存在
彼の体が地面に崩れ落ち、部屋中に鈍い音が響き渡る。アラックスはもう、生者の領域にはいない。
アラックスは、今、死んでいる。
黒い血が、脳に食い込んだ矢からゆっくりと、穏やかな流れのように流れ出し始める。それが地面を伝い、20秒もかからずに水たまりを形成する。
彼は死んだ。
本当に死んだ。
アラックスは死んだ。
その事実が脳に染み込み、頭の中にある衝撃をさらに大きくする。ほんの少し前まで話していた相手、夢を、志を、感情を持っていた人物が、今はただの死体でしかない。彼はついさっき、俺と一緒に戦っていた、その過程で命を懸けながら、そして今、彼は死んでいる。
彼の裏切りという考えすら、もう頭の中に残っていない。
垂れ下がった肉の塊にしか見えない左腕を握りしめる。歯を食いしばる。痛みが体を突き破っていく。
だが、その痛みにもかかわらず、目はアラックスの死体から離れられない。
「はっ……」
後ずさる。
叫びたい衝動が、ゆっくりと喉を這い上がってくる。だが、それは彼を生前から知っていたという事実からではない、彼が俺の目の前で自ら命を絶ったという事実からだ。
矢がその体に入り込んだ瞬間に爆発した血の光景、彼が床に崩れ落ちたその様子。すべてが、まるで録音のように頭の中で繰り返されている。
「ドスン。ドスン」
足が床を踏みしめる音が耳に響く。頭がゆっくりと上がり、ウォールとスティルが俺の方へと全力疾走してくる姿が見える。二人はおそらく、彼が武器を俺に向けているのを見て、彼が俺を裏切ったという結論に至ったのだろう、それが二人の顔に浮かぶ緊迫感を説明している。
「カイト、大丈夫か?」ウォールが叫び、俺の肩を掴む。目は遠くを見つめたまま、今起きたことをまだ処理している。奇妙なことに、すべてが夢のように感じられる。体が麻痺している、脳が麻痺している、すべてが麻痺している。
彼の声が、ゆっくりとかき消えていく。いや、かき消えているんじゃない、彼の声ははっきり聞こえている、ただ、彼が言っていることを聞いていないだけだ。
スティルがしゃがみ込み、アラックスの体を調べる、ナックラヴィーの死体の隣に横たわっている。両方の死体は、物理的には本質的に非人間的だが、一方はもう一方とは違う。
だが、死はどちらも同じように抱きしめる。
「くそ」彼が呟き、その昆虫人の左腕に露わになった紋章に目をやる。「あいつは俺たちを裏切った、でもたぶん、完全に自分の人間性を失うことに耐えられなかったんだろう」スティルの手がその昆虫人の前腕を掴み、持ち上げる。
「あいつが何を経験してたのか、誰にわかるっていうんだ」
俺の目がついに、ウォールのサングラスに固定される、俺の呆然とした状態がようやく終わる。現実が沈み始める。
「――俺の腕」
「何?」
彼の頭がゆっくりとその手足へと下がり、俺が何を言っているのか興味を持って見る。
彼の眉がサングラスの上に上がるのを目撃する、驚きが顔にはっきりと表れている。彼は目を隠しているが、その裏には多くの感情がある。
「スティル――!」
彼が何か言う前に、俺は地面に崩れ落ちる、胆汁と胃液が口から溢れ出る。それが来る兆候は何もなく、俺が最も予想していなかったときに、胃から排出されることを選んだだけだった。緩んだ髪の房が、あまりにも多い汗のせいで額に張り付いている。
脳があまりにも速く動きすぎている。あまりにも多くのことが同時に起きている。
「おめでとう!」
その声が空気中に轟く。俺たち全員の頭が上を向く。霧が晴れ、月明かりが部屋に注ぎ込んでいる。競技場の座席に座る群衆が、ゆっくりと視界に入ってくる。
「すべての隠れる者が発見された。理知的種族たちは解放される。すべての参加者は、最も近い門へと向かってくれ」
―――――――――――――――――――――――
彼は激怒していた。
信じられないほど激怒していた。
タイロクスは、自分の拳が手すりに食い込み、石をほとんど押し潰しかけているのに気づいた。彼自身は、歓声を上げる闘技場の席のゴブリンたちとはまったく正反対の反応を示していた。
彼らを殺すことなど問題ではなかった。彼らは根本的に、彼よりも下等な生命体だった。彼らはただの流血に興じ、殺す者だけに歓声を上げるだろう。彼らは単細胞の生物であり、ただの虫けらと何ら変わらなかった。
だが、それが彼を怒らせているわけではなかった。
彼を怒らせていたのは、何の能力も持たないこの少年が、これほど長く生き延びることができたという事実だった。彼はどういうわけか、小規模な軍隊を壊滅させられるモンスター、ライロスを殺すことに成功し、さらには、同時に何千ものゴブリンを殺す能力を持つあのナックラヴィーすら破壊した。
……それに、あの忌々しいアラックスが自殺したことも忘れてはならない!!!
まるで運がこの少年と同義であるかのようだった、まるで手放そうとしない守護霊のように彼にしがみついていた。この時点で、アラックスは彼が遅く、苦痛に満ちた死を遂げることを何よりも望んでいた。彼はその少年からあらゆる自我のかけらを絞り出したかった。
最初、彼はただ彼をもてあそんでいた、いたぶっていた。だが今、これを目にして、彼はそれを終わらせたいと思った。
「支配」こそが、タイロクスのメンタリティの核心だった。強者とは、弱者を利用して自分の思い通りに動かす者たちだった。強者とは、支配する側の者たちだった。
支配の基準は、その者の強さにあり、それが弱者を統制するのだった。弱者は昇格するに値しない、まさにその事実のせいで。
なのに、この少年は、強者を、本質的に弱い存在として利用していた。
それは、タイロクスの思考のあらゆる側面に反する何かだった。
それは異端的で、寄生的な本質を持っていた。
怒りが、そのオークの神経へとさらに深く注ぎ込まれていく。目が大きく見開かれ、歯が互いに擦れ合う中、彼はあの哀れな少年を支えながら門へと向かう三人を見つめていた。
彼はすぐに、自らの世界観が挑戦を受けているという事実から生まれる結論に達した。それは忌まわしい戦術だったが、彼の考え方において効果的だと証明されるであろうものだった。
彼は状況を支配しなければならない、そうでなければ完全な崩壊のリスクを冒すことになる。
ゴブリンたちが支配されていたのは、彼が彼らの心に植え付けた自由意志という考えのせいだった。彼らは、崇高に見えるであろう「正しい」道を自ら定めようとしていた、だが彼らは、タイロクスが彼らのために設定した目的には合致していなかった。
彼は、彼らが自分自身をあまりにも制限しすぎているという考えを提示した、彼らはあらゆることを考える必要はなく、単に自己耽溺の人生を送るべきだと。これは、タイロクス自身が信じていることではなかったが、支配を握るという点では十分だった。もしそれが効かなければ、彼はただ一人か二人を殺して、それを証明するだけだった。
支配。
それこそが、彼にとって重要なことだった。
一瞬の躊躇もなく、そのオークは手すりを飛び越える、棍棒を右腕に装備しながら。その動きは素早く、その巨体を裏切るほどだった。
―――――――――――――――――――――――
