第三話 謀略 後編
乱入してきた兵士達は、銀河連邦軍を名乗った。
一番最後に入って来た二人の高級将校が指揮官で、メナンドロスと橘媛姉弟を反逆罪で拘束すると言う。
ヴェロスがスタジオ中の撮影機器をオートモードにして、音声と画像をネットワークに流し始めると、瞬く間に膨大な数の二次使用申請が舞い込んで来る。
すぐさま著作権フリーを選択して、ヴェロスはこれに応えた。
つまりここで生じている出来事が、リアルタイムで世界中に配信され始めたのだ。
「罪状認否も無く、いきなり身柄拘束ってどう言う事よ!」
公主がいきり立つ。
「反逆罪に、議員の不逮捕特権は適用されません。仰りたい事が有れば、総督府にて伺いましょう」
「待ってくれ。彼女は仮にもこの星の公主なんだ。それを拘束するので有れば、罪状ぐらいは明らかにすべきじゃないのか?」
将校と公主の間に割って入る。
それはヴェロスにとって、それは賭のような物だった。
連邦軍は、連邦に加入する全ての星域においての警察権限を持っている。たが、それでもこの星域に置いては、メナンドロスの権限が優先される筈だった。
軍に楯突くことは命の危険があったが、幾らかでも時間稼ぎができれば、この星の軍が動き出すだろうと踏んでいたのだ。
果たして、若い将校が腰の銃に手を掛けたが、年輩の方がそれを遮って言った。
「君は?」
「このスタジオの責任者です。公主には、今撮影しているオペラの演出監督を務めて戴いております。こちらの若い女性はそのスポンサーでして、連れて行かれると困ってしまうのです」
年輩の将校はこの場に置ける最上級指揮官で、比較的常識を弁えているようだった。
指揮官はヴェロスに理解を示しながらも、メナンドロスが、魔神の子を独占しようとしていると事を告発したのだ。
『魔神って、あの始まりの男の事ですか!?』
カメラ映りを計算しながら大げさに驚く。
ヴェロスは自らの余りの幸運に、目眩がしそうだった。
許されるなら、この指揮官に抱きついて感謝のキスをしたい位だ。
何故ならそれは橘媛の身分の裏付けを、ワールドの権威である軍が証明してくれたも同然だったからだ。
橘媛の素性については、ネット上で様々な謂われが噂されていた。
公式には、地球と言う辺境の星の特命全権大使の身分であったのだが、彼の言葉によって、今ワールドに、魔神の娘が誕生したのだ。
それだけでは無い。
今撮っているムービーは、橘媛の家族物語だった。それは、今ネットで話題の娘の物語くらいにしか過ぎなかったのが、彼の証言によって、それが銀河魔神の物語に格上げされたのだった。
しかもそれは連邦軍の魔神関連の著作権に、一切抵触する事無く実現していた。
ネット上ではどんな事に成っているだろう? ヴェロスはそんな事を考えながら、橘媛を拘束するよう命じる若い将校を遮った。
「待って下さい。だって橘媛は、特命全権大使なのですよ? 不逮捕特権は、連邦の議員である公主よりも上の筈だ」
「文明レベルの低い辺境の星に、我々が何の遠慮をする必要がある!」
年若い将校を腹の中で笑いながら、ヴェロスはネットワークに新たな燃料を投下してやった。
「橘媛が魔神の子である事が事実なら、あなた方は魔神の星と戦争をしようとしている事になる」
若い将校は、それがどうしたと言う顔をしていたが、年輩の指揮官は流石に青くなった。
何故なら、彼が消えて二十万年経った今でも、連邦軍の最高指揮官は名義上ファウストのままだったからだ。
魔神に戦いを挑む事は、彼らがクーデターを行うのと同意なのだ。
「彼らの指揮系統には、不明瞭な部分があります。公主拘束の命令は、少なくとも総督府から出た物ではありません」
姫の肩に、ライブラリの司書が現れてそう報告する。
「成る程、そう言う事ね」
それを聞いて、メナンドロスが頷いた。
「あなた達を遣わせたのはラジャスタン? それともパリヤーナ?」
それはどちらも、メナンドロスの治めるパンジャーブの隣国の名前だった。
つまり彼らは、連邦軍の制服を着た隣国の軍隊だったのだ。
「要するに、あなた方には、大儀は無いと言う事なのですね」
橘媛がそう言って頷くと、彼女の弟が姉を守るようにして前に出た。
◇ ◇ ◇
『強制執行だ。彼らを全員捕縛しろ。怪我をさせても構わん!』
若い将校が怒鳴りつけ、上司が止めるのも構わず、光剣を抜いていた。
「どうせ辺境の田舎者だ。身柄さえ押さえてしまえば、言い訳は何とでも・・・」
男はその台詞を最後まで言う事が出来なかった。緋色が無言で前に出ていたからだ。
将校は貴族の家柄なのだろう。光剣を持つ事はその象徴でもあった。
構えも堂に入っていて、良い師の元で師事を受けた事を思わせる。
けれど緋色は足を止めずにそのまま将校の内懐に入り込み、磁場で高エネルギーを封止した光の剣を、鋼の緋炎で叩き斬っていた。
チンと涼やかな音がして、緋色が緋炎を鞘に納める。
男が呆けた顔で、地面に落ちた光の刀身を眺めていた。
『ど、ドロイドを出せ!』
またも上司を差し置いて命令する。
兵士の中から、三体の暴徒鎮圧用オートマタが現れる。
姉が頷くのを見て、緋色は小弓に矢をつがえていた。
「あのタイプは右胸に電子脳がございます」
猫のアドバイス通りに、一息で三射すると、三機のドロイドは地面にひざを着いて機能を停止していた。
十三が面白そうにそれを眺める。
辺りを痛い程の沈黙が支配して、そして緋色が言った。
「あの、次は流石に怪我無しでって訳には行かないかも知れませんよ?」
辺りの兵士達は皆及び腰になっていて、面目を潰された将校が、赤くなるのを通り越して、顔をどす黒く変色させていた。
けれど今度ばかりは、年輩の指揮官が将校を押さえた。
「メナンドロス公主。こちらの勝手な言い分で大変申し訳ないのだが、我々が撤退する事を許可しては貰えないだろうか?」
表には既に公主の治めるパンジャーブの国軍が駆けつけ、自称連邦軍と対峙していた。
彼らは期を逸したのだ。
メナンドロスが面倒臭そうに手を振ると、兵士達は壊れたドロイドと何事かをわめき散らす将校とを抱え上げて退却していった。
そしてその日、同盟の主要惑星国家である、ブランディッシュ、ラジャスタン、パリヤーナの三惑星国が共同で、パンジャーブに対し非難決議案を採択していた。




