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FRACTURED://EDEN  作者: DALG0ZA
第一篇『侵入』
6/13

トラベル

挿絵(By みてみん)



このイラストは少し古いものなので、ご容赦ください。

外から差し込む柔らかな日差しが、小さな執務室に漏れ入っていた。部屋自体は、修復された木製の家具の集まりで、中央には大きな机が置かれている。その背後には非常に大きな窓があり、ヴァロスの町全体を見渡せた。


壁は高く、部屋の中心に吊るされた壮麗なシャンデリアへと伸びていた。金の縁取りに刻まれた意匠が、光の中でかすかに輝いていた。


その中央、机の上に足をだらしなく乗せて、太った男が葉巻をふかしながら座っていた。50代前半ほどに見え、頭皮の両側にはしぶとく残る金髪の房があった。頭頂部には大きな禿げがあった。


彼は余裕たっぷりの空気をまとっていた。自分でもそれを十分に自覚している様子だった。


結局のところ、彼はほとんど独力でこの町全体を掌握したのだから。今さら、これ以上努力する必要がどこにある? ここから先は、順風満帆だ。何をしようが、金は勝手に転がり込んでくる。彼は見事に、自分自身の帝国を築き上げたのだ。


その名を――


「ゴルスロ様!」重い扉が耳障りなきしみ音とともに開き、声が響いた。彼が好まない音だった。


きちんとした秘書服に身を包んだ女性が入ってきた。


髪は短く、肩にかろうじて触れる程度だった。その整った髪型が、彼女に専門職らしい雰囲気を漂わせていた。彼女は書類の束を抱えていて、それぞれに様々な外部情報源からの財務データのラベルが貼られていた。


「何だ、ローラ」


「突然の報告、申し訳ございません。ですが、昨日、傭兵の一団がこの町に到着したとの報告が入りました」


男は椅子から立ち上がる。葉巻はまだ唇の間に挟まれたままだった。


「ふん。また、自分をヒーローか何かと勘違いしてる子供の集まりか。奴らは俺がここでビジネスをやっているということを理解していないのか? どうせすぐに、他の連中と同じ末路を辿ることになる」


「様、重ねて申し訳ございませんが、これはただの烏合の衆ではありません」


「じゃあ、誰なんだ」


「セイブル・ヴェイルです」


彼は黙り込んだ。


「ナハハ! 何をそんなに固まってるんだ、ローラ?」男は笑い、葉巻からねじれた煙がくるくると立ち上る。今まで気を張り詰めていた女性は、罰が下る瞬間が今にも訪れると恐れていた。


彼女は緊張した笑みを無理やり浮かべた。上司が、まるで人生で一番面白い冗談を聞いたかのように笑っていることに気づいて。


「まるで奴らが今すぐにでも押し入ってくるみたいな態度だな。落ち着け。3日もかからず、命乞いさせてやるさ」


彼の笑いが消え、突如として鋭い眉間の皺に取って代わられた。


「風魔」


三つの残像が部屋の中を動き、瞬きする間もなく、全員がゴルスロの前に現れた。全過程はわずか二拍で終わり、その動きの詳細は目に捉えられなかった。


ローラは、今すぐそばに立っている三つの姿を、理解しようと努めた。


それぞれが、危険で圧倒的な存在感を放っていた。体格はそれぞれ異なるが、全員がひとつの特徴を共有していた。体が包帯で覆われているのだ。


一人目は男だった。白髪が、鼻を包む包帯の隙間から突き出ていた。重厚なマントが体を覆い、その下には大きな剣らしきものが隠れていた。二人目の人物は全身を包帯で覆われ、頭頂部にわずかに見える髪の輪郭を除いて、肌のひとかけらも露出していなかった。三人目は、他の二人よりもはるかに大柄な男で、両腕を除いてほとんど何も身につけておらず、その腕の包帯だけが、他の部分とはまったく異なる見た目をしていた。


「状況はもう聞いてるな?」ゴルスロが尋ねる。


白髪の男が頷いた。


「よし。その白髪の女を生きたまま連れてきたら、報酬は倍払う。他の連中は好きにしていい」


彼らは再び頷き、それから、来たときと同じくらいの速さで、近くの窓を通り抜けて姿を消した。肉眼には、彼らが最初からそこにいなかったかのように映った。


ゴルスロは机の前に立ち、得意げな笑みを浮かべた。無垢な者を食い物にする悪魔――彼が、富の蓄積だけを人生の野望とする、利己的な暴君に他ならないことは明らかだった。


「あのクソどもを捕まえて、俺に手を出したことを後悔させてやる」


彼は財務報告書の一番上のページをくしゃくしゃに丸め、見もせずにゴミ箱に投げ捨てた。


「……」


「まだそこにいるのか、ローラ? 仕事に戻れ。仕事は決して終わらないんだからな!」


✧ ✦ ✧


「ハイアーガルド様の信号弾は、この一帯から来ました」コルスが、近くの木に片手を添えながら言った。森は目覚め始めていた。日差しが柔らかな筋となって木々の間から差し込み、鳥たちがこの世界に交響曲を歌い、森全体を朝の静けさで包んでいた。


「あそこです」アサカワが近くの洞窟を指さした。入り口は、力ずくで切り開かれたかのように、ギザギザで大きく口を開けていた。周囲の地面は荒れ果て、植生がすべて剥ぎ取られていた。残っているのは土だけだった。


普通の人間にとって、あの洞窟に足を踏み入れることは、狂気の沙汰と言えるだろう。


「よし、入りましょう」アリヴィアが、両手で長剣を握りしめながら先頭に立った。剣はわずかに震え、左右に揺れていた。


洞窟の目の前で、アリヴィアが立ち止まった。後ろにいたアサカワが、軽く彼女にぶつかった。


少女は震えていた。笑顔は貼りついたままだったが、恐怖は明白だった。


アサカワはただ、じっと見つめていた。


「怖いのですか?」


「こ、怖くないし! この歳で暗いのが怖い奴なんかいる?!」


「その台詞、今のあなたの状況そのものですね」


「な、ないから!」


「どもったところで説得力は上がりません」


アリヴィアは激しく首を振った。ポニーテールが、動くたびに跳ねた。


彼女にとって、その洞窟はまるで生きている何かだった。口がどんどん広がり、喉の奥がどんどん暗くなり、影が爪のように彼女に向かって伸びてくるかのようだった。


彼女は、ごくりと唾を飲み込んだ。


「アリヴィア殿」コルスの声がした。


彼女は振り返った。彼の空洞の眼窩が、彼女の目と合った。


「あなたは外に残って、見張りをしていただいて構いません。何かあれば知らせます」


骸骨の姿にもかかわらず、コルスは静かな優しさを漂わせていた。多くの者が彼を見た目だけで判断したが、彼はその残酷さを決して返さなかった。彼の中には、誰も認めようとしない忍耐があった。


これが、人間であれそうでなかれ、人というものの性質だ。行動が示される前に、見た目が価値を決めてしまう。それは、生存という最も原始的な本能に根ざした真実だ。俺たちが否定しながらも、なお従い続けている真実。


アリヴィアは素早く頷いた。


彼女の神経が過剰に高ぶっていることは明らかだった。洞窟そのものの閉所的な性質が、そうした反応を引き起こしていた。


「あら、二人とも仲良しなのね」


背後から声が響いた。


一行は振り返り、武器を半分抜きかけた。突然の物音に驚かされたのだ。首がぐるりと回転し、その謎の声の方へと向けられた。


三つの人影が、太陽を背にして高く立っていた。長い影を落としていた。光でぼやけてはいるが、そのシルエットは紛れもなかった。彼らは洞窟の上に立っていたが、その声は集団の背後から響いていた。


その一人は巨大だった。筋骨隆々。その体は、普通の人間を遥かに超えた力を放っていた。全身が筋肉で張り詰め、今にも肉体を突き破りそうだった。


「ご機嫌よう、セイブル・ヴェイル」その男が言った。深く、命令的な声だった。「我々は風魔一族だ。我々は――」


鋭い破裂音が空気を切り裂いた。


銃声。鳥たちが混乱して飛び去り、衝撃波によって葉が激しく揺れた。


煙が晴れる。


中央に立つ白髪の人影は落ち着いた様子で、大きな刃を抜いていた。弾丸は逸らされていた。


全員の視線がコルスへと向けられた。


彼は両腕を上げ、他のどんな銃とも異なる二丁の回転式拳銃を構えていた。それらは腕の上に湾曲し、枝のような構造を持っていた。艶消しの黒を基調に、鮮やかな赤が映えていた。


