代償
キュロスは席に座っていた、闘技場の観客たちの咆哮が周囲に響き渡る中。彼は群衆の一部だったが、群衆の「一員」ではなかった。頭を垂れ、目の前に広がる絶望の淵に沈んでいる。
「ほう! あいつ、本気で命懸けで逃げてるな!」
隣に座る少女、アリヴィアが叫ぶ、その目は下の光景に釘付けになっている。
自分の同胞が、この流血をエンターテインメントとして楽しんでいるという考えが、そのゴブリンの憂鬱をさらに深める。
『自由意志』
それが、何度も頭に浮かんできた言葉だった。
『自由』
彼の同胞は、自分たちが自らに制限を課してきた、それが実質的に「自由」であることを妨げていたのだと主張していた。
キュロスには理解できなかった。彼の世界観全体、そして生きる理由が、実質的に無に帰していた。彼は、非現実的な基準を自分の同胞に押し付けていたのだろうか?
彼らがずっと「演技」をしていたという事実を脇に置いても、これはより根本的に考えるべき問いだった。
幸福は、他者を苦しめることに根ざしているのか? 互いに危害を加えること、互いに苦痛を促進すること――それが、彼らが探し求めていた自由だったのか? すべてを投げ捨てて?
そのゴブリンには理解できず、さらに深く自分の思考の中へと沈んでいく、深淵がゆっくりと彼を引きずり下ろしていく。
―――――――――――――――――――――――
「――はっ! はっ! はっ!!」息を切らす自分の声があたり一帯に散らばる、森の小道を必死に全力疾走しながら、時折、行く手を塞ぐことにしたらしい様々な物体を飛び越えながら。
体が、その必死な動きで熱を帯びていく、胴体が前後に揺れている。
まったく、俺、本当によく走るよな? まあ、殺すよりひどいことをしてくる悪夢の生物だらけの世界じゃ、走ることくらいしか選択肢がないんだろうけど。
生々しい叫び声が背筋に寒気を走らせ、俺を状況の現実へと引き戻す、それと同じくらい生々しい冒涜的存在が俺を追いかけてくる現実へと。
「これ以上は走り続けられない! あいつの方が速い!」アラックスが叫ぶ、大顎が連続して動きながら。
彼の言う通りだ。あれは、皮のない馬に接ぎ木された人間だ。いや、あの上に乗っている奴は、もう人間とすら呼べない。
まるで、失格になったケンタウロスの、めちゃくちゃなバージョンみたいだ。
でも、性格はいいんだよ、マジで!
それが再び叫ぶ、音量が高まっている。
「ああああああああいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
待て、なんでもない。
こいつは馬だ、つまり普通の人間や昆虫人間の2倍の速さがある。こいつを走って振り切ろうとするのは、まったくもって馬鹿げている。俺自身、どうやってこれだけ長く――もう1分になる――頭を刎ねられずに、あるいはもっとひどい目に遭わずに走り続けられたのか、よくわからない。
「頭を下げろ!」アラックスが叫び、俺は従う。
下がる途中で身をすくませ、目を閉じる。頭の上、耳のすぐ脇を風が撃ち抜くように通り過ぎるのを感じる。よし、この瞬間だ。
今、やるべきことはひとつしかない。
素早く体をひねり、攻撃者の勢いを利用して、反対方向へと走り出す。
馬というものは鋭い方向転換ができることは知っている、実際、驚くほど鋭く。だが予想していなかったのは、その乗り手が爪のある腕の一本を地面に突き刺し、勢いをまったく犠牲にすることなく、体を俺の方向へとループさせたことだった。
よし、このガリガリ野郎、見た目ほど間抜けじゃないな。いや、あいつ? どっちだ?
