終章
「よし、ヒットだ」自分の二枚のカードを見つめながら、静かに呟く。
スペードの2と、ハートの8。合計10、ヒットが今必要なやつだ。
緑髪の女性、ディーラーが、もう一枚のカードを滑らせてくる。それをめくると、スペードの5が現れる。15。
「スタンド」アザが鼻歌交じりに言う、自分のカードに満足そうな様子で。
ああ、くそ。
ディーラーが自分の伏せカードを開示する、表向きにする。ハートの9だ、つまり19。
「はっ」アザが宣言し、自分のカードをテーブルに投げ出す、合計20を明かしながら。彼女は素早く自分の取り分を取り、その過程でテーブルに身を乗り出す。それから素早く、全部を独り占めし、微笑む。
くそ……
この喪失感。それがゆっくりと、ゆっくりと体を蝕んでいく。それなのに、俺の一部は、リスクを知りながらもプレイし続けたいと思っている。どうやっても、止められない感じがする。
もう一回負けたら、鈴井くんは残りの人生ずっとハウスペットのままだ! でも、それでも興奮してくる……
口を開き、笑い始める、拳を握りしめながら――
「待て待て、鈴井って誰だよ!?」
「それに、なんで俺、邪神とブラックジャックしてるんだ!?」
「影くりの引用の方が大きな問題だと思うけど……」アザが呟く。
指がディーラーの方向へと飛んでいく。
「それに、そいつは一体誰なんだ!?」
ディーラーが手を上げる。「代行死神、クロサ――」
「んなわけあるか!!」「ヒット!」アザが叫ぶ。
「まだプレイしてるのかよ!!」ため息をつく。今起きていることに騒いだところで、状況がはっきりするわけじゃない。この時点で、自分の新しい二枚のカードにすら気づいていない、合計14になっている。
「ヒット」眉を上げる。
「待て、お前ってほとんど全知だろ、ディーラーが何のカード持ってるかわからないのか?」
「いいえ、絶対にそこまで卑劣なことはしないわ! それじゃゲームの意味がなくなっちゃうでしょ、バカね!」
「ああ」そうだよな、ゲームの概念というのは、基本的に何が起こるかわからないという事実に基づいていて、それがあのドーパミンの高まりに繋がる。アザが、完全にできるにもかかわらずイカサマをするタイプだとは思わない。それは、権力の座にある者でさえ、弱者に「勝つチャンス」を与えるために、さらに身を低くできるということを示している。
視線が自分のカードから彼女の体へと動く。
覗き見してるじゃないか!! 両腕を天に向かって放り出す、うんざりしながら。
まあ、主に俺が限度を超えてしまったからだけど。カードが俺を裏切った、俺の姿から発せられていた運の波が、ゆっくりと死んでいく。また負けた。いや、待て、これは公平に負けたわけじゃない!
「あの子はリリーって呼んでいいわよ。だいたい、私がここで話し相手を作ろうとした試みね」
アザがそう言い、テーブルに身を乗り出す。リリーが再びカードをシャッフルする。そうしながら、彼女は俺に微笑みかけ、小さく手を振る。彼女の緑の髪は長く、流れるようで、輝いているように見える明るい黄色い瞳によって際立たせられている。彼女が魅力的じゃないと言えば、嘘になる。
アザの方を向く。
「え? じゃあ彼女、本物じゃないのか?」
シャッフルの音が一瞬止まり、それから再開する。アザが一瞬心配そうな表情を俺に向けてから、テーブルにうなだれる。
「私の創造物かもしれないけど、彼女は他のどんな女の子とも同じように振る舞うわ」
「へえ。なんで今まで彼女に気づかなかったんだろう」
アザがリリーの方を向く、俺の質問を彼女に向け直しているようだ。彼女は、自分自身じゃなく、リリーにその質問に答えてほしいらしい。