ひとつだけ確かなことがあった――その形状は極めて異形だ、ということだ。


デュアル・セヴェラント・リボルバー。


「……なるほど。名誉を重んじるつもりもないか。話を聞く気すらないとはな」白髪の男が呟き、刃を下ろした。「典型的な、ならず者らしいな」


コルスは両手の武器をくるりと回転させ、華麗に扱った。その動きは完璧な技量に満ち、ひとつのミスもなかった。


「無実を装うな。お前の手の中の爆弾を見た」


白髪の男は笑い、押し潰された装置を落とした。それは包帯で覆われ、内側に凹んでいた――おそらく弾丸に撃たれたせいだろう。


「何のことだかさっぱりだな」


コルスは何も言わなかった。


だが、セヴェラントが姿を現した。


アサカワが刀を抜いた。長く、黒く、効率的な剣だ。相手を斬り裂いて素早く決着をつけるために作られた刃。ほとんど幻想的なほどの、長くしなやかな形状を持っていた。


アリヴィアは、自分よりも背の高い巨大な長剣を持ち上げた。生々しい力が、そこから放たれていた。


三人組は何も言わず、代わりに相手が武器を抜くのを観察することを選んだ。


「コウガ」白髪の男が沈黙を破って言った。腕はまだ組んだままだった。


「はい、若様」


彼は頷いた。


「コウガ」と呼ばれる怪物は、その命令を理解した。


彼は洞窟の入り口から飛び降りた。腕はまだ組んだままだった。着地すると、大地が砕け、砂利が衝撃で飛び散った。着地地点から煙の爆発が噴き上がり、視界を遮った。


このような相手は、最も経験を積んだ戦士にすら、確実に苦戦を強いるだろう。


ついに煙が晴れると、コウガはそこに、微動だにせずに立っていた。


それから彼は、腕に巻かれた包帯を解き始め、肉と融合した奇妙な黒青色の金属をあらわにした。刃が、肘から突き出していた。彼は大きなズボン以外、何も身につけていなかった。


その構えは、堂々としていた。集中していた。


そして、体を極限まで制御し、規律を保ちながら、彼は右足を持ち上げた。


「コルシャク・ヴィルヘルム・フォン・グリム! 貴様に死合いを申し込む!」


彼は足を地面に叩きつけ、その宣言を強調した。さらに多くの亀裂が、稲妻の血管のように地面を走った。


土埃が舞い上がった。その瞬間、コルスはコウガの視線に気づいた。


狂人の熱狂。


彼が身につけた包帯の仮面には、口の位置にはっきりとした隙間があり、その顔に浮かんだ笑みを際立たせていた。


「受けて――」


コルスが言い終える前に、コウガが前方へと突進した。その拳が、ワイトの胴体に叩き込まれ、彼を木々の間へと吹き飛ばした。木材が砕け散り、原形をとどめない木片となって砕け散った。


鳥たちが逃げていった。


沈黙が続いた。というより、残りのメンバーが、たった今何が起きたのかを理解しようとしていた。


「コルス!!」アリヴィアが叫んだ。コウガが森を切り裂いて作った開口部を見つめながら。彼女は、今起きたことをようやく処理し終えたのだ。


アサカワは、その方向をただ見つめた。左頬に、汗の玉が一筋伝った。


「はぁ、あいつはいつも調子に乗るんだから」三人組の中の女が、気だるげに体を伸ばしながらため息をついた。彼女の顔全体は、片目を除いて包帯に覆われ、様々な部分から髪が突き出ていた。


「ゼンバイ」


「はいはい、わかってるって」


彼女は頭をアリヴィアの方へ傾けた。体の残りの部分は、霧のように後ろへと引きずられた。腕を一振りすると、二本の武器が現れた――大鎌に近い、湾曲した鎌だ。太陽の光がその形に反射し、まるでその鋭さを際立たせているかのようだった。


「その子、可愛いわね。あたしがもらう」


瞬く間に、彼女はアリヴィアの目の前にいた。鎌が閃いた。


「――ふぇ!?」


アリヴィアは辛うじて防御した。衝突から火花が散った。彼女は反撃として下向きに剣を振るい、攻撃を逸らしたが、ゼンバイは体をひねり、みぞおちに強烈な蹴りを叩き込んだ。若い少女は下草の中へと吹き飛ばされた。


立っているのはアサカワだけとなった。表情は読み取れない。仲間たちを助けたい衝動に駆られていたが、相手に背を向けることには極めて慎重だった。


そんな過ちは、確実に命取りになるだろう。


「あたしとあんただけね」白髪の隊長が、まるで重力が存在しないかのように地面に降り立ちながら、前へと進み出た。


姿を現したその外見は、奇妙だった。長く垂れ下がる大きなスカーフが体に巻きつき、とげとげしい白髪が、スカーフの赤色を際立たせていた。胴体にはゆったりとした服を着ていて、袖は大きい。腕は包帯で覆われ、血圧が下がりそうなほどきつく巻かれていた。


包帯が、この一族の特徴であることは明らかだった。


「名前はフウマ・コウタ。命乞いをするときにでも、その名前を覚えとけよ」


アサカワは、握りを調整した。


「ああ、そういえば、ハイアーガルドって女、どこにいるか知ってる? あの女、生きたまま連れ帰ることになってんだよ、知ってるか?」


黒髪の少女は何も言わなかった。


コウタが瞬きをした。


彼女がびくりとした。


彼が息を吸い込んだ。


彼女が再び緊張し、指先が震えた。


「クアハハ!! お前、すげえビビって――」


「エアロニス23、断」


風が不自然に折れ曲がり、見えない刃となって研ぎ澄まされた。それらはコウタに向かって唸り声を上げながら飛び、彼の首をかすめて逸れ、背後の木々を切り裂いた。土埃が空中に舞い上がった。


コウタは軽やかに着地し、剣を肩に乗せていた。彼は後方に宙返りし、その一撃を巧みにかわしていた。


「賢いな」彼は首をさすった。「セヴェラントを防御に使うと思わせておいて、タウマを使ってきたか」


「……お前、まともなセヴェラント使いですらないな? あの呪文、強すぎるだろ」


沈黙。


「まあいいか。かっこつけてんじゃねえよ」


彼は剣を下げ、それからすぐに持ち上げ、殺意を放つ構えを取った。


首を伸ばしながら、指先がエネルギーで震えた。


「お前の内臓を引きずり出したとき、そのすまし顔がどうなるか見てやろうか。タウマイトのアルカナ臓器ってやつ、前からずっと見てみたかったんだよな」


「アンバイロス10、鞭」


✧ ✦ ✧


「くそ、この緑色ばっかりの景色、マジで気持ち悪くなってくる!」


顔を引っ掻こうとする、もう一枚の葉のカーテンを押しのけながらうめく。


本当にこの場所、大嫌いだ。


首輪を調整するが、首にきっちりとフィットしすぎていて、ほとんど動かない。ここ、マジで暑い。


今、俺とキュロスとナヴィは、幽谷とかいう場所の第八層を目指している。ゴブリンに誘拐された大勢の人々を救うためだ。もし俺と同じような人間なら、これがかなりまずい事態だってわかるだろう。まあ、上の一文を理解するには、それなりに碌でもない知識が必要だけど。


だが、どうやらあそこのゴブリンたちは、あるオークに奴隷にされていて、何か奇怪なモンスターを作らされているらしい。ただの当てずっぽうだが、ここのゴブリンたちは決して悪者じゃないんだろう。


最初の二層はマジで退屈だった。ひとつは、周りに何もない巨大な土の平原、もうひとつは、まるでそれが仕事だとでも言わんばかりに足首に噛みついてくる小魚だらけの、ぬかるんだ沼地だった。マジで、2秒おきに体を掻いてる自分に気づく。


今は第三層にいて、少しは何かがあるが、この息が詰まるほど濃密な植生には相変わらずうんざりする。3歩先すら見えない、まして上なんて論外だ。


「悲しいことに、この道が最も安全です」小さなゴブリン、キュロスが言う。「この層には極めて危険な生物が生息していて、私たちに深刻な怪我を負わせたり、命を奪ったりする可能性があります。私たちはここでは、うまく身を隠せています」


ちなみに「小さなゴブリン」と言っても、そこまで小さいわけじゃない。12歳の子供くらいの大きさで、体にはいろいろと詰まってる。実際に見れば、俺の言いたいことがわかるはずだ。


木材が裂ける音が前方から響いてくる。ナヴィがサーベルで下草を切り開きながら進んでいるのだ。彼女の振りは速く、枝の一番弱い部分を狙って、一撃で全体を崩せるようにしている。俺たちのために道を切り開くのが、かなりうまい。


