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この世界はラノベなんかよりよっぽど面白いっ!  作者: 御堂寺祐司
■第二章 『こんな現実にお約束なんてない』
15/29

自室にヒロインが来ました


 部活動の時間はとうに過ぎ去り―――


 まっすぐに帰宅した俺は、斜陽の差し込む自室でぼんやりと窓越しの風景を見ている。


 一区切りついた一日を振り返り、明日の予定へと思いを馳せる。そんな穏やかなひととき。

 また明日から頑張ろう、と心から思えるような安らぎの時間…………


 それがなんで――


「わーい! エロ本はどっこかなあ!」

「こら、他人の部屋に来たんだから大人しくしなさ……ムフフフ///」



 ――なんでこんなことになっているんだろうなあ。


 片や初めて来た異性の部屋でエロ本を探し始めるロリっ子、片やそのロリっ子に説教をしながら異性のベッドに頬ずりを始める幼馴染。


 想像していた以上のカオスな状況に、もはや溜息すら零れてくれない。


「ここかな? こっちかな? そっれっとっも―――♪」

「ゴルアア! お前は家主の前で、なにを堂々と物色してんだよ!」


 瞳を輝かせながら部屋のあちこちをひっくり返そうとする姿にたまらず声をあげるも、ニコの奴は何故か瞳を吊り上げて睨み返してくる。


「仕方ないじゃないですか! これも取材の一環なんですよ!」


「はあ? 取材?」


「そうです! 主人公の家にお呼ばれしたヒロインが、ひょんなことからエロ本を見つけてしまい、顔を真っ赤にして怒る……ラブコメならいかにもありそうなシチュエーションじゃないですか?」


「……まあ、確かにありそうではあるが」


「でしょう! だから私は体験取材のため、その場面を再現しようとしているのです!」


「いやエロ本を見て怒るヒロインは喜々としてエロ本を探したりはしないだろ! お前の再現はいつもどこかずれてるんだよ!」


「まったくだわ! 貴方ときたら失礼にもほどが……くんかくんか」


「お前も注意するなら最後まで注意しろ!? そして人の枕の匂いを嗅ぐな!」


「イヤッフー! エロ本見つけました! うひょお!」


「そんなヒロインいるかあああああああああぁぁぁ!」


 ロリっ子が掲げる秘蔵の一冊を奪い返し、ベッドの下へと投げ戻す。


「お前らアアアアア! いいかげんにしないとさすがの俺もマジで怒るゾオオオオオ!」

『いやもう怒ってるじゃ――』


 ギロリ。


『ごめんなさい』


 視線で人が殺せたら――そんな願望を乗せた眼差しに仲良く正座して頭を下げる二人。


「……でもね、祐介。これだけは言わせて欲しいの」

「んだよ。急に改まって?」


 ベッドの下をチラチラと伺いながら由香子。


「さすがにさっきの『緊縛上手の縄姫さん』というタイトルの本はどうかと思うの」

「ええ、実は見つけた私も多少引いてました」

「あああああああああああああああああああ――!」


 頭を抱え、涙目で訴える。


「人の部屋に来てまで、性的趣向をあからさまにしようとするのやめてくれませんかねえ! なんなのこの辱め! もう帰れ! ほんとお前らもう帰れよ!」


 わりと本気で懇願しているのにもかかわらずニコは無情にも首を振る。


「そうはいきません」


「なんでだよ!?」


「まだ私の目的は達せられていないのです」


 くそう、そうだった。そもそもこいつは何かしらの目的があってここに来たのだ。


 でもいったい何のために? 必死に懇願してくるニコに押し切られる形で連れてきてしまったが、その理由までは教えて貰っていない。


 それに、いざ来てみればずっとこんな調子だ。なんとなく不安になって聞いてみる。


「まさか、こんな馬鹿な取材をするためだけにここに来た訳じゃないよな?」


「まあ、そうなんですけど」


「そうなのかよ」


 力無く項垂れてしまう。


 ……まあ、きっとそんなことだろうな、とは思っていたさ。コイツの「お願い」なんて、ほぼ100%ラノベの取材が目的に決まっている。


 ただ、今回はいつになく真剣な表情で、顔を赤らめながら言うもんだから、ちょっとだけ勘違いしそうになっただけだ。

 ……いや本当に、ちょっとだけな!