「正直、ちょっと緊張してたの」彼女がカードをシャッフルする。「私は明らかに……偽物の人間だから、本物の人間を見ると、劣等感みたいなものを感じちゃって」先ほどの完全に馬鹿げた冗談にもかかわらず、彼女は明確な、平均的な女の子のように見える。一番馬鹿な冗談を言うタイプでありながら、同時に賢いタイプ。この評価をどうやってたった一回のやり取りだけで下したのか、俺に聞かないでくれ。
理解を示すように頷く、リリーが俺とアザにカードを配る中。
俺のは20だ。ラッキー。
「あ、さっきの質問に答えると、ブラックジャックはもう3時間もプレイしてるのよ、もう忘れちゃったの?」アザがコメントする、自分のカードを見ながら。
「ああ、思い出してきた」
「うん。正直に言うと、プレイしながら、私たちが最後に会ってから起きた出来事についてのあなたの記憶を読んでるの。そうすれば、あなたに説明してもらう必要なく、状況を把握できるから」
「ヒット」彼女が付け加える。
「スタンド」宣言する。
「『俺の記憶を見てる』ってこと全体について、どう感じればいいのかわからないけど、まあいいか」何のためにプレイしてるんだろうという考えが頭をよぎりながら言う。
彼女がまた勝ち、チップの取り分を掴む。
「ってか、点数どうなってるんだ?」頭を掻きながら尋ねる。
「90対4」
「くっ。俺たち一体何のために賭けてるんだ?」
その少女が一瞬動きを止め、チップを一枚持ち上げ、指の関節の間でぶら下げる。彼女の顔に浮かぶわずかな困惑が、俺の不意を突く。
「さあ? チップ? 自慢の権利?」
眉がぴくりと動く。俺の不満を察知したのか、アザがリリーに頷く、彼女は素早くカードを手に取り、シャッフルして重ね、ポケットの中に入れる。それからお辞儀をして、まるで無へと歩き去っていくかのように姿を消す。
ちなみに、俺たちはまだあの、水面の上、巨大な浮遊城の下という場所にいる。だが、なぜかそこでブラックジャックをやっていることが、一番場違いなことに感じられる。テーブルもとんでもなく小さいし、それに――
「3時間か、うわ、それって現実世界じゃほとんど時間経ってないな。俺、いつ目覚めるんだ?」
「わからないけど、望むなら、眠らせてあげられるわよ」突然、世界が暗くなる、漆黒に。今残っているのは、このテーブルだけだ、どういうわけか畳のテーブルに変わっている。それに、どういうわけか、俺たち二人とも、今、正座している。
「待て、その前に、いくつか質問がある」体を後ろに反らし、両手で体を支える。視線は少女に固定されている。彼女の白い姿は、背景と実際かなり対照的だ。
「どうぞ」
「あの、DDについてなんだけど。実際、何人かの人に話したことがあるんだけど、なぜか誰もそれ以上突っ込んでこないんだ。しばらく前のことなんだけど、なぜか、その疑問がまだ頭の前面にこびりついてる」
「たぶん、それは『裏切りの真実』ね」
「?」
「単純な呪いよ、一つの『真実』である言葉を『虚偽』に変えるの」
呪いの存在に明らかに衝撃を受けるが、この呪いの機能が特に好奇心をそそる。
「完全には理解できてないと思う……」
「よし、こういうシナリオで考えましょう。私が鼻の上に本を乗せてバランスを取れるとする。それから誰かに、自分がそれができるって話す。この呪いがすることは、その事実を『嘘』に変えることなの。相手は私を信じない、たとえ私が目の前で実際に鼻の上に本を乗せてバランスを取っても」
「え? つまり、俺の能力について誰に話しても、絶対に信じてもらえないってことか?」
「そう、たとえあなたが出来事を完璧に語って、それが実際にあなたの言う通りに起きたとしても。相手の視点からすれば、それはあなたが自分はピンク色の巨大な象だと言ってるのと同じレベルなの。相手は信じない、たとえあなたに命を捧げるほど忠実な相手でも」「真実は言葉に価値を与える。現実は真実に価値を与える。現実の知覚を歪めることで、真実はその価値を剥ぎ取られ、嘘へと変貌するの」