「今なら、いっそあの化け物たちに追いかけられてる方がマシかもな」呟く。


ちょうどそのとき、枝が顔を打つ。


「ぶへっ――!!」


「おい! それ切り忘れたぞ!!」鼻を押さえながらうめく。


「あら、そうだった?」彼女は唇に手を当てながら言う。目は半分閉じられ、からかうような視線を固定している。


「せめてもうちょっと嘘っぽく言えよ!!」


彼女は無視して歩き続ける。


静寂が再び訪れる。まあ、前方で絶え間なく続く切断音を除けば。


だがそれ以外は、ほとんど死んだように静かだ。何か話したいが、ナヴィはそんな気分じゃなさそうだ。


いや、実は、彼女とのやり取りを避けたい。


キュロスはいるが、悪気はないが、上の世界について彼が跳ね返せるほど詳しいとは思えない。第一層と第二層で既に色々質問した。大して面白いことはなかった。


まあ、少し前に気まずい会話があった。俺の首についてる奇妙な装置が何なのかと彼が聞いてきたときだ。


俺らしく、俺が自由になれば世界を破壊しかねない、極めて強力な魔術師だから、この首輪で抑え込まれているんだと説得しようとした。だが、悲しいことに、ナヴィが俺の話を最後まで言わせずに、無礼にも「こいつは奴隷よ」と割り込んできた。


一度くらい俺に勝たせろよ、雪女ビッチュ。


まあ、これなら彼が知ってるかもな。


「なあ、キュロス……」小声で言いながら、口に手を添えて彼に身を寄せる。ナヴィに聞かれないように必死になりすぎているのは自覚している。だが、プライドのためには、いくらかの犠牲もやむを得ない。


彼が反応する。


「?」


「さっき、ナヴィがあの変な呪文使ってるの見ただろ? あれ、俺もどうやったらできるんだ?」


歩き続けながら、ナヴィの耳が届く範囲から外れるよう、ペースを落とす。この会話を彼女に聞かれたくない理由は、恥ずかしいからだ。自分自身にすら認めたくないくらい、恥ずかしい。


キュロスの身長を考えると、共通の会話レベルに合わせるために、かなり体をかがめる必要がある。


「ああ。『パターン』のことでしょうか?」


「え?」


ゴブリンが思案げに「ふむ」と小さく漏らし、それから頷く。旅の疲れでだるくなっていた四肢の緩慢さが、一瞬で消え去り、突然の活力に取って代わられる。質問されたことに、心底喜んでいる様子だ。心の中で身構える。


お前もそうすべきだぞ。


「パターンとは、万物の基盤です」彼は語り始める。「それは、法則、要素、そしてこの世界を定義する根底の『論理』から成り立っています。それはあらゆる物質と生物を形作ります。目には見えず、ただ知覚されるのみです」


「原子っぽいな、それ」


「あなたのおっしゃる『原子』とは、有形のものですか?」


「え? まあ、ある意味。目には見えないけど、小さくて、周りのあらゆるものを構成してる」


「ならば、それが違いです。あなたが説明する原子は『存在』という状態にあります――有形の実在です。パターンとは『存在しえない』ものとしての『存在』です。意識に近いものです」


「わかった、わかった、混乱してきた。形而上学の話はやめよう」


「承知いたしました。では続けますと、生まれつき高いアルカナ出力を持つ者、あるいは訓練を重ねて十分な閾値までシステムを適応させた者は、パターンを知覚できます。これは反復訓練によって達成可能です」


「アルカナって……マナみたいなもの?」


「その『マナ』というものは存じませんが、生物の中を流れ、それを動かす水のようなものであれば、そうです」


「パターンを知覚できる者は、それぞれ異なる形でそれを見ます」彼は続ける。「狂人であれば、絵の具の飛び散りのように見えるかもしれません。戦士であれば、鎖のように知覚するかもしれません。作詞家であれば、音符のように見えるかもしれません。私が読んだ限りでは、大半の人間は糸のように見る傾向があるようです。もっとも、他の理知的種族についてはよくわかりません」


彼が「理知的種族」と言うとき、それは酒場で見た、あの変な角と奇妙な仮面をつけた連中のことを指してるのか? 「理知的種族」というのは、この世界で理性を持つのが人間だけじゃないという事実を示す言葉なのか?


「興味深いな、興味深い……」頷きながら言う。「でもさ、俺の手から火を撃ち出せるようになる部分はどこだ?」


「あなたが言っているのは『魔術の道』のことでしょう。退屈な道です」


「道?」


「はい。パターンを知覚した者は、5つの『道』のいずれかを進むことができます。魔術の道、断裂の道、天職の道、体現の道、そして――名前は存じませんが存在は認識している、5つ目の道です」


くそ、こんなの何ひとつ覚えられない。うっかり講義に迷い込んだ気分だ。ファンタジー世界に来たかったのであって、補習魔法学に登録した覚えはない。せめてメモアプリがあれば……


そういえば、俺のスマホどこ行った?


「待て……断裂。それって、セヴェラントに関係あるのか?」自分でさらに深い穴を掘りながら言う。


「ならばご存じなのですね」


頷く。「珍しい武器で、それぞれ独自の能力を持ってるって聞いた」


パチモンの卍解、って言葉が頭に浮かぶ。


「その通りです。セヴェラントは呪われた武器です。それらは、他の道でこれ以上先に進む能力を『断ち切った』者だけが手に入れることができます」


呪い、か。


その言葉が、警鐘のように頭の中で反響する。呪われたものが、そんなに便利であっていいのか?


聞きたいところだが、また20分もの寄り道の扉を開けたくない。繰り返しになるが、彼に悪気はないんだが、この移動式ウィキペディアは、俺の脳細胞3つ全部を本当にフル稼働させてくる。


俺はただ、かっこいい火の手が欲しいだけなんだ。


あるいは、何か他の隠された超強力な能力とか。


もしかしたら、俺には秘密裏に、とんでもないアルカナの蓄えがあるのかもしれない。


「魔術の話に戻るけど」言う。「退屈だって言ってたよな。どういう仕組みなんだ?」


「魔術の道には三つの段階があります。コウホウ、タウマ、マジックです」


ああ、ようやく、聞き覚えのある言葉だ。


「ハイアーガルド様が使っているのはコウホウ――第一段階として知られています。それは、パターンと取引を行う行為です。何かを対価として差し出し、その見返りに何かを受け取らなければなりません。しかし彼女はセヴェラント使いであるため、次の段階には進めません」


「待て、セヴェラント使いって他の道を自分から断ち切ったんじゃなかったのか? じゃあどうやってコウホウを使えるんだ?」


「コウホウは基礎レベルの魔術であり、理知的種族のおよそ90%が実行できます。他の道の者でさえ、これを行うことができます。問題は、彼らが他の段階へと進めないということです」


「なるほど……」


少女に目をやる。


彼女は特に大きな枝を叩き切っていて、木を切りながら歯を食いしばっている。枝がかなり高い位置にあるので、彼女は届かせるために何度もぴょんぴょんと跳ねなければならない。木くずが降り注ぎ、それがさらに彼女を苛立たせている。


手伝いに行ってもいいが、彼女は頑固すぎて頼んでこないだろうから、ここにいよう。


「だから、何か唱える前にいつも身振りとか動作をしてるんだな」


「その通りです。多くの者が魔術の道を完全に避けます。強力な呪文を唱えるには、しばしば大きな犠牲が必要になるためです。例えば、機能するタウマイト臓器を持たない状態で致死性の呪文を唱えるには、腕を一本切り落とす必要があるかもしれません」


キュロスが口を開くたびに、いつも壮大な発言をした後で「ただし、これには落とし穴があります」と続けてくる。正直、ちょっとイラつく。


そもそも「タウマイト臓器」ってどこから出てきたんだ?


くそ! どうでもいい!