「あと数秒、あいつの気を逸らしてくれ! アルカナの蓄えが発動しかけてるのを感じる!」
そうだ、25分が経過した。タイロクスは、30分後に全員の能力が戻ると言っていた。頷きながら、内心パニックになっている。倒れた枝を飛び越える。
今、この圧力は現実離れしている。
よし、周囲を分析しなきゃ。考えなきゃ、周りにあるものを何でも使わなきゃ。
走りながら、周囲の一帯を観察する。放棄された家々。壊れた廃墟。井戸。倒れた木々。木材。石。あいつを井戸に転ばせられないか? いや、あいつが入るには大きすぎる。
急旋回し、実質的に壊れた家の中へと飛び込み、砕けた家具の間を這うように進む。足がテーブルの脚にぶつかり、危うくつまずきそうになる。
ついに、必死にキッチンらしき場所へと入り込む、棚と、遠い時代からの焦げ跡が残る炉の並びから判断して。
このヌック――俺はそう呼ぶことにする――は皮がない、基本的に巨大な歩く開いた傷口だ。
この状況で不適切だとはわかっているが、頭がビーチでのある時のことを思い出す。子供の頃、バケツで遊んでいて誤って指を切ってしまい、小さな皮膚の一部が擦り剥けてしまったことがあった。もちろん、血が流れ始めた。
叱られるのを恐れて、傷を隠そうと海まで走っていって、血をいくらか洗い流し、親との対決を避けようとした。
だから俺は、小さな馬鹿な自分を海へと運び、泣くまいとしながら、小さな指を海水に浸した。
――それから、ジェット機も真っ青な叫び声を上げた。それ以来、二度とビーチに行くのを禁止された。
要点は――
リビングルームからの轟音が、ガラスを突き破るボールのように、俺の思考を遮る。
キャビネットを必死に開け放ち始める、アドレナリンが神経に流れ込んでくる。あいつが家に入り込もうとしている、細い廊下のようなもので繋がったキッチンへのアクセスを必死に得ようとしている。
引っかく音が響き、悲鳴がさらに激しくなる。
「ああああああああああいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!」
両手が容器を押しのけ、棚を叩き開ける。
くそ! くそ!
今すぐかわせ
振り返る、ちょうど間に合って、爪のある腕が頭上に持ち上がっているのに気づく、俺を真っ二つにする準備をして。歯を食いしばり、驚愕で目を見開く。
「――くっ!!」
カウンターにもたれかかっているので、左に転がり、その攻撃をかわす。
今、馬自体は半分がリビングルームに、乗り手は半分がキッチンに入り込んでいる。ここでの問題は、乗り手の腕があまりにも長いため、実質的にキッチンの中まで届き、まるでネズミを穴から捕まえようとするかのように俺を捕らえようとしていることだ。その試みの中で、それはすでに古びていたキッチンを、実質的に冒涜している。
それは俺を見ることができない、頭が廊下まで届かないから、だがこの時点で、それがマシだとは思えない。
フライパンのようなセラミックの物体を掴み、その手に投げつけるが、効果はない。それは地面で跳ね返り、粉々に砕けるだけだ。
よし、この生物は皮がない、だから当然――いや、当然じゃないが、塩がおそらく何らかのダメージを与えてくれるはずだ。だからこそ俺はキッチンにいる、時代や世界にかかわらず、たいてい塩が見つかる場所だから。
隅にある単独の物体が目を引く。
素早く振り返ると、爪が今度は横向きに俺を真っ二つにしようとしているのが見える。
体がそのセラミックの物体へと跳びかかるとき、思わずうめく。これ、塩だといいんだが!
跳んでいる間、手がぎりぎりでその容器を掴み、地面に着地する、その物体を体に強く抱きしめながら。
「くっ!」
素早くその物体に目をやり、白い粉のようなものが自分のシャツにわずかにこぼれているのに気づく。それが本当に塩かどうか味見して確かめる時間はない、腕が今、地面に横たわる俺の体に向かって狙いを定めているから。
歯を食いしばり、ひとつかみの塩を掴み、その腕の方向に向かって投げつける。塩が空中を舞い、一瞬きらめいてから、その生物の腕に広がる。
一瞬、その腕が空中で静止する。
それから、再び叫び声が湧き上がり、それが暴れ回る。黒い斑点がその腕から噴き出す、傷のように開きながら。
弱点なのか? 前はなかったのに。
「あああああああああいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいぐわわわわわわわわわ!!!!!!!!!!」
じゃあ、確かに何か効果があったんだ。
急いで立ち上がり、その容器を強く握りしめる。それはセラミックで、粘土のような質感が指に対してほとんどガラスのように感じられる。
よし、残りの塩を、もっと目立つ場所――たぶん本体、あるいは「馬」の部分に浴びせないと。だが、主な問題は、単純にあいつが速すぎることだ。大きいのに、速い。
くそ。
その腕がキッチンから引っ込み、リビングルームへと引き戻される、そして聞こえてくる限りでは、家全体から完全に出ていく。今残っているのは、その攻撃から漂う塵の粒だけだ、代償の証として。