背筋に冷たいものが走る。
「相手の知覚が変えられてる……」呟く。「何回言っても、誰も信じてくれないってことか……」
「まあ、絶望しないで。私がいるじゃない!」
「悪気はないんだけど、お前は……」
「ただ、人間のふりをした何かってこと? それを言おうとしてた?」
「……」
「悪気なんて感じてないわよ。あなたみたいな人が、自分の状況を理解してくれる誰かにそばにいてほしいと思うのは、まったく普通のことだから。残念ながら、私はあなたの苦しみを絶対に理解できない。根本的に、あなたの苦悩は……最も失礼にならない言い方をすれば……私よりも下のものだから」
そうだ、彼女は人間のように見え、人間のように振る舞うが、それ以外のあらゆる点で人間じゃない。彼女はただ、俺の状況に訴えかけてくる、理解を超えた生物にすぎない。共感に関して言えば、俺は完全に暗闇の中にいる、俺の唯一の光源は電球であって、太陽じゃない。それには自然の原因がない。俺は、この存在に対して何かを感じるよう、騙されている。
だが、ある意味、彼女がそれを絶えず思い出させてくれることに、俺は感謝している。恋に落ちたり、そういう類のことにならないように。俺は、自分の最も弱い部分を、この存在に差し出すわけにはいかない。というより、もし差し出したとしても、何か変わるんだろうか?
まあいい、感情は置いておいて、そんなことはどうでもいい。もし自分の最高のバージョンになりたいなら、最強になりたいなら、痛みはただの自然の摂理だ。
それでも……
「方法はあるのか?」彼女が突然言う。彼女は自分の意志でそれを言ったのか、それとも単に俺の心を読んでいただけなのか?
「何が?」
「なんでもない」
「まあいい、質問がある」
「どうぞ」少女が微笑む。
「一体、俺にこの世界の……天体存在とやらを全部どうやって滅ぼせって言うんだ? 俺はただの一人だし、最後までついてきてくれる仲間の一団がいるわけでもない。ってか、俺は奴隷なんだぞ」
その少女は沈黙し、顎をタップしながら虚無を見つめる。またしても、彼女はこの超然とした少女という人格を演じている、最も基本的な動作を絶えず誇張しながら。俺の表情は、彼女とは正反対だ。
「カイト、なぜ人間は命に価値を置くのかしら?」
「それ、いきなり聞くにしてはやたら深い質問だな」
「大半の人間は真実を求めているわけじゃない、幻想の中に慰めを探しているだけ」彼女が呟く。
「適当に哲学者の言葉を引用したって、賢く見えるわけじゃないぞ」
「まあ、ただ質問に答えて」
視線が上へと漂い、深く考え込む。実際は、考え込んでいない。かなり単純な答えだ、まあ、少なくとも俺自身にとっては。この質問自体が、主観的な答えを求めている。誰もが異なる価値観と信条を持っている、だから、人類全体を代表する答えを彼らに求めることは、ほとんど不可能だ。
「まあ、死ねるからだと思う」
「正解!」
彼女が俺の方へと手を伸ばす、手のひらを開いて。ようやく気づく、彼女がハイタッチを待っているんだと。自分の手に目をやり、少し困惑する。それから、ぎこちなく手のひらを彼女の方へと動かし、今まで見た中で最も気の抜けたハイタッチを彼女に返す。
彼女は腕を組む。
「『価値』という言葉は、通常、消えうる可能性があるもの、おそらく永遠に消えるものに与えられるの。だからこそ、人間の命は価値を持つ、それは死ぬことができる、つまり『終わる』ことができるから」彼女が指を一本上げる。
「それが、キーワードよ。『終わり』」
「人間の死は、決して回復できない終わりとして機能するから、彼らは自分の命に価値を置くの。もっとも、常にそうとは限らないかもしれないけど、一般的な意味では、そうする。あなたが『死ぬ』とき、あなたは決して命に戻れない。あなたが所有していたすべてが、永遠に失われる。それが、人間の命に価値を与えているの」