「うわ! 何も見えない!」アリヴィアが叫び、前の座席に身を乗り出そうとする。前にいるゴブリンがその試みに気づき、結果として、彼女の視界の欠如を補うように少し前に傾く。だが、それでも十分ではなさそうで、その少女は身を乗り出し続ける。
「あの廃屋の中で何が起きたのかはわからないが、ゲームは終わった。それが重要なことだ」コルスが述べる。
「うわあ! つまんない!」彼女がうめく。「あんなに面白くなってきたのに! なんであいつ、追跡シーンの最中に中に走り込んじゃったのよ?!」
アリヴィアが座席に体を投げ出し、腕を組んで口を尖らせる。「これじゃ全部のエンターテインメント要素が台無しじゃん、わかる?」
その少女は、結果がこうなったことに明らかに苛立っていた。だが彼女の一部は、カイトが生き延びたという考えに、どういうわけか安堵しているようだった。だが、従来の意味でではない。
背筋を伸ばし、アサカワが、近くの門へと歩む三つの人影を指差す、それは元々「ゲーム」の開始地点だった場所だ。その三人の中央にいるのはカイトで、彼の体は他の二人によって支えられている。だが、何かが際立っていた。
カイトの腕をよく見ると、それはぶら下がっているように見えた、少なくとも皮膚がそう見えた、血の跡を残しながら。粗末な布が巻きつけられ、明らかに包帯を巻こうとする試みがあったが、それはあまり効果がなかったようだ。
「あ、あいつ怪我してる」アリヴィアが述べる。「まあ、ナックラヴィーと戦ったんだもんね」
コルスが頷く。
「よし、彼は成功した。あとはタイロクスが取引の自分の分を守るかどうかだ」
アサカワがコルスの方を向き、口の中で疑問が形成される。
「あなたが直接攻撃を控えていた理由は、ゴブリンの数があまりにも多かったからですよね、コルス?」彼女が尋ねる。
「その通りだ。できる限り長く、戦闘を避けたい。人質はすでに敵の慈悲の下にある、だから大規模な対決を始めれば、おそらく人質の処刑を促すことになるだろう。それに、確か、お前は牢獄の場所を見つけられなかったな」
アサカワが理解を示すように頷き、そのワイトから伝えられた情報を熟考する。
「もし彼が約束を破ったら? 俺たちはどう行動しますか?」
「その時は、俺が避けようとしていることを、まさに行う以外に選択肢はない。これ全体は、彼の誠実さが勝るかどうかを見極めるための試験なのだ」
「……」
二人が話している間、キュロスの思考は、彼を蝕み続けていた。俺は本当に『頑張りすぎ』ていたのだろうか? 自分の欲望に屈するべきなのか? 自分自身に期待しすぎていたのか? これは自我なのか? 単に人間を真似ていただけなのか?
彼には理解できなかった。
自分自身を解放できるのだろうか? 自由になれるのだろうか? 他の者たちのように?
抑制は抑圧なのか?
「ハイアーガルド様」
ナヴィは彼の方を向かなかったが、彼女の呼吸のわずかな間が、彼女が聞いていたことを明らかにしていた。
「俺は、俺の民を……『自由』であることから、遠ざけているのだろうか?」
「……」
その銀髪の少女は沈黙を保っていた。彼女の明るい黄色い瞳は半ば閉じられていて、それが思考によるものなのか、いつもの不機嫌さによるものなのか、キュロスには判断がつかなかった。
しばらくして、彼女が静かに息を吐く。
「いいえ。あんたはそうじゃない」彼女が言う。「規則は、すべての理知的種族が従わなければならない基本的なものよ。それらは、理由もなく互いを殺し合わないようにするために存在してる。それらは、私たちが動物へと崩壊しないようにするために存在してる」
「……」
「あんたは自分の民を変えようとしてる。改善させようとしてる。それがあんたの目的」彼女の視線がわずかに動く。「でも彼らは、あんたが自分たちから自由を奪ったと言ってる」
キュロスがこわばる。
「思うに」ナヴィが続ける。「あんたは彼らに、理知的種族であることを追求するか……異形種のままでいるかを、決める機会を一度も与えなかった」
「なるほど……」
「それは個人の選択よ」彼女が平坦に言う。「もし誰かが殺したり盗んだりしたいなら、それはその人の責任。でも、誰かが仕返しにそいつを殺すことを決めても、泣き言を言う権利はない。制約は、方向を指し示す剣なの」
彼女が一拍置く。
「でも、それは両方向に切れる。もし望むなら、みんなを一部屋に閉じ込めればいい。ただ、いずれ誰かがドアを破ったときに驚かないことね」
キュロスは何も言わなかった。
「あんたの民が、これほど長くあんたに従ってきたのは、それが彼らのしてきたことのすべてだったから――ただ従うこと」ナヴィが続ける。「あんたは彼らに、何をしてはいけないかを教えた。でも、なぜかは決して教えなかった。だから、タイロクスが現れて、あんたが彼らを抑圧してると言ったとき、それが効いたのよ。あんたは彼らに、反論するための材料を何も与えなかった」
彼女が彼にちらりと目をやる、一度だけ。
「自分自身を説明しなさい。それだけよ。全員が聞くわけじゃないけど、選択肢を与えなさい」
沈黙が落ち着く。
ゆっくりと、その真実が染み込んでいく。
キュロスは、なぜ変化を要求するのかを一度も説明していなかった。彼はただ、それを強制していただけだった。もし彼の民が本当に前進するべきなら、彼らは引きずられるべきではなかった。彼ら自身が、そこへと歩いていくべきだったのだ。
殺戮を選ぶ者は、それでも罰せられるだろう。追放される。投獄される。
だが、もし彼が理知性を、法としてではなく、目的として説明したなら、より少ない者が血を選ぶかもしれない。
二つの道が彼らの前に立っていた。
俺の絆を断ち切って、俺の兄弟たちを殺すか、絆を築いて、彼らと共に建設するか。
それが選択だった。
キュロスがナヴィの方を向く、感謝の色が顔にはっきりと表れている。
「ありがとう、ハイアーガルド様」
彼女はすでに視線を遠くへと戻していた。しばらくして、彼女が小さく頷く。
二人が話している間、その一帯に垂れ込めていた霧が、再び濃さを増し始めていた。
―――――――――――――――――――――――
「よし、ついに着いたな」ウォールがため息をつき、壁に完全に持ち上げられた門を見上げる。それから彼の視線は下へと動き、今再び姿を現した闘技場の内部に目をやる。
「あの1時間、1年みたいに感じたよ」うめく。
「俺たちは成功した、だが、暴動が起きるだろうと推測してる」
スティルがわずかに体をずらす、俺の腕を傷つけないよう気をつけながら、彼が俺の肩を持ち上げていて、それが俺の体を支えている。怪我はしてるけど、そこまでじゃないぞ、なあ。でも、その気持ちには心から敬意を表するよ。
「どういう意味だ?」ウォールが彼の方を向いて尋ねる。
「タイロクスが取引の自分の分を守るとは、俺は強く疑ってる。それに、もし守らなかった場合に備えて、俺たちの能力はもう回復してるから、以前よりも暴動を起こしやすいだろう」
ああ、確かに彼には一理ある。とはいえ、少しくらい希望を持っていても悪くはないだろう。あいつは『俺は悪党だが、怪物じゃない』タイプの一人に見える。もしかしたら、何らかの名誉のコードを持っているのかもしれない。
「ああ、わかった」ウォールが頷く。
俺たち三人は、目の前の光景の前に立つ。
その光景とは何か?
