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24/32

虫

うめき声が口から漏れる。疲れ果てている。信じられないほど疲れ果てていて、これ以上動けば崩れ落ちてしまう。


氷の矢が、俺の両目の間にまっすぐ向けられている、その表面から溶け出す水滴がはっきりと見える。


呼吸が重い。恐怖からなのか疲労からなのか、判断がつかない。


「お前の妻! サイラ!」


この状況から抜け出せるなら、何でも口にする。


「アラックス――」


_______________________________________________________________________________________________________________


「――アラックス! 変な名前ね!」彼女はそう言い、学校と街の残りの部分を隔てる小さな石垣の上でバランスを取っていた。


両手がそれぞれの方向に伸ばされ、その上に留まっていられるようにしている。


「ああ、その通りだ、でも、あの、手伝ってもらえないだろうか……?」アラックスが尋ねた、彼の本がセメントの地面に散らばっている。彼自身は膝をついていて、事故から必死に立ち直ろうとしていた。


「あはは……ごめん、手伝うよ」彼女はくすくす笑い、それから軽く「おっと」と言いながら地面に降り立つ。


彼女は地面から本を一冊拾い上げ、素早くその昆虫人に手渡す。


彼の視線が、冷たいセメントから上へと動いていく。


彼が長年ずっと見つめてきた冷たいセメントは、今、彼の視線を失った。彼の視線は上へと動いていった、そうだ、上へと。


そして、その視線の中には色があった、あらゆる方向から溢れ出す、温かく明るい色。彼が目にする以前から存在していた世界が、ほんの一瞥の先にあった。それは彼を待っていた、彼が上を見上げるその瞬間を告げるかのように。夏の暖かな日だった、空は薄い青、白い雲がそれに、幸福なエントロピーの感覚を与えていた。木々が背景に散らばっていた、鮮やかな緑が、この世界の色彩の証として。


そして、その共鳴の中心には、彼女がいた。


彼の手が本を受け取るが、彼の目は彼女の目と共鳴していた。彼女は彼と同じ昆虫人だった。彼女の色は鮮やかな黄色で、彼の魂を覗き込んでいるかのような、黒い真珠のような瞳によって際立たせられていた。


彼女は、有機的なものというより彫刻のように見えた、独自の美しさを持って。ほとんどの昆虫人は、有機的な調子を明かすような何かしらの側面を持っていた、だが彼女には、その類のものが一切なかった。


彼女に内在する、何か本質的に人間らしいものが強く共鳴していた、まるでその姿を取り巻くオーラに命が吹き込まれ、周囲のすべてを万力のような握りで引き寄せているかのように。


人間。


『申し訳ございませんが、あなたの申請は却下されました。個人的な判断からではありませんが、あなたのような……言い方が悪いですが……種族の方々は、この大学で学ぶ内容を、かなり……不快に感じられるのではと考えております』


人間。


『申し訳ございません、ヤン様、これを攻撃と受け取らないでいただきたいのですが、生物学的な事実として、昆虫人はこのような繊細な作業を行うために必要な手の付属肢を欠いていることが知られています。ご理解いただけますでしょうか』


これは、彼のせいだったのか?


『ヤン様、あなたの外見を考えると、あなたを異形種と誤解した教職員に攻撃される危険性が十分にあります。不快に聞こえるかもしれませんが、それが真実です』


ああ、彼はついに理解した。


自分の研究分野にどれほどの努力を注ごうと、関係ない。厳しい勉学の時間、紙の上に落ちた自分の腺からの汗、家族から離れて家の中で過ごした日々。


そのすべてが、無意味だった。


他人から見た、彼のただの外見のせいで。


たとえ彼がすべてを犠牲にする覚悟があっても、王国から王国へと移動し、自分を養う金がほとんどなくても、関係なかった。


彼の見た目のせいで。


最初から、何ひとつ関係なかった。


生物学者が初めてワイバーンを解剖した際の発見について詳述した記事を読んだあの瞬間から。


家族のリビングルームに座って、『これが俺のやりたいことだ!』と決意したあの瞬間から。


父が彼に、自分たちのような者はそういう場所では歓迎されないと告げたあの瞬間から。彼はきっぱりと拒絶し、それを変えてみせると宣言した。彼は自分の未来への道に確固たる決意を持っていた。


その道は、靴底の下へと続いていた。


あれほどの決意、あれほどの信念、それが何のためだったのか?