ためらいながらキッチンの外へと足を踏み出し、危険の兆候がないか頭を突き出す。一人だ。一人といえば、アラックスはどこだ? 状況の深刻さを考えれば、彼に何か実質的なことができるとは思っていないが、少なくとも何かはしてくれてもよかったのに。
いや、彼にそんな実質的なことを期待するのは無理だ、彼の能力はまだ無効化されているんだから。
足がリビングルームの割れたガラスを踏みしめ、壊れた家具をまたぎながら、以前よりさらに一段階ひどくなった破壊の中をゆっくりと進む。頭が部屋をゆっくりと走査する、危険の兆候がないか探る灯台のように。
以前は、この一帯へのダメージの兆候は、時間と腐敗の鎖だった、ゆっくりとこの場所と、以前ここにしがみついていた記憶を分解していく。
今は、暴力的で即座の何かによって破壊された。
考えると悲しいものだ。
ついに入り口にたどり着く、まだ危険の兆候を探る能力を使いながら。アラックスの姿も探しているんだろうと思う。
片足が外の土の上へと踏み出す、風だけが動きの兆候だ。今気づいた、俺は犬みたいに必死にあえいでいて、傷と土まみれだ。
ここで死にはしない、だが死の考えがゆっくりと脳に忍び込んでくる。ある気づきも訪れ始める。
しばらくチェックポイントを設定していない。実は、前回どこに設定したのかすら完全に忘れている。もし死んでDDを使ったら、この地点まで全部の歩みをやり直さなきゃいけないのか?
その考えが頭を蝕む。
死ねない。
よし、とにかく死ぬという可能性を受け入れるわけにはいかない。ここでの鍵は、一度死んだら永遠だという前提で生きることだ。そんな否定的な結果を考えること自体、十分に悪い。拳を握りしめる。
ここでは死なない、二度と、絶対に!
何か硬いものが足に触れる。
「――?!」
すべてが逆さまになる。
「何か」が俺の右脚を素早く掴む、それが折れても、あるいはちぎれても不思議じゃないほどの力で。地面から逆さまに持ち上げられ、突然の痛みにうめく。世界が瞬時にひっくり返る、血が頭に流れ込む、まるで砂時計をひっくり返したかのように。
突然、俺は「人間」に十分近いのに不気味の谷を越えてしまった生物と、顔を突き合わせることになる。この呪われた視界の中には、皮を剥がれた顔がある、顎の下半分が異様に肥大している。目はまだ健在で、俺の姿に穴を穿つように見つめている。
その口が突然開く。
そして、耳をつんざく叫び声を発する。
もちろん、ナックラヴィーだ。
「あいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!!」
マイクのハウリング音が頭に侵入してくる。
耳を覆おうとするが、すでに損傷は起きている。脳が頭の中で跳ね回っているように感じる。耳の中で血管が破裂したような感覚がある。液体の冷たい感触が、耳の外へとゆっくりと伝ってくる。
めまいがハンマーのように襲いかかり、目が目の前の生物に焦点を合わせられない。もし耳を覆っていなければ、生き延びられたかどうかわからない。
目がゆっくりと、その生物の顔に慣れていく。
その頭がビデオゲームの物理バグのように痙攣し、うめき声を上げながら左右に明滅する。片方の目が飛び出し始め、顎まで滑り落ち、完全に露出した緩んだ視神経だけで繋がっている。
もう片方の目は反対方向を向き、赤い肉が露わになっている。
俺が見ているのは、存在してはならない何かだ、悪夢のようなモンスターたちの氷山の一角にすぎないように感じられる冒涜的存在。
まだ怖くないと言えば嘘になる。
だが待て、この左腕の黒い斑点から染み出るヘドロ……これは、俺が塩を使った結果か?
頭が「塩」という言葉を思い浮かべ終えると同時に、視線が左手の容器へと弾かれる、今、地面に粉状の粒をこぼしながら。
「いや! いや! いや!」
左手を伸ばし、なんとかその一部を手に捕まえる。問題は、この体勢では投げられないことだ。
逆さまになっている。投げようとする試みは、塩を反対方向に送るだけになる。それだけじゃない、その体からは遠すぎて実質的なダメージを与えられない、それに、俺を掴んでいるこの腕に最後の塩を無駄にするわけにはいかない。もし今使えば、確かに解放されるだろうが、その後、自分を守る手段がなくなる。
アラックスがどこにいるのかわからない。この時点で、ほとんど一人だ、これ以上走る気力もない。
右の拳が握りしめられたままでいる。
その「乗り手」の口が後方に反り、さらに大きく開いていく、その顎の全貌が視界に入ってくる。上顎と下顎の距離を広げる際にパキッという音が鳴り、その歯をさらに露わにする。それらは、不気味なほど人間的だ。白く、ほとんど純粋なほどに。
花に似た匂いが鼻孔を満たす、その出所を欺瞞的に裏切る香りだ。死の生物から、生命の匂いが発せられている。
体の限界を押し広げるたびに、もう一度パキッという音が鳴る。
死ぬ! 本当に死ぬ! この全部をやり直さなきゃいけない! 無理だ!