まあ、それは、自由を勝ち取った三人の英雄に歓声を送る、ほとんどの人型の奴隷たちで構成されている。あらゆる年齢層、若者も老人も、同時に俺たちの勝利を祝っている。
だが、その空気に明らかな幸福があるにもかかわらず、後方の何人かは、あまりにも早く祝いすぎないよう控えている。おそらく彼らは、タイロクスが取引の自分の分を守らないだろうと推測して、彼を疑っているのだろう。それは間違いなく賢い考えだ。
とはいえ、その歓声は確実に俺の心に響いてくる。
「もう放してくれていいよ」笑いながら、ウォールに回している腕を上げる。「もう大丈夫だと思う」
「本当に? お前の腕、今にも取れそうに見えるけど」
「……ああ、大丈夫だ」
ウォールが一瞬スティルと視線を交わし、それから肩をすくめる。スティルが続いて、俺の腕から握りを解き、それを脇に戻すことを許してくれる。
立つのは確かに少し奇妙な感じがするが、明らかに対処できないほどじゃない。中に戻ったら、願わくば、俺の腕を正常に戻せる治癒者か何かがいるといいんだが。
この時点で、伝っていた血は乾き始め、より暗い赤、ほとんど茶色に変わっている。それは特に見て気持ちのいいものじゃないが、流れ続ける血よりはましな選択肢だ。
これ、なかなかイカした戦いの傷跡になるかもな。
誰かがどこで負ったのか聞いたら、こう言うつもりだ――『暴君のオークから奴隷どもを解放して、ナックラヴィーと戦ったんだ』。神様、口にするとかっこよく聞こえるな。
「おい、カイト、来るのか?」
ウォールの声に思考から引き戻される。まったく、自分の考えに深く沈み込む悪い癖があるな。
この時点で、彼とスティルはすでに中に入っていて、俺だけが外に立ったまま、間抜けみたいな顔をしている。
「あ、しまった、悪い」呟き、一歩踏み出す。この世界の何よりも、この闘技場から出たい。この壁が視界を囲み続けるのにうんざりしている。どこを見ても止まらない霧と緑にうんざりしている。
ここから、心の底から出たい。
だが今、できない。なぜか?
まあ、門がちょうど俺の目の前で閉まったからだ。
「?!」
それは、向こう側が見えるような隙間のあるタイプの門じゃない。むしろ、反対側で何が起きているのか聞くことも見ることもできない、スライド式の金属扉のようなものだ。
俺は基本的に、この時点で完全に一人だ。
恐怖の感覚が脳に食い込んでくる、胃が果てしない深淵へと沈み込んでいく感覚とともに。
先ほど感じていた安堵の感覚は、もう存在しない、現実という工業用万力に押し潰されて。驚くべきことに、ただ目の前で門が閉まっただけで、俺はもう安全じゃなくなった。安全に感じていたのは、単に他の人々を見つめられたからだった、だが今はできない。彼らは俺から3メートルも離れていないはずなのに、俺にとっては、何マイルも離れているように感じられる。
突然、背後で土埃の雲が爆発し、思わず振り返る。それは恐ろしいほど大きな爆発音だ、まるで何かが猛烈な速度で地面に衝突したかのような。
歯を食いしばり、最悪の事態に備える。この時点で怪我をしていて、自分の限界を超えて無理をすれば死ぬかもしれない、それは何としても避けたいことだ。まだチェックポイントを設置していない、もし今死ねば、この出来事すべてを最初からやり直さなければならない、それは俺にはできないことだ。
土埃が収まると、ある人影が視界に入ってくる。
タイロクス。
彼の体は筋肉で張り詰めているが、どこかロボットのような性質を帯びている。鎧のような骨が体中に存在し、より脅威的な存在感を与えている。彼の赤い目が土埃の中で光り、俺の注意の核心を引きつける。
肩に担がれているのは彼の棍棒だ、成人男性ほどの大きさの。彼の意図は明らかだ。彼が俺に向かって歩いてくるにつれ、肩が左右に動き、殺意がその姿から滲み出ている。
背筋を這い上がる恐怖にもかかわらず、思わず笑みがこぼれる。
「おや、タイロクス、癇癪でも起こしてるのか? 自らの手による暴力を超越してるんじゃなかったのか? それがお前の売りだったんじゃないのか? 知性があるってやつが?」
こいつは敗北に耐えられないんだ、それが明らかだ。こいつはただの、典型的な、ステレオタイプの悪役だ。人間としての深みなんて何もない、ただの一面的な奴だ。
「俺みたいな弱者に出し抜かれて悔しいのか? お前のエゴへの攻撃なのか?」
彼は歩き続ける、俺の言葉を無視しているようだ。彼が立ち止まって何か言い返すと予想していたが、それは起きない。肩が上下に動き、体の残りの部分と連動している。
「お、お前の恐怖政治は終わりだ、タイロクス!」つっかえながら言う。「お前は人を支配できない、彼らと共に働かなきゃならないんだ! もし協力すれば、偉大なことを成し遂げられる! 力があるからって、誰も他人より優れてるわけじゃない!」
彼の足が止まる。
だが、俺は、彼が歩き続けてくれていたらよかったのにと思う。
生の力の爆発が彼の姿から噴き出す、俺の目にほとんど触知できるほどに。押し潰すような圧力が体を圧縮し始め、呼吸をほとんど不可能にする。彼の肩が動きを止め、上がる。怒りが彼の鎧の隙間に染み込んだようで、これまで考えられなかった新たな危険の層を彼に与えている。
「偽善者の顔だ!!!!」
彼の声が轟き、俺の世界を揺るがす。
俺の足がその場に凍りつく。胸から始まったような冷たい感覚が、ゆっくりと体中に広がり、純粋な恐怖としか表現できない寒気に俺を包み込む。
恐怖。
歯がガチガチと鳴るのが、脳の中で響くのがほとんど聞こえる。両手が震え、胸はこれ以上締め付けられないほどになっている。
だが、何かがおかしい。そのオークの肩が上下に跳ね始める、彼の口から音が漏れ始めながら。それはリズミカルな音で、それぞれが前より大きくなっている。それはほとんど笑い声に似ている、面白い出来事のときにするような。これは面白くない、まったく面白くない、なのになぜ……?
……なぜ、こいつは笑ってるんだ?
