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壷の魔神  作者: 坂月つかさ
エピローグ
46/47

第一話 壷の魔神の娘達 前編

『うわぁー、綺麗!』

天蓋から眺める天の川は、明るく光り輝いていた。

星が見えるのに明るい。いや、星が見えすぎて明るいのだ。

天の川とは、銀河系の端から眺める天の川銀河の姿である。

子供の頃、両親と一緒に上越市の星降る里に行き、生まれて初めて天の川を見た時も感動した物だった。

けれど目の前の天の川の景観は、その何倍もの感動を美耶に与えていて、それは今の彼女が銀河系中心部に程近いハビタブルゾーンと呼ばれる星域から、天の川銀河を眺めていたからだった。


「あれって何だろう?」

美耶は、宇宙ステーションから臨む母惑星の向こう側に、白く輝く大きな天体があるのを見つけていた。

何だか遠近感がおかしい。

母惑星の衛星にしては影の付き方が変だし、同じ恒星を回る惑星にしてはサイズが大き過ぎる気がした。

それに、変にのっぺりしていて、表面に何の模様も無いのもおかしな気がする。

「あれが世界ワールドよ。あそこが、これからあたし達が向かう目的地なの」

美耶の隣に並んで、同じ景色を見ていた穂積美帆がそう言った。

「パースがおかしく感じるのは、太陽系がすっぽり収まるほどの巨大な構造物だから。あれは、ダイソン球って呼ばれるタイプのスペースコロニーなの」

「ふーん」

感動が薄かったのは、本来文系志望の美耶には、その意味する所がピンと来なかったからだ。

何しろ、ただの普通の女子高校生が宇宙にいるのである。他に驚く事が多すぎて、大抵の感覚が麻痺していた。

「あ、写メ撮っても良いかな?」

美帆が頷くのを見て、美耶がスマホを天蓋の星空に向ける。

「そんなんで露光が合うの?」

「大丈夫よ。最近のは、夜景だって綺麗に写るんだから」

美帆はSFの人物のくせに、最近の科学技術には疎いのだ。

美耶が星空の写真をラインに添付すると、早速、従姉妹で幼なじみの日枝涼子から返信が来る。

― あんた、いったい何処に居るのよ? ―

一分も掛からず届いた返信に、宇宙も便利になった物だと感心する。

何しろ此処は、地球から二万五千光年も離れているのだから。

ラインに返信しようとしていると、もう一人の同行者である穂積ヒロが、美耶達の居る宇宙ステーションの展望台に現れていた。

「美耶ちゃん、姉さん。そろそろゲートが開くから、ラウンジに戻ってくれる?」

美耶は、良いところに現れたとばかりに、ヒロにスマホを押しつけた。自分の姿を写メに撮って貰う。

「あたしはいいってば、」

嫌がる美帆を隣に並ばせ、ダブルピースでもう一枚。

満天の星空を背景に、美女が並ぶ素晴らしい写真が撮れていた。

早速それをラインに添付して、コメントを入れる。

― あたしたち、今宇宙に居るの ―


   ◇   ◇   ◇


鈴木美耶は、神奈川県藤沢市に住む女子高生だった。

父の鈴木一郎は、自宅に事務所を構えて建築設計の仕事をする建築士で、母の美咲は、週に二度、自宅に近所の子供達を集めて書道を教える以外は、専業主婦をしていた。

そんな、ごく普通の家庭に育った、ごく普通の女子高生である所の美耶が、どうして宇宙くんだり迄来ているかというと、それは、穂積美帆が全てに置いて普通で無い事が原因だった。

クラスメイトの彼女は長命種めとせらであり、銀河文明に通じていて、おまけに美耶とは姉妹の間柄だった。それも、義姉妹などでは無く、父も母も一緒の、本当の本物の姉妹だったのだ。