「さて、これを言うのは許して、あなたはこれを間違った風に受け取るかもしれないから。私がこれから言うことは、純粋に論理的な意味に基づいたもの、私の視点よ」
これから何が言われるのかという恐ろしい感覚が、突然体に入り込んでくる。
「あなたの命に、価値はあるの、カイト?」
彼女はそんなことを、あまりにもさりげなく言う。
視線が突然下へと落ちる。恥ずかしさからなのか、判断がつかない。
「人間の命は、それが永遠に失われうるから価値を持つ」
「――でも、失ったものすべてを持ったまま、本質的に命に戻れる人間の場合はどうなの?」
両手がズボンの裾を強く握りしめる、布地が指の周りでしわを寄せる。
「もう一度言うけど、これは純粋に論理的な質問で、あなたの自己価値の見方を傷つける意図はないの。私はあなたを、何か自己中心的な目的のために利用しようとしているわけでもない、あの自己価値の認識に付け込もうとしているわけでもない。ただ、この質問について考えてみてほしいだけ」
彼女の声は冷たく、何の感情もない。冷気が、俺の知らないうちに広がっていて、その温もりの欠如のせいで話すことができない。
「私があなたに与えたこの使命は、単に、あなたを目的の方向へと導くための方法にすぎないの。あなたの命に、意味を与えているの。あなたの目標は知ってる、強くなること、力を持つこと……」
彼女が床に手を置き、俺の方へと体を前に動かす。
「あなたは強くなりたい、じゃあ、この贈り物を活用する以上に良い方法があるかしら? この贈り物は、理由があってあなたに与えられたの、だからその事実を利用しなさい」
彼女が俺に向かって這ってくる。
「私はあなたに目的を、進むべき方向を与えているの。私だけが、あなたのことを理解している、人間じゃないという事実を超えてすら。私は、あなたに真実と論理だけを提供できる。あなたがこの世界について知らないことを」
彼女は俺から数インチのところにいる。
「まことに、汝はこの現実を、この上なく心地よく感じるであろう」
彼女の左手が俺の顔に触れる。冷たい、あまりにも冷たい。それでも、それが冷たい手であるにもかかわらず、それは俺に触れている。
右手が俺の胸に置かれる。奇妙で、非人間的な。
それから、押されて、俺はゆっくりと床に横たわっていく、表情は変わらないままだ。ただ見つめ返し、先ほど脳に植え付けられた言葉について考え込むことしかできない。もしかしたら、俺は何かの朦朧とした状態にいて、聞くことを強制されているのかもしれない。
視界に入っているのはその顔だけだ、まっすぐ見つめ返してくる。赤い目が、ルビーのように輝きながら、青白い肌を飾っている。絹のような白髪が下へと流れ落ち、軽く俺の肌をかすめる。呼吸もかすかに聞こえる。
その体が今、俺の上に座っている、もう片方の手はまだ俺の頬に当てられたまま。
「言いたいことはわかる」ついに呟く。
その手がゆっくりと俺の顔を撫でる。
「もしお前に異論を唱えても、俺はまた、あの岐路をただ見つめることになるだけだ。目標もない。俺がこの世界に送られた目的も、俺にはわからない」
「よく理解してるじゃない。私はあなたに目的を与えている、同時に、あなたの夢を叶える手伝いもしている」
「それに、一番いいところは……?」
アザの口が、ゆっくりと俺の左耳へと動いていく。彼女の筋肉の緩やかな連携、すべてが調和してこの動きを作り出している。彼女の呼吸が今、さらにはっきりと聞こえる。それでも、これだけのことがあっても、そこにはまったく温もりがない。
「簡単になるわ」
彼女が耳元で囁く。
簡単になる。
簡単。
できるだけ簡単だといいと思う。
そうだ、俺は現実が嫌いだ。なんで、夢を簡単に叶えられないんだ? なんで、すべてがこんなにも困難でなきゃいけないんだ?