彼の肩が上下し続ける中、頭を俺の方向へと上げる。棍棒が、彼の体の動きのたびに揺れる。
「はは!! お前は悪より上に立つタイプだと思っていたが、その顔は違う話を語っているぞ――」
彼が俺を指差す。
「お前は俺と何ら変わらない!! いや、もっと悪い! お前は自分が信じるものにすら、立っていない!」
雷のような衝撃が体を貫く。内側から外側へと爆発したかのような感覚としか比較できない。俺の存在のあらゆる繊維が、驚きに爆発した。
こいつは一体何を言ってるんだ? 俺が、あいつと変わらないだって? 俺は気分次第で人を殺したりしない、家族を破壊したり、子供を殺したり、そういうことは何もしない。俺は殺人者じゃない、ほんの少しも。俺は実際、人間の命に意味を与え、それを尊重している。俺は他人が自分より劣っていると思うからといって、彼らを奴隷にしたりしない。俺は自分の力のせいで、自分の下にいるすべての人間を支配しようとしたりしない。俺は他人の命を無視して、平等に扱わないなんてことはしない。「変わらない」とは、一体どういう意味だ? その考え自体が、俺の血を地獄まで、そして戻ってくるほど沸騰させる。俺はこの怪物とは違う、ほんの少しも。
道徳的に、俺の方が優れている!
指を彼に向け返す。
「俺をお前と比べるな、このクソ怪物が!」唸り返す。
彼が大きくため息をつき、肩を落とす。彼の興奮が収まったのは明らかだ。それから、彼は棍棒を持ち上げ、月光を遮る。この一連の動きを通して、俺はそのうちの一つすらまともに処理できない。処理は、動きが行われた瞬間の後にしか起こらない。
「ヒュッ!」
耳のそばを風が吹き抜ける音、それからパキッという音。そのパキッという音が体中に響き、少しの間留まってから、そのこだまが消えていく。腕が突然麻痺し、鋭い痛みが脳を突き刺す。指を握りしめようとするが、砂利が擦れ合うような音しか出てこない。
指差していた腕、右腕が、今、反対方向を向いている。
「――うわあああああああああああああああああああああ!!!!!!」
俺の腕が反対方向を向いていて、骨が突き出てい――
もうひとつのパキッという音が響き渡り、何かが腰に衝突し、俺を後方へと転がす。地面にぶつかるたびに、土埃が目に入り、視界を遮る。目の前に何があるのかすらほとんど見えない、空と地面が絶えず入れ替わりながら。
ついに、体の勢いが止まり、静止する。
痛みがついに腰で高まり始め、蛇のようにゆっくりと体に巻きついていく。叫びたくても叫べない、息ができないという事実を考えれば。俺はただ取り残される、地面に顔を伏せたまま、あえぎながら空気を求め、血が口からゆっくりと流れ出し始める。
足音が、血の水たまりの中で地面に向いている俺の顔を震わせる。その音もまた、ずっと遅れて聞こえてくる、その事実を考えれば。まだ息ができない、動けない、両腕は――
俺の考えが、もうひとつの白熱の痛みの一撃に遮られる。
「調子に乗りすぎたようだな。俺たちがいくつかの点で似ているとしても、お前はまだ俺の敵だ。いや、お前の行動を考えれば、お前は俺の敵の敵かもしれないな」
その足音が止まる。
「――見てみろ。魚と何ら変わらないな、自分の血の中で無力にばたついている」
俺の脳が、彼の言葉から、体中で爆発する激痛へと切り替わる。これより前にもすでに痛みはあったが、少なくともあれはやがて止まった。今回のは、ただエスカレートし続けるだけだ。
くそ、ここで死ぬのか! 逃げ場がない!
痛い! 痛い! 痛い! 痛い!
―――――――――――――――――――――――
そのオークは膝をつき、少年の頭皮の髪を掴み、頭を持ち上げた。彼の顔は傷とあざにまみれていて、いくつかの髪の房が顔に垂れ下がり、その破壊された外見を際立たせていた。
ここで起きている出来事を目にする者は誰もいなかった、霧のヴェールが再び発動していたから。そのヴェールは、タイロクスの命令下にあるタウマイトの奴隷によって唱えられていた。
「ここに来る途中で考えていたんだが、どうやってお前は、俺よりも強い二体のペットを両方とも殺したんだ?」
「……」
「それで、気づいた。お前自身は弱いが、周りの者たちを駒として利用している」
「……」
彼は少年の頭を前後に揺さぶった。
「その意味で、俺たちはそれほど違わない」
その少年は、うめくことしかできなかった、痛みが発話を妨げていた。彼の体は比類なく壊れていて、急速に意識を失いつつあることは明らかだった。
そのオークの指が少年の髪から離れ、彼をうつ伏せに落とした。彼の体が落ちる、壊れた人形と何ら変わらない。彼の中に存在していた生命の残滓が、消し去られようとしていた。鈍い音とともに、彼の体が地面に衝突して跳ねる。
「心配するな、お前をこの苦しみから解放してやる。お前はなかなか興味深かった」
そのオークは本当にその少年を興味深いと感じていた。彼はあらゆる意味で偽善者だった、自分自身が従っていない価値観を説いていた。タイロクスの少年に対する最初の印象は「英雄」というものだった、高い道徳基準を自らに課すタイプの者だという。もちろん、タイロクスは自分がやっていることが間違っていることを知っていたが、社会を前進させるためには支配が必要だった。多くの者が彼をこのことで攻撃するだろう、彼はそれを承知していたが、彼らは全体像を見ていなかった。
この少年が他の者たちとは違っていたと知ったのは、非常に驚きだった、だが残念ながら、タイロクスは彼を殺さなければならなかった。彼の知性を考えれば、生かしておくにはあまりにも危険すぎた。彼を勧誘することも明らかに機能しないだろう、彼は多少堕落してはいたが、その堕落は彼を自らの種族を殺すよう駆り立てるものではなかったから。
要するに、彼はタイロクスの掌握の下では砕けてしまう、強力な剣だった。彼はただ賞賛され見つめられるだけの存在で、振るわれることはできなかった。
そのオークが再び棍棒を頭上に持ち上げ、月の光を遮る。それから、素早い一撃で、それが少年の頭蓋骨の後部に衝突し、結果として肉々しい不協和音が湧き上がる。その一撃の結果として、少年の体の背面が一瞬跳ね、それから力なくなる。
彼の頭はほぼ即座に押し潰され、血があらゆる方向に噴き出した。ぐちゃぐちゃの塊だけが草の上に残り、それを黄色がかった赤に染めていた。
緩んだ眼球が眼窩から抜け落ち、視神経からほとんどちぎれかけていた。頭蓋は完全に押し潰され、平らになった頭がその証拠だった。緩んだ髪の房が血の中に浸り、結果としてほとんど赤く染まっていた。