「わかった、でも……火は?」


「諦めなさい」ナヴィが前方から声を投げてくる。「あんたには無理よ。あんたみたいなヘタレは、指を初めて折ったら泣くタイプでしょ」


自分で思ってたより、大きな声で話してたらしい。


「おい! 木こり女! 自分の仕事に集中しろ!!」


悲しいことに、それを口にするのが早すぎた。彼女の報復が、別の枝という形で俺の顔をひっぱたく。


「様々な属性があり、それぞれに無限の呪文が存在します」キュロスが言う。「残念ながら、私の知識はそこまでです。何かご不便をおかけしたなら、お詫びします」


「いや、大丈夫だ」赤くなった顔を押さえたせいで、少しくぐもった声で言う。「地上に一度も行ったことないにしては、驚くほど博識だな」


「はい。多くの異形種は断裂や魔術を含む道のほとんどを実行できませんが、私は古く傷んだ文献を通してそれらを学びました」


「ああ、それはよくわかる」


ようやく、静寂が訪れる。


地面はぬかるんでいて、一歩ごとに靴がさらに深く沈み込み、いばらや砂利が中に入り込んでくる。何か鋭いものを踏まないよう、つま先を持ち上げ続ける。足を上げるたびに、まるで重りを引きずっているような感覚がある。


文句を言う筋合いなんてないのはわかっているが、それでも、故郷での快適な暮らしは、こういう泥まみれの苦行に向けて俺を鍛えてくれてはいなかった。今や泥が足首にまとわりつき、なんだか個人的な恨みでも持たれているような気分になってくる。


「あー、頭おかしくなりそう! いつまで――」


手が口を塞ぐ。


ナヴィの手だ。彼女の息が詰まる。何も言わない。


空気が瞬時に変わる。


臭う。


腐敗と血の、ひどく重い悪臭。濃厚で鉄分たっぷりの、まるで近くで何かが死んで、それがまた死に続けているかのような臭いだ。あまりのコントラストに、肺がほとんど凍りつきそうになる。空気そのものが実体を持っているように感じられ、肌の上を這い回り、湿ってべたつく。


それは死そのものの匂いだ。生者の世界へと侵入してきている。


彼女の手が震えている。かろうじて俺の口を覆っている。


息が詰まる。


そのとき、影が俺たちの上に降りかかる。


濃厚。巨大。光を飲み込む。


木々の天蓋から差し込んでいたわずかな日差しさえ、もう完全に消えている。隣にいるナヴィの姿すら、ほとんど見えない。


視線が、ゆっくりと上へと動く。あまりにも、ゆっくりと。


見なければよかったと思う。


俺たちの頭上、木々の間に広がっているのは、ひとつの「何か」だ。この「何か」の体は、あらゆる論理を無視している。腹側が見える――類人猿のようだが、どこか歪んでいる。骨の上に薄く伸びた皮膚、細長く歪んだ形。病的な白色――周囲とはあまりにも対照的な色をしている。


長く筋張った腕が、枝から枝へと伸びていく。その動きは滑らかで、木々の頂を音もなく滑るように移動している。葉が上から舞い落ちてくる。その巨体によって引きちぎられて。


でかい。楽にバンほどの大きさがある。


体からカチカチという音がこだましてくる。鋭く、湿った音だ。


木がきしむ。枝がその重みに耐えかねている。まるで、自分の眠りを妨げようとした声を探し、調べているかのようだ。


そして、止まる。


すべてが静止する。


一本の枝すら動かない。一枚の葉すら落ちない。何の音も漏れない。


それは、そこに浮かんでいる。ちょうど俺たちの真上に。


見られたか?


いや。いや、そんなはずはない。俺たちはあいつの真下にいる。俺たちは筋肉ひとつ動かしていない。


誰も、音を立てていない。


見られてはいない。


でも……もし見られていたら? もし待ち構えているのだとしたら? もしすでに知っているのだとしたら? もし単に、獲物と戯れているだけだとしたら? あいつは俺たちを見ているのか? 気づいているのか? 頼む、どうかそうじゃありませんように。どうか、動いてくれ。どうか、立ち去ってくれ。どうか、俺たちに気づかないでくれ。


一ミリ秒が、まるで永劫のように感じられる。


胃が結び目のように締め付けられ、それから底なしに落ちていく。虚ろな深淵の中へと。


もしこいつに見つかったら――


俺たちは死ぬ。


それだけだ。俺たちの旅は、そこで終わる。


死にたくない。


もう一度、あんな思いをしたくない。


呼吸が速まる。止められない。


遅くすることもできない。


汗が額を伝い、ナヴィの手袋を濡らす。


震えている。全身が。止まらない。


目がひくつく。制御できない。制御でき――


怖い。


死にたくない。


死にたくない。


ナヴィの目が見開かれる。その中に浮かぶ表情が、生々しいものへと変わっていく――


恐怖。


必死さ。


彼女は、俺の呼吸を聞いている。大きすぎる。


速すぎる。


そして――


何かが、起こる。


そいつの頭が、下に向かってきしむ。


ゆっくりと。


痛々しいほどゆっくりと。


不自然な、ねじれるような動き――まるで、筋肉と骨がこんな風に動くようには決して設計されていなかったかのように。


上から、しずくが落ちてくる。樹液か? 血か? わからない。


見ている。


見ている。


呼吸が浅く鋭くなり、不規則になっていく。


制御できない止められない怖い怖いすごく怖いあいつに見つかる殺されるもう一度あの感覚を味わいたくない死にたくない死にたくない頼む神様お願い誰か助けて


叫びが喉に詰まる。


叫んでしまう。喉が破裂するほど大きな声で。あまりにも大きな声で。


感じる。


すぐそこにいる。まっすぐこっちを見て――


顔全体が、ナヴィの腕の中に押し込まれる。


彼女が俺を押さえつけている。パニックを押し殺すように。


彼女の表情――


緊張している。汗が顔を伝い、目は俺の目に焦点を合わせている。ほとんど懇願するように、音を立てないでと。


だが


待て


なんでまだ頭を動かしてるんだ


もう我慢の限界だ


その瞬間――


パキン。


遠く離れた場所で、枝が折れる。大きく。鋭く。


冬の雷のように、静寂を切り裂く音。


そいつの動きが凍りつく。


そして――


音。


叫び。


女性のような。


ほとんど人間のような。


それが嘆く。


痙攣する。


そして、その巨体にもかかわらず――


飛び出す。


暴れながら、その巨大な体を前方に投げ出し、木々を引っ掻き、狂ったような凄まじい力で引き裂く。まるで何かに取り憑かれたかのように、その音の方へと駆け、体を引きずるように進んでいく。


狩っているんじゃない。


飢えているんだ。


まるで百年も何も食べていなかったかのように。


そこに辿り着くためなら自分の脚をもぎ取ってでも構わないというように。


俺たちの存在すら、もう覚えていないかのように。


その狂乱の音が、徐々に聞こえなくなっていく。木々のざわめきが収まり、その生物の叫びが遠ざかっていく。


まるで地獄のように感じられた一瞬の間、空気そのものすら動くことをためらう。


鳥が一羽、さえずる。


虫が一匹、交響曲を鳴らす。


森が再び落ち着きを取り戻していく。まるで何事もなかったかのように。穏やかに、静かに。まるでこれが地獄でのただの火曜日だったかのように。


鳥たちは、数秒前まで死の淵にいたことなど忘れたかのようにさえずる。風が再び吹き始める。まるですべてがリセットされたかのようだ。この場所は表裏一体のコインだ――何も知らない者には、片面しか見えないもの。穏やかな森、その内側に地獄のようなモンスターを隠している。


それはまた、動物たちの回復力の証でもあった。あれほどの恐ろしい災厄に見舞われた後も、彼らは自分たちの生活へと戻っていく。


ナヴィが後ずさり、俺の顔から手を離し、重いため息をつきながら後退する。キュロスが今、彼女の隣に立ち、あの生物が向かった方向を見つめている。


「へえ、危なかったな――」


バシッ!!


頭が後ろに弾かれ、泥の中に崩れ落ちる。


「痛っ! 何すんだよ、それ!?」頬を押さえながら口をとがらせる。


もう泥まみれだ。頬がひりひりする。プライドも大してマシな状態じゃない。


ナヴィが俺の上に立ち、拳を握りしめ、完全に怒り狂っている。


「あんた、頭おかしいの?! あたしたち全員殺されるとこだったのよ!」


「あ、そう? じゃあ、枝を二回顔に当てられたお返しってことでどうだ!」


「何言ってんの?! 冗談言ってる場合じゃないでしょ! あんたのせいで死にかけたのよ!」


一瞬、怒鳴り返したくなる。拳を握りしめる。だが……


彼女の黄色い瞳を見る。怒りに眉をひそめている。キュロスは彼女の後ろに立ち、この光景に困惑しつつも、同じくらい沈痛な様子だ。


少女の手が、震えている。


「……悪かった」ようやく呟く。視線は泥に固定したまま。


一瞬、ナヴィが俺を見つめる。まるで何か他のことを言いたいが、その決心がつかないかのように。


代わりに、彼女は鋭く振り返る。まだ怒りが収まっていない様子で。


「その謝罪、空っぽなものにしないでよね」


体を起こし、服から泥を剥がす。うわ。全身がびしょびしょでべたべたして、何か死んだもののような臭いがする。


キュロスに目をやる。彼はこちらに奇妙な視線を向けている。驚いているのか?


「カイト、大丈夫ですか?」


正直、もし彼に耳や鼻があったなら、本当にゴブリンだと信じられたかもしれない。だが彼には標準的なゴブリンの特徴のほとんどが欠けている。というか、全部だ。


それに、そもそもこの世界で「ゴブリン」なんて単語を考え出したのは誰なんだ? 誰か、それを考えたことあるのか?