「なあんだ。そういうことだったの。……わたしてっきり、天津さんが祐介の部屋でイチャイチャとしようとしているかと……」


「あのなあ、そんなことあるわけねえだろ――」


「いや、そのつもりですけど」


『そうなのかよ!』


 驚きのあまり声を揃えて叫んでしまう俺と由香子。


「え? え? だって貴方、たった今ラノベの取材のためって言わなかった!?」


 混乱したように声を荒げる由香子に、ニコはヤレヤレと肩を竦める。


「いいですか? 気になる異性の部屋に来てドキワクイチャイチャの展開はラブコメでは鉄板ともいえるシチュエーション。この体験取材を行わずしてラブコメの傑作など書けはしないのです。……というわけなんでイチャっていいですよね?」


「いいわけないでしょ! そんな羨まし……じゃなかった、いかがわしい体験、小学生には早すぎるわよ!」


「わたしは高校生です!」


 ぷくっと頬を膨らませ、まるで説得力の無い姿で抗議の声を上げるニコ。


「だいたい……なんで由香子先輩が怒るんですか?」


「へ?」


「私とせんぱいがイチャイチャすると、由香子先輩が何か困ることでもあるんですか?」


 ニコの至極当然な疑問に由香子が「へ? え?」とひどく困惑したような表情を浮かべる。

 実を言えばそれは俺も気になっていた。由香子がこの部屋についてきたこともそうだが、俺とニコのやりとりに対してなぜこれほど過剰に反応するのか。


「いや、その。だから……」


 俺とニコが怪訝そうに見つめる中、由香子は瞳を忙しなく動かし、顔を真っ赤にしながらもにょもにょと口ごもる。やがて、覚悟を決めたように発したのは、


「私はね! 学生の立場でそんな不純異性交遊なんてまだ早いと言っているのよ!」


『なんかひと昔前のクラス委員長みたいなことを言い出した!』


「学生の本文は学業! この私設風紀委員会会長、柊由香子の許可なくふしだらな行為を行うことは禁じます!」


「許可が必要ならば……はいどうぞ。許可願いを提出します」


「はい確かに受理しました! この私設風紀委員会会長が許可しますね! ではこの案内に従って規則正しくイチャコラするように―――ってさせるかああああああああああ!」


「ノリツッコミ!? ほんとどうした由香子!」


 明らかに平常心を失っている幼馴染を落ち着かせるために、先ほど妹が差し入れてくれた麦茶の入ったグラスを手渡す。それをコクリコクリと飲みながら、


「あ、ありがとう祐介。ごめんなさい、私としたことが取り乱しちゃって……喉が渇いたから、もう一口貰うわね」


「あれ? そのグラスせんぱいが口つけたやつじゃ――」


「ぶはあっ!」


 口に含んだ麦茶を、キラキラとギャグ漫画みたいに吐き出した。

 というか、そんなに俺のグラスだと嫌だったのかよ、ちょっとだけショックだぞ。


「はえ? にゃななな? にゃんで? ほんとに? わたし、祐介と間接キスを―――」


「あ、違いました。私のですそれ」


「殺すうううううううううううううううううううううう!」


 突如として襲いかかる由香子と、逃げ惑うニコ。 


 なんてことだろう、まさか相手のグラスに口をつけただけで殺意を抱いてしまう程に二人の仲が悪かったとは。意外と良いコンビかも、なんて思い始めていた認識の甘さを痛感させられる。


「待ちなさい!」


「待ったら絶対ほっぺたをつねりますよね!?」


「大丈夫! 痛くはしないわ!」


「そ、そうですか? それなら――」


「きっと、痛い方がまだマシだったとは思うだろうけど!」


「私、なにをされちゃうんです!?」


 そんなことを叫びながらドタドタと走りまわるもんだから、テーブルの上のグラスは倒れ、麦茶は零れ、部屋の隅に積んであった雑誌なども盛大に散らばってしまっている。


 コイツらにヨソサマの家に居るという認識は無いのか。


 安らぎの空間、穏やかなひととき、それら全てが今は昔。

 現状、目の前に広がるのは混沌カオスのような惨状で。

 ……さすがに俺の我慢も限界で。


「お前ら……いいかげんにしろおおおおおおおぉぉぉ!!」


 ほんと、俺なにか悪いことしたっけ?

 涙混じりの怒声までもが加わった騒音の如き三重奏は、それから暫く続いたのだった。


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