彼女の頭がついに、元の位置――俺の真上へと戻る。彼女の手がゆっくりと俺の口の上を滑り、完全にそれを覆う。それから彼女の顔が俺の顔に近づいていく、近く、近く。
「もし迷ったときは、カイト、私がここにいるから」
それから、彼女の唇が自分の手に触れる、それだけが、俺の唇と彼女の唇を隔てている。
そして、世界が暗くなる。
―――――――――――――――――――――――
アザは、意識を失った少年を見つめていた。
「偽善的な自己愛者」彼女は物思わしげに言い、指で彼の胸をなぞりながら。
「最も基本的な道徳観を持つ生物であれば、あなたを非難し、嫌悪すると呼ぶでしょうね」
「でも私は違う、その事実のせいで、あなたを見ているのがとても興味深いと感じるの」
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「あなたたち全員に、心から感謝しています」キュロスが頭を下げた。両手は脇に添えられていた。
「特に、ハイアーガルド様。俺が最初から自分の民に対して行うべきだったことを、きちんと説明してくださって、ありがとうございました」
太陽の光が森に燦然と輝く光沢を落としている。その結果、木々の葉の影が地面に広がり、あらゆるものを覆っている。輝くような緑の色があらゆる方向に爆発している、もちろん洞窟の入り口を除いて。
今、キュロスとナヴィが俺の前に立っている、セイブル・ヴェイルの残りのメンバーとともに。セイブル・ヴェイルの後ろには、軍隊全体分に匹敵する――何と言えばいいか――理知的種族たちがいる。全員が、雲がのんびりと漂う、この世界の天井に描かれた青空を見つめている。
何人かは泣いていて、何人かは地面に寝そべって草を抱きしめている、まるでそれが抱擁を返してくれるとでも言うかのように。何人かは手を繋いで踊ってすらいる。これが明らかに、記念すべき出来事だったことは言うまでもない。
俺があの……夢……から目覚めたとき、俺はこの人々の隊列によって、担架で運ばれているのに気づいた。どうやら、彼らは村まで降りるのにかかったのと同じ時間、俺を運んでくれていたらしい、それは数日分だった。彼らへの感謝が伝わるように、何度も何度もお礼を言い、彼らのわずかな荷物を手伝った。
だが今、重要なのは、俺たちがあの抑圧的な環境から全員抜け出せたということだ。この人々は奴隷だった、そして何よりも、再び太陽を見る権利がある。
「なんでもないよ」笑いながら、後頭部を掻く。
ナヴィが頷く。
キュロスに関しては、彼には、共に手を取り合い、試練に真正面から立ち向かえるコミュニティが値する。互いに決して逆らわず、最後まで忠実であり続けるような、固い絆のコミュニティが。
かわいそうなことに、彼は俺たちと一緒に来て、この数日がかりの旅にまで付き添ってくれた、ただ俺たちを送り出すためだけに。
タイロクスの死以来、闘技場は崩壊し、ゴブリンたちの生活基盤全体とともに。流血と殺戮のために建てられた構造物、闘技場は破壊され、ゴブリンたちが再びそういうやり方を乗り越えるチャンスを示していた。
ゴブリンたちからの盛大な謝罪などはまったくなかったが、キュロスは、再び彼らを教える自信があると強く主張していた。ただし今回は、彼らに選択の贈り物を与えながら。
「いや、あんたにとっては本当に、俺の望んだことじゃなかったんです。あんたはわざわざそんな深い穴に飛び込む必要なんてなかったのに、それでもやってくれた。あんたたちは命を懸ける必要なんてなかったのに、それでもそうしてくれた」
その言葉に、思わず下唇を噛む、だが誰もが思うような理由からじゃない。