どろどろの塊に押し潰された脳が、ゆっくりと頭部から流れ出し始め、脊髄液や、脂肪である黄色いゼラチン状の物質と混ざり合っていった。
そのオークが棍棒を持ち上げると、少年の頭を打った表面から血がゆっくりと滴り落ちた。それがゆっくりと肩へと伝わり、再びその止まり木に落ち着いた。そのオークは大きくため息をついた、彼があまりしないことだった。
これで少年が死んだ今、彼の仲間たちはおそらく、タイロクスとゴブリンたちを攻撃する理由を持つだろう、それは大規模な対決へと繋がるだろう。もちろん、彼らは数の上で敵に勝っていたが、あの個々人は特に強力だった。
振り返り、そのオークは計画を練り始めた。
もしかしたら、彼は騙して――
「くぅっ、くっ……」
その音は静かだったが、この環境では大きいと考えられるものだった。
「くぅっ、くぐっ……」
骨が互いに擦れ合う音。それから、肉が引き裂かれる音。
そのオークが振り返った。
そして、圧力。
圧力。
途方もない圧力が、世界をほとんど押し潰しかける。
冒涜的な存在が、顕現しつつある。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
2200年、ソラヤ、東ノロヴィア。
ソラヤ共和国内で、市民たちが途方もない圧力を感じ取った。何人かは押し潰されるような感覚を報告している。この現象はおよそ1秒間留まったが、この地域の住民の間で広く共有されていたと合意されている。
―――――――――――――――――――――――
インムテムパテムプトレスケメム、ソゲレヲモトメルカ
数千の声が金属の部屋に絶叫しているかのような、ひび割れた舌。誰にも解読できない歪んだ声。それでも、多くの学者たちがそれを解読するために、人生の数十年を費やしてきた。
「……」
「はい」
―――――――――――――――――――――――
少年の体が、取り憑かれたかのように痙攣し始める。四肢が左右に激しく振られる、まるでそれぞれが独自の意志を持っているかのように。彼の魂は消えているが、彼の体は生きている。この動きこそが、その事実の証だ。
「くぅぐっぐぐっ」
肉が、決して戻れない地点を越えて裂けていく、少年の体をさらに破壊しながら。血管が破裂し、骨が割れて開き、「存在」のための道を作っていく。
手。
手が、少年の露わになった背中から突き出てくる。この手の出所は、下背部にある奇妙な傷跡だ。それが開いたようで、世界に恐ろしい災厄を解き放っている。その手が傷の縁を掴み、その端をさらに互いに引き離していく。
骨の砕ける音と肉の裂ける音が始まり、もう一方の手が現れる、その対となる動きを鏡写しに。それは、何百もの命を殺してきたオークにとってさえ、忌まわしい光景だ。それは決して起こるべきではない現象だ。
そして、両手の間に、ある物体の頂点が現れる。それがゆっくりと立ち上がる、カタツムリよりも速くはない速度で。その動きは遅く、意図的で、そのひとつひとつが最大限に計算されている。
そして、頭が姿を現す。
その頭。
それは、自然の限界をあまりにも超越した何かに属していて、もしその存在を知れば、声帯が裂けるまで叫び続けるだろう。それは、骨と金属が融合し、ひとつになった何かとしか表現できない顔だ。それは生命に満ちていながら、同時に死んでいる。骨のような、不気味なほど人間的な二列の歯が、金属質の体の残りに繋がる黒い歯茎に埋め込まれている。目はなく、ただフェイスプレートがあるだけで、奇妙な模様が刻まれている。蒸気がその顔の両脇から噴き出している、まるで工業機械が呼吸を試みているかのように。
その体が視界に入ってくる。
その体は深い茶色のマントに包まれていて、その真の姿を封じ込めている、おそらく世界のためになるように。それが風の中で流れ、前後にさざめいている。だが、その体の中央には、奇妙な物体が存在していて、それは空中に浮かんでいるようだ。その形は、奇形の蜘蛛のようで、コアが明るい赤に輝いている。
『あれは……!』
それは紛れもなかった、この内側から外側へと押し潰されるような感覚。この純粋な嫌悪感が、彼の姿にまとわりついた。
あの輝く点は……
『ホローポイントだ!』
通常、ホローポイントは肉眼では見えない。それらは視覚強化、あるいはパターンを可視化する助けとなる道具の下でのみ見える。だがこのホローポイントは、物理的な領域において触知可能だった、それはひとつのことしか伝えられなかった。
ある法則が存在した。「強者は自らの弱点を示さなければならない」。それは、力ある者が自らの能力をさらに成長させるために許さなければならない等価交換だった。だが、それらの弱点は、依然としてパターンの領域内にあり、単に集中した塊として存在するだけだった。
だから、そのような弱点が肉眼で見られることは、決してないはずだった。
一体この世界のどこに、こんな生物がいるというんだ?
タイロクスがそれを認識する前に、その生物はすでに少年の体の外にいて、彼を見下ろしていた。
タイロクス自身は、驚くべき9フィートの高さだった、だがこの生物は少なくとも1フィートは高かった。
今、それはタイロクスから10センチメートルのところに立っていた、力がその姿から放射されていた。
この瞬間、奇妙な焦燥感がタイロクスの中に突き刺さった。それは彼が今まで感じたことのないものだった。彼の生涯を通して、彼はほとんどすべてのことに、冷静で分析的な視点でアプローチしてきた。だが、ここでは、パニックの触手が彼の体に巻きついていた。
彼は動けなかった、奇妙なことに。これは、この生物に属する虚無エントロピーによるものなのか、それともまったく別の何かによるものなのか?
そうだ、タイロクスは「力」という言葉そのものを体現する何かを見つめていた。
何があっても、存在してはならない何かを。
その「存在」の歯がカチンと閉じ合わさり、それまで流れ出ていた蒸気を塞ぐ。
それから、それはゆっくりと右腕を、まっすぐそのオークへと持ち上げる。
タイロクスがひるむが、すぐに落ち着きを取り戻す。この生物の動きを見失えば、破滅的な結果になるだろう。
そうだ、それは間違いなくそうなるだろう。
闇が彼の視界を飲み込んだ。
その生物の手が、彼の顔を掴んでいた。
何だ?
彼はそれを注意深く見つめていた! どうやってそんな急激な動きができたんだ? わずかな動きの変化でさえ、タイロクスには気づけるはずなのに、どうやってその生物は彼の顔を掴むことができたんだ?
