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第二話
風に葉が揺れる音が耳を満たし、草の匂いが鼻をつく。土の感触が体を包み込み、目に映るのは森の光景だ。頭上の木々の隙間から陽光が降り注ぎ、森の地面に光の筋を落としている。
考える間もなく、手のひらを地面につき、上半身を持ち上げる。周囲をよく見るために。
緑は驚くほど落ち着く。まるで、荒れ狂う嵐の後に訪れる静けさのようだ。
もちろん、頭にはひとつの疑問が浮かんでくる。単純な疑問だ。
「ここは……どこだ?」
これは至極当然の疑問だった。なぜなら、つい先ほどまで、俺は……玄関のドア枠に寄りかかっていたはずで……
俺は……
びくりと体が跳ね、眉をひそめながら自分の手を見つめる。
俺は、死んだ。
こんなに若くして、この世界から消えた。彼女を守れなかった。自分自身も守れなかった。
もう、どうすることもできない。もし戻れるなら、もし本当に戻れるなら、そうしたい。誓ってもいい。
あの野郎ども……
決して報いを受けさせてやれないという事実に、腸が煮えくり返る。地面を思い切り殴りつける。
タケル……
なぜ……?
シャツをまくり上げ、以前刺された腹部を見つめる。血が流れているだろうと覚悟していたが、意外にも、左下腹部から腰にかけて、大きな傷跡が走っているだけだった。
そういえば、ナイフが乱暴に引き抜かれ、傷口をさらに広げていったのを覚えている。
シャツを戻し、ゆっくりと立ち上がり、手についた土を払う。周囲を見回す。遠くで鳥の鳴き声や葉擦れの音が聞こえるが、姿は何も見えない。まるで何もかもが俺から隠れているかのようだ。
よし。集中しろ。
ここは、どこだ?
見渡せるのは、どの方向もせいぜい5メートルほど。それより先は影と木の幹しか見えない。高い場所が必要だ。高い枝、あるいは傾いた幹。よじ登れるものなら何でもいい。
今のところ、最も筋の通った推測はこうだ。出血で気を失った俺を、誰かが見つけて手当てし、どこか人里離れた場所に置いていった。
それだ。きっとそうに違いない。
これはファンタジー小説なんかじゃない。現実だ。俺は何かの主人公なんかじゃない。ここはただの、名も知れぬ森――ただの、悪い偶然だ。
……だよな?
よし。これをサバイバル状況だと考えるなら、最初の目標は避難場所の確保だ。ここから抜け出すには何日、いや何週間かかるかもわからない。体力を温存し、冷静さを保ち、想像力に振り回されないようにしなければ。
今、身につけているものは?
破れた学生服のブレザー。肌着が数枚。
一番下の肌着は別の用途に使えるかもしれない。特にもう既にこんなに暑くて、溶けてしまいそうな気分だから。
ブレザーを脱ぎ、腰に巻きつける。
サバイバル系のドキュメンタリーで見た知識を思い出す。シャツから布を裂き、石と棒に巻きつければ――簡易的な道具になる。理想的とは言えないが、蔓や枝を切る必要があるなら……
次に、所持品を確認する。スマートフォン。ガムが二個。財布には約2000円。
いざとなったら、燃やすのは……お金? いや、違う。服だ。服を燃やして暖を取ろう。
日差しの角度から見て、今は昼頃らしい。夜になる前に避難場所を作る時間は十分にある。その後は、水の浄化と食料の確保だ。一歩ずつ。ひとつずつ。
息を吸い、森の奥へと足を進める。木々の頂を見上げながら、上に登れる道を探す。枝。幹。よじ登れるものなら何でも。
体力にはそれなりに自信があるが、俺は現代的な生活を送ってきた人間だ。木登りには慣れていない。こんなに高い木となればなおさらだ。
それでも……歩き続ける。
一歩、また一歩。
長く考え込むということは、思い出してしまうということだから。
そして思い出すことは……今の俺には、何の役にも立たない。
―――――――――――――――――――――――
探し始めてから、およそ1時間。ようやく理想的な木を見つけた。枝を掴み、登り始める。時々足場が崩れていないか確かめながら。
ようやく地平線を見渡せる高さまで来て、目を見開く。
木々が何マイルも続いている。だが、目を引いたのはそれではない。
視界に映るのは、巨大な像としか言いようのない何かだ。四本の脚で立ち、頭の部分は見えづらいが、おおよそ巨大な立方体のような形をしている。脚は異様に長く、体は雲の上にまで届きそうなほど高くそびえている。
胴体は途方もなく巨大だ。
頭がその大きさを処理しきれない。こんなものを作った奴は、よほど暇な人間だったに違いない。
しばらくの間、呆然とそれを見つめる。
そして、あることが起こる。
あらゆる意味において、存在してはならないはずのことが。
その像が、動いたのだ。
「二乗三乗の法則」という理論がある。巨大な生物はこの世界に存在できないという法則だ。骨格や身体全体の構造が、その巨体を支えられないためだ。動物は大きくなればなるほど、自重を支えるのが難しくなり、体からの放熱も困難になる。
だが、どうやらこの法則は、この世界では通用しないらしい。
そう、この生物は動いたのだ。
ゆっくりと、動き始めている。
映画などで見るような「巨大な生物はゆっくり動く」という思い込みは誤りだ、と聞いたことがある。実際、そんなことは現実には当てはまらないはずだ。この生物がこんなにゆっくり動いて見えるのは、単に何マイルも離れているせいだろう。
それにしても。
一体ここは、どこなんだ!?