「カイト」


「……ん? 何でもない。ちょっと嫌な考えが浮かんだだけだ」


彼を手で払いのけ、少し笑おうとする。


「さ、進もう、ゴブリンさん」


すでに前へと進み始めているナヴィの後についていく。


道に戻る。あの哀れな子供たちを救うために。主人公とその愉快な仲間たち。


ああ、いや、俺は主人公なんかじゃない。


まあ、魔法を使える少女と話せるゴブリンを連れ歩いてる人間なんて、そう多くはないだろうから、少なくとも俺も、いくらかは特別なんじゃないか? 少しくらい自慢げになったって、悪くはないよな。


銃声が森の開けた場所に響き渡った。鋭く、規則的に。コルスのリボルバーの弾倉から、熟練の精度で、弾丸が次々と放たれていく。


✧ ✦ ✧


およそ二発が発射されていた。


ワイトは滑らかに動き、コウガが投げつけた巨大な石を回避した。コウガはその遠距離攻撃に対して報復していた。相手が力に物を言わせる一方、コルスは距離を保ち続けた。その優位性を保っている限り、流れは彼のものだった。


戦術的には理にかなっていた。だが、心の奥底で、コルスは罪悪感がにじみ出るのを感じていた。戦いには名誉があるはずだった。そして、これはそれとはかけ離れていた。


彼は第二解放を使うこともできた。セヴェラントに秘められた、より大きな力を引き出すことも。だが、彼のアルカナは限られていた。危険なほどに。


今、第二解放を使えば、無防備になってしまう。


崩れかけた枝から身をひねり、別の枝に軽やかに着地した。ためらうことなく、再び発砲した。銃声が響いたが、空中でコウガのガントレットに阻まれた。


三発目。


もし狙いを定める時間があれば、もっと正確に撃てるはずだと感じていた。一般的な知識とは裏腹に、二丁の銃を使いこなすのは極めて難しい。まず反動と、先に発射した主銃の安定性を利用し、その勢いを使ってもう一丁を撃つ必要がある。


両方をやみくもに、あるいは間違った順序で撃てば、両腕がずれてしまい、そのわずかな失敗が即死をもたらす。


「逃げ回るとは、臆病な獣だな、ワイト! お前たちの種族は、どんな状況でも戦うべきものだろう!」男が咆哮した。「降りてきて正々堂々と俺と向き合え、コルシャク!」


その言葉を強調するように、コウガは拳を地面に叩き込んだ。蜘蛛の巣状の亀裂が大地を引き裂き、コルスの下の木がバランスを崩して傾いた。


ためらうことなく、コルスは森の地面へと飛び降りた。


「もし白兵戦であなたと戦ったなら」彼は呼びかけた。「あなたが間違いなく私を倒すでしょう」


コウガは唸り、胸を叩いた。


「死を知ってなお剣を抜く。それこそが真の戦士の証だ!」


コルスは低い姿勢を保った。


コウガは指を構え直した。


「……ならば、私は戦士ではないと認めなければなりません」


彼はもう一発発砲した。今度は実験的な一発――着弾よりも反応を測ることを目的としたものだった。予想通り、弾丸は着弾する前に逸らされた。それはコウガの頬をかすめたが、彼から痛みの兆候は見られなかった。


四発目。


パターンから生まれる生物は、しばしば弱点――その存在の織り目における脆さを持っており、それを突けば一瞬でその存在を破壊できることがある。これは「ホローポイント」と呼ばれていた。強い者ほど、そのホローポイントはあからさまになる。だが、その欠陥を見抜くこと自体が難題だった。稀有な技能を持つ者、あるいはそれ以上の何かを持つ者だけが、それを見ることができた。


死んで生まれたコルスには、そうした制限はなかった。


セヴェラントのリボルバーの照準を通して、彼はパターンを煙と影の糸として知覚していた。集中した黒い点は、しばしばそうした弱点の指標だった。だが、あまりに深く覗き込むことの代償は大きかった。彼の魂は、「見るべきではないもの」をあまりに長く見つめることで、甚大な代償を被ることになる。


コウガはわずかに首を傾けた。「お前のその武器」彼は言った。「今まで見たどんな武器よりも速い。俺がそれに対抗するには、かなりの力を振り絞る必要がある。名前は何という?」


コルスはためらった。だが、この男の誠実さを信頼するようになっていた。結局のところ、戦場で名前を分かち合うことには、ある種の名誉があった。


「ドゥーム・アンド・グルーム」彼は答え、両方の武器をくるりと回した。艶消しの黒い表面に太陽が反射した。


コウガの胸から、深く低い笑いが漏れた。


「ふさわしい名だ。ならば、俺もその礼を返さねばなるまい」


彼は前へと進み出て、拳を上げ、広く低い構えを取った。


「ヘルター・スケルター」


コルスは目を細めた。何かがおかしい。ガントレットしか身につけていないにもかかわらず、彼はまるで長射程の武器を持っているかのように、あらゆる方向からの弾丸を逸らしていた。彼のガントレットはかなり短く、そのような芸当を行うのは非常に奇妙だった。


「コルシャク」コウガが突然言った。


「?」


「お前はすでに、俺の間合いに踏み込んでいる」


コルスは緊張した。


そんなはずはなかった。二人はまだ数歩離れていた。この距離では、コウガの拳が届くはずが――


「ヘルター・スケルター」コウガが再び唱えた。


コルスの目が見開かれた。戦士の左腕が痙攣し、激しくねじれていった。肉が波打ち、歪み、金属が筋繊維の中に織り込まれていった。ほんの数瞬のうちに、腕全体が刃と化した――巨大で、ギザギザで、不自然なまでに長い。


咆哮とともに、コウガはその武器を持ち上げた。


「んんんっ!!!」


その変化の圧倒的な重さが、地面を引きずり、線を刻んだ。それはコルスの姿の上空に舞い上がり、太陽を遮った。それは巨大で、コウガ自身の姿さえも覆い隠すほどだった。


これがコウガのセヴェラントの機能なのか? それとも、彼はすでに第二解放を放っていたのか?


いや、これほど早く第二解放を放つのは極めて浅慮であり、敗北を招くことになる。


「うおおおおおおっ!」


刃が振り下ろされた。


コルスはぎりぎりのタイミングで飛び退いた。武器が地面に叩きつけられる。その衝撃で木々が根こそぎ引き抜かれ、周囲の地形が粉砕された。土埃と瓦礫があらゆる方向に爆発的に飛び散った。


巨大なクレーターが、突如として大地に傷跡を残した。


コルスは無傷のまま煙の中を進んだ。リボルバーは構えたままで、マントが余波の中でなびいていた。彼には見るための目は必要なかったが、虚無を貫くその視覚をもってしても、瓦礫で塞がれた空気を見通すことはできなかった。


もやを見渡した。風が周囲で唸っていた。


そして――光。


土埃がわずかに割れた。太陽ではない。煙の切れ目でもない。


「カチッ」


コウガだ。


彼が霧の中から現れた。左腕は今や、有機的に脈打つ関節を持つ、長い刃のついた鎖と化していた。彼はその武器を水平に振るった。


コルスは回避し、一発で反撃した。コウガは動きの途中で鎖を引き戻し、その一撃も再び逸らした。


土埃が再び彼を飲み込んだ。


そして、沈黙。


動き。


カチッ。


背後だ。


コルスは鋭く振り返った。


コウガは再び姿を現していた。右腕は今や巨大な槌へと形を変えていた。一撃が振り下ろされる。コルスはその下をかいくぐり、脚を狙って払ったが、敵は普通の人間を遥かに超えた、常軌を逸した速さで反応した。


コルスは再び発砲した。


だがその姿は、すでに霧の中に消えていた。


カチッ。


上。


バン。


「なるほど……彼は、こうしようと……」コルスは呟いた。


ついに、煙が薄れ始めた。光が再び木々の間から差し込み、小さな開けた場所を露わにした。


揺れる緑の草だけが、彼の問いへの答えだった――


敵は、どこにいる?