それが、俺の腹を一口食いちぎる準備をしながら、ゆっくりと俺をその顎へと引き寄せ始める。ゆっくりとした動きで、獲物を素早く殺すのではなく、さらなる恐怖とアドレナリンを植え付けている。
拳がさらにきつく握りしめられる。爪が肌に食い込んでいくのがわかる。あの口に近づいた瞬間、俺は――
「グラキエス11、穿孔」
「くぁあああああああああああああああああああああああああああっとぅむ!!」
金属が金属にこすれ合う音が一瞬空中に響き渡り、それから外側へと爆発する。
その生物が鋭い悲鳴を上げ、握る力を強めながら俺を激しく揺さぶる。
「グラキエス11、穿孔」
「ぷゥぅぅっふ!!」
もうひとつの「銃声」が空中に響き渡り、その直後、そのヌックの顔の左側から血が爆発し、俺の顔にいくらか飛び散る。
攻撃を受けているにもかかわらず、まるで俺があまりにも美味な食事すぎて簡単には手放せないとでも言うかのように、必死に俺の脚にしがみついている。左右に揺れる、自分の体を制御できないまま。俺はこいつの握力の慈悲の下にいる。
「G11、穿孔」
その詠唱が短くなっている。
「ぷゥぅっふ!」
その「銃声」が再び空中に響き渡る。今度は、その生物の前腕が血の中で爆発し、俺への万力のような握りを解放する。
背中から地面に叩きつけられ、土が周囲に爆発する。体勢を立て直す方法は何もなかった。
「くっ……」うめきながら、急いで立ち上がる。この時点で、疲労困憊だ。
右脚が燃えているような感覚がある、拳は長時間握りしめていたせいで疲労し始めている。
耳の両脇に血が流れ、顔のかなりの部分があの生物の血で覆われている。
体中の傷の数は言うまでもない、着ている服が体の半分しか覆っていないボロ布だけであることを考えれば。
嗅げるのは、鉄の匂いだけだ。
空いている方の手で耳を拭い、それから身につけているボロ布で連続して顔を拭う。呼吸は、胸に押し当てられた金床のように重い。
まだめまいがする中、注意をナックラヴィーへと戻す、その焦点はその存在への新たな脅威へと移っている。
その怪物の前には、見覚えのある黄色い昆虫人、アラックスが立っている、右前腕を握りしめながら。その前腕には、奇妙な見た目の青い矢尻のような道具が上部から突き出ている。彼は昆虫人だから、正確には腕と前腕の間の小さな部分――ほとんどの昆虫が持つ部分――から突き出ていると言った方がいいだろう。彼には外骨格があることを忘れてはならない、だからその矢は実際には、彼の腕の上部を覆う甲殻の下にあるものだ。
その同じ腕が、回内した完全にまっすぐな状態で、その生物に狙いを定めている。彼の左腕は、手のひらを完全に平らにした状態で、先ほど言及した右腕と前腕の間の柔らかい部分に向けられている。
彼の左手がその中間部分へと突進し、一瞬体内に食い込んでから、それを取り出す。
「G11、穿孔!」
その矢が、俺が見てきたほとんどの銃よりも速く発射され、素早く標的に命中する、それがよろめきながら後退する。奇妙なことに、噴き出す血の泉は散らずに、むしろより長い間そこに留まっている。
ナックラヴィーがアラックスに突進し、彼は素早く俺の方向へと身をかわし、その攻撃を飛び越える。地面に着地し、素早くしゃがみ込んでから、右前腕に手を突っ込む。
「G-11、穿孔!」
それが再び発射され、馬の首へと命中する、それはちょうど、その敵の方へと体の位置を変えている最中だった。
馬が即座に崩れ落ちる、その一撃で死んだ、まるで糸を切られた操り人形のように。
見事な一撃! これでもう死んでるはずだ!