これらの機関にとって、彼はただの汚らわしい光景だった、押し潰されて無視されるべき、ただの虫けらだった。彼はただ踏みつけられるだけの存在だった、それ以上でもそれ以下でもなかった。


まあいい。


まあいい。


『俺には理性がない。俺は怪物だ。理知的種族のようには感じない。理知的種族のようには食べない。俺はすでに理知的種族のようには見えないんだから、異形種として生きていこう』


これが、その男が確立したメンタリティだった。自分の希望を過剰に飛躍させないための。彼の狙いは星ではなく、地面に向けられていた。そして彼は永遠に地面を見つめ続けるつもりだった。


そこが彼の居場所だった、ただの虫けら。地面を這いずり回り、靴底から靴底へと。


そうだ、それが正しかった。


なのに、なぜ?


なぜ今、彼は上を見上げているんだ?


『俺には理性がない、それなのに……?』


空が、地上を見下ろしていた。


「こんにちは、そこの下の人。私の名前はサイラよ」


「え……?」


「感情がないって言うの?」少女はベンチから言った、腕を組み、頷きながら。


「ふん、それはダメね!」彼女が叫び、頷く。


アラックス自身は、ただ家に帰りたいだけのように見えた。そして、おそらく、長い間嘆きたかったのだろう。この時点で、彼の人生にはやるべきことは何もなかった、これ以上長く関わり続ければ、彼が深く後悔することになる何かをしてしまうだろう。結局のところ、ただ一度上を見上げたからといって、それには何の意味もない。


地面にいる虫だって、時々は上を見上げることがある。


彼の手が力なく垂れ下がった。


「よし! この私、優しいサイラが、あなたの感情を取り戻してあげる! これは約束よ!」彼女が叫び、拳を手のひらに叩きつける。


アラックスはまだ頭を下げたまま、彼女の方を向いた、生気なく。


「……もっと他にやることはないのか?」


「――ぐっ!」


彼女は一瞬、胸を押さえながら息を呑む。


「ふう、危うくその現実チェックにやられかけたわ!」


「……」


「時間ならたくさんあるし、ほとんど何でもできるから。それに、この街には私たち二人とも昆虫人だし、ヴォルトは昆虫人の人口で知られてる場所じゃないから」彼女がベンチにもたれかかる。


太陽が今、沈みかけていて、生徒たちが寮へと向かっている。サイラが立ち上がり、一瞬背中の埃を払う。それから彼女はアラックスの方を向く、その動きに生き生きとした調子が宿っている。


「ついてきて、かっこいい溜まり場、知ってるの!」


アラックスは一瞬考え込んだ。彼にやるべきことなど、そもそもあっただろうか? 仕事に就くことは論外だったし、他に何かをするには金があまりにも足りなかった。彼が持っているのは小さなアパートだけで、他には実質的に何もなかった。


「それで何になるとも思えないが、やってみよう」


「求めてた答えじゃないけど、感謝するわ!」彼女が叫ぶ。


そう言うと、彼が気づく前に彼女は彼の手を掴んでいた。彼の鞄が、彼女が彼を引っ張る速度のせいで、ほとんどちぎれそうになった。


彼女は彼に、二人の知人を紹介した。


漠然とした言い方になるが、彼はその名前をどうしても思い出せなかった。彼はただ、彼らの方向に曖昧に頷いただけで、それ以外は何もしなかった。


それは小さな酒場で、中には四人だけだった。彼らが座ったテーブルには、「忘れっぽい記憶」として知られるボードゲームが置かれていた。実際、プレイするのはかなり簡単だった。


盤上には駒があった。チームの目的は、特定の順序で駒を二回動かすことだった。チームのメンバー両方が、まさにそれを行う。


相手チームの一人のメンバーが、その正確な動きを再現する役目を負い、結果として駒がもう一方を鏡写しにするように終わらせる。もし失敗すれば、その仲間が代わりを務める。


単純な記憶ゲームだった、それだけの。


最初の数試合はかなり簡単だったが、アラックスは三試合目で苦戦していることに気づいた。相手が驚くべき速さで動いていたので、かなり難しかった。彼は、相手の動きをよりよく観察できる位置へと体を移していた。