敵の隠密性を理解し、コルスは後方へと駆けた。時間を無駄にせず、彼の姿を完璧に隠す大きな岩の陰に身を潜めた。


熟練の速さで、両方のリボルバーを弾き開けた。使用済みのシリンダーが排出され、煙を引いた。


今この瞬間、装填が最優先事項だった。弾切れを起こせば、確実に破壊されるだろう。


警戒を怠らない必要があった。装填した瞬間、敵は攻撃を仕掛けてくるはずだった。


低い笑いが、頭上から響いた。


「げへへ」


岩の上に腰かけたコウガが、彼を見下ろしていた。再び刃と化した腕が、丸まって下向きに構えられ、攻撃の準備を整えていた。彼の首は低く垂れ、視線はまっすぐコルスに固定されていた。その大柄な体で、そのような極端な姿勢を取っている様子は、実に驚異的だった――彼の鍛錬の証だった。


「お前の負けだ、コルシャク」


「もし送りたいメッセージがあるなら、今がその時ですね」


「どうやってお前は――」


「私はお前の手を強制した」コウガが遮った。「お前に弾を全て無駄撃ちさせた。装填を待った。物陰へと追い込んだ」


彼の口調には、勝ち誇った様子はなかった。絶対的で、冷静だった。


蛇のような動きを見せる青い刃の付属肢が、頭上で揺れていた。


「これは、素人だけが犯す過ちです」コルスは落ち着いて言った。「私は素人ではありません」


コウガの表情がわずかに揺らいだ。握りが強まった。


「何が言いたい? お前にはもう選択肢がない。これで終わりだ。弾は尽きている」


刃のついた付属肢が後方に構えられた。


「私が本当に弾切れだと、確信していますか?」


コウガは、相手が自分を操っているのだと確信していた。自分がわずかな計算違いを犯したのだと思わせようとしているのだと。


「これ以上、なぞなぞは聞かん。死ね」


刃を持つ腕が、前方へと突き出された。


だが、コルスは動かなかった。びくりともしなかった。その虚ろな目は静止したまま、いつもと変わらず落ち着いていた。


これは覚悟なのか。受容なのか。それとも、何か別のものなのか。


「メッセージなら、ございます」コルスは冷静に言った。


コウガの一撃が、途中で止まった。


「何?」


コルスは片方のリボルバーを、わずかに持ち上げた。


「銃身を確認してください」


コウガの目が見開かれた。


バン。


男の頭が後方へと弾かれた。雷のような形をした裂傷が、顔の右半分を割った。皮膚と筋を引き裂いて。血が自由に流れ出た。暗く、濃厚で、油の上に浮かぶ脂肪の破片のように混ざり合いながら。目はもはや無事ではなかった。その形は弾丸によって破壊され、頬を伝う粘性の跡へと変わっていた。


その血肉の下には、まだ繋がった状態の、引き裂かれた顔面の筋の筋繊維が見えていた。


衝撃が包帯を引き裂き、顔の一部を露わにしていた。


「貴様――!」彼は咳き込んだ。声は割れ、血と唾液が口から垂れていた。


「シリンダーを空にしただろう! 確かに見た!」


「もし本当に確信していたなら」コルスは冷たく答えた。


「あなたは、この状況に陥っていなかったはずです」


「貴様、卑劣な野郎だ!! 殺してやる!!」


コウガは前へと突進した。怒りが、あらゆる警戒心を飲み込んでいた。彼の右腕がねじれ歪み始め、その怒りを反映した、不定形の塊へと変貌していった。


コルスは、自分の手法の矛盾を理解していたが、それを正当だと見なしていた。相手が先に煙と欺瞞を用いたのだ。すべては、公平だった。


「ドゥーム・アンド・グルーム」


その詠唱は、屋根から滴る水のように、静かで穏やかだった。


その瞬間、コルスの双子のリボルバーの背面にある紋章が、不気味な紫色の光を放って輝いた。それらは激しく振動し始め、彼の手の中で震え始めた。


コウガは、武器化した手足をコルスの体に突き刺す寸前で、突然、動きを止めた。


彼自身の意志によるものではなかった。


彼は宙に吊るされていた。


彼の目が見開かれた。


「?!」


彼は動こうとし、うめき、唸ったが、何か目に見えないものが彼を完全に縛りつけていた。


それは、凄惨な光景だった。


「コルシャク! お前……お前、俺に何をした!?」


コルスは片方のリボルバーを回転させ、目の高さに掲げた。照準を通して、彼はそれをはっきりと見た――手の形をした影、黒く鉤爪のような、コウガの手足と胴体を包み込んでいる。それらは彼を締め付け、意図的な力で上方へと引きずり上げていた。


それらのオーラは悪意を放ち、指の一本一本から、息が詰まるような圧力が発せられていた。


それらは彼を、以前立っていた岩の頂へと引き戻した。


「くっ――放せ!」


「これが」コルスが言った。「ドゥーム・アンド・グルームの能力です。全身の反転」


ドゥーム・アンド・グルーム、A級のセヴェラント。それは単純だが、破滅的な規則をひとつ持っていた――もしシリンダーの最後の一発が命中すれば、使い手はその力を発動できる。標的は、その一撃を放った瞬間の位置へと強制的に引き戻され、しばらくの間、その場に縛りつけられる。無防備な状態で、とどめを刺されるのを待つしかない。


以前の姿勢に戻されたコウガは、拘束に抗ってもがいた。だが、その反転は保持されたままだった。絶対的なものだった。


「貴様――!」


コルスは左のリボルバー――「グルーム」と呼ばれるもの――を、コウガの頭蓋骨へとまっすぐに向けた。


「で、ウィキペディア先生、あれは一体何だったんだ?」尋ねる。


今、俺たちはこの地下ではめったに見ない光景――開けた場所で休息を取っている。緑の草が四方に広がり、幽谷の冷たい風に揺れている。この光景は、奇妙なほど平和だ。俺たちは今、第六層にいる。


もうすぐだ。キュロスによれば、第七層はここまでの中で最も危険らしい。正直、俺たちがこれほど速く進めていることに、少し驚いている。降下を始めてからまだ一日しか経っていないが、まあ、この場所を手のひらのように熟知している地元のガイドがいれば、そうなるものなんだろう。


もし誰かにこの一帯を説明するとしたら、俺は「一連の巨大なプラットフォーム」と呼ぶだろう。それぞれが独自の生態系で、深淵の上に浮かんでいる。その下には? ただ果てしない、光のない深さがあるだけだ。長く見つめていられるような深さじゃない。


俺個人としては? あの下に何があるにせよ、恐ろしくてたまらない。


幸い、橋がすでにほとんどのプラットフォームを繋いでいる。古いもので、おそらく俺たちよりずっと前にここへ降りてきた探検家たちが作ったものだろう。キュロスによれば、その探検家たちの一部はまだ生きているかもしれないが、あまりにも深く埋もれてしまって、もはや大地の一部と化しているようなものらしい。


それは想像もつかない。完全な暗闇の中で生きるなんて。太陽もなく、空もなく、ただ果てしない黒だけ。ある時点で、たぶん光というもの自体を忘れてしまうんだろう。


彼らは戻ってこないから、もうこの谷に適応してしまったんだろうと思っている。まあ、それも彼らにとってはいいことなんだろう。ああ、俺は幸せなほど無関心になっている。


「あの生物については存じません」彼が、先ほどの俺の質問に答える。「あのようなものを見たのは初めてです」


うめく。


「最高だな。お前でさえ、あの類人猿もどきが何だったのかわからないのか」


「やめなさい」ナヴィの声が割り込む。


彼女は少し先に立ち、橋の向こうの次のプラットフォームを見つめている。長い橋だが、次の一帯を示す巨大な木が見える。空を背景に、不気味なシルエットを描いている。


「キュロス」彼女はゴブリンの方を向いて呼びかける。


「第八層まで、あとどれくらい?」


キュロスは、いつも通り落ち着いた声で答える。「およそ、あと一日でしょう」


彼女は頷き、腰に両手を当てながら、ゆっくりと息をついて谷を見渡す。


「カイト」彼女が言う。俺の方は見ずに。「捕まえた魚、まだ持ってるでしょ。後ろのポケットに」


自分の名前を呼ばれたことに不意を突かれ、一瞬ためらってから、ぎこちなく探り始める。


「もう腐ってるんじゃないか?」


「いいから、やって」


少しもたつく……あの魚、でかかったんだよ、いいか? 後ろポケットに突っ込んだこと自体が、そもそもの間違いだった。今取り出そうとすると、ただ間抜けに見えるだけだ。尻でぐるぐる円を描きながら、必死に引っ張り出そうとしている。


「あんた、ほんと役立たずね」ナヴィが言いながら歩み寄り、左足を俺の尻に乗せて、三匹すべてを一気に引っこ抜く。


よろめきながら、転びそうになるのを堪える。


「頑張ったんだよ、いいか? 魚はポケット収納向きにできてないんだよ」


「よし」彼女が宣言する。「今夜はここで野営する。疲れた」


ああ、そう、お前が疲れたときは休むのか、でも俺が疲れてるときは休まないんだな?