その生物が、山らしきものの方へと歩いていくのを見つめる。巨大なものへの恐怖――メガロフォビアという症状を持つ人間は多いというが、俺はそうではない。それなのに、木の硬い樹皮から手のひらが滑り落ちそうになるのを感じる。
頭が理解を拒否している。現実が崩れていく。
生物が歩くたびに、空に散らばっていた小さな影が消えていく――鳥たちが逃げているのだ。
これ以上悪くなりようがないと思っていた矢先、青いクジラの鳴き声を、教会のパイプオルガンで再生したような咆哮が、大気を震わせる。
そして、それは山の向こうへと姿を消していく。まるで最初からそこにいなかったかのように。
その光景を見た瞬間、思わず地面に落ちそうになるが、とっさに枝を強く掴む。
いや、違う。あれはただの幻覚だ。熱と喉の渇きが重なって、幻覚を見ているだけだ。あんなもの、存在していいはずがない。
自分自身にそう言い聞かせ、木から降り始める。喉に木が詰まったような感覚があり、ひどく喉が渇いていることに気づく。今まで無視していたが、もう無理だ。
水を探さなければ。
その時、何かグロテスクなものに手を突っ込んだような音が、突然聞こえてくる。
近くの木の裏からだ。
これまで、この世界で聞こえていた音といえば鳥の鳴き声と葉擦れの音だけだった。だからこの音は、俺の芯まで揺さぶってくる。
咀嚼するような音が続く。
この木の裏を見たくない。
だが、人類を太古の昔から蝕んできた呪いが、脳を引っ掻く。
好奇心だ。
魂は「見るな」と叫んでいるのに、冷たく計算高い脳はその真逆のことをする。
木の裏を、見てしまう。
そして、顔から一気に血の気が引いていく。
肋骨が開かれ、血が草を染めている。膨れ上がったガスの泡が肉から浮き上がっている。まだ腐敗の途中だが、血は新しい。
なぜだ?
いや――何かがそれを食べているのだ。その顔――というべきものだろうか――が死骸の胸の中に潜り込んでいる。
またも、あらゆる論理を無視した何か。俺がこの世界の人間ではないと、決定的に確信させる何か。
白くぼやけた何かが死骸に覆いかぶさり、顔を胸腔の中に埋めている。
その全貌を見て取ることはできない。
なぜなら、俺の体中のニューロンが、たったひとつのことだけを叫んでいたからだ。体中のすべてが集約された、たったひとつのメッセージ。
逃げろ。
だから、そうした。
素早く振り返る。足が枝を踏み折る音がする。
咆哮。
咆哮が響き渡る。骨の鎖が錆びた鐘に打ちつけられるような、恐ろしい音だ。
その音が、俺をさらに速く走らせる。
絶対に、絶対に振り返らない。
もし見てはいけないものを見てしまったのなら、どうか許してほしい。
背後から迫る急速な足音が、恐怖で叫び出したい衝動を掻き立てる。死にたくない。もう一度なんて、絶対に嫌だ。
美しかったはずの木々が、緑の塊にしか見えなくなっていく。目は周囲を捉えきれず、ただ目の前の一帯だけを認識している。
呼吸は狂ったように乱れ、ひとつでも呼吸を間違えれば、その場で倒れて窒息死してしまいそうだ。
このまま逃げ切る唯一の方法は、急な方向転換だ。
これが、生き残るための唯一のチャンスだ。
左に急旋回し、地面を滑りながら、体勢を崩さないよう地を蹴る。
走り続ける。
必死に何か役立つものを探し、頭がフル回転する。
ああ、これがアドレナリンか。口の渇き、無限に湧いてくるような力、そして麻痺したような世界の感覚。すべてがスローモーションのように感じる。
まるで多幸感の真逆だ。いつ命を奪われてもおかしくない何かに対する、必死のあがき。
その時、何か硬いものが体にタックルしてくる。
世界がひっくり返り、自分の体をもうコントロールできない。
右腕に何かが食い込み、痛みが体を貫く。
見上げると、それの姿がはっきりと視界に入る。
その体。
中くらいのライオンほどの大きさで、全身が鉄の鎧のように骨で覆われている。骨の鎧の下は真っ黒で、不定形で、絶えず蠢いている。まるで何かの膜のようだ。
目はない。そして今、それは――
俺の腕に噛みつき、引きちぎろうと激しく頭を振っている。強烈な圧迫感と焼けつくような痛みだけが、今この瞬間、脳が処理できるすべてだ。体重が乗せられていて、動けない。ライオンのような戦法を使いながら、動きはワニのようだ。
痛みに悲鳴を上げる。
これ以上ぐずぐずしていたら、腕をもぎ取られる! いや、その前に潰される!