もう片方の手が彼の腹に置かれた。開いた手のひらで。
一瞬のうちに、それが拳を作り、そのオークの腹に打ち込む。
「プトゥーム!!!!!!」
それは理解を超えた音だった。その環境の低音をあまりにも増幅させたため、音と視界の境界が歪んでしまう音。その衝撃が『見える』ほどだった。
その一撃は、風がそれを理解する前に着地した。この衝撃の一帯は、世界がその攻撃を認識する前に歪む。
そのオークが後方へと爆発するように吹き飛ばされ、近くの木に激突する。タイロクスの体はかなり大きかったため、さらに多くのダメージが引き起こされた。
葉が空中に爆発し、幹が地面に崩れ落ちる。そのオークが地面に食い込み、滑っていく中、轟音が響く。
ついに、30秒間後方へと漂った後、彼の体が動きを止める。だが、そのオークは息を求めてあえいでいる自分に気づく。腹に手を置き、何らかの損傷がないか感じ取ろうとするが、驚いたことに、何もない。
その攻撃の速さが、何かをしたに違いない。
そのオークは素早く衝撃の一帯に目をやり、何もないことに衝撃を受ける。再び、そこには何もない。あの凄まじい速度にもかかわらず、彼の体にはダメージがなかった。
急速に、タイロクスは注意を敵へと集中させる。
その敵は同じ姿勢のままで、彫像と何ら変わらない。その右手はまだ空中に吊るされたまま、以前とまったく同じ位置に固定されている。左手も前方に伸ばされたまま、時間の中で凍りついている。
どうやら、彼を打った後、その体が凍りついたようだった。
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いや。
いや。
この鈍重さを過小評価してはならなかった。これは、単に遅い生物の動きではなく、獲物をもてあそんでいる、信じられないほど速い冒涜的存在の動きだった。
タイロクスはひるまなかった、考える余地はなかった、ただ攻撃するだけだった。この存在をこの世界にこれ以上存在させるわけにはいかなかった。その有害性は、生きているあらゆるものにとって、あまりにも危険すぎた。全力で攻撃することだけが、彼にできる唯一のことだった。
歯を食いしばり、彼は棍棒を持ち上げ、それから素早く自分の頭を打った。彼はセヴェラントを持っていなかったが、代わりに、同じくらい致命的な武器を扱っていた。その棍棒が、表面に沿って走る亀裂を見せ始め、それが秒ごとに増えていく。それから、それが完全に崩れ落ちる。
以前は棍棒だったものが、今や完全に異なる武器になっている。深いダイヤモンドによって鍛えられた、大きな水色の斧。その刃はほとんど無傷で、その持ち主を裏切るほどの、純白の外見をしていた。それは完璧に幾何学的で、その卓越した職人技の明確な証だった。
いや、そこに職人技はなかった。
この全期間を通して、石の棍棒の中で、ダイヤモンドがゆっくりと成長していたのだ。そのダイヤモンドは、何年もかけて棍棒の中で成長し、正確な打撃と意図的な角度によって形作られていった。粗野に見えたものは、常に完璧さを隠していたのだ。
今、これがそれが使われる瞬間だった。
その武器を肩の上で大きな弧を描かせながら、そのオークが素早くそれを地面に落とす、その意図は明白だ。彼は一度握りを引き締める、筋肉が張り詰めながら、それから緊張を解き放つ。
その生物は、この試練の間ずっと同じ姿勢のままだった。
右足を地面に踏み込み、そのオークが前へと押し出し、力の急激な奔流とともにその生物へと突き進む。彼は武器を持ち上げ、一撃を放つ準備をする。
その冒涜的存在は、動かないままだった。
その斧が命中する、打ちつけて――
「何だと?!」
その斧は動かなかった、そのオークの体も動かなかった。
その存在は一寸も動かなかったのに、どうやって彼を捕らえることができたんだ?
その歯だけが視界の中にあり、吐き気を催すような笑みを形成している。理解が彼を打った、そしてそれとともに、ほとんど不信に近いほど鋭い困惑が。
なぜなら、それが以前からの姿勢を保っていたため、その両腕はちょうど、タイロクスの体と武器が完璧にその掌握の中に収まるような形になっていたのだ。彼の振り、彼の体、そして斧そのものすら、完璧にその掌握の中に滑り込んだ。だが、それでも、なぜ彼はその事実に気づかなかったのか? 誰だって死が近づくのを感じられるはずだ。子供でさえ、たじろぐはずだ。それなのにタイロクスは、ためらうことなく前進していた、完璧に殲滅の中へと踏み込みながら。
この生物。
このもの……
それは、彼自身が気づく前から、彼の動きを知っていた。
突然、二人の間から白熱の光の閃光が噴き出し、タイロクスが自由になり、後方へと跳んで距離を作ることを可能にする。そのオークが後方へと舞い上がり、足で地面を滑りながら、まさにその動きが実行される。
そして――
奇妙な恐怖の感覚が現れる。
ついに勢いを止めた後、そのオークは下を見て、自分の腹を見つめる。落下する感覚がタイロクスの体を満たす。彼の腹の中に、大きく開いた穴がある。
それはあまりにも綺麗で、血すら流れていない、臓器が見えることすらない。それは完璧な円だった。
タイロクスの頭がゆっくりと上がり、目の前の巨大な存在を見つめる、彼の体が木にもたれかかって崩れ落ちていく中で。
それは無造作に歩いている、それでいて生命を欠いている。その歯は彼に対して嘲るような笑みを形成しているようだ。この全期間を通して、彼の心は今起きていることについて、ひとつの考えすらまともに処理できなかった。
なぜこんなことが起きたのか?
そもそも一体何が起きたのか?
質量が光速に近い速度で質量と衝突するとき、「衝撃」という概念そのものが存在しなくなる。打たれた物質は瞬時にイオン化され、その原子が引き裂かれ、その核が力というより放射に近い効果によって粉砕され、プラズマへと還元される。
要するに、かつてタイロクスの腹部を形成していた物質は、自らが物質であることを忘れたのだ。
最初の一撃が彼の原子を混乱に投げ込み、存在することと存在しないことの間で引き裂かれた。その不確実性が、遅延の原因だった。
だが今、それらの決定は下されていた。
恐ろしい理解が現れる。タイロクスはこの状況を制御していなかった。彼は単一の位置に留まることができなかった、彼が投げ回され、さらには捕らえられていることを考えれば。彼の巨体は、この生物にとって何の意味もなかった。
この生物は、彼のメンタリティの核心そのものだった。
それが彼を支配していた。
それが彼の命をその手の中に握っていた。
それは、彼に対して好きなようにする自由があった。
『この感覚は……』
恐怖の感覚、いや、彼の存在そのものを引き裂く原始的な不安。落ち着かなさと焦燥感の感覚。それは、終わりの影がゆっくりと彼の姿にのしかかり、永遠の闇へと彼を投げ込もうとしているという感覚だった。無力感、絶望の感覚。
タイロクスは、いずれ自分が死ぬことを常に知っていた、ただ、こんな形でではなかった。彼は、自分の命が、自分が「存在する」と知っている何かによって奪われることを望んでいた。存在と論理の法則に従うと知っている何かによって。
ついに、その瞬間に彼が感じたあらゆる感情が、ひとつの融合へと合わさり、単一の心の中の記録となった。
『怖い』
その瞬間、それが恐怖だという理解が、そのオークを飲み込んだ。
そうだ、これは恐怖だった。この、迫り来る地獄という感覚。この、自分がもうこの世界に存在しなくなる、すべてが自分と自分が何者だったかを忘れてしまうという感覚。この、自分が何をしようと、どれだけ強力であろうと、自分よりも強い何かが存在するという感覚。
この、自分が決して認められることはないという感覚。
彼は忘れ去られる運命にあった、地下から決して現れることなく。
空は決して彼を見つめることはなかった。
……。
……。
タイロクスが軍隊を手に入れることにこれほど固執していた理由は何だったのか? その原動力は何だったのか? これに至った出来事は何だったのか? これはすべて何のためだったのか?