千年以上の昔に母に救われた父は、その母と結ばれて美帆という子を儲けたらしい。

その後も順調に子宝に恵まれた結果、美耶は両親の一番若い子として生まれていたのだ。

十六歳の裳着の儀式と共に秘密を打ち明けられた美耶は、その後も美帆に引き回され、一族の歴史について教育を受けいた。つまり、今回の宇宙旅行もその一環だったのだ。


   ◇   ◇   ◇


「何だか聞いていたのと違わない?」

美帆に連れられて訪れた、パンジャーブと言う星は、うらぶれた感じのする惑星だった。

何処を見渡しても人、又人で、人が多く、活気が感じられるのは良いのだが、問題は辺りの景観だった。

石造りのギリシャ神殿のような建物は壮麗なのに、その中にはバラックなプレハブ造りの建物が詰め込まれていて、通りには沢山の屋台が並んでいる。違和感と言うか、バッタ物の観光地に迷い込んだ様な、これじゃ無い感でいっぱいなのだ。

最近デフォルトした欧州の某国が、アジアで波風を立てまくる某国に買い占められると、こんな感じになるのかも知れない。そう思うと、何だか暗澹として来る。

美帆がしきりに、こんな筈は無いのにと、呟くのが聞こえていた。

雰囲気が未来都市と言うよりは、東南アジアっぽいのである。

雑然とした雰囲気は嫌いではないが、沢山の物売りに付き纏われるのは閉口した。


『美帆!』

いきなり後ろから声を掛けられ、呼び止められる。

美耶が振り向くと、年若い女性が穂積美帆に抱き付いていた。

『ミリンダ!』

親しい間柄らしく、二人とも目に涙を浮かべての再会だった。

「本当に久し振りね。何で、もっと早く来てくれなかったのよ?」

「ごめんなさい。こっちも色々あって、準備が整わなかったの」

二人を中心に人垣が割れ、ちょっとした広場が出来上がる。

ミリンダと呼ばれる女性に向けられた人々の眼には明らかな畏敬の念があって、美耶は、きっと高貴な人なのだろうと見当を付けていた。


「それよりもこの街の姿、一体どうしちゃったのよ? 文明が退化しちゃってるじゃない」

けれど美帆の言葉に、ミリンダと呼ばれた女性は首を振った。

「街の姿を評価するのは少し待って。もう暫くしたら、私が千年掛けて作ってきた物を見せて上げられるから。それよりも、彼女がそうなの?」

女性の言葉に美帆が頷いて、そして自己紹介の段取りとなった。

「美耶、彼女はメナンドロス・アレクサンドロス。この星の王様よ」

星の王様と聞いて、さすがに美耶が緊張する。

「鈴木美耶です。一応、美帆の妹です。どうか宜しくお願いします」

「一応って何よ。あたし達は両親が同じなんだから、立派な姉妹よ」

美帆が訂正する。美耶としては、自分よりも幼く見える美帆に年下呼ばわりされるのが嫌だったのだが、それでも渋々頷いた。

「橘媛の名を継いだのですって?」

何故か星の王はその事を知っていて、美耶を困惑させた。彼女は十六歳の裳着の儀式の折り、美帆からその名を貰っていたのだ。

「あ、はい」

そして王は、美耶がそれを肯定すると、途端に表情が軟らかくなった。

そして、自分のことをミリンダと呼ぶようにと美耶に言っていた。


周囲の人口密度が高くなっている様だった。

初めは王様が居る所為だと思ったのだが、どうやらそれだけでは無いらしい。

群衆の隙間を縫うようにして、子供達が集まりだしていた。

一人、又一人と増えて行って、美耶達を取り囲むようにして広がっていたスペースは、少しの間に沢山の子供達で埋められていた。

「さぁ、今日も集まったわね」

ミリンダが笑っている。

「公主様、今日は何を教えてくださるの?」

子供達が口々に訊ねて来て、ミリンダがそれに応える。

けれど、それは美耶にとって思い掛けない答えだった。


「今日は、ワールドの為に尽くしてくれた、橘媛についておさらいしましょう」


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