まるで奇跡としか言いようのない幸運で、手のひらほどの大きさの石が、左手のすぐそばに落ちている。迷わずそれを掴む。あまりの速さに爪が割れたことにも気づかない。
「くっ!」
全力で、その頭の側面に石を叩きつける。
驚いたことに、それは動き、腕を放す。だが、もっと驚くべきことは――
石が欠けたのだ。
これほどの勢いで打ちつけたにもかかわらず、大したダメージを与えられなかったらしい。
再び噛みつこうとしてくる。よけて、もう一度殴る。
今度は、ほとんど反応しない。そして肩に噛みついてくる。
血が俺と草に飛び散る。
「うぐっ!」
もう一度、石でそれを叩く。だが、また欠けるだけだ。
もう一度。
効かない。
もう一度。
効かない。
何度も、何度も、何度も。
生き延びたい。
生きたい。
何度も、何度も、何度も、何度も!!
何度も打ちつけているうちに、石の表面がナイフのように鋭くなっている。
それなら、骨の隙間にこれを打ち込める。
右に体をひねり、腹の下側にその石を突き刺す。
それは甲高い悲鳴を上げ、横に倒れ込む。
迷わず立ち上がり、後ずさる。
すると、それは体を起こし、頭を持ち上げて周囲を探るような仕草を見せる。
数秒が経っても、それはまだ灯台のように周囲を探り続けている。
なぜ、もう一度飛びかかってこないんだ? 大して離れているわけでもないのに、もう一度押さえつけることだって簡単なはずなのに。
そこで、気づく。
こいつは、目が見えない。
そう言えば、目がないのだから、当然視力もないはずだ。もし目が見えないなら、それを利用して生き延びられるかもしれない。
物音を立てそうなものを避けながら、後ろへ下がる。
こいつが音に頼って周囲を把握しているのかどうかはわからない――耳らしきものも見当たらないから――だが、今のところそれで通用している。
その生物は狂ったように周囲を振り返り、低い唸り声を上げる。低くこもったガラガラという音だ。
こうしてよく見ると、その姿は犬のような歩き方をするコモドドラゴンの骨格に近いように思える。
繰り返すが、こんな生物が本当に実在するとは信じがたい。だが、信じるしかない。
背中には長い棘が並び、その先は関節でつながった鞭のような尾になっている。
突然それが体を回転させ、尾がすんでのところで俺をかすめる。
身をかがめて、静かな脱出を続ける。
普通の状況なら、ある程度距離を取った時点ですぐさま逃げ出すところだが、同じことをすれば即座に切り裂かれてしまう気がする。
その後の数分は、アドレナリンが抜けていくのを感じながらも、ゆっくりと、一挙一動を計算しながら動くことに費やされた。
肩が焼けるように熱く、右腕は普段より薄く潰れているように感じる。まるで機械式の万力に挟まれているかのような凄まじい圧迫感がある。
頭がくらくらする。
くそ、出血のせいだ。
血を止めなければ。服の布地を使えるが、布を裂く音がこいつを引き寄せてしまうかもしれない。
その生物が近づいてくる。頭を低く下げ、おそらく周囲の空気を探ろうとしている。
もう、あと1メートルほどの距離だ。
唸り声が聞こえるたびに、心臓の鼓動が速くなる。もし血の匂いを嗅ぎつけられたら……
俺は、死ぬ。
近くの木から落ちた枝が、すぐそばにある。もしそれを使えば……
素早く身をかがめ、それをそいつの背後にある茂みに投げる。すぐに葉擦れの音が響く。
生物は迷わず頭部を振り上げ、目にも留まらぬ速さで茂みを突き刺す。
その隙をついて、近くの、他とは明らかに違う木に飛びつく。生きてきて一度も見たことのない木だ。表面は凸凹していて、色は深い緑色をしている。
だが今は、それに気を取られている場合ではない。
脚を幹に絡ませる。先ほど脱いだブレザーを木に巻きつけ、体重を利用して跳び上がる。まだ無事な腕だけを使って、そのまま木を登り続ける。
下から木を引っ掻く音が響いてきて、必死になって体を動かす。息は短く荒く、途切れ途切れに漏れる。それは足に噛みつこうと、跳び上がったり降りたりを繰り返している。
ようやく頂上にたどり着き、上向きに突き出た枝の脇に足を突っ張り、上半身をY字に分かれた枝のもう一方に預ける。
決して快適な体勢ではないが、八つ裂きにされるよりは、はるかにましだ。
休んでいる暇はない。降りる方法を見つけなければ。もしこいつがまだ、自然界の基本的なルールに従う存在なら、俺がもう降りてこないとわかれば、いずれ立ち去るはずだ。
熊もそうだ。多くの大型のネコ科動物もそうだ。木は獲物にとっての安全地帯――絶望的で必死な追跡劇とは対照的な、平穏と安らぎの場所。
息を吐き、肩を押さえる。ようやく、少しだけ休める。
汗が体を伝い、シャツが胸に張り付いている。
ブレザーの左袖を噛み、頭を横に振って引き裂く。
しまった、音を立てた!
