逃亡
第八話
その夜の残りは、静かに過ぎていく。おそらく、みんなが今や、俺の「狂気」の原因があの寄生虫だったと理解したからだろう。キュロスは他に異常がないか俺を調べたが、何も見つからなかったので、放してくれた。
それでも、あの死が幻覚じゃなかったことは、俺自身がわかっている。
ナヴィはそれ以上何も聞いてこない。彼女もキュロスと同じ結論に達したんだろう――俺が単にすべてを想像していただけだと。
腹に2メートルの寄生虫が住んでいたことを踏まえて、俺は大丈夫なのかとキュロスに聞いた。彼は大丈夫だと言った。「表面が不揃いなものは食べないようにしてください」と言われた。
まだショックが抜けない。
今起きたすべてのことに、どうやって折り合いをつけたのか、自分でもわからない。
夜のどこかで、俺は焚き火のそばのあの頭蓋骨の方へとふらふら歩いていった。まあ、「どこか」というより――ただ一度だけ。今だ。
闇は落ち着かないが、青白い月明かりが、わずかな慰めをくれる。
草が穏やかに揺れている。静かで、自然なリズム。
頭蓋骨の紋章を見下ろす。そこから発せられる柔らかな光が、俺の体をほんのわずかに照らしている。
こいつが、俺を見つめている。
これを見るだけで、こいつが俺を二度も死なせたのだと知っているだけで、額の表面に神経を押し出すような、熱い怒りが湧いてくる。
拳を握りしめる。
そして、蹴る。土がその表面に散らばる。
だが驚いたことに、それはびくともしない。何ら変化もなく、ただ同じままそこにある。
しゃがみ込み、その周りに手を振ってみる。
まるでホログラムのようだ。光がちらちらと歪んでいる。白く描かれた、光るルーン文字の円。触れられない。実体がない。
もう、これを無視するわけにはいかない。
死ぬたびに、俺はこの中のどれかに戻ってきた。
顎に手を当て、脳という器官を働かせる。
これは、チェックポイントに違いない。
状況を考えれば筋が通る。現実世界でこんなことを言いたくはないが、本当にビデオゲームみたいだ。俺は死んで、ここに戻る。これらのルーンは、それぞれの「ラン」の開始地点を示しているんだ。
だが、これは自分の意思で作り出せるものなのか? それとも、ランダムに強制的に発生するだけなのか?
円の周囲を触ってみる。
何も起きない。ただ、手のひらの下にゴムのような草の感触があるだけだ。
何か方法があるはずだ。
最初にここで目覚めたときとまったく同じ姿勢で座ってみる。後ろにもたれ、地面に手をつく。もしかしたら、この物を呼び出す原因となった、あの正確な状況を再現できるかもしれない。
数秒が経つ。
まだ何も起きない。
ため息をつき、完全に地面に横たわる。
すべてを踏まえても――二度の死、痛み――風を感じる。星が見える。俺は生きている。それだけで、奇跡のように感じられるべきなんだろう。
それなのに、これを誰にどう説明すればいいのか、わからない。こんな経験をした人間なんて、他にいるとは思えない。
たぶん、一番近い説明は夢だろう。夢の中では、目覚めるまで、すべてが本物のように感じられる。どれだけ混沌としていて意味不明であっても、その瞬間は現実のように感じる。だが目覚めた瞬間、世界は再び俺を現実に繋ぎ止める。幻想から自らを切り離すんだ。
あの「ラン」は、そんな感じだった。まあ、その「繋ぎ止められた」感覚がずっと続いていて、痛みが決して目を覚まさせてくれないとしたら、の話だが。
だとしたら、リセットされているのは俺なのか? それとも、世界全体が俺と一緒にループしているのか?