「仕留めた」あえぎながら言う。
その男が首を振る、手はまだその生物に向けたままだ。
「これらの生物には通常、二つの意識が存在する、『乗り手』の内側と『馬』の内側に、もし片方が死ねば――」
その乗り手が突然、馬の頭を掴み、ぞっとするような砕ける音が響き渡る、肉が押し潰される冒涜的な音がその音を補完する。叫び声が湧き上がり、筋組織と骨の破片が空中に飛び散る、統一性の面影は完全に消え去る。
馬の頭蓋骨の上半分が押し潰され、下顎だけが無傷のまま残る。脳脊髄液と灰白質がこぼれ出し、その残された頭部から流れ出る、冒涜的なピンク色のスラリーへと混ざり合っていく。
―――――――――――――――――――――――
競技場の中で起きている出来事に続いて、スタジアムから咆哮が湧き上がる。セイブル・ヴェイルは観客の一員だった。この時点で、彼らにできることは、敵であるタイロクスを見つめること以外なかった、彼は彼らの向かいの、ある種の尖塔の中に立っていた。それは明らかに、「リーダー」が自分の臣下たちが互いを引き裂き合うのを楽しむための部屋だった。
この時点で、ナックラヴィーは自分の頭蓋骨の上半分を押し潰していた。もはや「彼ら」ではなく、今や「それ」だった。
「うわあ! めっちゃ気持ち悪い!!」アリヴィアが叫び、席に身を乗り出す。目の前のゴブリンが一瞬振り返る、その少女に苛立っているようで、それからまた見物に戻る。
「あれ、一体何やってるの?」その少女がアサカワの方を向く、彼女は席にもたれかかっていた。アリヴィアの左側にいて、腕を組んでいる。
「ナックラヴィー――キメラ級の異形種――の一方の組織が損失を被ると、残った方が支配権を握り、その動きの完全な管轄権を持つようになります」彼女が伝える、その口調はほとんど死んでいる。
「あの生物の中には、常に完全な制御の欠如がある」コルスが切り出す。「両者の間のこの連携の欠如は、逃げようとする者たちにとって、しばしば救いとなる。だが今は……」
無言の一拍が過ぎる。
「聞こえた、ナヴィ?」アリヴィアが右へと身を寄せ、銀髪の少女を肘で突く。「奴隷くん、しぼったタオルみたいになっちゃうかもね」彼女がニヤリと笑う。
ナヴィの目がゆっくりとアリヴィアの方へと移動する、空虚なまま、それから再び競技場へと戻る。明確なメッセージが伝わる――彼女は気にしていない。
アリヴィアが一瞬眉を上げる、その様子に困惑しながら。
『元の自分に戻ったんだ……正直、あれが長続きするなんて、期待しすぎだったわね。あの男、確かに何かの魔法をかけたのは間違いなかったけど』
アリヴィアがため息をつき、それから下の光景に注意を戻す。
もしかしたら、彼女はただ、友人をからかって、あの人格が再び現れるのを見たかっただけかもしれない。あの少年が現れてから顕在化した、同じ人格が。
ナヴィはいつも静かだった、アサに似て。違いは、ナヴィが会話そのものを積極的に避け、より……否定的な表情を保っていたことだ。彼女が部屋に入るたびに、常に何か疎外感のようなものがまとわりついていた。
アリヴィアは今でも、その少女がチームに加わった日と、ナヴィが彼女に初めて言った言葉を覚えている。
「自分じゃない誰かを演じるのはやめなさい」
彼女はただ、フレンドリーに振る舞おうとしていただけだった、ナヴィをその環境に迎え入れようとして。代わりに、言葉という形で冷たい平手打ちを受けた。それが彼女に影響を与えたと言うのは、控えめな表現だ。
その日以降、彼女はおよそ4か月間、ナヴィに話しかけなかった。
その時間が過ぎた頃、アリヴィアは、二人が仲直りして、強い絆を築けるだろうと信じていた。
それは真実からかけ離れていた。あったのは、職場の同僚のような、単なる職業的な関係だけだった。二人はただの知り合いになった、それ以上でも、それ以下でもなく。
アリヴィアは時折、親しみのこもったコメントをしていたが、それが本当に響くことはなく、ただナヴィが素っ気なく返事をするか、完全に沈黙を保つだけだった。
だが、あの少年がどこからともなく現れたとき、何かが変わった。それ以降、ナヴィの性格に小さな灯りが点ったように見えた。彼女はもっと話すようになった。
彼女が言うことは特に肯定的なものじゃなかったが、彼女はより表現豊かになった。
だが……
それは決して、アリヴィアに向けられたものじゃなかった。
そうだ。
一度たりとも。
彼女の突然の変化の後、何度もナヴィに話しかけようとしたにもかかわらず、アリヴィアは温もりに似たものを何ひとつ受け取れなかった。
彼には、彼女にないものがあったのか? 彼は特にフレンドリーだったわけじゃない、ただ従順なだけだった。アリヴィアはいつも部下たちに対してフレンドリーで、他人にとって好ましくないかもしれない別の人格を装うことは決してしなかった。
彼女は認められる、カイトに嫉妬していて、彼にいなくなってほしいと思っていた、それが真実だろう。だが、別の意味では、彼女は彼にここにいてほしいとも思っていた、ただ、ナヴィの中から引き出されたあの何かを、もう一度呼び起こすためだけに。
それでも、彼がナヴィに何かをしたという可能性は排除できていない。もし彼がこの対立を生き延びれば、彼女は彼にナヴィ・ハイアーガルドに謝罪させるつもりだった。
なぜ、こんなに気にかけているんだろう?