まあ、どうでもいい。こいつからは十分に離れた位置にいるから、何もできないはずだ。
それを肩に巻きつけ、出血が止まってくれることを願う。
急いで、もう一部を引き裂こうとする。だが布は完全には裂けきらず、口で押さえながら左手で仕上げるしかない。
右腕は、もはや機能していないに等しい。ひどく損傷していて、前腕にかろうじてぶら下がっているだけだ。
痛みで涙が出ていないと言えば嘘になる。実際、涙は流れている。
その必死の応急処置を、突然の擦れるような音が遮る。
「キィキィキィキィ……」
耳障りで、ざらついた音。骨が樹皮を引っ掻く音だ。
視線を、下へと落とす。
尾を使って、木を切っているのだ。
聞こえていたのか。
なぜだ!? なぜこいつはこんなに執拗なんだ!? 他に食べるものはないのか!? なぜこんなに俺に執着しているんだ!?
それは機械のように、たったひとつの目的をもってひたすら切り続ける。
俺を、殺す。それだけを。
「キィキィキィキィキィ……」
目が見えないというのに、まるでこちらの表情を見て笑っているかのような呻き声を上げる。
頭を巡らせ、必死に逃げ道を探す。
くそ、考えろ、考えろ!
鋸のような音が激しくなる。
枝をきつく握りしめ、何が起きても耐えられるよう身構える。
考えろ! 考えろ、くそ!
そう思う間もなく、突然の軋み音とともに、木が地面へと倒れる。
木と一緒に落下し、草の上に叩きつけられる。煙とほこりが周囲に舞い上がる。
すぐさま立ち上がり、再び逃げる準備をする。必死に頭を巡らせながら、目は稲妻のような速さで周囲を捉えていく。
何かの塊が体に激突し、再び地面に叩きつけられる。
見上げる。
その怪物の顎が真上にある。牙が光り、今にも脳に食い込もうとしている。
これで終わりか。また死ぬのか。自分がどこに送られたのかすら把握できないまま、また死ぬのか。なぜ俺がこんな運命を背負わなければならないんだ。なぜこんな目に遭わなければならないんだ。なぜ物事は俺の思い通りに進まないんだ。なぜ苦しまなければならないんだ。なぜだ?
「ヒュッ。」
矢が空を切る音が耳を貫く。怪物の体から力が抜け、地面に崩れ落ちる。
そして最後の呻き声を上げる――肺から空気が抜けるように。まあ、こいつに肺があるのかは知らないが。
謎の攻撃者の方へ、頭を向ける。
目の前に、一人の男が立っている。端がぼろぼろになったフードを被り、鼻には布を巻いている。
体の大部分を覆う大きなマントも身につけている。その下には革の胸当てが留められ、そして何より目を引くのは、触手のような彫刻が施された木製の弓だ。
まるで盗賊、あるいは暗殺者のようだ。ファンタジー小説から抜け出してきたような人物。
「大丈夫か?」
英語を話している。
英語――しばらく話していなかった言語だ。ほとんど異国の言葉のように感じる。
答えようとするが、荒い息が言葉を邪魔してくる。言葉自体もつっかえてまとまらない。言いたいことは山ほどあるのに、何一つ言葉にできない。
ひどく、痛い。
それを察したように、男は頷く。
「急げ。仲間が追ってくる前に」
妙に落ち着いている。
自分にはどうすることもできず、俺は彼についていく。
森の際に沿って、二人並んで走り出す。一言も交わさぬまま。
アドレナリンは、まだ燃え続けている。
―――――――――――――――――――――――
走り続けて、およそ10分。今は地面に膝をつき、必死に息を整えている。
これ以上動けないことを察してか、男は立ち止まり、ポケットから何やらインゲン豆によく似た奇妙な植物を取り出す。
「これを食べてくれ。痛みが和らぐ。できるだけ噛み続けて、飲み込まないように」
再び立ち上がり、素早く振り返って、俺の背後にある何か――俺には見えない何か――に向かって矢を放つ。
「行くぞ」
俺の腕を自分の肩にかけ、再び走り出す。
必死にその植物を噛みしめながら、体がどんどん麻痺していくのを感じる。俺の体重が乗っているにもかかわらず、彼はかなりの速さで動いている。それが驚きだ。
その顔は、マスクで大部分が覆われているにもかかわらず、ひどく集中しているように見える。
「あ……あれは、何だったんだ?」乾いた声で尋ねる。
聞きたいことは山ほどある。ここはどこなのか。あなたは誰なのか。なぜ俺は一人だったのか。
だが、そのどれよりも重要な問いがひとつある。
あれは、何だったんだ?