「あなたたちに何をしても、俺が持っているこの感謝の気持ちを、決して適切に表すことはできないんだと思うと、ひどく悲しくなります」
コルスがそのゴブリンの方へと一歩踏み出す。それから彼の肩に、しっかりとした手を置く。
「いつか、俺たちと一緒に暮らして、その感謝の気持ちを示せばいい。頑張らなければならない、キュロス。お前は、お前の民と、彼らへの周囲の見方を変えられる。そして、いつか、俺たちは共に調和して生きられるかもしれない」
「その未来に」笑みを浮かべる。
そのゴブリンが頷く。
「そうです、その未来に」
「……」
彼の視線が下へと動く。
それから、再び上がる、その顔には新たな炎が宿っている。
「もう行かなければ。俺には、未来のために立てている計画がたくさんあります」
ナヴィが彼の背後を指差す。それは、俺たちが彼と出会った、あの同じ洞窟だ、彼が静かに、苦悶の中ですすり泣いていたあの場所。彼は自分の命を終わらせ、そのすべてから逃げ出したいと思っていた。だが今、彼はまっすぐに、自信に満ちて立っている、これから直面する試練に向き合う準備ができている。これはもう、ゴブリンのキュロスじゃない、ただのキュロスだ。
「未来を待たせるなよ、キュロス」ナヴィ・ハイアーガルドが呟く。
そのゴブリンが再び頷き、それから振り返る。
「いつか、また会いましょう」
それから、力強い一歩とともに、彼は洞窟の中へと跳び戻り、自分の英雄たちに手を振り返す。数瞬後、守護者キュロスは消え、自分の民のもとへと戻っていく。世界の残りは、長い間、彼が再び姿を現すのを見ることはないだろう、だが再び現れたとき、彼はまったく別人になっているだろう。
全員が笑顔だ、そのゴブリンのために全員が幸せだ。
だが俺は、同じように違う。何かが絶えず脳を引っ掻いている。
俺は本当に、正しい理由で彼を助けたんだろうか? 俺の意図は純粋だったんだろうか? 首を振る。
いや、これはすべて、最終的にはポジティブな結果に終わったんだから、意図みたいな些細なことを心配する必要はない。彼は自分の民を向上させている、それが重要なことだ。
突然、手が肩を掴む。その動作に、思わず頭を振り向ける。その見知らぬ人物は、他でもないウォールで、今まで誰かに見たことがないほど白い笑みを浮かべている。スティルが彼の隣に立ち、腰に手を当てている。彼にもまだ笑みは浮かんでいるが、その仲間ほどの完成度じゃない。
「よし、リディ、俺たちも出発するぞ!」白髪の男が宣言する。
何か違うものが目を引く。彼の首には、以前はなかった見慣れないアクセサリーがある。頭を下げていくと、彼が完全に違う服装をしているのに気づく。最も目立つ色は力強い白で、鮮やかな金がアクセントになっている。スティルについては、主色もまた白だが、深い紫がアクセントになっている。
二人の服装は、騎士のような性質を帯びているように見えるが、それでいて同じくらい多くの緩やかな布地も含んでいる。ウォールは、盾の形をした奇妙な金の紋章が刻まれた、開いたハーフケープを身につけていて、右側を覆っている。体の残りの部分は、白い、ほとんど銀色の鎧で、黒のアクセントとともに、しっかりとフィットしている。腰には奇妙な箱型の容器がぶら下がっている。
スティルも同じケープをまとい、同じ紋章がある。彼の紫が、今、鎧に存在する黒のアクセントを圧倒している、こちらの方が軽い印象を与える。
なぜかセイブル・ヴェイルのメンバーたちが、頭を反対方向に向け、全員が顔を覆うマスクを押し上げている。おそらく彼らは恥ずかしがっているんだろうという印象を受ける、彼らが黒ずくめの傭兵であることを考えれば、そしてこの二人は……
こいつら、一体何なんだ……?