「ループ」ではなく「ラン」と呼んでいるのは、それが実際に何なのか、俺自身よくわかっていないからだ。俺自身も、正しい言葉をまだ定められていない。
そよ風が顔をかすめる。優しいが、思い出したくない記憶を呼び起こす。
思わずびくりとする。
急いで起き上がる、心臓が高鳴る。
眠らなきゃ。
今、この世界には「カイト」しかいない。ひとつの名前、ひとつの存在。孤独な生き方だ。だが、俺はいつも一人で生きてきたから、ある意味……故郷に戻ったようなものだ。
それでも、この静けさが、じわじわと俺を蝕んでいく。
地面に手をつき、体を持ち上げる。
再びあの木へと向かう。
明日は新しい一日だ。
過去は俺の背後に留まる。
でも、みんなの俺に対する新しい印象は、修正しておかないと。
―――――――――――――――――――――――
朝の光がまぶたを引っかき、一枚ずつゆっくりと剥がしていく。瞬きするたびに光が強まり、脳の中の霧をまっすぐに突き刺してくる。
ようやく顔がぴくりと目を覚ます。かなり凝り固まって、こわばっている。それだけ長い間、眠っていたということだろう。
カチッ、カチッ。
ガントレットに覆われた両手が、目の前でパチンと鳴らされる。その鋭い音が、ガラスに爪を立てるように頭に突き刺さる。
一体誰が、俺の眠りを妨げようとしてるんだ?
まあ、どうでもいい。もう数分だけ眠ろう、指パッチンくらいなら平気だ。その音は我慢できる。
目の前で響くこの騒音を無視しながら、目がゆっくりと閉じていく。実際、俺は自分がかなりの重症寝坊助であることを誇りに思っている。
「うわ――!」
そして水しぶきがくる。
氷のように冷たい水が、まるで神の平手打ちのように顔を叩く。びくりと後ずさり、あえぎながら、目を激しく瞬かせる。水がシャツを伝う。瞬時に完全に目が覚め、肌に染み込む鋭い冷たさに体がぞくぞくする。
またかよ?! またびしょ濡れになってるのか?!
「おーい! 眠れる森の美女! 起きて輝きな!」
水を吐き出す。「――お前、なんで『眠れる森の美女』なんて知ってんだよ?!」
両手を急いで顔にやり、濡れたシャツの襟をタオル代わりにこすりつける。
ナヴィが目の前に立ち、腰に手を当て、たぶん常時こんな感じなんだろう眉をひそめている。あるいは、それが彼女のデフォルト設定なのかもしれない。彼女は俺の上に立っていて、胸当ての陰でその顔がほとんど見えない。
わざと顔を上向きに傾けて、優越感か何かを演出しているんだろう、よくわからないが。
この時点では、目覚めさせるために200万ボルトを尻に撃ち込まれなかっただけ、ありがたいと思うべきだろう。
どちらにせよ、こんな顔で――しかも水付きで――起こされるなんて、最悪の敵にすら味わわせたくない。
「軽く叩いて起こしてくれてもよかったのに……」小石まみれのしゃがれ声でうめく。親指と人差し指で目をこすり、自分がどこにいるのかを把握しようとする。眠気はまだ体のあちこちにしがみつき、頑固に離れようとしない。
目を大きく見開き、それを振り払おうとする。
ああ、20分くらいベッドに寝転がってゾンビみたいにスマホをスクロールしてたあの時間が、本当に恋しい。それが今じゃ、これで目が覚める羽目になるとは。
魂を体に接続し直す前に、ナヴィは踵を返し、サーベルを腰で揺らしながら歩き去っていく。
不平を言いながら、体を起こし、伸びをすると骨がバキバキと音を立てる。背骨がまるで曲がったハンガーみたいな感覚だ。まあ、たぶん、木にもたれてどれくらいの時間眠っていたのか知らないが、それが原因だろう。
「おはよう、カイト」キュロスが近づきながら言う。このゴブリンは、何があってもどこか落ち着いて見える。彼の表情を読み取ろうとするのは、もうやめた。
目すらないのに、それをやるのは無理がある。
彼の頭に雑な顔の落書きを描いた場面を想像して、思わずニヤリとする。
「キュロス、俺たちどこに向かってるんだ?」ナヴィが尋ねる。すでに前方の巨大な森に向き直っている。木々が風に穏やかに揺れ、まさにそのプラットフォームの目の前には……
ああ、神様。
橋がある。
ぐらぐらして、腐りかけた見た目の、朽ちたロープと唾で繋ぎ合わされたような代物だ。今まで、これをちゃんと見たことすらなかった。
まさに、RPGのカットシーンで一度だけ使って、劇的に崩落する直前に渡る、あの手の橋だ。
「橋の向こうです。小さな洞窟へと続く道があり、それが第七層への入り口となります」