「コボルドだ」
「……え?」
まともに答えることさえできない。
「あれはコボルドだ。『精霊化獣』というカテゴリーに属している」
コボルド?
聞いたことがある。物語の中では、ゲルマン民俗伝承における家の精霊――小さなひげを生やした男、あるいはゴブリンのような存在として語られていた。それがある有名なシリーズによって、地下に住む爬虫類型の人型生物として描かれるようになり、以来皆それに倣うようになった。
だが、今見たものは、その標準的な定義――少なくとも俺の理解――とは、あまりにもかけ離れていた。
「コボルドは通常、群れで狩りをする。だから我々は運が良かった。あの雄は単独だった。おそらく自分の群れを持とうとしていたのだろう。ただ、なぜ地上に出ていたのかはわからないが」
彼の声は落ち着いている。負傷した見知らぬ人間を運びながらにしては、落ち着きすぎている。こういう状況に慣れているんだろう。
「どこへ……向かってるんだ?」
「ここから西に、小さな鉱山の村がある。そこまで行けるはずだ」
意識が、急速に薄れていく。
助かったことには、感謝している……もう引き裂かれずに済むことに、感謝している。だが、この痛み――頭の中で脈打つこの炎のような痛みは、死んだ方が楽だったんじゃないかとさえ思わせる。
「噛み続けろ!」
彼の声が、意識のもやを切り裂き、俺を現実に引き戻す。
噛む。噛む。噛む。
噛む……噛む……噛む……。
噛む……噛む……。
噛む……。
……………。
世界が、暗転する。
―――――――――――――――――――――――
目がぱっと開く。体を起こそうとした瞬間、痛みが全身に走る。
「ああ、目が覚めたようだな」声が呼びかける。
火のぱちぱちと爆ぜる音が、静かに空気を満たす。火の粉が方向も目的もなく漂っている。この世界のコオロギに相当するらしい、歪んだ音が響いている。
焚き火の右側に、あの男が座っている。フードとマスクはまだ着けたままだ。小さな短剣を使い、矢を研いでいる。
視線を下げると、シャツがなくなっていることに気づく。胸には大きな包帯が巻かれ、腕もきれいに包帯で巻かれている。
都合よく形のいい岩の上に横たわっていて、脚がだらりと垂れている。
……不思議と、穏やかだ。奇妙な静けさが、空気に漂っている。
だが、そこで――
月。
月は黒く、まるで陶器のひび割れのように、金色の筋が入っている。
男が歩み寄ってくる。手には小さな果実らしきものを持っている。穴だらけだが、その穴は貫通していない。色はよくわからないが、明るい色であることは確かだ。梨のような形で、茎がとげのように突き出ている。
「それは何だ?」
俺には、質問することしかできないのか。
「ボラの実だ。精神を落ち着かせるのに効果がある。本来はこれで茶を淹れるところだが、今は道具がない」
彼はそれを手渡してくる。
軽い。まるでリンゴのようだ。
一瞬顔をしかめるが、腹が減りすぎている。もう待てない。覚悟を決めて、かじりつく。
噛むと、様々な風味が口の中に広がる。甘いだろうと予想していたが、真逆だった。塩気があり、旨みが強い。
一番近いのはプレッツェルだろうか。食感は、一日放置されたパンのようだ。硬すぎず、柔らかすぎず。
飢えた動物のように、あっという間に食べ尽くしてしまう。自分の食べ方の汚さに少し恥ずかしくなるが、抑えられない。
驚いたことに、塩気があるにもかかわらず、喉の渇きも癒してくれる。
俺は本当に、異世界にいるらしい。論理の法則が通用しない世界に。
その果実――本当に「果実」と呼んでいいのかもわからないが――を食べ終え、男の方を見る。
不気味なことに、彼はじっとこちらを見つめている。
「先ほどは話す機会を与えられず、すまなかった。切迫した状況だった。ためらえば、死んでいただろう」
彼は一拍置く。
「だから今……何でも聞いてくれ」
待て、くそ。今起きたことを整理させてくれ。
この世界で出会った、初めての人間だ。聞きたいことは山ほどある。だから、あらためて、最もふさわしい質問をする。
「ここは、どこだ?」
「?」
案の定、彼はそんな質問に困惑している。当然だ。誰かを発見した側からすれば、発見された相手がそんなことを聞くとは思わないだろう。
そこで彼は、俺が予想していた通りの質問をしてくる。
「記憶を失っているのか? いや、待て……お前はコボルドに襲われたばかりだったな」
「いや」ゆっくりと答える。「記憶を失ったわけじゃない。ただ……」
「転移した」とは言いたくない。
これは現実の話だ。
転移したなんて言うな。
馬鹿げている。それはフィクションの話だ。
「気づいたら、ここにいたんだ」
自分でも驚くほど落ち着いた声が出る。あの植物のせいか? 何か薬でも盛られたのか? それとも、俺はもう既に壊れているのか?
