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この世界はラノベなんかよりよっぽど面白いっ!  作者: 御堂寺祐司
■第二章 『こんな現実にお約束なんてない』
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扉の先は


 残り僅かとなった昼休み。教室へと戻る生徒達の波に逆らうように、廊下を足早に進む。


「ちょ、ちょっと状況が理解出来ないんだけど!」


 俺と早苗から少し遅れながら、困ったような表情でついてくるのは由香子だ。

 歩く速度を少し緩め、顔だけで振り返って告げる。


「大丈夫だ、安心しろ」


 力強く頷いてみせると、由香子は何故か若干頬を染め視線を逸らした。 


「そ、そうなの? でも、まあ、祐介がそこまで言うなら――」


「俺だってよく分かってないが、大丈夫だ!」


「ええ、私なんか言いだしっぺのくせにまるで状況を理解してませんが、大丈夫です!」


「安心できる要素がなにひとつなかった! その勢いだけで説得に来てる感なんなの!」


 背後から上がる抗議の声を意図的に無視し、廊下を進む。


 だって仕方ないだろ? 本当に俺達だって状況を理解しきれていないのだから。


 階段の踊り場で早苗から話を聞いたあと――俺達二人は由香子に会いにいった。ニコが部活動に来ているか確かめるためだ。しかし、結果は予想した通り。俺の部屋での一件以来、由香子もニコの姿を見ていないとのことだった。


「だいたい学校に来てないんだから、普通に考えれば自宅に居るんでしょ? まずは天津さんの家に連絡した方がいいんじゃないの?」


 至極当然とも言える疑問に俺と早苗は顔を見合わし、力無く答えた。


「駄目だったよ」


「駄目って……はあ? なによそれ?」


 当然、俺と早苗も同じことを考え、真っ先に確認を取ったのだ。


 ニコのクラスの担任に頼み込んで自宅の電話番号を教えて貰い、すぐに携帯からかけてみた。しかし電話に出た相手はニコの親ではなかった。電話越しの女性は自らをニコの遠い親戚だと名乗り、現在ニコを引き取って一緒に暮らしているのだと告げてきた。


 ニコの所在を尋ねると、どこか迷惑そうな声で「しばらく友達の家に泊まってくると聞いています」とだけ言って、一方的に電話は切られた。


 ニコがどんな生活を送ってきたのかは分からない。

 だけどこの人を頼っても無駄だということだけはすぐに分かった。登校拒否の女の子が友達の家に泊まってくる? それを真に受けている時点で、もうニコに対して興味が無いことがあからさまだったからだ。


 いつも馬鹿みたいに笑っていたニコ。アイツについて知らなかったことが次々に出てきて混乱する。


 俺は今までアイツのどこを見ていたのだろう。ニコニコと笑う能天気な笑顔だけなのか。


 超がつくほどのラノベ好きだから――、非常識な現象ばかり起こすから――、そんな理由を並べ、俺とは別の世界の人間なのだと勝手に考えていなかったか。


 だけど、あいつだって普通の女の子なのだ。


 他人から避けられれば傷つき、親しい相手から消えろと言われれば涙を流す、ごくごく普通の女の子。そんな当たり前のことに今更気が付くなんて。


 ――本当に、俺は変わっていない。


 思わず唇を強く噛む。


「で、今はどこに向かってるのよ? 探す当てなんてあるの?」


「当てはない。だからせめて人手が欲しいんだ」


 俺が今向かっているのは文芸部の部室。この時間、そこには蛍が居るはずだった。締め切りが近づいてきたので、昼休みも執筆時間に当てるとアイツは言っていた。


 蛍にも事情を説明し、ニコを探すのを手伝って貰う。


 急ぎ足で部室の前まで来ると、ちょうど扉が開いて中から蛍が出てくるところだった。


「あれ? 皆さんお揃いでどうしたっすか? もうすぐ授業始まるっすよ?」


 どこか気だるげに聞こえる声を遮り、早口で事情を説明する。


「……なるほど。分かったっす。もち協力するっすよ」


「わりい、授業の合間や放課後とか、空いている時間だけでも手を貸して貰えると助かる」


「いやいや、なに言ってるんすか。同じ部活の仲間が行方知れずなんだから探すのは当然っすよね。授業なんて適当に理由つけてサボタージュすればいいんすよ」


 どこかおどけたような口調でありながらも、本心からの言葉であることが伝わってきて。その頼もしさに思わず胸がじんわりとしてくる。


「でも、どこから探すの? 天津さんが居るのが校内か校外かも分からないんだし、さすがになにも手掛かりが無いと探しようがないわよ?」


「それはこれから―――」


 俺の答えを遮るように手を上げたのは早苗だった。


「あ、あの……部室の中には何か手掛かりとかないでしょうか?」


「え?」


「だってニコちゃんは岩岡先輩の教室とここにしか来てなかったんですよね? だったらもし手掛かりがあるとしたら……その、もうここ以外には……」


 言葉尻が自信無さげに萎んでいくものの、確かに早苗の言う通りでもある。

 アイツが手掛かりとなるものを残しているとは思えないが、仮にあるとすればここにしかない。

 念のため、探してみる価値はあるかもしれない。


「よし分かった。まずはアイツの席の辺りをくまなく探してみるか」


 そう言いながら閉じた扉に手をかけ、そして力任せに引き開けた。


 ガラッ――という聞き慣れた音とともに目の間に広がるのは、埃臭い部室の風景。



 ―――ではなかった。



『…………え?』


 四人の声が見事に重なる。

 目の前にあるもの。限界まで開いた引き戸の先にあったもの。それは。



 地平の彼方まで広がっている緑の草原だった。



「な……なによ、これ?」


「どうなってるんすか? さっきまでは普通の部屋だったのに……」


 由香子と蛍が震える声で呟きながら、目元を何度もごしごしと擦る。


 薄い木製扉の先。屋内であるはずのそこに広がっているのは、どう見ても屋外の風景で。澄んだ青空の下、風にそよぐ草花が遠く遥か先まで続いている。


 こんな牧歌的な風景は、この学校付近の土地には存在しない。いや、ひょっとしたら日本のどこにも存在はしないかもしれない。


 確かめるまでもない、これはここにあるはずのない景色だ。


「……岩岡先輩、これって……」


 俺の隣に立つ早苗が、目の前の光景を見つめながら小声で呟く。

 俺はその意図を正確に汲み取り、無言のまま頷いた。


 こんなことが出来るのは。こんな非常識な現象を起こせるのは。アイツしかいない。


 ――むしろ、アイツ以外にいてたまるかよ!


 俺は確信を持って言う。


「アイツは……ニコは、ここにいる」



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