「第七層? まじかよ、もう第六層だったのか?」
つい一日も経たない前に、第三層にいたことを思い出す。こんな短時間でこれだけの距離を進んでいるなんて、俺たち本当に全速力で駆け抜けてきたんだろう。
「周りの状況、ちゃんと把握してる?」ナヴィが尋ねる。俺の方に頭を向け、またイライラした表情を浮かべながら。よし、これがもう彼女のデフォルト表情だと確信した。
そのコメントに、思わずうめく。
プラットフォームの端まで歩み寄り、橋をよく見ようとする。念には念を入れて損はない。
「あれ、本当に安定してるのか?」尋ねながら、下の深淵をなるべく見ないようにする。
遅かった。肌が粟立ち、慌てて視線を戻す。
ナヴィがロープを掴んで引っ張る。橋がそれに応えるようにうめき、まるで千年の眠りから目覚めたかのようにきしむ。
「構造的には健全そうね」彼女が言う。
「お前、ほとんど動かしてないだろ! お前には絶対家の修理頼まないからな!」
「はぁ、うるさいわね」彼女は俺を手で払い、平然と橋に足を踏み入れる。「あんた、自分がどれだけ馬鹿げたこと言ってるか気づかずによく喋れるわね」
彼女の下で板が抗議のような悲鳴を上げる。歯を食いしばりながらも、黙っている。
もし彼女の体重についてジョークを言ったら、そのサーベルで串刺しにされるのは間違いない。
空気は静かで、時折この地獄のような橋からきしみが聞こえるだけだ。ナヴィの姿を神経質に目で追う。彼女は、まるで街を歩くかのように、のんびりと橋を渡っていく。
彼女は20秒で渡り切り、すでにバス待ちしているかのように支柱にもたれている。ずる賢い笑みが、その鋭い顔立ちに浮かび、俺をあざ笑っている。
それから彼女が頭をぐいっと自分の方向へ向ける。まるで「早くしなさい」とでも言うかのように。
はいはい、わかったよ。お前は何の苦労もなく渡り切ったってな、それ以上こすりつけなくてもいい。
キュロスもついていく。彼の小さな体格は、重量的にほとんど橋に影響を与えない。
「カイト、考えすぎないでください。この橋は何年も、一度も問題を起こさず立ち続けています」
それこそがまさに、俺が怖がってる理由なんだよ。
「それって、そろそろ崩れる頃合いってことだろ!」
二人はもう向こう側で、俺を待っている。
「泣き続けるなら、あんたはそこに置いてくからね! 20秒あげる!」ナヴィが両手を口元に添えて叫ぶ。
「怖くなんてない!」
「じゃあ早く!」
視線が板をなぞる。パターン認識が働き始める。三本ごとに腐っていて、俺の体重を支えられそうにない板がある。それを避ければ大丈夫だ。たぶん。頭の中でこのパターンを守り続ければいい。そうすれば、俺は自由になれる。
不安の塊を飲み込む。
ロープを強く握り、息を吸う。
左足。
右足。
左。
右。
ギシィィィィ。
指の関節が白くなる。まるでロープが世界に残された最後の頼みの綱であるかのように、強く握りしめている。怖くない。怖くない。まったく大丈夫だ。震える息を吸う。
深淵が下で大きく口を開け、俺を飲み込もうと待ち構えている。
苛立ちながら髪をくしゃくしゃにする。「くそ……!!」
こんな自分への印象を、これ以上続けさせるわけにはいかない。俺は臆病者じゃない。弱くもない。
もう考えるのはやめだ。前へと突進する。
一枚の板が、足を離した瞬間に折れて落ちていく。心臓が喉まで飛び上がるが、そのまま走り続ける。両足が長いストライドで俺を運んでいく。この地獄のような橋を渡り切ろうと、俺と同じくらい必死に。
ついに、反対側へと飛び込むように突っ込み、顔から草の上に突っ込む。
地面が祝福のように感じられる。誰も見ていなければ、たぶんキスしてたと思う。
愛してるよ、安定した地面。もう二度とお前を当たり前だなんて思わないから。
息を切らしながら、振り返る。
落ちたのは一枚だけだった。
そして正直、その隙間は、成人した人間が完全に通り抜けられるほどの幅ですらなかった。
うわ。それは……なんとも、肩透かしだったな。
うめきながら片膝をつき、手についた土を払う。あらゆる生物の音、それにほとんど鳥の声らしきものが、あらゆる方向から響いてくる。
緑の奔流が目に飛び込んでくる。この森の中に息づく生命の証だ。
見上げると、ナヴィとキュロスがすでに森の奥深くにいて、植生に半分隠れているのが見える。
「待ってくれ!」叫びながら、息を吸い込んで走り出す。
くそ、雪女ビッチュめ! キュロスを腐敗させてるだろ! なんであいつ、お前と一緒に歩いてるんだよ?!