いや、考えすぎだ。
男はしばらく俺を見つめる。
「……お前は今、ソラヤにいる。正確には、ニアサレス州だ」
……。
『はは、馬鹿かよ、俺たちは地球にいるんだよ!』
そう言ってやりたかった。
もし自分の表情を三人称視点で見られたなら、笑いすぎて死んでいたに違いない。
何も考えられない。
先ほどまで保っていた落ち着きが、粉々に崩れ去る。俺は死んだ後、異世界に転移していたのだ。
こうして考えると、非現実的な感覚に襲われる。
こんな情報を聞かされた大半の人間の反応といえば、喜びだろう。自分の空想が現実になり、冷徹な論理が支配しない世界に来られたことへの歓喜。それが大多数の反応のはずだ。そしてその後、大切な人々を置き去りにしてしまったことへの恐怖から、強く「戻りたい」という衝動に駆られるのだろう。
だが、俺の場合は違った。
顔をこすり、あまりにも洗練されていて、あまりにも常軌を逸した、最も熟練した人類の学者すら驚愕させるであろう言葉を発する準備をする。人間という存在の本質そのものに反するような何か。俺自身すら、芯から驚かせるような何かを。
知性ある者にふさわしい、計算された答えを。
「そっか」
もう、麻痺してるのか、俺?!
その返答をろくに気にも留めず、男は一人で頷き、立ち上がる。
「なるほど、お前はこの周辺の事情に詳しくないようだな。構わない。村に着いたら、知りたいことはすべて教えよう」
「……なぜ今、教えてくれないんだ?」
「今はできない、それだけ理解してくれればいい。説明が長くなりすぎるし、その間に魔物に襲われるかもしれない」
長すぎる、だと?
簡単な概要くらい教えてくれてもいいだろう。それに、彼はここで――おそらく寝るために――野営の準備をしているのに、説明が長すぎるというのはどういうことだ?
「じゃあ、なんで野営の準備なんて――」
「頼む、お前は怪我をしている。話すな」
「いや、俺は大丈夫――」
彼が、はっと顔を上げる。何かを聞きつけたような、かすかな動き。
「行くぞ」
素早く弓と矢を掴み、肩に担ぎ、ブーツで火を踏み消す。
立ち上がる。少し足を引きずるが、急いだペースについていけるはずだ。
彼は先ほどよりもさらに速く走っている。夜は昼より危険なはずなのに、驚くべきことだ。それなのに、なぜこんなに暗い中でもうまく動けるんだ?
「急げ、もうすぐそこだ!」彼の声が聞こえる。
枝が顔を打ち、見えない何かが腕をこすり、木の根に何度もつまずく。だが、走り続ける。あたりは真っ暗で、進むべき方向を教えてくれるのは、彼の急ぐ足音だけだ。
開けた場所に出る。
彼が立ち止まる。
目の前、およそ10メートル先に、巨大な山がそびえ立ち、雲を突き抜けそうなほど高くそびえている。その麓には、トンネルのようなものが見える。
「村があるんじゃなかったのか?」と尋ねる。「ただの穴じゃないか」
「村は山の内部にある。豊富な希少鉱石があったため、村長が山の内部への移住を決めたのだ。この立地は、防衛面の強化にも役立っている」
「さあ、私についてきてくれ」
突然の指示に少し戸惑うが、気づけば頷いている。
もう一歩踏み出そうとした瞬間、声が響く。
「おい! そこの二人!」
女性の声だが、権威に満ちている。
左を振り向くと、大きな上着を着た女性の姿が視界に入ってくる。細かい部分までは見えないが、鎧を身につけ、ショートソードらしきものを手にしているのがわかる。
その手にした剣と、全体的に攻撃的な口調のせいで、思わず後ずさる。
「あんたたち! こんなところで何してんの?! ここはコボルドの縄張りよ!」
男に目をやり、何か説明か言い訳を持っているのではと期待するが、あいにく、彼は落ち着き払っている。
女性の鎧が音を立てながら近づいてくる。
彼が両手を上げる。
俺も、それに倣う。
「ああ、失礼、お嬢さん。この少年を案内していただけです。迷っているようでしたので」
待て、あいつ、鉱山の村に連れて行くと言っていなかったか? 何か辻褄が合わない。疑念が膨らむ。
「黙りなさい!」
女性は男との距離を詰め、ほんの数センチ手前で止まる。暗闇に包まれていても、その視線の鋭さは伝わってくる。
「フードを脱いで、こっちに来なさい」
先ほどより落ち着いた、だがより厳しい口調に変わっている。何かに気づいたようだ。
男は一瞬ためらってからフードを脱ぎ、乱れた短髪をあらわにする。
「マスクも」
再びの間。指先がマスクの端に触れるが、明らかにためらいが見える。
「マスクを外せと言ったのよ、今すぐ!」
