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境界世界

はじめまして、DALG0ZAという者です。アメリカ出身の物書きです。

僕が書いている小説『FRACTURED EDEN』は、『Bloodborne』と『Re:ゼロ』に強く影響を受けた作品で、ぜひ世界中の人に読んでもらいたいと思っています。ですが残念なことに、僕の日本語力は、小学生にシェイクスピアを語らせた方がまだマシなんじゃないかというレベルです。

そんなわけで、英語から自然な日本語への翻訳には、AI翻訳の力を借りることにしました。正直、これを書くだけでも、僕の少ない脳細胞をギリギリまで絞り出しています。マジで。

もしかしたらこれは、とても勇敢な行為なのかもしれませんし、あるいはただの愚行なのかもしれません。それでも、愚かな外人(ガイジン)として、僕はこの作品を皆さんにお届けしたいと思います。

追伸:日本語の勉強も続けていますが、もしAIを使わずに、この作品をきちんと翻訳してくださる方がいらっしゃれば、ぜひ lolzifer21@gmail.com までご連絡ください。

よろしくお願いします。

死体は、そこに横たわっていた。微動だにせず。


 血が床板に染み込んでいく。まるでこの惨劇から逃げ出そうとするかのように。


 鉄の匂いが空気を切り裂く。


 俺の唇が震える。俺の手が震える。俺の眼球まで震えている。


 息ができない。息ができない。これは現実じゃない。こんなの、現実なわけがない。


 彼女は、死んでいる。


 本当に、死んでいる。


―――――――――


「よし、押せ!」


「いけるって!」


 頭も筋肉も燃えるように熱い。神経の張り詰めた感覚が、はっきりと伝わってくる。


 くそ、押せ!


 220ポンド――99.79キロの重量がベンチに乗っている。


 冷たく硬い金属が、腕の下でじりじりと熱を帯びていくように感じる。馬鹿げた量のエネルギーをこのリフトに注ぎ込んでいるせいだ。


 ジムはいつもの喧騒に満ちている。雑談の声、ウェイトのぶつかる音、時折響く何か重い物が床に落ちる音。エアコンは効いているはずなのに、この部屋の熱気がその信頼を裏切ってくる。最悪だ。


 外はもう暗い。窓の向こうには――


 待て、集中しろ。


「いけ、いけ、いけ!」


 ゴリラみたいに叫んでいるのは、もじゃもじゃ頭が特徴の爽やかイケメン、ジェローム・ダニエルズだ。


 もう一人、ボトルを口に運びながら見ているのは、坊主頭で有名な、タケル……


 タケル……


 ……苗字、忘れた。


 手首にかかる圧力が倍増し、バーを持ち上げる力を奪っていく。


 上げろ。


 上げろ。


 残った力を全部振り絞り、爆発的にバーを押し上げる。ラックに戻す音が小気味よく響いた。


 金属同士がぶつかる音が耳の奥でこだまする。


 ほっと息をつく間もなく、まだ回復しきっていない胸に、人型ゴリラことジェロームの力強い両手が叩き込まれる。


「ぶへっ!?」


「やっぱりお前ならできると思ってたよ!」と、まるで今やったことの暴力性など微塵も感じさせない口調で言う。


 起き上がりながら、噎せそうになる。腹を殴られた直後みたいに咳き込み、唾を吐き散らす。


「げほっ! げほっ! げほっ!」


 口元を拭いながら彼の方を振り向き、叫ぶ。


「今のは何のつもりだ!?」


「祝福だよ! お前、自己ベスト更新したんだから!」彼は誇らしげに言うが、今しがた俺の肺をパンケーキにしかけたことなど忘れたかのようだ。


「祝福するのに俺の肋骨に腕を叩き込む必要はないだろうが!!」


 あの重量に殺されなかったとしても、あの両手に殺されるところだった。マジで一瞬死んだかと思った。


 男同士、アドレナリンを出すために互いを叩き合うことがあるのは知っている。だがそれは、セットの「前」にやることだろう。


 半分死にかけてる「後」にやることじゃない!