―――――――――――――――――――――――
この道のりは、なかなかの旅だが、他の層よりは平和だ。この森は、俺たちが通り過ぎてきた場所ほど雑然としていない。道もこれまでよりはっきりしている。入ったとき、俺たちを迎えたのは奇妙な小さなベリーだった。
小さいわりに、それなりに腹が満ちる。俺は4つほどしか食べなかったが、それでも驚くほど満足感があった。それが俺たちの朝食だった。
この谷では、また別の一日というわけだ。
頭上の樹冠が、まるで神聖な導きのように、目の前の道を際立たせている。
だが、この穏やかで平和な景色にもかかわらず、何かが俺の心を蝕んでいる。そうだ、まともな人間なら誰でも辿り着くであろう気づきだ。
この旅路全体が、なんだか短く感じる。正直、もっと長くかかると思っていた。
「キュロス」小さなガイドから何か答えを得られることを期待しながら言う。
「?」
「幽谷って、いつもこんなに早く進めるものなのか? なんかおかしくないか? まだ2日くらいしか経ってないのに、もう第八層まで来てる」
大きな岩をまたぎ越える。つまずかないよう注意しながら。先ほど道が雑然としていないと言ったが、深く進むほどに、混沌が増していく。
ゴブリンは少しの間沈黙してから、再び口を開く。彼がそうするたびに、彼は頭の中の広大な知識の海を漂い、状況に応じた正しい情報を選び出しているんだろうと勝手に想像している。
「幽谷の構造は、それぞれ異なります。ですが、すべてに共通しているのは、最初の10層は他と比べて互いの距離が近いということです。それ以降、距離は大きく増していきます。そして、それとともに危険度も増していきます」
「どれくらい大きく、って話なんだ?」半信半疑の声で尋ねる。正直、彼にとっての「大きく」がどれくらいなのか、あまり自信がない。悪気はないんだが。彼はかなり小柄な体格だし、これまでの層は思ったより短時間で済んでいたから……
「うーん……そうですね……睡眠時間も含めて考えるなら――層と層の間には、およそ3か月かかるでしょう」
その事実に、思わず顎が下がる。正当な衝撃を受けている。上位の層をひとつ横断するのに、通常はおよそ12時間かかる。それがそんなに跳ね上がるって? それは、腹の底で実感できる規模だ。
太陽が樹冠から溢れ、光に目を細める。小さな塵が光の中を自由に漂っている。
「……」
黙ったままでいる。次に何を言えばいいのか、わからない。
「あんたの村に入るとき、何か気をつけることある?」ナヴィが前方から尋ねる。声は慎重だ。おそらく、防衛部隊が待ち構えているかもしれないと考えているんだろう。
「彼らは、私の再来訪を知りません」キュロスが言う。頭が低く傾いている。
「私はこの都から追放された身です。私のような……立場の者が戻ってくるとは、誰も予想していないでしょう」
彼は一拍、沈黙する。まるで次の言葉を慎重に選んでいるかのように。
「……改めて、あの恐ろしい生物から私の故郷を守るために、命を懸けてくださったこと、感謝いたします」
「いや、まあ、一石二鳥ってやつだ」手を振る。「あそこに人間の捕虜がいるわけだしな」
「もちろんです。だからといって、私たちが変わらずあなたを助けたであろう事実は変わりません」ナヴィが付け加える。彼女は、俺たちの正当性を守ろうとするかのように、その言葉を口にする。まるで、もしあそこに人間がいなかったら助けなかったであろう事実を薄めようとするかのように。
彼女は傭兵だから、自分の報酬以上のことに手を出したがらないのも理解できる。
だが、俺なら違う。
大半の人間は、暗く呪われた谷の八層も下まで、命を賭けようとはしないだろう。それは当然だ。理解できる。
俺がこれをやってるのは、何か崇高な理由があるからじゃない。本当のところは違う。でも、それはそれで、ある意味立派なことなのかもしれない。俺はただ、普通のファンタジー冒険をしたいだけなんだ。それって、求めすぎか?