彼はゆっくりとそれを下げる。そして、俺の目に映るのは、傷跡――左の下部にかけて走る、ギザギザとした傷――
「ガキンッ!」
女性が男の頭に剣を振り下ろし、真っ二つに割る光景を、頭が処理しきれない。頭頂部から血が噴き出し、滴り落ちる。
彼女は素早く剣を引き抜き、後ずさる。
「あんた! こっちに来なさい! 早く!」
俺は、たった今殺されたばかりの男の前に立っている。ついさっきまで生きていた男の。
彼は、死んだ。
「あ……あんた、殺したのか……」
これは、人間が人間を殺すところを、自分の目で見た初めての瞬間だ。
彼の倒れ方。ドラマチックな最期の様子など、微塵もない。彼女はただ剣を振るい、彼は糸を切られた操り人形のように崩れ落ちた。この男は、化け物から俺の命を救ってくれたはずなのに、こんなにもあっさりと命を奪われる。それを見て、吐き気がこみ上げてくる。
そして頭が、ああ神様、その頭が、真ん中から割れていて、舌と歯が見えて、血がとにかく多くて。
女性が俺の腕を掴み、引き寄せる。
「あれはミミックよ。自分の身が大事なら、さっさとそこから離れなさい」
引っ張られる力の強さに、よろめきながらも、辛うじて足を踏ん張る。彼女は俺より数センチ背が低いだけなのに、あらゆる意味で俺より強い。
「ミミック……?」
その言葉を口にした瞬間、男の死体が激しく震え、痙攣し始める。まるで何かに取り憑かれたかのように。先ほど感じていた哀悼の念は、一瞬で消え失せる。
関節が回転を始める。足は車輪のように回り、あるべきではない角度に脚が曲がる。四肢はありえない角度でねじれ、関節が回転しながらポキポキと鳴る。目は……眼窩から溶け出し、悪夢のような生物のようにねじれ、うねる。
彼女の言う通りだった。
これは、人間ではない。
「イイイ、ワタシハ、ソゴソガクゥウウ、チカカッタノニイイイ!!」
それが叫ぶ。人間の声から、存在してはならない何かの声へと切り替わりながら。
体が硬直し、心臓が早鐘のようにこの怪物じみたものを理解しようとする。手足がばたつく音が、静寂を切り裂く。
女性が背筋を伸ばし、剣を構える。その構えは奇妙で、右腕を高く上げ、ショートソードを持っているにもかかわらず、まるで突きを放つような姿勢だ。
「結界がない……くそ」
その生物が動く――人間のようにではなく、四肢をまったく制御できていない何かのように、ただ体全体で動く。
胴体が開き、刃のように逆立つ触手の塊があらわになる。顎はもはや、認識できるどんな顔にもつながっていない。
汗の玉が顔を伝う。恐怖で体が硬直する。
「何ぼさっと見てんの?! 手伝いなさいよ!」少女が叫び、小さな短剣を俺に投げてよこす。
それを受け取る。
かなり小さい。台所用ナイフほどの大きさしかないが、より左右対称な作りをしている。
こんなもので、あれと戦えるわけがない。絶対に無理だ。
女性は自分の指に噛みつく。そして素早く手を振り、叫ぶ。
「フラッシュ!」
あたり一帯が眩い光に包まれ、目がくらみそうになる。とっさに腕を上げ、顔をかばう。
甲高い悲鳴が、攻撃が成功したことを教えてくれる。
腕を下ろすと、女性がその生物に向かって突撃していくのが見える。飛びかかり、剣を構えるが、接触する直前に触手が彼女に向かって振るわれる。彼女は難なくそれを受け流し、脚でその横腹を蹴りつける。よろめいたところで身をひねり、その胸に剣を深く突き刺す。
かなりの実力の持ち主であることは明らかだ。
ミミックの肩に赤い穴が開き、彼女は叫ぶ。
「スレッド!」
素早く剣を引き抜き、肩の部分を下に切り裂く。おそらく、何か重要な部位を切断したのだろう。
それは悲鳴を上げながら地面に崩れ落ち、手足をばたつかせる肉塊と化す。死体は再びのたうち回り、四肢が意味もなく動く。生命という美しい贈り物を嘲笑うかのように。
永遠にも思える時間の後、それは動きを止める。
彼女はそこに立ち、息を切らしている。この偉業が決して簡単なものではなかったことの、明確な証だ。
一方、俺は震えていて、手に持った短剣の方が自分よりよほど堂々として見える。膝が崩れそうになり、口も震えているのがわかる。
だが、それは問題にならない。
一体……一体どうやって、あんなことをやってのけたんだ? 頭の中に積み上がる疑問は、どんどん高くなっていく。好奇心という本能が満たされたがって叫んでいるが、満たされることはない。
女性は手から光る球体を取り出し、その死骸の上に投げる。触れた瞬間、それは消え去り、地面に溶け込んでいく。
ため息をつきながら、彼女は屈んでそれを拾い上げ、ポケットにしまう。