「あの、アラックス、あなたテーブルにちょっと寄りかかりすぎてるわよ……」サイラがコメントする。


その昆虫人が一瞬びくりとし、それから急いで姿勢を正す。


「あなた、かなり楽しんでるみたいね?」目の前の女性がコメントし、その言葉をアラックスに向ける。彼の頭がその言葉に反応する。


「いや、単に、物に寄りかかる自分の癖に、一瞬また陥っただけだ」


「あら。それは、失礼」彼女が返す、驚いた表情がその顔をよぎる。彼女は腕を組んでから、再びゲームへと戻る。


彼らは5時間ぶっ通しでプレイした。ほとんどすべてのゲームがアラックスの勝利に終わった、全員を驚かせながら。彼の記憶力は侮れないものだった。だが、上を見上げるに値しない虫けらには、そんなものは必要ないはずだった。


今は夜で、彼にコメントしていたもう一人の女性の友人はすでに去っていて、残っているのは彼とサイラと、あの女性だけだった。


「ちょっと外で片付けなきゃいけないことがあるから」サイラが明るく言い、酒場を出ていく、ドアがその姿の背後で閉まる。今、残っているのはアラックスとその女性だけだ。静かな平穏の感覚があたり一帯を満たしている。


「あなた、かなり上手ね」その女性が言った、かなりの数の駒を箱に放り込みながら。「今まで見た中で最高の一人よ、私たちに加わってもいいくらい。これのためのスポーツがまるごとひとつあるの、知ってた?」


その男は首を振り、その申し出を断った。


予想通りだった。


「ありがとう、だが俺は……単に他のことで忙しすぎて、そのようなスポーツに関わる余裕がない」


「ああ、それは仕方ないわね」


その女性が箱を両手に持つ。二人が座っているテーブルは、酒場の中で唯一光が当たっている一帯のままだ。他のすべては闇に包まれている、それに、突然アラックスを掴んだあの雰囲気も。


その女性が一瞬、視線を下げる。


「ねえ……」彼女が切り出す。一瞬止まり、慎重に言葉を選びながら、それでも構わずそれを投げつける。


「なんであの子とつるんでるの?」


「?」触角が一瞬ぴくりと動く。


彼女はくすくす笑い、それからゆっくりと首を振る。「たぶん、私たちが彼女の友達に見えるから混乱してるんでしょ? ここでみんな一緒にいて、ボードゲームして、楽しんでるんだから」


冷たい表情が突然現れる。


「私たち二人があの……犬……とつるんでる唯一の理由は、彼女が裕福な家の出身で、私たち二人はただその縁故のおこぼれにあずかりたいだけよ。まあ、すでにいくらかもらってるけど、もう少しくらい、悪くないでしょ?」


「……」


ああ、そういうことだったのか。


彼らは確かに、こんなに遅い時間にプレイすることに、かなり熱心そうに見えた。ほとんど誰でもその事実に気づけただろう。だが、サイラのような人物なら、話は別だっただろう。アラックスは、その少女に少し気の毒に思った、周囲の者たちの二枚舌にこんなにも簡単に取り込まれてしまう人物に。


だが、この女性がこんなに軽々しく下品なことを言うとは、なかなかの暴露だった。


サイラはただ、悪意ある者に利用される優しい人間の、もうひとつの事例にすぎなかった。


「まあ、あなたが彼女とつるんでる理由もひとつ思い浮かぶわ。もし金銭的に困ってるなら、彼女とつるんで、多少の追加収入を得るのもいいんじゃない?」


その昆虫人は頷いてから、素早く立ち去った。それは明らかに、同意の頷きではなく、できるだけ早くその状況から自分を引き離すための、素早い切り札だった。


「何、あんたの『道徳観』がそれを許さないっての?! 人には払わなきゃいけない請求書があるのよ、知ってる?!」


その声が背後から彼に呼びかけ、彼を誘惑する。


金銭的な問題があるのは事実だったが、彼はそこまで身を落とすつもりはなかった。だが、彼はサイラに対するあの二人の計画を明かすつもりもなかった。彼は、虫がそうするように、中立を保つつもりだった。虫はただ通り過ぎるだけだ、何の関心も払わずに。