「お前ら、どこに向かうんだ?」
「まあ、ヴォルティアさ。俺たち、パラディンだからな」
「パラディン?」
「ああ、他でもない、天穹裂の」
「それって何かの組織か?」
ウォールが俺を見つめる、唖然としながら、それからスティルを見る、彼も同じくらい驚いた様子だ。
これはたぶん、アメリカを知らないのと同じレベルのことなんだろうという気がする。この二人の反応から判断すると、かなり巨大な組織であるはずだ。まあ、突然知っているふりをしたところで、今この時点であまり得はしないだろう、どれだけそうしたい誘惑があっても。
スティルが首を振る。
「まあ、アマツラの人間は独自に暮らす傾向があるから、それほど驚くべきことでもないか」
彼の視線が俺に移る、理解を示す表情とともに。
「天穹裂は……なんて言えばいいか……ヴォルトの君主たちの守護者だ」
頷く、彼の口から出てきたすべてを完全に理解しているかのように。冗談だ、クソほども理解していない。心の中でため息をつく。この全部を書き留めるノートが本当に必要だ。まあ、たぶん、ここに住んでいくうちに、こういうことをだんだん理解していくんだろう。
以前、エンターテインメントを消費していたとき、世界観構築という概念は、俺にとって常に馴染みのないものだった。その種の詳細な表面的なものには、あまり関心がなかった。俺が気にしていたのは、キャラクターたちがどれだけかっこいいか、彼らが何をするかだけだった。だから、実際にこういう『ファンタジー』世界にいて、あらゆる角で新しい情報を突きつけられるのが、どんな気分か想像できるだろう。
「パラディン二人がゴブリンの巣で捕まってたなんて、説明するのがすごく楽しくなりそうだな」スティルがため息をつき、腕を組みながら言う。
「ナックラヴィーと妙なゴブリンのハイブリッドに不意を突かれたって言えばいいだろ」
「それは妥当そうだな――」
「それから巨大なワイバーンが舞い降りてきて、俺を王に戴冠させたから、それで俺の――」
「嘘つきたい衝動を抑えるのって、お前にとって板を持ち上げるのと同じくらいきついのか?!」
こいつら、本当に面白い連中だな、それは間違いない。
ウォールがその茶番を終わらせてから、俺の方を向く。
「でもマジで、カイト、お前かなり役に立ったよ。お前がいなかったら……」
耳がぴくりと動く。
「――俺たちはまったく問題なかったけど、プロセスを速くしてくれてありがとうな」
内なる小さな希望が死ぬ、その野心の炎が素早く消し去られる。これから、二度と立ち直れない気がする。
突然、ウォールがポケットに手を突っ込み、手をあちこち動かす。驚いたことに、彼が服についているのと同じ盾の紋章を、今度は物理的なアイテムとして取り出す。これは何かのバッジなのか?
太陽光の反射が一瞬きらめく。
「もし天穹裂に加わりたいなら、これを最寄りのVDC募集所に持っていけばいい。VC訓練は受けなきゃいけないけど、すぐに天穹裂の最下級に配属される。運が良ければ、円卓の一員としてすら」
うぐぁ、頭の中でその文章を何回すべっても――待て。今、円卓って言ったのか、あのアーサー王伝説の? それなら理解できる。まあ、それに、もしこれを提出すれば天穹裂に加われるという事実もだ。
ウォールが突然、耳元に身を乗り出し、囁く。
「もし奴隷がVCに加われば、自由が保証される」
それから彼は元の位置へと後ずさり、唇に笑みを浮かべる。
「もし俺の判断次第なら、お前を連れて帰りたいところなんだけど、俺たち、ヴォイド国を通り抜けなきゃいけないから、さ……」
頷き、そのバッジを受け取る。太陽に向かって掲げ、それを回しながら調べる。この職人技は実際、かなり驚異的だ。盾の縁に沿って、奇妙な記号が刻まれていて、それぞれが前より小さくなっている。こんなことができるのは、レーザーか何かだけだろう。それでも、印象的だ。
こいつら、俺に加わってほしいと思ってる、後から考えれば、それはすごいことに思える。聖なる騎士団に加われて、もしかしたらアーサー王にすら会えるかもしれない!