この世界に引きずり込まれてから、俺はどこか辺鄙な屋敷に鎖で繋がれっぱなしだった。だから、少しくらい探検したいと思うのは、そんなに悪いことなのか? 危険であっても、少なくとも、何か楽しみにできることがある。もしかしたら、身勝手なのかもしれない。もしかしたら、間違った理由で正しいことをしているのかもしれない。それでも、人助けにはなっている。
それだけでも、何かの意味はあるはずだ。
足が、ゆっくりと着実に前へと運んでくれる。地面が足元で音を立てる。周囲の世界が、生きているように感じられる。
俺はいい人間だ。それがすべてだ。俺はまだ、いいことをしている。俺と善きサマリア人の間に、違いなんてない。
視線が、ナヴィの腰で揺れる大きなサーベルへと漂う。鞘は深い黒で、刃自体には黄色のアクセントが施され、豊かでありながら鋭さも感じさせる。
中型の武器で、見た目からすると、中距離戦で威力を発揮しそうだ。
そういえば、これまで何度か目にしてきたが、そのデザイン全体にちゃんと注目したことは一度もなかった。ただ色だけ。ただ形だけ。
あの武器はセヴェラントなのか? そう言いたい気もするが、彼女がそれで何かとんでもないことをするのを見たことは一度もない。
「なあ」彼女に聞こえる大きさで言う。
「ん?」彼女が呟く。視線は前方に固定され、歩調も変わらない。まるで「無関心の芸術」を極めたかのようだ。肩を上げ、左右に揺らしながら。頑張りすぎている。
ただ……すべてを超越しているというか。
心の中でため息をつく。もちろん、心の中で。
「その腰のサーベル」平坦な声で言う。「セヴェラントなのか?」
「そう」彼女は即答し、会話を崖から突き落とす。
それで終わりだ。
会話:殺害された。
そのあまりにも突然の死に、思わず眉がぴくりと動く。俺は会話をしようとしてるんであって、アンケートを取ってるんじゃない。
待つが、彼女はそれ以上何も続けない。説明もなし。からかいのひと言もなし。見下したような笑みすらない。彼女はただ歩き続ける。
時々、自分が誰と話しているのか忘れそうになる。
キュロスは背後に視線をやり、景色に夢中になっているようだ。まともに機能している人間なら誰でも、彼がこの会話に関わらないようにしていると結論づけるだろう。
そして正直、その判断には拍手を送りたい。
再び沈黙が支配する。俺たちの足音が、土の道の上で打楽器を奏でる。ザッ、ザッ、ザッ。
いち、に、いち、に。
死にたがらない気まずい瞬間のための、メトロノームのように。
「……で、能力は何なんだ?」
もう一度試す。眠っている獣をつついてみる。時々、自分の勇気に本当に感心する。
「機能」
素晴らしい。今度はそういうゲームか。
「わかった」言葉を引き延ばしながら言う。「その機能とやらは何なんだ、ハイアーガルド様?」
今回は間がある。それを小さな勝利として受け取る。彼女は考えている。ということは、興味を持っているということだ。多少は。
そして――「本当に、これを説明するために自分の人生を4分も無駄にしたいのかしら」彼女は無感情に言う。「もっと生産的なことに使えるのに、わかる?」
「何にだよ、歩くことにか?!」言い返す。
「あんたと話さないことに」彼女が撃ち返す。「それが生産的よ。すごく良いことね」
俺たちは二人とも「物陰に駆け込む」。
彼女が「再装填」する。
「あんたも、話さないようにしてみたら? 二人でピークの生産性に到達できるわよ」彼女が発砲する。
ようやく装填を終え、狙いを定める。
「お前は俺たちに、無言の修道士になれって言ってるのか。それとも単に、お互いを嫌い合ってる普通の人間になれって?」
くそ、外した!