「もう二度と死なないでね、ナヴィ」
―――――――――――――――――――――――
コルスは、その奇妙な昆虫人が指を腕に突き刺し、もうひとつのグラキエスの飛翔体をナックラヴィーへと発射するのを観察する。
「興味深いですね」アサカワがコメントする。「昆虫人は呪文の詠唱において、より優れた性能を発揮する傾向があります、特にタウマイトとして」
コルスが頷く。
「それは、彼らが他の大半の理知的種族が持つのと同じ神経系を欠いているためだ。彼らには痛みが同じようには来ない、それが、彼らがより速いペースで呪文を唱えられる理由だ」
コルスがその昆虫人を指差す。
「彼は、上腕の甲殻の下側を利用して、複数のグラキエスの矢をその下に蓄えている。これが可能なのは、彼がその下に霧を蓄えているためだけだ。もし他の理知的種族がそのような呪文を実行していたら、純粋な苦悶に床の上でのたうち回っていたことだろう」
通常、グラキエスの呪文を使用するには、水が存在しなければならない。グラキエスの属性は、コウホウを使う者には利用できず、タウマのみに可能だった。タウマの呪文になると、等価交換という内在的な性質は弱まるが、操作される元素の存在は依然として必要とされた。
より単純な理解の仕方はこうだ。コウホウは創造し、タウマは操作する。
「そして、彼が痛みを感じないからこそ、彼は絶えず自分自身を突き刺し続け、結果として彼の腕は一種の疑似火器になっているのだ」
「もっとも……」
―――――――――――――――――――――――
「もう何も効いてない!」あえぐ。
これで20発目だが、まだ持続的なダメージがない。乗り手が馬の頭を押し潰して以来、こいつが無敵になったように感じられる。
いや。ダメージは確かに受けている。ただ、数瞬後にはそれを、まるで何でもないかのように振り払っているだけだ。
視線がアラックスへと弾かれる。彼の肩が上下している、しゃがみ込んだまま、荒い息をしながら。絶え間ない攻撃で明らかに疲れている。一方のヌックは、まったく疲れているようには見えない。
むしろ、一秒ごとにさらに元気になっているように見える。
秒と言えば、残り時間はどれくらいだ?
自分の手の甲に目をやる。先ほど植え付けられた奇妙な紋章が、元のほぼ2倍の大きさに成長している。始めたときは、ビー玉ほどの大きさもなかった。
今、それはゴルフボールほどの大きさで、ほとんど手の甲全体を飲み込んでいる。黒い染みで、細い触手が血管のように外側へと広がっている。
ああ、これは間違いなく、タイロクスが言っていた通りの呪いだ。
その成長から判断すると、おそらく残り10分ほどだろう。もしこのパターンに何か意味があるなら、それが手全体を覆った時点で、時間切れだ。
拳を握りしめる。
頼む、こいつが隠れる者であってくれ。そうじゃなければ、俺たちは死ぬ。こいつにあまりにも多くの時間を投資しすぎた。
右手に目をやる。塩がまだ手のひらを覆っている。多くはないが、十分だ。目が、その生物へと飛んでいく氷の矢を追う、それぞれが綺麗に命中している。
氷の矢に直接塩をコーティングすることはできない。それは標的に届く前に溶けてしまうだろう。速度だけでも、その過程が加速するはずだ。
頭が、最初に塩を投げつけたときのことに戻る。黒い斑点が、ダメージを受けた一帯の周囲に開いていた。あの弱点はどこにある?