彼の手がドアにかかり、出ていく前に。


「言っておくが、俺は楽しんだわけではない。ただ、他の誰もがそうするように、勝つためにプレイしただけだ」


そして彼は外へと踏み出した。


冷たい世界の中へと。


そして視線を地面へと固定した。


彼はここから何が起きようと気にしなかった。あの通りで無作為に彼を拾い上げた少女が注いだあらゆる努力が無駄になるだろう、悲しいことだが。


彼はそこから単に家に帰り、それから……


それから……


彼は……するのだろうか……


「あ! あなたそこで何やってるの!?」


アラックスの頭が、思わず上を向いた。


彼の体は「やめろ」と叫んでいたが、彼の心は「そうしろ」と叫んでいた。


いや、それは彼の心じゃなかった、それは彼の頭の中にある、彼のあらゆる行動を司る臓器だった。彼の脳。純粋な論理と本能から思考を形成する、まったく感情のない意識。


それは好奇心の結果だった。ハエでさえ、迫りくる手を見上げるものだ。


その少女の手には、包まれたバスケットがあった。鮮やかなピンク色で、さらに鮮やかな赤いリボンが巻かれている。黄色い縞模様がその姿を飾っている。


「むぅ……まあ、結局包んじゃったから、はい、あげる!」


彼女が両手にあるプレゼントを差し出す。それは男に向かって伸ばされている、贈り物の壮大な仕草として。


アラックスは一瞬そのプレゼントを見つめ、それからサイラを見上げる。彼の目には、明らかな困惑の色が浮かんでいる。


「サプライズプレゼントよ! 友情の証として受け取って……!」


その昆虫人はまだ困惑したままで、目の前の少女とプレゼントを交互に見ている。


「あはは……見えた!」彼女が身を乗り出す。「あなた、嬉しいんでしょ?」


その少女の態度に圧力を感じ、アラックスがわずかに後ずさる。


彼はそのプレゼントを手に取る。


「いや。ただ困惑しているだけだ。なぜ、今日出会ったばかりの相手に贈り物をするんだ、しかも友達というレッテルまで貼って?」彼が首を振る。「お前は俺のことをそんなによく知らない。俺はもしかしたら、ひどい人間かもしれないのに」


彼女はこれをすることで何かを得ていたのだろうか? 内面的な幸福? 何らかの物理的な報酬?


その少女が一瞬空を見上げる。以前は黄色だった彼女の色が、今は、その穏やかな夜という風景に対して暗い黒になっている。


ルナリスが明るく輝いている。ある意味、それは少女の目に似ていた。本質的に暗いが、対照的に明るい。人間らしい形で自らを示す、非人間。


「私を知ってる人みんなが、私のこと『過剰に感情的』だって言うの」


「まさに、その通りだな」


「はは……求めてた答えじゃないけど、感謝するわ!」


彼女がくるりと回る。


「そのレッテル、別に嫌いじゃないの。むしろ、それは本当のことだし。私はいつも、誰にでも共感してきた、たとえ他の人がひどいと思うような相手にも」


彼女が再びアラックスを見下ろす。その虫を見下ろす。


「そう、みんなが私を利用してるってわかってる。でも……それでも私の中の一部は、彼らとつるみ続けろって言ってくるの」


再び、彼女が空を見上げる。


「ああ。たぶん、それは……私が死んだとき……」


「私が死んだとき、みんなに私のことを話してほしいの。たとえ、私に間違ったことをした人でも、私を利用した人でも。彼らに、こう言ってほしいの、『サイラのこと、覚えてる、優しい人だった。あの人にひどいことをしたときでさえ』って」


「覚えといて、アラックス、私たちみたいな者は人間にひどい扱いを受けるけど、みんな一括りにしちゃダメなの! 優しさは、ずっと先まで連れて行ってくれるから!」


「……みんなに、私を覚えていてほしいの」


アラックスの頭が一瞬、垂れ下がった。頭の中の考えが混ざり合い、美しい菓子のようなものが、すべて彼の心の中で形成される。誰も味わうことのない、誰もその存在に気づくことのない菓子。


その瞬間、彼の心の中で何が起きていたのか、誰も理解することはなかっただろう。


「1年間」


「?」


「1年間だ。もしその期間内に、俺に何かひとつでも感情を感じさせることができれば、お前が死んだとき、俺はお前について語ろう。優しきサイラの物語を伝えよう」


衝撃を受けた表情が少女の顔に広がる。


もしかしたら、アラックスは、自分が自分自身に何をしでかすかという恐怖から、これらの言葉を口にしただけかもしれない。あるいは、その少女に何ができるのかを見極めようとしていたのかもしれない。


「理知的であるやり方を見せてくれ、優しきサイラ」


「……」


満面の「はい!」という返事が飛んできた。幸福の感覚があたりに満ちていた、その少女自身、今にも爆発しそうなほどだった。


その後の数か月間は、言葉にするなら、かなり波乱に満ちたものだった。毎日、何かしらのことが起きていた、友達の家での集まりだったり、街のどこかで開催されている祭りだったりした。


言うまでもなく、アラックスは、睡眠時のことは別として、1時間以上、家で無為に過ごすことは決してできなかった。いつもドアにノックがあり、あの同じ少女が彼を連れ出していった。


彼は、自分が存在すら知らなかった場所に身を置くことになり、存在すら知らなかったものを味わい、存在すら知らなかったものを目にすることになった。


すべて、その少女の手のひらの中で。


「何も感じない?」時折彼女はそう尋ねた、たいてい二人の冒険からの帰り道で。


アラックスは常に、断固としてノーと答えていた、だが時折、その言葉は彼が話すというより、口からするりと流れ出てくるようだった。


彼は感情がない状態でいたかったのだろうか? 本当にこれを望んでいたのか? それとも、演技だったのか?