「そう言うけど、あんたを嫌ってるわけじゃないわよ」彼女は一拍置き、俺の急所を狙う。
「ただ、あんたの声が……嫌いなの。それと、あんたの顔も。あと全部」
「ぐはっ!」よろめきながら後退する。「言葉の一突き! 実際に刺されるより痛いぞ!」
「それなら、用意できるけど」
わずかに距離を取る。もし彼女が本当にそれをやろうとした場合、否定できる余地を残しておくために。
「じゃあ、それはイエスってことか?」尋ねる。「セヴェラントなんだな?」
「もう聞いたでしょ」
「もう答えただろ」
「じゃあ、なんでまだ聞いてんの?」
「強調のために繰り返してるんだよ」
「注目のために繰り返してるんでしょ。鳥でも見て過ごしなさいよ」
彼女、うまい。反論すらできない。
「本当に、それが何をするのか教えてくれないのか?」尋ねる。
「教えない」
「危険だから?」
「違う」
「秘密だから?」
「違う」
「恥ずかしいから?」
「……違う」
その一瞬の間。それを工業用万力のように掴む。
「うわ、マジかよ」目を見開きながら息を呑む。「恥ずかしいやつなんだな!」
「違うわよ」
「刃から花びらが飛び出したりしないって言ってくれ」
「しない」
「振ると歌ったりする?」
「しない」
「……鞘に収めると泣いたりする?」
彼女が息を吐く。
「あんたの口、動き出したら止まらないのね」
「それが自慢なんだ」
「それを理由に自殺した方がいいわよ」
「痛いな」
ゆっくりとした、疲れ切ったため息――軽蔑の本一冊分を伝えるような。ナヴィが立ち止まる。
「斬る。削ぐ。物を切る。それだけよ。派手なことは何もない。詩的なことも何もない。ただ、効率的な暴力だけ」彼女は俺の方を向き、目を少し細める。
「これで十分な説明かしら、それとも血で図を描いてあげた方がいい?」
「わかった、わかった」両手を上げる。「じゃあ、それは『黙れブレード』ってことだな。了解」
いや、「了解」なんかしてない。彼女は間違いなく何かを隠している。俺を放っておいてもらうために、最低限の説明で済ませようとしているのは明らかだ。
彼女は歩き続ける。
「でも、これだけは言っとくけど」付け加える。「もしあいつが翼を生やして俳句を詠み始めたら、俺、笑いすぎて死ぬからな」
「じゃあ、そうなる前にあんたを殺しておくわ」
一拍。
「……毒の刃?」
「違う」
「影を斬るとか?」
「違う」
「現実を切り裂くとか?」
「違う」
「よし、もう当てずっぽうだな」
「あんたが『現実を切り裂く』って言った時点で気づいたわよ」
「でもかっこいいだろ?」
「いいえ」
この時点で、会話が終わったことに気づく――そして俺は、彼女から新しい情報をひとつも引き出せなかった。
「くそ」呟きながら、拳を握りしめる。
「独り言、声に出してる?」
「あれだけ努力したのに、俺はまだ、ハイアーガルド様のセヴェラントについて、ほとんど何も学べていない」
「敬称つけて呼んだところで、あんたの立場は良くならないわよ。まあ、いつもそうやって呼んでもいいけどね」
その最後のひと言に少しうめきながら続ける。「……はぁ、たぶんめちゃくちゃかっこよくて、すごくて、強いんだろうな」
「はいはい、一人で喋ってなさい、奴隷のカイト」
彼女はペースを上げ、ブーツを道にさらに強く踏み込みながら、俺を土埃の中に置き去りにしていく。
うめく。
また、俺たちの小さな「涙の道」が始まる。
足が機械の部品のように重く引きずられ、脚は硬く自動的に動く。さっきまでの自分に戻るのは辛いが、まあ、良いことはいつか終わるものだ。
何かが目を引く。
右手の方で、ちらちらと点滅している。頭が本能的に振り向く。
森の奥深く、木々の広がりの向こう……そこにある。
かすかな青い光。点滅している。まるで灯台のように。
足が止まる。
樹冠から差し込む日光にすら影響を与えるほど明るい。それは動き、揺れ、立ち上っている。まるで第二の太陽のように。光源は見えない、ただ木々の間から漏れる、その揺らめきだけが見える。
キュロスもそれに気づいたようで、足を止めてその光を見つめている。
「あれ、何だ?」ゴブリンに尋ねる。
「私にも、あなたと同じくらい見当がつきません……」彼が言う。声は、かすかな唸り程度の大きさだ。
