表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
壷の魔神  作者: 坂月つかさ
第七章
40/47

第六話 決断 中編

廊下を突き当たり迄走っても、女中の姿は見当たらない。

けれど、失せ物探しは姫が得意とする所だった。

スカートのポケットに手を入れるとメダルに触る。

それは、緋色から預かったメンテナンスベッドとかの鍵だったが、この際何でも良い。

「彼の者を探し出せ!」

そう言って放ると、メダルが地面で倒れずに自ら意志を持ったように転がり始め、姫がそれを追い掛け始める。

いつぞやの矢の時と同じで、姫が望めば、それは必ず女中の元まで転がり続けるのだ。

女中は余程急いでいたと見え、メダルはかなりの早さで転がって行った。

直ぐに息が上がる。故郷の大和の国では毎日のように駆け回っていたのに、こちらに来てからはデスクワークの毎日だった。

それに、プラント衛星で、飯盒のご飯を食べてから一日近くが経っていて、お腹が空いて力が出なかったのだ。

案の定、足がもつれて頭から転んだ。

直ぐに起きあがったものの、メダルは廊下の一つ先の角を曲がって、見えなくなってしまっていた。

そのままぺたんとお尻から座り込んで、呆然とする。

莫迦みたいだった。

ゲートが開くのは二週間先で、彼の者は二万五千光年の彼方に居るのだ。

それに、彼の者が居れば全てを解決してくれる等と、何処かで期待してしまっている自分が、余りに情けなくて涙が流れて仕方なかった。


父の名代と気負っていた筈なのに、誰かの為にと頑張っていた筈なのに、結果は無惨な失敗だった。

この世界の一人として頑張っていた筈なのに、お前は稀人だから帰れと言われてしまっていた。

メナンドロスにも、この星の皇帝にも迷惑を掛けるだけの結末となって、戦争の引き金を引いてしまったのだ。

自分のために誰かの命が失われてしまう。

その現実が余りに重すぎて、姫は一歩も動けなくなってしまっていた。

それまで姫を支えていた、最後の糸が切れてしまっていたのだ。

「ふえぇ・・・」

涙がぽろぽろとこぼれた。

「うぇーん!」

廊下の真ん中に座り込んで、赤子のように泣き叫んでいた。

廊下を行く者が呆然として姫を見ていたが、無き止む事が出来なかった。

もう、どこかに消えてしまいたかった。

もう、どうなっても構わないと思えた。


そうやって、どの位の間泣いていただろう。

転んですりむいた鼻が痛くて、いくら泣いても悲しくて。

それでも姫は、目の前に二つの革靴が並んでいるのに気が付いていた。

ぴかぴかに磨き上げられていて、持ち主のしっかりした性格まで伝わってくるその靴は、ローファーと呼ばれるタイプの革靴だった。


えっ?

不意に、目の前にメダルが差し出されていた。

「こうした事に、能力ちからを使ってはいけないと、何度もご注意さしあげたでは無いですか」

えっ?

見上げると、そこには見知った顔があった。

「それに、こんな所に座り込んで、御泣きに成るなどと卑怯過ぎます。お助けしない訳にはいかないではないですか」

えっ?

びっくりして、いつの間にか止まっていた涙がまた流れ出していた。

「・・・菜々香?」

見間違える筈が無かった。

彼女は、姫が産まれた時から側にいる、母親よりも母親らしい存在なのだ。

飛び上がって抱きつく。

「菜々香。菜々香、菜々香、菜々香、菜々香、菜々香、菜々香!」

百辺名前を呼んでも呼び足りなかった。

彼女のいない半年を経験して、自分にとってこの側女がとれだけ大切な存在であったかを思い知らされていた。

「もう、逃げも隠れも致しませんから、先ずはお部屋に戻りましょう」

そう言って、元居た部屋に連れていかれていた。


   ◇   ◇   ◇


側女の話によると、菜々香は一月程前には既にワールドに着いていて、姉弟の事を陰から見守っていたらしい。

側女は姉弟の父より、見守るだけで手を出すなと命じられていたのだった。


「何よそれ!」

「お館様は、今回の旅が、お二人にとって自立を促すチャンスになると考えておられました」

「だって、菜々香が手伝ってくれたら、あんな失敗をしなくても済んだのに!」

「いいえ、それは違います」

橘媛が憤る。けれど、側女は首を振って言った。

「姫様はこの世界に対して最良の事をなさいました。私などの到底及ぶ所ではございません」

「嘘よ!」

「いいえ、嘘ではございません。経済政策に関しては口出し出来る所もございますが、姫様は人々の心を鼓舞する事をなさいました。その結果、この世界の人々は、自立に向けて歩を踏み出したのです。この様な御技は、人に真似出来る物ではございません」

「だって、戦争が!」

側女は首を振った。

「姫様は、弟橘媛の命の名を賜る程の、大きな力を持つお方でございます。けれど、それでも神様では無いのです。そこまで望むのは欲が深いと言うものでしょう」

「だって!」


側女は優しく微笑んだ。

「姫様は充分にその役割を果たしました。ですから私と一緒に大和の国へ帰りましょう」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