その間、彼女は俺のことなど一切気にかけていない。
剣を鞘に収め、こちらに歩み寄り、手を差し出してくる。
「あたしの」
彼女は要求するように言う。短剣を指している。
しばらく、その手を呆然と見つめる。まだ体に残る衝撃のせいなのか、それとも混乱のせいなのか、自分でもわからない。
驚いたことに、彼女は刃の部分を掴み、それを取り上げようとするが、俺があまりにも強く握りしめているせいで、引っ張るしかない。
「あんた、危険に対する感覚がひどいわね。あれは、あんたを巣に誘い込もうとしてたのよ。次は気をつけなさい。じゃないと、悲惨な死に方をするわよ」彼女は短剣を胸の鞘に収める。
そう言うと、彼女は俺の横を通り過ぎ、鼻を鳴らす。
何か呟いているのが聞こえる。「こんなことに時間を無駄にしたなんて、信じられない……」
こんな行動を成し遂げた後で、どうしてただ「立ち去る」なんてことができるんだ? まるでゴミを出しに行って帰ってきたかのような態度で。
彼女がどんどん遠ざかっていくにつれて、あることに気づく。頭に深く刻み込まれる何か。もうすぐ現実になろうとしている、恐ろしい未来。
彼女は俺を置いていくつもりなのか? この森の中に?
周囲を見回す。彼女が歩いていくほど、あたりはどんどん暗くなっていく。木々に顔が浮かび上がり、光る目がこちらを見つめてくる。頼むから、月まで笑っているじゃないか!
もし彼女に一人にされたら、俺に何かが起こるかもしれない。いや、何かが起こる。
こんなところで一人で死ぬのは、絶対に嫌だ。
「あ、あの、すみません……」
彼女は止まらないが、俺が声をかけようとしたことには気づいている。
「ん?」肩越しにちらりとこちらを見るが、歩みは止めない。
「一緒に、連れて行ってもらえませんか……?」
彼女が立ち止まる。
一瞬、まるで世界一馬鹿げた質問をされたかのような目で見られている気がする。
そして、彼女は答える。
「無理、絶対無理」
「待てよ、なんでだよ?!」
彼女は立ち止まり、完全にこちらを振り返り、腕を組む。
「言ってみなさいよ。なんであんたを助けなきゃいけないの? それがあたしに何の得があるっていうの?」
正論だ。森で拾った赤の他人を、なぜ助ける必要がある? 結局のところ、ここは人里離れた場所で、彼女が俺を置いていったところで誰にも知られることはない。彼女にとってはそうかもしれないが、俺にとっては――
『これが、この狂った森を生き延びる唯一のチャンスだ。頼むから、頼み込め!!』
「……あなたがそうしてくれたら、いい人だと思いますよ……」できる限りの営業スマイルに、捨てられた子犬のような表情を少し混ぜて言う。
彼女は背を向け、再び歩き出す。
「待って! 待って! 待ってくれ!!」
「何でもする! お願いだ! 命を救ってもらった恩がある、その恩を返させてくれ!」
もし何らかの見返りをちらつかせれば、考え直してくれるかもしれない。
彼女は少し考える。まるで、この会話が自分の時間を割くに値するかどうか、思案しているかのように。
「あんた、名前は?」
「ああ、それは……」
一瞬、考える。
待て。
自分の名前を、思い出せない。
俺の名前は何だ? こんなに大事なことを、どうして忘れられるんだ? これは俺のアイデンティティだ。
本当に、記憶を失ったのか?
こんな大事なことを忘れたなんて、当然言えるわけがない。言えば本当に置いていかれてしまう。だから、とっさに名前をでっち上げる。
空を見上げる。
空……。
「え、えっと、カイトだ」
「変な名前」
変だと?! お前はさっき「フラッシュ!」って叫んで、自分から太陽になったばかりだろうが!
「あのね、あたしは価値があるものしか手に入れないの。それ以外は全部無駄。人間も含めてね。結局のところ、この世界のすべては『価値』で決まるの。わかるわよね?」
気づけば、頷いている。正直、彼女の話の9割は聞き流している。
彼女が微笑む。
「じゃあカイト、あんたはあたしに命を救われたことに感謝してるのよね?」
「はい」
「そして、その恩を返すためなら何でもする、と?」
「はい、何でも」
「そう。おめでとう、カイト。あたしの名前はナヴィ・ハイアーガルド。そして今この瞬間から、あんたはあたしの奴隷よ」
あまりにも軽い口調で言われたものだから、その言葉を聞き流しそうになる。そして一瞬、静止して、今言われたことの意味を考え、ようやくその重大さに気づく。
「……え?」
カイトのリアクション用に画像を用意したのですが、かなり古くて出来も雑なので、大目に見てください。