アイデアが頭に浮かぶ。
漠然としていて、危険だ。
だが、たぶんそれこそが、まさに必要なものなんだろう。
両手を口の周りに丸める。
「アラックス。こっちに来い!」
その昆虫人が頷き、辛うじて一撃をかわしてから、俺の方へと跳ぶ。
「ついてこい!」叫び、すでに近くの大きな建物の方を向いている。ほんの数歩の距離だ。俺たちは中へと駆け込み、ドアを突き破る。俺たちが入る部屋は、すでに破壊されている、その古さを考えれば。これは実際、家というより、学校のような感じだ。
背後の足音がすべてを物語っている。あいつは俺たちを正確に追ってきている。
それが突然、速度を落とす、代わりに轟音が聞こえてくる。壁から崩落が湧き上がる。その生物が無理やり入ってこようとしている、その大きさが構造物にぎりぎり収まっている。
そして、それが起こる。
青白い、皮のない肉が戸口を突き破る、ナックラヴィーが無理やり自分を中に押し込みながら、学校中に反響する恐ろしい叫び声を上げる。
「グラキエス11。穿孔!」
「ぷゥぅっふ!!」
その破片が上方へと発射され、生物の真上の屋根に激突する。氷は石を掘削できないので、衝撃で砕け散る。だが今回は、その破片がきらめいている、不自然なほど反射的に。
その生物が気づく。
破片が降り注ぐ中、それらがその皮膚に触れる。
叫び声を上げる。
暗い紫色の斑点が、塩が触れた場所に体中に咲いていく、その肉に食い込みながら。ほとんどのダメージが肩と馬の体の上半分に広がっている。
それが素早く、一番近い犠牲者――俺の方へと回転する。
純粋な怒りがその動きに明らかに満ちている、荒々しく不規則に。腕を俺に向かって伸ばし、その掌握の中に俺を捕らえようとする。跳んで逃げようとするが、速すぎる。その爪が腰に食い込み、凄まじい力で俺を地面から持ち上げる。
もがくが、その握りが強まり、爪が肌に食い込む。それが顎を連続してパチンと開く、獲物を殺すのに時間をかけすぎたという過去の過ちから学んだかのように。
それが俺を引き寄せる中、笑みが顔をよぎる、左腕がその口と一直線に並ぶ。
「香辛料をどうぞ!」
右手に氷の矢を持ち上げる、その表面が塩でコーティングされている。
その生物が気づく。
即座に標的を切り替え、代わりに俺の攻撃する腕に噛みつく、その脅威を排除しようとして。それは俺の腕を、その口の中で宙吊りの動きに成功裏に捕らえている。
電気のような痛みの衝撃が体を貫く、その生物の雑食性の歯が、人間の歯に似た歯が、血を引き出しながら。歯が肌と肉に食い込むのが見える、いくらかの腱が露わになっている。
「――んぐっ!!」
引き離せない。
押すことしかできない。
その噛みつきは強力だが、押し潰すというより引き裂くタイプだ……もし前に押せば、まだ……
もし俺が……
その握りが強まる。
「うぐぅぅっ!!」
もし腕を前に押し出せば、動ける。
握りは弱まっていないが、その表面が塩と、その生物の体から発せられる一般的な熱によって溶けているのがわかる。それがぶるっと震える。
氷から出る水はまだ溶けていて、その中には塩が含まれているから、それがその生物の体内に入っていくことを考えれば、まだ痛みを与えている。
これは計画通りじゃないが、他に選択肢はない。
腕を前へと押し出す。
その歯がその位置に固定されたまま、皮膚が剥がれていく。痛みは言葉にできない。意識を保っているのは、神経に溢れるアドレナリンだけだ。
俺たちは二人とも、計り知れない痛みの中にいる、それぞれが必死に相手を圧倒しようとしている。あいつは俺の腕をその喉の奥に刺さないよう固定しようとし、俺は自分の腕を維持しようとしている。
「うわあああああああああああああぐっ!!」
血が腕を病的な赤に染める。
握りが弱まる。
いや。いや。いやだ。
俺はこいつを殺す。殺さなきゃならない。
視界が真っ白になる、苦悶が体を飲み込む中。皮膚が筋肉から一寸ずつ引き裂かれていくのを感じる。