……おそらく、それは、頭の中である一つのことが繰り返されていたからだった。
俺は、怪物として認められたい。
そのオークは混血だった、社会から――彼の才能にかかわらず――疎まれるべき、ゴブリンから生まれた冒涜的存在。自分自身についてのこの先入観のせいで、彼はその役割を完全に体現していた。彼は自分自身を、怪物性の殻の中に無理やり押し込んだ、まだ残っていたわずかな人間性を無視しながら。
地上を征服すること。それこそが、彼が何よりも望んでいたことだった。それを成し遂げた後、彼は何をするつもりだったのか? それはどうでもよかった。重要だったのは、自分のような者たちが強力であることを、全員に示すことだけだった。
天才たちが持つような強さを、彼らも扱えるということを。目的地は彼にとってどうでもよかった、旅路だけが重要だった。
その目標を達成するために、彼は周囲の者たちを支配する方法を学ぶ必要があった。王たちこそが、真の力を握る者たちだった、周囲の者たちを指揮する能力を。彼らが世界を決定するのであって、世界が彼らを決定するのではなかった。
モンスターはしばしば、その本質そのものと同義な強さを持っていた。タイロクスは明らかに、理知的種族ほど強くはなれないだろう、だから彼は、モンスターほど強くなるつもりだった。
これらの様々な力の定義を組み合わせることで、彼は全員に示すつもりだった。支配可能で、戦術に長けたモンスターを。調和の取れた存在を。
だが、右腕を血で染めながらこちらに歩いてくるその存在を見つめながら、彼はあることに気づいた。それは悲しいことに、他のどんな状況でも決して訪れることのなかったであろう気づきだった、まさにこの状況――彼の命がゆっくりと終わりを迎えつつある状況においてのみ。
「俺は、怪物じゃない」
そうだ。彼の目の前にいるこのものこそが、まさにそれだった。
このものは、その体に何の感情も持っていなかった、ただの冷たい鋼だけがあった。生命に似たものと言えるのは、その歯だけで、それ以外は何もなかった。このものは、信じられないほど強力だった。これこそが、真のモンスターだった。その進路上のすべてを消し去る、理解を超えた獣。
モンスターは恐怖を持たない、状況を制御できないときに怯むこともない。彼らはただ、終わりまで戦うだけだ、無思考に、無頓着に。
今、人間の感情が、最後になって彼の中に再浮上していた。
なぜだ?
『なぜ?』
なぜ今、こんな感情を感じているんだ?
『なぜ今、俺はこう感じているんだ?』
それは明らかだった。
タイロクスは、力を価値だと誤解し、拒絶に耐えるために怪物じみたアイデンティティを築いた男だった、そして、真にそれを欠いた何かに直面して初めて、自らの人間性に気づいたのだ。彼はモンスターではなかった、ただ、最終的には意味のなかった行動を取った存在だった。
その存在の顔が、彼の左側数ミリのところに浮かぶ。再び、それが凍りつく。
「ロキシー」
その声は優しく、なだめるようで、女性の囁きが右側へと温かさを運んでくる。
タイロクスの視線が分裂する。
左には――無感情なモンスター、殺意以外の何も持たない。
右には――優しい女性、彼女を殺した息子を、最後まで愛し続けた母。
優しい手が彼の顎を包み、頭を左へと向ける。柔らかいが、信じられないほど強い。
「私を見て、ロキシー」
「……」
「母さん……?」
「……」
ああ、優しい、緩やかな死。彼のあらゆる過ち、そして後悔が表面に泡立ちながら、最後の理解へと至る。それは、こんな暴君に相応しいとは思えない死だった。タイロクスは、そのような死に値するのだろうか?
「俺、ごめん……全部、無駄だっ――」
その存在の手が、その位置からオークの頭を掴んだ。
それから、左への強い引っ張りとともに――
そのオークの頭が、その根元から引きちぎられる。
これは相応しかった。逆らう者を殺し続ける人生を送ってきた、怪物じみた暴君が、自分が稼いだ唯一の通貨で支払いを受けたのだ――血と痛みで。
そのオークは、ずっと選び続けてきた道――左の道を辿って死んだ。怪物性の道を。彼はこの世界に何の痕跡も残さなかった、ただの染みを残しただけだった。彼が奪ったすべての命、失われたすべての無実の存在が、この瞬間に彼を苛んだ。
残されたのは、生命の最後の痕跡を吐き出す、首のない死体だけだった。
その存在は死体の上に聳え立ち、その頭を腕に抱えている。それは一瞬、ただ見つめていた、自らの強さを誇りに思っていた者の、生命のない体を観察しながら。空気は死んだまま静止していて、その死体を反映していた。
葉が、静かな交響曲の中で揺れていた。
ゆっくりと、それが頭を口へと持ち上げる。だが顎があまりにも小さすぎたので、調整が必要だった。それが下顎をパキッと開き、指の緊張を解き放つと、頭がその顎の中へと落ちる。
響き渡るような音とともに、それが顎を閉じ、頭を飲み込む。
飲み込んだ後、その存在は、自分の位置へと収斂しつつあるゴブリンの群れの方へと振り返る。それぞれが武器を握り、自らに自由を教えてくれた者――自分自身の心に縛られていた、まさにその者の仇を討とうと必死になっている。
「か、怪物! 殺してやる!」
それはゆっくりと、意図的に歩き続けた、それに立ち向かう勇気を持った小さな人影を無視しながら。
「止まれ!」
「止まらない!」
「こ、こいつは殺せない! わかるんだ! できないんだ!!」
「た、耐えられない!!」
その存在は、少年の死体へと、まったく無関心なまま向かった。ゴブリンたちに対処する必要はなかった。ひとつの単純な事実が、それを明らかにしていた。
彼らはすでに、自ら死んでいっていたのだ。
恐怖と吐き気が彼らを飲み込んでいった。それぞれが逃げ道を探し、自分たちが知る唯一の方法で、武器を掲げて自らの命を絶っていった。
一人また一人と倒れていき、鈍い音のリズムが草の上に響き渡った。腐敗と鉄の悪臭が空気を満たし、血が黒く彼らの体の周りに溜まっていった。何人かはためらうか、下手に一撃を与え、ゆっくりと窒息していった。その存在が前へと進み、彼らの頭を足で押し潰し、即座に仕事を終わらせた。
ついにその目的地に到着すると、その存在はかなり乱暴に少年の髪を掴み、振り返りながら彼をその後ろに引きずる。それから、門へと戻る歩みを始める、死体をアクセサリーのように引きずりながら。
以前は穏やかだった森は、今や死体の墓場と化していた。暴君、モンスター、昆虫人、何百ものゴブリン。彼らは今、ひとつの側面を共有していた。死。彼ら全員が、このひとつの事実によって結びつけられていた。
聞こえるのは、血の中を跳ねる足音だけで、時折の突風がそれに区切りをつけていた。
月明かりが死体にきらめき、青白い幽霊のような輝きでそれらを包んでいた。
その存在は、大きな門にたどり着くまで歩き続けた。今、その境界の前に立ち、それは少年の死体を脇に投げ捨てる。素早く腕を持ち上げ、一本の指を門に押し当てる。
響き渡る金属音とともに、その巨大な門がまるでブリキのように後方へと曲がる。土埃が壁から爆発し、散らばりながら、淡い光の中ですべてを覆い隠す。
