだ。素直に驚いとけ!」


 俺の声に込められた緊迫感を感じ取ってくれたのか、三人は顔を見合わせると驚愕の色をその表情に浮かべた。



『――なんていうネーミングセンス!』


「驚くポイントがちげえ!」



 そんなやりとりをしている俺達の目の前で、魔王はふわりと身体を浮かせるとゴーレムの肩に静かに降り立った。ゆうに4メートル以上はある高さから俺達を見下しながら、不敵な笑みを口元に浮かべる。


「さあ、我が僕よ。奴らをこの世界から葬り去るのだ」 


 魔王が錫杖の先で俺達を指し示した瞬間、ゴーレムの瞳から放たれる光がその輝きを増した。

 

 どこか機械的な動きで、一歩を踏み出すゴーレム。それだけで地震と見紛うほどの振動が床を通して伝わってくる。考えるまでもなく一介の高校生などが太刀打ち出来る相手ではない。


 だが。それでも。


 ――こっちには作者がいるのだ―――と。


 由香子達三人が向けてくるどこか期待に満ちた視線。


 俺はその視線に応えるように力強く頷いてみせると―――力の限りに叫んだ!


「逃げろオオオオオオオオオ!」


 くるりと瞬時に反転し、俺達は一斉に走り出した。


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