握りが強まる。
「ぐわああああああああああっ!!」
そして、一瞬のうちに、腕がその噛みつきから解放される。押し進めたことで、もはやそれが固定されていない状態になっている。
弾丸のように前へと突き進む。
矢が止まるのを感じる、肉を貫きながら。
その生物が叫ぶ、甲高く、人間離れした声で、俺を解放する、その頭の周りで黒い塊が噴出し、その弱点をさらけ出しながら。
「アラックス! 今だ!」叫びながら、床に崩れ落ちる。
「グラキエス11。穿孔!」
その飛翔体がその後頭部に叩き込まれる。血が外側へと爆発する、深く穿孔しながら、それから氷の破片へと爆発する。
その全過程を通して、その生物は動かないまま立っている。
空気そのものが息を止めているように感じられる、俺たちが凍りついたまま、あえぎながら、それが倒れるのを待つ間。世界が一瞬死んだかのようだ。この戦いの勝者は、この瞬間に決まる。
「はあ……」
……。
「はあ……はあ……」
……。
……
……
……。
ナックラヴィー、夜の乗り手が、地面に崩れ落ちる。もう動かない。もう生きていない。残っているのは、単なる物体でしかない。
無理やり体を起こす、左腕だけを頼りに。右腕は無力に脇に垂れ下がっている、皮膚が緩んで裂け、血がまだ流れ落ちている。だが、頭はすでに別のところにある。
死体へと駆け寄る。
「急げ! 隠れる者の紋章を探せ! もう数分しか残ってない!」
その生物の前腕を掴み、持ち上げるのに力を込め、関節を回転させ、あらゆる隅を紋章がないか調べる。何もない。それを落とし、もう片方の腕へと移り、同じ過程を繰り返す、両手が必死に動く。
何もない。
引きつった呻き声を漏らしながら、それを解放する。
「アラックス、手伝ってくれ!」
その体の周りを回りながら、脚、関節、紋章が隠れていそうな場所をあらゆる場所チェックする。もし見つからなければ、俺たちは死ぬ。いや、こいつは隠れる者のはずだ。でなければ、なぜこいつがここまで下りてきたんだ?
「おーい!!」学校の外から声が呼びかける。
頭をすぐ近くの窓の方へと弾く。二つの人影が視界に入ってくる。ウォールとスティルだ。ウォールの手には、黒い切断された腕がある、あのゴブリンがつけていたのと同じ紋章がついた。
二人は一体見つけたんだ。
再びナックラヴィーの死体に目を戻す。
「これは隠れる者じゃない。全身確認した」
アラックスの方を向く。彼は完全に静止したまま立っている。
「アラックス、お前の腕、ちょっと見せてくれ。お前を疑ってるわけじゃないんだが、ただ確認したいんだ」
絶望が今、俺を突き動かしている。隠れる者を全員見つけなければ、俺たちは終わりだ。全部で三体。ひとつは開始地点にいた。ひとつはウォールの手の中にある。最後のひとつは、ここにいるはずだ。
残り5分。
「ほら」アラックスが言い、右前腕を俺の方へと持ち上げる。
そこには何もない。ただの硬い鎧の甲殻だけだ。
安堵が押し寄せる。だが、それはほんの一瞬だけだ、時間制限が迫っているという考えが頭に押し寄せてくるから。
「ああ、待ってくれ」
彼が甲殻を持ち上げる。
その下に。
その下に。
そうだ。その下に。
紋章。
目が見開かれる、胃が引き裂かれるほど激しく沈む。いや。いや、こいつのはずがない。冗談を言ってるに違いない。これは何かの、ひどい冗談に違いない。
こいつはタイロクスを攻撃した。こいつはあいつを憎んでる。あいつを軽蔑してる。こいつのはずがない。こいつは……こいつは、自分の妻を殺されたんだろ?
「そんなはずが……」
声が割れる。疲れた。もうこんなの対処できない。
「そんなはずが……」
視線がゆっくりとアラックスの顔へと上がっていく。呼吸が乱れている。息を整えられない。
俺は、氷の矢の柄をまっすぐ見つめている、その先端が俺の両目の間に正確に向けられている。
「何……誰……」
「お前、一体、何者なんだ、アラックス?!」