ナヴィが立ち止まり、振り返る。彼女の視線が、俺の指差す方向をたどる。
青い光が動き始める。近づいてくる。大きくなっていく。
彼女は目を細め、表情が硬くなる。数秒が経つ。
そして、彼女の目が見開かれる。
その反応だけで、俺が知る必要のあることはすべてわかる。
これは、まずい。
キュロスと俺はまだ、その場に凍りついたまま見つめている。困惑しながら。
「……逃げて!」彼女が叫び、サーベルへと手を伸ばす。
大地が揺れる。
重く、轟くような足音が、前方の森から響いてくる。何か巨大なものが、下草を押し分けて進んでいる。その重い足音の速さが、今の移動速度を物語っている。
茂みが裂ける。木々が震える。
そして、あの音。
ただの足音じゃない、何か他のものだ。歪んだ、機械的なサイレン。神経を粉々にするほどの大音量。
それが森中に波のように轟き、ブンブンと唸り、叫び、俺の足元の地面を震わせる。
反対方向へと駆け出し、頭を前方に向ける。
キュロスはすでに俺より先を行っている。
『「不純物――検出:浄化作戦、開始――エラー――エラー――」』
その声が木々を切り裂く。金属的で、ノイズだらけで、途切れ途切れで冷たい。鋭いビープ音とカチカチという音が続く。リズムも、間もない。
好奇心に負け、思わず頭を後ろに振り向ける。
そして、それが見える。
機械だ。
口のような構造の中心に、たったひとつの巨大な目。両側が裂けて開き、刃のようにギザギザだ。触手は長く滑らかで、それぞれが不自然に空中で揺れ、細いスリットが並んでいる。脚は回転しねじれ、歩くたびに土を削っている。
純粋な恐怖が、俺を貫く。
それは、まるで蜘蛛が体中を駆け回り、あらゆる部分を叩いていくような、肌の下を這うタイプの恐怖だ。
そいつは速い。あの大きさにしては、速すぎる。まだ捕まっていないのは、単にその巨体が狭い道に対して大きすぎるからだ。だが、そんなことは気にしていない。木々を減速もせずに押し倒しながら進んでくる。
木が裂ける。木が倒れる。ドスン、ドスンという音が、どんどん大きくなっていく。脚が全力で動き、アドレナリンがあらゆる神経に溢れる。もっと速く、もっと速く進まないと!
そのとき、混沌の中で……別の音が聞こえる。
ビープ音。
その音自体が、あまりにも独特で、周囲の騒音の中でも俺の注意を捉えて離さない。
そして、もうひとつ。
そして、もうひとつ。
ビープ。ビープ。ビープ。
ペースが速まる。音色が鋭くなる。
そのビープ音のペースが激しく増していくにつれ、ある理解が急速に押し寄せてくる。
何かが、充電している。
背後に熱が高まる。それが押し寄せてくるのを感じる。
最後のビープ音が鳴った瞬間、身を投げ出し、低く伏せ、両腕を頭の上にかざす。自分の命を終わらせないための、必死の判断で下した一瞬の決断だった。
赤いビームが頭上を突き抜け、視界の端を通り過ぎていく。
それは木に「当たった」というより「消し去った」。その木全体が、無音の爆発の中で消え去り、周囲のあらゆるものと一緒に跡形もなくなる。続いて、重い爆発と、破片と炎の雲が広がる。
着弾した場所とは反対側に、よろめきながら移動する。これほどの破壊力は、正真正銘の狂気としか言いようがない。
こいつは、俺たちを殺そうとしている。
俺たちを撃っている。
頭が高速で回転する。
なんでこんな場所に機械があるんだ?! なんでこんな見た目をしてるんだ? これは、粗雑な魔法の模倣なんかじゃない。本物のロボットだ。本物の技術だ。これが偶然のはずがない。
この世界は、そういう――
もうひとつ、ビープ音。
そして、もうひとつ。さらに増えていく。増殖している。
ビープ。
ビープ、ビープ。
ビープ、ビープ、ビープ、ビープ。
ビープ、ビープ、ビープ、ビープ、ビープ、ビープ、ビープ、ビープ――
ヴォンッ。
別のビームが発射される。
反応する間もなく、体が前方に打ち上げられ、地面が足元から引き裂かれる。
両腕がばたつく。空と地面が入れ替わる。俺は宙を舞っている。服が、体に叩きつける風の凄まじさで波打つ。
視線が、冷たく硬い地面に定まる。俺を受け止める準備ができている地面に。慌てて両腕を前に投げ出し、衝撃に備える。




