これからもよろしく
その後、どうにか無事に逃げ切った俺達は、改めて早苗へニコの力のことを説明した。
当然すぐには信じられない様子ではあったが、実際に自身が男性へと変えられている以上、認めざるを得ないようで。おめめぐるぐるにしながらいつも以上の挙動不審さで頭を抱える姿は、いっそ気の毒に思えるほどだった。
まあ、とにかく、これで俺もニコの力に関する理解者を一人得たわけだ。
そして次の日――
ちゃんと元の姿に戻ることが出来た早苗が、完成させたイラストを持ってきた。
「こりゃすげえ!」「可愛いじゃない!」「さすがっす!」
ペン入れも済み、色も完璧に塗られたヒロインキャラのイラスト。しかも三枚。ラフ画でも十分魅力的だったキャラクターが、本当に生命でも吹き込まれたかのように紙の上で柔らかく微笑んでいる。
「おおおおおおおおおおおおお……まさに、まさに理想のヒロイン達ですううう!」
感動に打ち震えているニコを見て、早苗も嬉しそうにはにかむ。
「えへへ、喜んでもらえて良かった」
「いやあ本当に見事なもんだな。特にこのショートカットの子なんて――」
「あ、栗林ちゃんですね? それは私も良く描けたと思っているんです。自信作ですっ」
「栗林? なんだ名前まで付けてあるのか?」
「え? ……あ、その、ごめんなさい! 勝手に名前つけてしまって。で、でもこれは私が勝手に呼んでるだけだから、小説にする時には別の名前にしてもらって全然良くて――」
「別にいいんじゃないか? なあニコ?」
「はいっ。せっかくだから全部教えてください。名前つけの参考になるかもしれませんし」
俺とニコがそう言うと、早苗は「じゃ、じゃあ」と恥ずかしそうに笑う。
「このキャラの名前が、栗林――」
『うんうん』
「――権三で」
『……ん?』
「真ん中が佐伯 風太郎で、一番端のがダニエルです」
『んんんんんんん?』
権三? 風太郎? ダニエル?
「え? これ……男?」
どこから見ても可憐な女子高生キャラにしか見えない。胸だって膨らんでいるし、ポーズや着ている服装だって女性以外のなにものでもない。
しかし早苗はその大きな胸を逸らして力強く頷いた。
「はい。そうです!」
『え? そうなの!?』
呆然としている俺達を見て、早苗が慌てたように言葉を付け足す。
「あ、いや、その……私の中だけの裏設定ですけど」
「裏設定?」
「はい。この子たちは一見して美少女に見えますけど、本当はダンディなおじ様が転生した姿なんです。そういう設定なんです!」
さらに首を傾げる由香子と蛍。だがその横で俺だけは小さく頷いていた。
――ああ。なるほどな。そういうことか。
昨日のニコと早苗のやりとりの意味。早苗がどうして女の子の絵を描けるようになったのか。
要は、思い込みなのだ。
この女の子は実際にはおっさん。ただとある理由により外見が美少女になっているだけ。つまり早苗本人としてはおっさんを描いていることに変わりがないわけだ。
自分を納得させるだけの設定を裏付けすることで、悪癖を克服した。
少々強引過ぎる気もするが、そもそも無意識におっさん化してしまう時点で理屈としてはおかしかったのだ。結局、肝心なのは早苗自身の心の持ちようだった、というわけか。
外見と中身が違っても良い。自由。ああ、まさにその通りだ。
「え? 設定? どういうこと?」
しかし、そんな事情を知るはずもない由香子と蛍は首を捻るばかり。
俺だって首を捻りたい。だってこれから早苗が描くイラストには「実はおっさん」という裏設定が付きまとうわけだろ。それはそれで結構な問題なのではないだろうか。
だがまあ。
それでもさ。
「ふふふ」
と嬉し気に笑う早苗の表情からは先日のような悲痛さは消えていて。イラストを描くのをやめようとまで思いつめていた姿は、もうそこにはない。
それだけはまあ、良かったのかもな。
「もっと! もっとイラスト描いてください! 早苗ちゃん!」
「うん。これからもよろしく……ニコちゃん!」
ありがとうございました。
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