その少女は決してその考え方に疑問を呈さず、ただその試みをさらに、さらに続けていった。彼女は彼を劇場やサーカスへと連れて行った、どちらも観客を笑わせるか泣かせるかのために作られたものだった。


この旅において、悲しみであれ幸福であれ、何でも構わなかった。感情こそが最終目標だった。


だが、彼女を驚かせたことに、彼はただそこに立ち、見つめているだけだった。毎回。


だが、彼が彼女の計画に自発的に従い続けたのには、何か理由があったはずだ。彼は、自分の人生における方向性の欠如への対処だと述べていたが、それが最終的な結末であるはずがなかった。


彼はいつでも自由だったのだろうか、何があろうと?


それでも、その旅は続いた。


ある日、祭りへと向かう途中、二人はサイラの家へと少し寄り道をした。どうやら、彼女にとってかなり重要な何かを忘れてきたらしく、それは決して省略できないものだった。


どうやら、彼女の父はヴォルティアで著名な詩人で、彼の名で書かれた本が何百冊もあった。そのような地位のため、彼女の一族は、少数派であるにもかかわらず、かなり裕福だった。


彼らの家は、その社会的地位を反映していた。それは白を基調とした邸宅で、その姿を際立たせる鮮やかな金の装飾が施されていた。何百もの部屋が、その敷地を守る大きな黒い門の背後に見えていた。


構造の残りの部分は、しかし、パノラマを遮る門の数のせいで、公衆の目から隠されていた。


外で待つように言われ、アラックスはしばらく立っていた、最終的に、消費される時間のあまりの長さに、路肩に座り込んだ。


彼が座っているこの光景は、通り過ぎる者たちにとって奇妙な光景であるように見えた、彼らは彼の方向に頭を向けまいと最善を尽くしていた。だが、彼が彼らにとって奇妙な光景であることは明らかだった。


まあ、その理由は明白だった。


彼は昆虫人だった。彼は彼らにとって、虫けらだった、権利を持つに値しない存在。それは、彼らが言葉では否定するが、心の中では肯定する、暗黙のルールだった。


『心配するな、俺はすでにお前たちの期待通りに振る舞っている。俺には野心がない。お前たちが俺のために心の中で設定した限界を超えることはない。俺は虫けらだ』


これが、彼の頭に浮かんだ数多くの考えのひとつだった。


他人にとっては、これは自己認識にとって有害で毒々しいものに見えるかもしれないが、その昆虫人にとって、これは彼の自己認識にまつわる他のあらゆる考えと何ら変わらないものだった。


それは、自分が着ている服を自覚し、他人の視線に敏感になるのと似ていた。


男の背後で門がカチンと鳴った。


振り返ると、サイラが彼の前に立っている姿が目に入った、小さな鞄を脇に抱えて。


何かがアラックスの目を引いた。それは些細な詳細だったが、際立っていた。


なぜか、彼女は顔の片側を押さえていて、頭自体が彼の方向から逸らされていた。その動きをできるだけ目立たなくしようとしたのは明らかだったが、失敗していた。


「何かあったのか?」


「あ、ううん! 気にしないで! さっき、うっかり門に頭ぶつけただけだから!」


彼女が笑う。


これ以上詮索しないことに決め、アラックスはその会話を宙に漂わせたままにする。個人的な問題に詮索することは、彼にとって何の利益にもならなかった。


結局のところ、彼はそもそもサイラのことなど気にかけていなかった。彼女は、彼を笑わせようと全力を尽くすが最終的にはできない本のようなものだった。それなのに、どういうわけか、彼はページをめくり続けることをやめられなかった。


この頃、太陽がゆっくりと空でのシフトを終えつつあり、地上へと沈んでいき、その対の存在に交代を許していた。オレンジ色の輝きが石の地面に沿って波打ち、強い憂鬱の感覚を与えていた。


