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壷の魔神  作者: 坂月つかさ
第八章
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第三話 終結 後編

「彼は偉大な指導者だった。彼はこの世界に置ける特別な人物なのだ。それを悪く言われる事には、正直腹立ちを覚える」


「すみません。あたしも父の事は大好きで、尊敬もしているんです。ただ、皆さんの崇拝とも思える尊敬の仕方には少し違和感があって・・・」

謝る橘媛に、ハインドは首を振って言った。

「すまない、こちらこそ八つ当たりだった。君の言う通りだ。あの時の私は、ファウストの遣り過ぎを憂いていた。誰かが彼を止めなければならないと考えたのだ」

「ですから、仕方が無かったのだと思います」

橘媛は言った。

「あなたは敵と結託して、父は追放され、そして、この世界は平和を手に入れました」

『堕落と停滞だ!』

ハインドが怒鳴って、姫は首を振った。

「それは結果論です。あたくしは、あなたがこの世界で行った経済施策を支持致します。あなたは人に出来得る最良の事を、この世界に施しました」

『ならば君は、私が悪く無かったとでも言うつもりかね!』

それはまるで、自分を罰して欲しいとでも言っているようだった。

「はい。あなたは何も悪くはありません」

そして、姫が当たり前のようにそう言うのを聞いて、ハインドは呆然とした。


「莫迦かね君は。私は君の父親を壷に詰めて、島流しにしたのだぞ?」

「おかげさまで、あたくしと弟は、この世に生を授かることが出来ました」

それを聞いて、ハインドは床に座り込んでしまっていた。


   ◇   ◇   ◇


量子もつれの放出が終わって、橘媛がベッドから身体を起こしていた。

弟がそれを支える。

そして床に降りて、放心するハインドの前に跪いた。

「さぞやお辛かった事でしょう。あなたの目的は、世界の人々の恨みを一身に受けて自らを犠牲とし、そして、父にバトンを渡す事だったのですね」

『違う! 私は!』

姫は首を振った。

「すみません。いくらあたくしでも、あなたを救う事は出来ません。それをしたら、あなたの二十万年が全くの無駄になってしまいます」

姫が弟に目配せをする。

緋色が頷いて、ハインドの後ろに回り込んだ。

「ハインドの名には、このままこの世界の礎となって頂きましょう。けれど、あなたをこのまま死なせることは致しません」

緋色が後ろからハインドのフードを降ろすと、そこには醜く変形した容貌が現れていた。


『待て! これに、触れてはいけない!』

姫が変形した顔に触ろうとするのを、ハインドが拒む。

「父より、敵は精神に寄生するのだと聞いております。抵抗する事は酷く消耗するのだとも。けれど、司書の話では封じ込める研究も進んでいるとか」

『あくまでも可能性の段階なのだ。幾つもの都合の良い条件を満たしたらの話で、一度人の心に寄生した物を分離するなど、可能性は無きに等しい!』

けれど、橘媛は笑っていた。

「ご存じ無いかも知れませんが、あたくし、可能性の話だけは、少しうるさいのですよ」

そして司書を呼び出して、精神寄生体を拘束する為のプログラムシェルの準備をさせていた。


   ◇   ◇   ◇


事が終わって部屋を出ると、そこにはメナンドロスが待っていた。

ハインドの部下達の目的は、ハインドと姉弟を誰にも邪魔されずに話し合いをさせる事で、だから怪我をした者は誰もいなかった。

「ハインドは?」

訊ねる公主に姫が首を振る。

「彼は自害して消えてしまいました」

沈痛な面もちでそう答える。

そうやってハインドは、ワールドに置ける汚名を一身に背負い、世界の礎となったのだ。


けれど、その部屋からは、姉弟に続き五歳位の男の子が現れていた。

「・・・その子は?」

聞かずとも、それが誰なのかはその場にいた全員が分かっていた。

そして姫が答える。


「穂積次郎です。あたくしの新たな弟です」


   ◇   ◇   ◇


名実共にワールドを手に入れた橘媛が望む事は一つだけだった。

ワールドの議決権を広く民衆に分け与える。

けれど、これにメナンドロスは反対した。


「こうした権利は、ただ与えるだけでは駄目なのよ。政治に参加する意味を教え、その権利を、自ら望んで勝ち取るようにし向けなくてはいけないの」

メナンドロスは、そう橘媛に教えていた。

「議決権を民衆に与え、広く意見を集める事は尊い事だわ。けれど、自覚の無い民衆の意見を、ただ集めても意味は無い。意見を集合させて、より良い意見とする為には、まず教育が必要なの。そうしないと、衆愚政治に陥ってしまうのよ」

そうした上で、メナンドロスは民衆への教育を、自分達に任せて貰えないかと姫に提案した。

一朝一夕に出来る事では無い。

民主政治を正しく花開かせる事は、簡単そうでいて、実は相当に困難な道のりなのだ。

だからこそそれを、自分達にこそ任せて欲しいと、メナンドロスは姫に願ったのだ。


「この世界をきっと、弟橘媛の命に釣り合う世界へと変えて見せましょう」

ブランディッシュの皇帝がそう約束して、彼らにこの世界を託す事が決まっていた。

橘媛は、自らの世界へに帰る事となったのだ。


姉弟がこの世界に来て半年が過ぎ、ゲートが再び開いていた。


橘媛はこの世界に身を埋める覚悟だったが、メナンドロスは笑って言った。

「だって、あなた未成年じゃない。良いから今は帰りなさい。この世界はあなたを必要としている。けれど今は、あなたは、あなた自身を教育していらっしゃい」

それは、メナンドロスの優しい心遣いだった。


そして今、姉弟に帰還の時が訪れていた。


ようやく終結しました。

そして、エンディングです。

もう少々、お付き合いをお願いします。

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