太陽が沈み始めている。幽谷全体がオレンジ色に輝き、長い影を落としている。遠くの生物の鳴き声が静けさへと消えていき、草はまだ、柔らかく揺れている。一本の木が、開けた場所の左手に佇んでいる。唯一の目印だ。


「そこ」ナヴィが指差す。「焚き火を用意して」


「お前、火の力持ってるだろ?」


「焚き火を、用意、して」


ため息をつく。「はい、女王様」


「――?」


「……待て、そもそも木、どこから調達すればいいんだ?」


「あの木からに決まってるでしょ」


「何で? 俺の爪で?」


「うわあああ……」


「エアロニス2、斬」


パチパチと燃える火の音が耳に残り、燃えさしが夜空に向かって、小さな橙色の精霊のように舞い上がっていく。周囲では、闇があらゆる方向から押し寄せている。光は残っていない。ただ、あの奇妙な月だけが、空に浮かんでいる。


ナヴィは近くに座り、丹念にサーベルを手入れしている。今日一日を経て――汚泥まみれの森を切り抜けてきた後だから、彼女がそれを完璧にしたいと思うのも無理はない。


キュロスは少し離れた場所、開けた場所の端に腰を下ろしている。彼は無言で、幽谷の広大な広がりを見つめている。


かわいそうに。彼が持っていたすべてが、奪われてしまった。だからこそ、俺はここにいて、彼がそれを取り戻すのを手伝おうとしているんだ。


俺は火の前に座り、先ほど釣った魚を回している。それぞれが尖らせた枝に刺され、炎の上で均等に焼かれている。どれも普通のマスに似ているが、真ん中の一匹だけは違う。深い紫色で、太くて、光沢があって、ただ見るからに美味しそうだ。それは俺自身が、他とは離れた場所で釣ったやつだ。それが、さっきポケットから引っ張り出すのに苦労した理由でもある。


ナヴィが何も言わなかったのが意外だ。まあ、単に興味がなかっただけかもしれないが。


その紫色の魚を指でつつく。温かいが、もう熱くはない。あえて最初にそれを焼いておいたのは、一人でじっくり味わうためだ。


鱗はすでに緩んでいて、押すと身がぷるぷると揺れる。口の中に唾液が溢れる。それを持ち上げ、迷わずかぶりつく。


仲間たちの様子をちらりと見る。二人ともまだそれぞれのことに没頭している。得意げにニヤリと笑う。


「食おうぜ」魚を頬張りながら呟く。


がっつくように、機械的な速さでそれを食い尽くす。骨が破片のように口から飛び散る。二人より大きい取り分を食べているところを見られたくないから、急いで食べる。本当に急いで。


味は最高だ。柑橘系のような、後味の効いた酸味がある。レモンがあれば完璧だっただろう。それでも、地下の生態系で獲れたものにしては、地上で食べたどんなものよりも美味い。


食べ終わると、草の上に仰向けに倒れ込む。


完全に満腹だ。


二人を呼ぼうかとも思うが、動くには満腹すぎる。片腕で体を支え、地面に手のひらを押し付ける――


そこで、体が固まる。


パキッという音がする。


筋肉が引き裂かれ、ねじれるような、湿った音が頭の中に響く。空気が重くなる。本能的に、火から後ずさる。


そして、また現れた。


白い頭蓋骨の紋章。俺の目の前の地面に、かすかに光っている。


また未来を見ることになるのか?


慎重に身を乗り出し、その紋章をより詳しく調べる。前と同じものだ――大きな輪に囲まれた青白い頭蓋骨、その周囲には奇妙なルーン文字が刻まれている。


前回これを見たときのことは……まあ、あまり話したくない。だが今度は、ただ起こるがままにはしない。警戒を怠らないでおく。


「おーい、みんな! マス焼けたぞ!」呼びかける。


今度は、彼らにも見えるかもしれない。


ナヴィが気だるげにサーベルを鞘に収め、歩み寄ってくる。


キュロスも立ち上がり、こちらへとやってくる。


二人が火の周りに集まると、それぞれの分を配る。


「これはお前のだ」キュロスに魚を手渡しながら言う。彼の鉤爪の手が、それを優しく受け取る。


彼は唇がないにもかかわらず、驚くほど行儀よく食べる。実際、俺が今まで見てきた大半の人間よりも上品だ。彼は本当に「ゴブリン」という言葉の意味を綺麗さっぱり洗い流している。


「そしてこれは――」


言い終える前に、ナヴィが何も言わずに自分の分を掴み、食べ始める。無礼だが、まあ我慢できる。それに、皮肉のひとつも言う気力もないくらい疲れている。


「カイト」キュロスが、噛みながら言う。「あなたの分は、どこですか?」


「ハハ、俺はもう食べたよ」頭を掻きながら答える。


二人を交互に見る。頭蓋骨はまだ光っている。俺たちの間に、はっきりとそこにあるのに、どちらも反応しない。何も。


「お前ら、あれ、見えないのか?」ついに尋ねながら、頭蓋骨を直接指差す。


ナヴィが軽く視線を上げ、俺の指をたどり、それから退屈そうな表情で食事に戻る。


キュロスも同じように目を向けるが、首を振る。


「一体、何のことをおっしゃっているのですか?」


「光る白い頭蓋骨だよ! すぐそこにあるだろ!」


「無視しなさい」ナヴィが呟く。「あいつはただ注目されたいだけよ」


「作り話じゃない!」


沈黙。


「カイト」キュロスが優しく言う。「おそらく、単に疲れているだけでしょう。長い一日でしたから」


「幻覚なんかじゃない! すぐそこに、お前らの目の前にあるんだ!」


食べ終えた骨が、鈍い音を立てて地面に落ちる。


ナヴィが食べ終わっている。


「あたし寝るわ」立ち上がりながら言う。「日の出とともに出発するから」


キュロスが頷き、最後の一口を飲み込み、彼もまた立ち上がる。


「私も休むといたしましょう」


彼は開けた場所の端へと歩き、横向きに寝転がって星を見つめる。ナヴィはコートを脱ぎ、どこか別の場所へと向かう。おそらく、いつものように一人で眠るためだろう。


俺は火のそばに残り、頭を抱え、髪に指を走らせる。


「イライラする……」


頭蓋骨が俺を見つめている。文字通りではないが、そう感じる。まるで、ほくそ笑んでいるかのように。


もう二度と、あんな経験はしたくない。


脚が落ち着きなく揺れる。じっと座っていられない。ついに、両頬を叩いて無理やり立ち上がる。


警戒を怠らなければ……何も起きないはずだ。


拳を握りしめる。


そうだ。運命なんて、俺には敵わない!


……睡眠を除いては。


あくびが出る。


火はまだ燃えている。放置してはいけないとわかっているが、燃え広がるほど近くに木もない。それでも、念には念を入れておこう。目が覚めたら炎に包まれてました、なんてことにはなりたくない。


炎を踏み消し、世界を闇に沈める。燃えさしが夜の中へとゆっくりと消えていく。その役目を終えて。


どこで寝ようか。


視線が、平原の端に立つあの一本の木へと漂う。低いが、この広大な平原ではそれなりの高さを感じさせる。


あそこでいいか。


歩み寄っていくと、この風景の非現実的な美しさが、じわりと心に染みてくる。故郷では、こんなものはありえなかった――巨大なプラットフォーム、底なしの深淵の上に浮かぶ森全体。そこには、どこか薄気味悪くも美しい何かがある。


木の下に腰を下ろす。草が優しく体を支える。


まるで、この世界が、俺に対してしてきたすべてのことを、謝ろうとしているかのようだ。


俺はここでは騒がしくて、時にはうざったいくらいだけど……本当は一人でいるのも嫌いじゃない。あの、昔ながらの静かな「カイト」に戻ることも。俺はいつも、夜の公園に座って、通り過ぎる人々を眺めているようなタイプだった。月を眺めながら。


自分の手を見つめる。


もしかしたら、俺は本当にうざいのかもしれない。


「おい」


背後から声がする。飛び上がる。


ナヴィだ。木の反対側に腰を下ろしている。


「これ、あたしの木」


「ああ、悪い――どく」


「別にいい。あんたの顔さえ見なくて済むならね」


「……そうか」


二人の間の沈黙が、気まずい。


「つ、月、今夜は明るいな」


「いつもと同じでしょ」


「ああ、そうだな……ただ会話しようとしただけだ」


彼女がため息をつく。「カイト。さっき、何があったの」


「どこで?」


「あれよ。あの生物。あんた、今にも崩れ落ちそうな顔してた」


「ただビビっただけだよ、それだけ。俺だって人間なんだよ、時々すごいところ見せてるけど」


くすっと笑い声。


本物の。


いや、違う。それは、俺が今まで聞いた中で最も皮肉で意地悪な笑い声かもしれない。もう殴られた方がマシなくらいだ。


「あんた、ほんと自分に自信ありすぎ」


「はいはい。俺が超強い能力に目覚めるまで、待ってろよ」


「あん――」


「なあ、ナヴィ」


「何」


「俺、時々うざいか?」


「『時々』? どっちかっつーと、ずっと、よ。マジでムカつくから、ガキ」


俺の方が年上だよ!!


