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壷の魔神  作者: 坂月つかさ
第五章
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第一話 物の価値 前編

「こちらでございます」

緋色と橘媛、メナンドロス、十三の四人は、メナンドロス邸の訓練施設を訪れていた。

主に警備部に所属する者が使う、防犯の為の訓練施設で、射撃場や、体を鍛える為の様々な器具が供え付けられている。

目的は、緋色の刀の試し斬りだった。


世界ワールド」では、武器の携行は許可制で、使用する武器は事前に登録する事が必要だった。

緋色がこの世界に持ち込んだ武装は、登録の為に所轄の管理センターに送られていて、先程ようやく手続きが終わり、緋色の手元へと返って来たのだ。

暫くの間手元に無かった事もあって、出来れば試し斬りがしたかった。

緋色が十三に相談をすると、この場所に連れて来られたのだ。


「これなどで如何でしょうか?」

十三が示したのは、刺突訓練用のプラスティック製のマネキンだった。

ナイフなどの、比較的刃の短い武器の訓練に使われる物で、既にぼろぼろとなり、後は捨てるだけの物だった。

緋色としては、巻き藁のような物が良かったのだが、文句を付ける筋合いでも無い。

「切り捨てて良いなら、それで結構です」

そう言って、刀袋の紐を解いて刀を取り出した。


本来は、元服の祝いの品と成る予定であったのを、姉の護衛をするのに前倒しで与えられた物だった。

予め、刀のなかごあらためると、そこには真人の名と緋炎の銘があった。

父の作刀した刀だったのだ。

スラックスの上に帯を締めて刀を履く。

鯉口を切り、やや大きめに身体を開いて刀を抜くと、その刀身の美しさに、辺りから溜息ともつかぬ歓声が上がっていた。

心地良い大きさだった。

刀身が二尺四寸(七十三センチ)、重さ五十両(約二キログラム)。

長さに比べて重量があるのは、緋色の膂力に合わせて重ねを厚くしたからで、成長期である一年後の緋色の身体に合わせてあって、元服の頃には、より身体に馴染む大きさと成る筈だった。

両手で持つと、刀の隅々まで感覚が広がって行くのが分かる。

二、三度振って調子を確かめ、プラスティックのマネキンと向かい合った。


「待ちなさい」

何を思い付いたか、公主は顔に悪戯っぽい笑みを浮かべていた。

部屋の隅に捨てられていた警備員の制服を拾い上げ、マネキンに着せ始める。

十三が慌てて言った。

「お待ち下さい。それでは、試し斬りに成りません!」

制服は、防弾・防刃素材で作られていたのだ。

切れない素材で、試し斬りなど出来る筈も無い。

でも、公主は言った。

「だって、今時の暴漢は、この位の物を普通に身に付けている筈よ。護身用の武器で有るのなら、切れなきゃ役に立たないわ」

「ですが、今そのような事を言っても・・・」

「良いですよ」

緋色が軽く言う。

今の自分の腕前なら、切れない物ならばそうと分かる筈だった。刀が切れると言っている。

姉は何の心配もしていないと言う顔で、弟の事を見守っていた。


何の気負いもなく近付くと、マネキンの肩から袈裟懸けに斬り伏せる。

ケブラー繊維の数十倍の強度を誇る防刃着は、紙のように切り落とされていた。

「嘘っ・・・」

地面に落ちる前に、返す刀で切り上げると、マネキンの半身は半分の大きさになっていた。

早さは感じさせない。

驚くほど滑らかな動きで、マネキンは更にその半分の大きさに斬られ、その又半分となって地面に落ちた。

「お見事です」

十三が誉める。

メナンドロスは眼を見開いて驚いていた。


緋色は一度鞘に納めてから、口に懐紙をくわえて刀身を検める。

曇り一つ見当たら無かった。流石は魔神の手造りである。

緋色の時代、日の本では刀はまだ唐物が中心で、技術的に和製の物がようやく追い付き始めた頃だった。

その中にあって穂積の領主が造る刀は、後世に出る日本刀の特質をほぼ全て供えていた。

本来の凝り性の性質に加えて、真人の持つ、冶金・鍛造の知識が、銀河文明の物だったからである。

鍛冶道具が中世の物でも、その性能は、銀河連盟の公主が眼を見張る程の物だったのだ。

日の本でも、穂積の領主が造る刀は誰もが欲しがっていた。刀と引き替えに城を差し出そうとした領主を緋色は知っている。

その父の傑作ならば、この位は斬れて当たり前の気がした。


後は矢か。

菜々香が持たせてくれた武装は、刀一振り、弓が二張り、そして、鏑矢が三本のみだった。

心許ない事この上ないが、量子転送で荷の量が制限されていたので、仕方のない事だったのだ。

使い慣れた大、小の弓が有るのは、剣よりも弓が得意の緋色にとって有り難い事では有るのだが、流石に此処まで矢数を減らす事は、緋色では思い付か無い。

菜々香らしい割り切り方だった。

という訳で、弓矢の矢は、この世界で手に入れなければならなかったのだ。


十三に、矢を買い求める相談をすると、橘媛も一緒に行くと言う。

「だって、お金を払わなくては、いけないでしょ?」

そう言われてみれば、確かに緋色はこの世界の通貨を持ってはいない。

姫が行くと言うと、今度はメナンドロスが同行すると言い出した。

公主という職業は、そこ迄暇なのかと緋色は訝しんだが、結局四人で出かける事となった。

※茎=日本刀の刀身に繋がる金属部で、柄に納まる部分です。通常この部分に作者の名や刀の銘が彫られています。詳しくはwikiへどうぞ。

重ね=刀身の身幅です。

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