その存在が死体の方を向き、足を持ち上げ、少年の体にある奇妙な傷跡の上に踏み込む。ゆっくりと、それでいて不自然なほどの精密さで、まるで家に入るかのように、それが彼と融合し始める。骨が再配置される。臓器が元の位置へと戻る。数瞬のうちに、その少年は単に意識を失っているだけのように見えた、もはや死んではいなかった。
闘技場の壁が崩壊し、構造全体が倒れ込んだ、それでも奇跡的に、誰も傷つかなかった。おそらく、その破壊は中心にある死体を隠すためのものだったのだろう。ある種の奇妙な埋葬だった。
煙が晴れると、声が響き渡った。
「カイト!」
ウォール・フラムバーンの声が響いた。
解放された奴隷たちの一団が瓦礫の中へと押し寄せた、自分たちが自由を勝ち取るのを助けてくれた少年に必死に手を伸ばそうとしながら。若い少年が最初にカイトに到達し、命の兆候がないか確認した。
「息してる!」
もう二人が彼を肩に持ち上げた。
「動け! この場所は崩れかけてる!」スティルが叫び、カイトを運ぶ男の一人の背中を押した。
一行は瓦礫の中を駆け抜け、無数の命が終わりを迎えたこの呪われた廃墟から逃げ出していった。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 2300年、東ノロヴィア、ソラヤ共和国
閣下、アトモシアン・バシレイオス様の御名において:
1時間前、ヴァロスの町の地下で、途方もない濃度の虚無エントロピーが検出されました。ソラヤ共和国の市民たちもまた、突然の圧力が体を圧倒したと報告しており、我々はこれが虚無エントロピーによって直接引き起こされたものと理論づけております。
この手紙を書いているまさに今、数瞬前に、同じ地域で轟音が感じられました。これらの出来事は、幽谷の存在の証拠となる可能性があります。私はヴィカヌス提督に、これらの現象を調査する許可を謙虚に求める次第です。
ソラヤ共和国には多数の傭兵集団が存在しますが、しかしながら、アイギス軍団のような組織化された部隊の存在は、この地域へのいかなる干渉も抑止するでしょう。したがって、この書簡への迅速な返信が必要不可欠です。
敬具
ソレント大尉第21軍団
部屋だ。
薄暗く照らされ、ひとつの電球だけが部屋を照らしている。俺は木の椅子に座っている。向かいには、もう一人の人物がいる。
その顔は、興味を宿しながらも、何の感情もない――まるで人工の生息環境の中でアリを観察しているかのような表情だ。それは軽蔑に満ちた表情だが、物理的な指標はまったくない。ただ、そうであるとわかる。
そうだ、俺の向かいに座っている少年は、他でもない「カイト」だ。
だが、奇妙なことに、その髪は下ろされている、俺のものとは対照的に。長い紺色の前髪が特徴を覆っているが、大まかな詳細を見て取るには十分だ。
「カイト」。
彼が俺を見つめる。
俺は誰だ?
俺も「カイト」だ。
そうだよな?
いや、これは「カイト」じゃない。
これは、██████だ。
ああ、名前を忘れていた。
この部屋は静かだ、誰一人動かない。俺たちはただ、その瞬間に凍りついている、死に至るまでの永遠の見つめ合いに囚われて。氷にゆっくりと針が刺さっていくように。
彼は黙ったままでいる。
彼の背後、部屋の隅に、イポクリティス隊長が立っている。その顔は、誰もが愛するあの永遠の笑みに固定されている。イポクリティス隊長を愛さない者などいるだろうか? 俺は愛している。イポクリティス隊長、この状況について何かできませんか? あなたは英雄でしょう、だから他人を助けるんですよね?
助けてくれ。
██████に視線を戻す。彼の顔は今、固定されている、無表情に。彼は俺に話しかけない。俺はお前が関わるにはあまりにも汚らわしいのか? 俺はお前にとって寄生虫なのか?
「なんで黙ってるんだ? 何か言えよ、くそ」うめく。
「そんな目で見るのやめろ、殺すぞ」
「……」
「俺を見るのをやめろ」
俺を見るのをやめろ俺を見るのをやめろ俺を見るのをやめろ俺を見るのをやめろ俺を見るのをやめろ俺を見るのをやめろ俺を見るのをやめろ俺を見るのをやめろ俺を見るのをやめろ俺を見るのをやめろ俺を見るのをやめろ俺を見るのをやめろ俺を見るのをやめろ俺を見るのをやめろ俺を見るのをやめろ俺を見るのをやめろ俺を見るのをやめろ俺を見るのをやめろ俺を見るのをやめろ俺を見るのをやめろ俺を見るのをやめろ俺を見るのをやめろ俺を見るのをやめろ俺を見るのをやめろ俺を見るのをやめろ俺を見るのをやめろ俺を見るのをやめろ俺を見るのをやめろ俺を見るのをやめろ俺を見るのをやめろ俺を見るのをやめろ俺を見るのをやめろ俺を見るのをやめろ俺を見るのをやめろ俺を見るのをやめろ俺を見るのをやめろ俺を見るのをやめろ俺を見るのをやめろ俺を見るのをやめろ
目が覚める。
草原を半ば予期していたが、代わりに、俺は何もない水面の上に座っていることに気づく。驚いたことに、落ちてはいない。視線が上へと漂う。
再び、あの巨大な逆さまの城が頭上に聳えている――途方もなく、不可能なほどに。
「よぉっ!」
ため息をつく。
「こんにちは、アザ」
「――もうちょっと感情込めてよね! 私、もう何年もここにいるんだから!」
「その通りだな」
手を上げる。「ご機嫌よう、理解不能な冒涜的恐怖、アザ」
彼女がため息をつく。
「切り返す元気もないくらい疲れてるわ。元気っ子を演じるの、疲れるのよね」
立ち上がり、周囲を見回す。彼女以外、静寂だけがある。
「そもそも『何年も』ってどういう意味だ?」
「生きている世界での5分は、こっちではだいたい10年よ。あなた、1週間近く消えてたわ」
「うわ……まったく知らなかった」
「心配しないで、私の時間感覚はあなたのとは違うから」
「じゃあなんでそもそも言うんだよ!?」
ため息をつき、髪をくしゃくしゃにする。
「髪を下ろしてると、驚くほど違って見えるわね」彼女が玉座からコメントする。
髪を後ろへと撫でつける。
「こっちの方が好きなんだ。額に何かが触れるのが嫌いなんだよ」
彼女はただ微笑み返すだけだ、あまりにも長く。
「んん?」
「なんでもない」
大きくうめく。
「ああああ、俺、死んだんだろ? じゃあまた――待て」
「いいえ。あなたが私の別の下僕に会ったからよ」
「でも俺、あいつに実質一言しか言ってないぞ。会話らしい会話も、姿を見たことすらないのに」
「いずれ会うことになるわ」
頷く。
「……待て、じゃあもし俺が死んでないなら、なんで俺はここにいるんだ?」
「まあ……厳密には、あなたは死んだわ。でも、あなたはEがくれたもののおかげで、同じ時間軸に留まっている。ある種の『第二の生』ね」
「Eっていうのが、あいつの名前なんだろうな」
「そう。地味な名前でしょ、わかってる。でも、あいつに会ったら、考えが変わるわよ」
「じゃあ……俺は今、意識不明ってことか?」
「その通り。意識を取り戻すまで待たなきゃいけないわね」
「そのせいで……」少女が微笑む。
背筋に冷たいものが走り、血が凍りつく。
「あなたが、私の話し相手になってくれるのよ!」彼女が両手を合わせ、玉座から飛び降りる、どこからともなくトランプの束を取り出しながら。
「誰か俺に水責めしてくれ! 頼むから起こしてくれ!」
第一節: 感染
――――――――――――――――――――――――――――――――
終