「まあ……悪いな」


「――!」


彼女が、驚いたような声を漏らす。ほとんど戸惑った「え?!」のような。


明らかに、もっと意地悪なことを言おうとしていたのに、不意を突かれたようだった。


「ああ、本当に。もしお前らに迷惑かけてるなら、そんなつもりはないんだ。ただ、時々張り切りすぎるだけで」


「そ、そう……まあ……調子に乗りすぎないでよね」


成功だ。会話がその話題から逸れていく。彼女の気がそれている。


「でも、意外だな」


「何が」


「危険な状況でも、そんなに冷静でいられるってこと。お前が本当に強いのは明らかだよ、ナヴィ。いや――お前はすごいよ」


返事がない。


「……あんたが思ってるほど、あたしは大したもんじゃない」


「かなり疑わしいな。もしお前が弱いなら、俺なんて底辺以下だ。いや、底辺の下だ。地面の床板の下、って感じだな」


「や、やめなさいよ、変におだてても。寝なさい。そんなの効かないから」


彼女は動揺している。わかる。声は苛立ってるふりをしているが、明らかに、こんな風に褒められることに慣れていない。


それに、たとえ冷たく振る舞っていても、彼女みたいな人間には、時々何か優しい言葉が必要なんだと思う。


それに、俺の命は文字通り彼女の手の中にある。首に本物の電撃首輪がついてるんだから。


「……魚、美味しかった」


「え?」


「あたしを困らせるのやめなさいよ、もう! 寝なさい、じゃないとまた頭に一発お見舞いするわよ!」


「はい、了解です!」


雪女ビッチュめ。


木にもたれて頭を後ろに預ける。樹皮が髪を軽くこすり、その荒々しい感触が、俺を現実に繋ぎ止める。目を閉じる。闇がまぶたの内側で脈打つように感じられ、ゆっくりと、深く体を包んでいく。


そして、ゆっくりと、意識が薄れていく――


――静かな眠りの抱擁の中へと。


✧ ✦ ✧


マイ ストマック イズ キリング ミー


喉から獣じみたうめき声が漏れ、目が勢いよく開く。体が前に痙攣する。すべてが静止していて、冷えつつある燃えさしのかすかなシュッという音以外、何も聞こえない。月はわずかに空の位置を変えている――少しの時間しか経っていない。


みんな眠っている。世界は静かだ。


だが、俺は違う。


胃がまた捻れ、体の中で金属のワイヤーの塊のように収縮していく。自分自身の中に丸まっていく。草の上で胎児のように体を丸め、両手で腹を掴む。爪が布地に食い込み、必死に楽になろうとする。


俺の胃が。死にそうだ。


痛みが鋭くなる。それが叫んでいる。じっとしていられない。まるで死にゆく動物のように草の中を転がり、痙攣し、呼吸がぎざぎざで必死になる。頭が滑り落ちていく。思考はない――ただ、生の感覚だけがある。パターンもない。理解もない。


ただ、痛みだけがある。


静かな悲鳴が喉から爆発し、口から嘔吐物が噴き出す。草に、半分消化されたマス、胆汁、胃酸が飛び散る。指がもう一度喉の奥に押し込まれる。まるで何かを掻き出そうとするかのように。もっと。


出さなきゃ。もう一度えずく。熱く、黄色く、酸っぱい。それが腕に、胸に、シャツに飛び散る。えずきながら同時に叫ぶ。


死ぬ。本当に、死んでしまう。


あらゆる場所から、あらゆる穴から、体液が噴き出す。ズボンはびしょ濡れだ。シャツは体に張り付き、血と唾と小便と嘔吐物の混合物にまみれて貼りついている。すすり泣きながら、あえぎ、乾いた嘔吐を繰り返し、自分自身の汚物の中で我を失う。痛みはさらに強まっていく。止まらない。体の中で何かが動いている。ねじれている。うごめいている。腹の中を這っている。


「カイト! 俺が助けてやる!」███が叫ぶ。


「た、頼む……」ほとんど話せないまま懇願する。口の中がまた満たされる。四度目、草に向かって嘔吐する。震えながら、残っているものすべてを吐き出す。「死ぬ……死んじゃう……」


彼が隣にしゃがみ込み、俺の腹を両手でさする。その肌は冷たく、湿っている。裸だ。いつものように。彼の笑みは大きく、凍りついている。彼は俺を助けたがっている。いい奴だ。


「治す方法がある、カイト。取り出す方法を知ってる」


「何……何なんだ……?」


「あいつらを殺さなきゃいけない。ナヴィ。キュロス。あいつらはそれをお前から隠してる、治療薬を腹の中に隠し持ってるんだ! それしか方法はない!」


熱い血が耳に押し寄せる。世界が色を帯びて脈打つ。もう、何が現実なのかわからない。星が油のように滴っている。木々が逆さまだ。草がうなっている。土の中から囁きの合唱が湧き上がる。燠火が青く光る。


「急げ、カイト! 殺せ! 殺せ!!」


皮を剥がれた男が、両腕を完璧なT字に固定したまま、微動だにせずに現れる。潰れた金属のような声が加わる。


「そうだ! 急げ!」


「やるよ!!」叫ぶ。爪を立てて体を起こす。全身が制御不能に震え、脚は濡れた縄のようだ。


神様。


俺の胃が。裂けそうだ。何かが出てこようとしている。


キュロスに向かってよろめきながら進む。世界が斜めに傾いている。木が俺の横を疾走していく。ナヴィの眠っている体が、その樹皮に優しく揺れながら――走っている。


泥に顔から突っ込み、それから這う。口が泡でまみれる。笑いながら泣きながら、同時にえずく。


キュロスは静止している。


安らかに。


彼の上に覆いかぶさる。俺の体から汚物が彼の胸に垂れる。指が震える。


「ナイフがない……」


「工夫しろ!」


石を掴む。何か鋭いもの。ギザギザした、原始的な石。重い。完璧だ。


高く振り上げる。


そして振り下ろす。


バキッ。


一度。二度。三度。彼の頭蓋骨が割れる。骨が柔らかく湿った肉へと砕けていく。血――黒く、タールのように濃い――が噴き出す。頭が陥没し、紙のように折れ曲がる。


彼は目を覚まさない。


ぴくりとも動かない。


俺は叫びながら石を彼の胴体に叩き込む。皮膚と筋を切り裂きながら、何かが崩れる感触がするまで。指がその穴に沈み込み、肋骨と温かい組織を通り抜けていく。


そこだ。


真珠。白と緑に輝く光る球体。それが、命のように脈打っている。


血まみれの手でそれを掴み、口に押し込む。


飲み込む。


何も変わらない。


「早く! ナヴィを殺せ!」


再び叫び、走る。黒く汚れた草の中をよろめきながら、自分自身の吐瀉物の中で滑りながら。木が戻ってきている。ナヴィがその根元で穏やかに眠っている。月光が彼女の頬の輪郭を照らしている。彼女は輝いている。夢を見ている。無垢だ。


その白い肌は、彼女をまるで人形のように見せている。


彼女はこの世界に属していないように見える。あまりにも綺麗すぎる。あまりにも穏やかすぎる。


彼女のそばに膝をつく。


見つめる。


そして、両手を彼女の首に巻きつける。


優しく。


そして、絞める。


ギシ。ギシ。


彼女の目が驚愕して見開かれる。口が動くが、言葉は出てこない。手足が弱々しく痙攣する。手が俺の手を引っ掻くが、力が足りない。空気が足りない。血が足りない。わかっている。わかっている。


「寝てりゃよかったんだよ、このビッチ!!」


彼女があえぐ。


目が、赤くなる。


そして、静止する。


彼女は動かなくなる。だが、目を閉じない。それは俺を見つめ続けている。信じられないという思いに満ちて。恐怖に。断罪に。


そんな目で見るな


彼女を打つ。頭がだらりと垂れる。開いた口から一筋の唾液が漏れる。彼女は、ぼろ人形のように地面に崩れ落ちる。


「カイト! もう手遅れだ! あいつが来る! 跳べ!!」


振り返る。走る。崖の端が近い。


空が色に裂ける。雲の中で顔が叫んでいる。星が俺の名を唱えている。


「そうだ! そうだ! 跳ぶ!!」


そして、俺は跳ぶ。


崖の端から走り出て、深淵へと飛び込む。


ようやく、自由になった。


ようやく、治った。


╔════════════════════════════╗


||生 命 消 尽||

「BL00DLO_00SS」

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