時が経つにつれ、アラックスは、サイラが二人の待ち合わせ場所に、通常よりも遅れて到着するようになったことに気づいた。通常なら、彼が探される側だったはずだが、その役割が逆転したように見えた。


もうひとつ明らかになったことがあった、その少女に現れる、無数の擦り傷だった。


『その擦り傷は何だ?』


彼は尋ねるだろう。


『ああ、これは断裂者になるための訓練をしてるだけよ。肌にかなり負担かかるの、はは。厳しい訓練とか、そういうの』


『なるほど』


『うん。あなたは、断裂者じゃなくて、魔術師になりそうなタイプに見えるけど。コウホウ、何か知ってる、アラックス?』


『俺はグラキエスの呪文の唱え方しか知らない』


『それって、他のよりずっと痛いって聞いたことある。タウマイト臓器を手に入れることは考えたことある?』


「昆虫はタウマイト臓器を持つ適性がない。それに、タウマイトになることは俺の技量をはるかに超えている」


「求めてた答えじゃないけど、感謝するわ!」


会話は、深淵から、呪文やセヴェラント、そういった類のものについての気軽な話へと逸れていった。


アラックスは自分が、そうしたトピックにかなり夢中になっていることに気づいた。


サイラについてひとつ言えることがあるとすれば、彼女は極めてカリスマ性があったということだ。彼女は話題を切り替える独特の方法を持っていたが、その飛躍を、相手を混乱させない程度に低く抑えることができていた。それは、様々な状況で有効だと証明されていた戦術だったようだ、アラックスが観察した限りでは。


この少女は、かなり奇妙だった。


「断裂者の訓練、どんな感じ?」


二人は本屋の隣にあるベンチに座っていた。サイラは新しく発売された本に興味を持っていて、それを手に入れるための提案は、アラックスにとって避けられないものだった。だが、その列こそが、彼女の目標を阻む、無慈悲な悪役だった。


結果として、二人はその列の中のベンチに座らざるを得なくなった。とはいえ、立っているよりはましだった。


断裂者訓練についての質問は、少女の体に増えていく擦り傷が原因で発せられたものだった。もちろん、アラックスは、彼女がただより激しく訓練しているだけなのだろうと結論づけていたが、驚いたことに、彼の心の一部は確かめておきたいと願っていた。


奇妙なことに、彼が彼女を見つめると、少女は反射的に顔の片側を覆った。


「?」


「ごめん、何か目に入っちゃって」


「……」


「――あ、訓練はすごくうまくいってるよ! 聞いてくれてありがとう!」


彼女が何かを隠していることは明らかだった。彼女の動きは、彼女にしてはあまりにも不規則で、質問されるたびに明らかに嘘を作り上げていた。だが悲しいことに、アラックスは彼女の事情に首を突っ込むほど気にかけていなかった。むしろ、彼女は彼にとっての娯楽提供者だった。彼が彼女の私生活に踏み込むべきではなかった。


「アラックス、質問していいか?」


「どうぞ」


「なんでまだ私についてきてるの?」


「ん? お前が、俺に何らかの感情を感じさせることが目標だと言ったと思ったが」


「……わかってる。でも、何も効いてないのは明らかじゃない?」


「……」


「なんで何も言わないの? なんでまだ続けてるの? なんでまだ私にしがみついてるの?」


「……」


「行きたいなら、行っていいのよ」


「……」


「ぷっ……」


「何だ?」


「なはは! 冗談よ! 一瞬悲しくなったでしょ?!」


「いや。むしろ、それはただ、裏庭から雑草がなくなったような感覚だった。その存在がもうないことには気づくだろうが、特に悲しむことはないだろう」


「求めてた答えじゃないけど、感謝するわ!」


ある日、サイラは大量の荷物を脇に抱えて現れた。彼女は息を切らしていて、服はしわだらけだった。絶望の表情がその顔にあった、他のどんな詳細よりも際立った何かが。


「……アラックス。私、悪いことしちゃった」


「本当に、悪いこと」


その昆虫人は沈黙を保っていた。


これはおそらく、水面下でゆっくりと醸成されていた冗談なのだろう。彼女はきっと『財布忘れちゃった』みたいなことを叫ぶんだろう。それから大声で笑って、アラックスの顔に何か矛盾がないか確認するんだろう。この時点で、それは彼女にとって定番のことだった。