アーサー王って、もしかして女性だったりしないか? 首を振る。
だが、何より重要なのは、俺が自由になれるということだ。この首の首輪は、ただの過去の遺物になる、どこか他の場所に転がって朽ちていくだけの。傭兵集団に縛られることもなく、彼らの汚れ仕事を強制されることもない。俺は自分の人生を差し出す契約書に署名する必要もない。
それでも、あらゆるポジティブな要素にもかかわらず、ひとつのことがある。
手の中のそのお守りを握りしめ、目を閉じてから、深く息を吸う。
「悪いな、ウォール、でも俺は加われない」
彼の眉が上がり、それから俺をより深く見つめる。サングラスの奥にある彼の目がほとんど見える気がする。だが、笑みが顔をよぎる、それが俺がその瞬間感じていたことを物語っている。
俺は、他の誰かに署名で縛られたくない。俺は一人で強くなりたい。それに、俺自身が誰よりも良くなる、誰も俺より優れた者はいない。それが俺の目標だ。もし軍事組織に加われば、俺は永遠にそれに縛られることになる。俺は、俺に何かを差し出してくれる誰にでも自分を署名で渡したりしたくない、たとえそれが俺の親しい友人であっても。
「……いつか気が変わるかもしれないけど、今の俺の人生では、そういうものを求めてないんだ。でも、絶対に肌身離さず持っておくよ」
これは、俺の断りの衝撃を和らげるための言葉だ、そこにいる全員がわかっている事実だ。それが暗黙のルールなのかどうかはさておき、誰もその建前を破らない。スティルが仲間の肩をタップし、それから頭を彼らの背後の方向へと弾く。
「もう出発するぞ」スティルが宣言する。「このヴァロスの町の人々を、ちゃんと故郷まで案内してやれよ。驚いたことに、全員この町の住民なんだ」
「うん」
二人が手を上げる、手のひらを開いて。素早く応じ、ウォールの右手を俺の右手で、スティルの手を俺の左手で握る。その音が森中に響き渡り、遠くの鳥たちが散らばるのが見えた気がする。
「絶対にまた会える気がするよ」ウォールがニヤリと笑う。「俺の予知能力だ」
頷き、同じくらい明るく笑い返す。
それから、その仕草とともに、二人は振り返り、最後の別れの手を振る。数瞬後、二人の姿は森の中へと消えていく、次に会うときまで。本当に、正直、狂ってるな。
この世界では、生死をかけた経験を共有した人々が、ただの一瞬の思いもなく別れていく赤の他人にすぎない。ウォールとスティルが赤の他人だと言ってるわけじゃないが、俺が言いたいことはわかるだろう。俺たちは、まるで映画を見終わって、映画館から皆でそれぞれ帰っていくかのように、互いに別れていく。あまりにも当たり前で、カジュアルで、まるで何も起きなかったかのように。もしかしたら、この世界の住人にとっては、これが普通なのかもしれない。だが、俺にとっては違う。
なんだか興味深いと思う。誰かが何かとんでもないことを経験したとしても、それに残りの人生ずっとしがみつく必要はないという考え方。時には、手放して前に進む必要があるだけだ。それが人生を変えるようなことでも、関係ない。人間というのは、みんなベッドに戻って、翌日目覚めて、食事をして、学校や仕事に行って、繰り返すものだ。
だが俺は、その生き方が非常に退屈だと感じる。それが、俺が現実をこんなにも嫌う理由のひとつだ。どういうわけか、その生活に馴染むことが期待されている。もしかしたら、他の人々はそれを好むのかもしれない、そして彼らがそうすべきじゃないと言ってるわけじゃないが、俺は個人的にそれが嫌いだ。
そのアイテムを後ろポケットに入れる。ポケットと言えば、捕らえられる前に着ていた服装に戻している。正直、それがましだというわけでもないが。こういう状況にいつも巻き込まれるなら、もっとまともな服が本当に必要だ。
振り返ると、セイブル・ヴェイルの姿が目に入る、彼らはついにマスクを外している。新鮮な空気を吸っているように見える。あれは前からだったのか?
アリヴィアの方を向く。
「なんでそんなに緊張してるんだ? あいつら、お前らの敵か何かだったのか?」
「いや、いや!」アリヴィアが笑い、手を振って否定する。
「なんで彼らが私たちにとって危険な存在になるでしょうか?」アサカワが口を挟む。
「俺たちは、周りのあらゆる人と友好的な関係にある」コルスが付け加える。
ナヴィは黙っている。
「……」
「みんなが地面を見つめてなければ信じたんだけどな……」
「――……」
「おい、おい!! なんでそんな顔に影が差してるんだよ!?」