アラックスが予想していなかったのは、その少女の大きな瞳の下に涙が浮かび始め、床に落ちていくことだった、その声が割れ始めながら。


「本当にひどい間違いだったの、アラックス」


「……?」


どうすればいいかわからず、アラックスは沈黙を保った。


「もうここにはいられないと思う」


「ただの間違いだったのに……頑張った……みんなに優しくしようって、すごく頑張った……ただの間違いだったのに……」


すすり泣き。人間にはまったく似ていないにもかかわらず、その少女はすすり泣いた。


彼女は今、泣いていた、膝が明らかに震えている。周囲を照らしていたあの光には、フードがかぶせられ、ゆっくりと消えかけていた。


それは、あまりにも懸命に輝こうとしすぎたせいで、意図せず周囲の者たちを、その輝きで苛立たせてしまっていた。


「私、みんなを助けた……みんなを助けたのに……悪いことなんて何もしなかったのに……なのになんで、一度失敗しただけで……こんなことになるの……」


その男はじっと立っていた、まるで目の前の光景がまったく起きていないかのように。まるで彼が、まだサイラを待っているかのように、これは彼の知るサイラではなかったから。


「逃げるつもり」彼女が涙を拭う。「ごめんね、でも、私がやりたかったことを成し遂げられなかった。あなたは他の誰かを見つけた方がいい」


「止めようとしないで」


その言葉とともに、彼女は男の脇を通り過ぎる、その動きに急いだ調子が明らかに表れている。


『お前がたった一度の間違いでこれほどの報いを受ける理由は、お前が昆虫人だからだ』彼は考えた。『彼らは、お前が優しいか、強いか、成功しているかなんて気にしない。彼らの目には、お前は見た目に基づく害悪でしかない。お前は彼らにとって怪物だ、彼らはお前の行動に、たとえ最も些細な矛盾であっても、自分たちの考え方を正当化するために探し続けるだろう。彼らの想定と正反対に行動することは、奇跡でしかない。お前は、明るく振る舞い、優しくすれば彼らの承認を得られると思っていた、だが、間違っていた。結局のところ、お前はまだ彼らとは違う存在だ。彼らはお前のために型を作り上げていて、その中に入る以外の選択肢はない。お前は虫けらでなければならない』


虫けら


無関心


INDIFFERENT


無感情


だが。


アラックスの中の一部が、少女の手へと伸び、それを掴んでいた。


サイラが足を止め、その突然の介入に驚く。彼女の頭が彼の方向へと向く。


涙はまだ、彼女の顔を伝っている。


「どこに行くつもりだ?」


「なに……」


「みんなが同じじゃないって、お前が言ったことを覚えている、なのになぜ諦めるんだ? それは、俺のことも諦めるということか? それは許さない」


「……ここには……いられない……何かしちゃったの」


「わかった、なら俺がついていく。だが、どこに行こうと、お前はしっかり頑張った方がいい。それに、二度と諦めない方がいい」


「……」


「地獄の果てまで、お前についていくぞ、サイラ」


ヴォルティアを出る船は、ゆっくりとした、波乱に満ちたものだった。


アラックスは、なぜ自分が彼女と一緒に去ることを決めたのか困惑していて、心が絶えず彼に叫んでいたが、この時点で、それは変えようがなかった。


サイラは自分の『両親』と口論になり、それが叔父の死という結末を迎えていた、彼女の手によって。彼女は、彼が攻撃してきた後、彼を単純に後ろへと押しただけだった、それが原因で彼は頭の後ろをテーブルに打ちつけ、死んだ。


彼女の『両親』は昆虫人ではなく、そもそも彼女の両親ですらなかった。彼女の父は何年も寝たきりで、彼の最も忠実な同伴者――彼女の叔母と叔父――が、彼が果たせなくなった役割を埋めていた。だが、彼らは彼の財産に完全にアクセスすることはできなかった、彼の娘であり相続人であるサイラの存在のせいで。


彼らの目標はすべて、彼女の父に近づき、彼の財産を盗むことだったが、彼らは最終的にそれを成し遂げられなかった。


サイラの父の知らないところで、彼女は些細な失敗のたびに頻繁に殴られていた。これは、友人の財産を掌握しようとした試みが彼女の存在によって台無しにされたことへの、叔父の深い憎しみに根ざしていた。それに加えて、非人間への彼の憎しみも。


彼は頻繁に彼女を罵倒し、何時間も殴りつけた。


サイラの『友人たち』についても同じことが言えた。彼らは彼女を身体的に虐待することはなかったが、彼女の優しさに付け込んでいた。もちろん、彼女はそれを知っていたが、それでもそれが続いていたという事実は変わらなかった。


サイラは、誰もかれもを愛していた。


だが、誰もかれもがサイラを憎んでいた。


彼女が昆虫人だったから。


アラックスはため息をつき、眠る少女を見つめてから、彼女と同じ世界へと漂っていった。


ノロヴィア。


そこで、それが起きた。


どこからともなく現れたような病だった。それはゆっくりと、その触手を少女に絡みつかせていった、誰もがその掌握に気づかないまま。


それから、わずか2年後のことだった。


彼は、その出来事を今でもはっきりと覚えている。


彼は部屋に入った。


彼女はベッドの上にいた、いつになく病弱な様子で。


明るい黄色だった色が、今はほとんど茶色になっていた。


その光が、暗くなり始めていた。


二人は一緒に暮らしていたが、「愛」という言葉が、アラックスによって口にされること、あるいは考えられることは一度もなかった。それが傲慢さからだったのかどうか、判断はつかなかった。


「彼女に残された時間は長くありません。……お別れの言葉を言っておくことをお勧めします」人間の医者が彼に言った。


その後、彼は素早くその場を去った。


彼は彼女の枕元へと向かい、両手がまるでベッドそのものに沈み込んでいくかのようだった。


その虫は再び、その落ちた星を見下ろした。


「悲しい?」


弱々しい声。


「……」


「……」


「……」


「……」


「大丈夫。答えなくていいよ」


「……」


「サイラ」


その少女は彼を無視した。


「私、正直、充実した人生を生きたと思う。たぶん、これを死ぬには若すぎる年齢だって言う人もいるだろうけど、私にはもうやることは残ってない」


「悲しくないのか?」


「うーん。あなたと離れるっていう考えはあるけど、それは裏庭の雑草みたいなもの。その不在には気づくだろうけど、そんなに影響は受けないと思う」


「……」


「なーんて、冗談……!」


咳。


だが、弱々しい笑いの発作が続く。


その笑いは、少女がその男の顔に気づいたところで収まる。


湿った水が彼の顔を伝っている。涙。


その少女は涙が込み上げてくるのに気づく。


ああ、なんで今なの? ちょうど去ろうとしているところなのに?


なぜ、彼女には今、去らない理由があるのだろうか?


「なんで今なの?」


彼女の目が閉じる、涙はまだ流れている。


「サイラ……! 俺は――!」


「求めてた反応じゃないけど、私は……」


「私は……」


「私は……感謝してる……」


彼女の頭がゆっくりと枕の上に横たわり、右へと向く。


そして、そこで。


彼女はいなくなった。


サイラはもうそこにはいなかった、ただ、『サイラ』として知られる体だけがあった。


アラックスは一言も発さず、代わりにその部屋で次の4時間座り続けた。彼はただ、その少女を見つめていた。言いたかったことがあった、それでも、言えなかった。


その光は、消えていた。


その部屋を出ると、アラックスは、涙を流している医者の姿に出会った。彼は素早く頭を下げた。


「深くお詫びいたします! どうかお許しください!」


これが、その医者が初めて患者を失った瞬間だったようだ。


「あんたの妻を俺が殺したという、偽の筋書きを作ってほしい」


そのオークが言った。


「彼女は俺の妻ではなかった」


「それはどうでもいい、あの少年を納得させられさえすれば。もしお前があいつを殺すことに成功すれば、ソラヤを征服した後、最初にすることは、お前のために死霊術師を見つけることだ」


「了解した」


あえぎ、息を切らす。


アラックスが静止したまま立っている、世界が彼の決断へと収束していくかのように。遠くに、ウォールとスティルが俺たちの方へと走ってくるのが見える。状況が二人にも明らかになっている。


「サイラ」彼が切り出す。


「俺は一度も認めなかったが、お前は成功した。俺はもう一度、理知的な存在になった。俺は結局、俺のために作られた型には収まらなかった」


彼の言葉には、悼みの調子が宿っている。


とうに過ぎ去った人物へと。まるで謝罪するかのように。


「それは愚かな考え方だった」


ゆっくりと、彼の前腕がその狙いを自分の頭へと切り替える。まっすぐ自分自身の頭を狙って。


「お前に会ったら、すぐにこの言葉を伝えるよ」


彼は深く息を吸い、空を見上げる。奇妙なことに、その特定の場所だけ、霧が晴れていて、夜空が今、見えている。


「G-11、穿孔」


「愛してる」


「ドォォン!!」

這う虫よ

空を見上げて

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