「まあまあ、落ち着けって」タケルがため息をつきながら水のボトルを投げてよこす。受け取ると、滴った水滴が火照った手に染み込む。冷たい。持つのにちょうどいい温度だ。


「いや、お前のために興奮してるだけだろ? 何が悪いんだよ」ジェロームがベンチに気軽に寄りかかりながらニヤリと笑う。


「親友が自己ベスト出したら盛り上がるのは当然だろ。お前、どんどん強くなってるんだから」


 俺はため息をつきながら立ち上がり、ピンク色のタオルで顔を拭う。細かい繊維が顔の輪郭をこすっていく。


「はあ、もういいよ。別に」


 正直、いちいち深く考える価値もない。小さなことは流せばいい。


「ところで今何時だ?」タケルに目をやりながら聞く。


 彼はポケットからスマートな赤いスマホを取り出し、画面を確認する。


「だいたい22時くらい……」彼はこちらを見て、小さなボールを顔にぶつけられたような表情を作る。「あ、お前の言い方だと、夜の10時な……」


 また。


 まだ肺が回復しきってないんだろう。それだけだ。


「これじゃもう一種目やる時間はなさそうだな」


「平日の夜23時とか勘弁してくれよ、母ちゃんに家でスープレックスかまされる前に帰らないと」ジェロームがバッグを肩に担ぎながら言う。


 嘘つけ。本当はさっさと家に帰って、お前のGS5で新作の『デューティ・コールズ』もどきを一晩中やりたいだけだろ。


「お前、留学生か何かじゃなかったか? てっきりお前らはガリ勉タイプで、夜更かしするタイプじゃないと思ってたけど。それに、妹さん心配してるんじゃないのか?」


 タケルが付け加える。


「何回も言ってるけど、妹じゃない。親戚だ。親戚って呼ぶのもギリギリなくらいの関係だけど」


 その頃にはジェロームはもう完全に準備万端で、フード付きパーカーを着てバッグを肩にかけ、ただ盗み聞きしようと突っ立っているだけだった。


 座ったままなのは俺だけで、まるで命綱のようにまだボトルを握りしめている。


「明日朝から陸上の大会あるから、あんまり夜更かしできないんだよな」タケルが黒のダウンを羽織りながら付け加える。


「あ、母さん来た。じゃあな」ジェロームがニヤッと笑いながら踵を返し、出口へ向かう。


 ああ、その嬉しさを隠そうともしないところ、潔いな、お前。


 タケルが次に去っていく。簡単な手振りひとつ残してジムを出ていく。


 いや、正確には手を上げただけで、背中はこっちを向いたままだったが。


「ズボン上げろよ!」とでも叫んで、彼の必死に保とうとしているミステリアス男感を少し削いでやりたい衝動に駆られたが、もう一言でも発したら色んなものが見え始めそうな気がした。


 ゆっくりと辺りを見回す。見慣れた感覚が押し寄せる。


 俺一人だ。


 このジムは24時間営業で、なかなか珍しい部類なのだが、こんな遅くまで残っている人間はほとんどいない。理由は単純で、たいていのトレーニングは長くて2時間で終わるし、それに皆仕事がある。


 スマホが震え、画面上部にメッセージが小さく表示される。


『どこにいるの?! お腹空いた!』


 怒った絵文字付きで。


『今向かってる』に相当する返信を打って送る。


 何回目かわからないため息をつきながら立ち上がる。


 ジムは今や不気味なほど静かで、まだ粘っている数人だけが残っている。


 中年男性二人がレッグプレスを交代でこなし、若い女性がトレッドミルで黙々とジョギングしている。


 ほんの10分前とはまるで違う光景だが、まあ当然か。


 バッグを掴み、水のボトルとワイヤレスイヤホンを放り込む。死んだような静寂の中で、ジッパーの音がやけに大きく響く。


 パーカーを羽織ると、汗で湿ったシャツの生地が肌にさらに張り付き、思わず顔をしかめる。


 今考えられるのはシャワーのことだけで、それと……


 ああ、くそ、料理もしなきゃいけないんだった。


 疲れた体を引きずりながら、磨かれた木の床を渡って入口のガラスドアへ向かう。外の世界が、ガラス越しにわずかに歪んで透けて見える。


 いつものアメリカの駐車場を期待していたつもりはないが、視界に飛び込んでくるのは典型的な日本の街並みだ。日の出づる国。


 ドアが開いた瞬間、冷たい空気が顔を突き刺す。鋭く、刺すような冷たさだ。


 吐く息が、目の前で小さな白い塊になって渦を巻く。


 普段なら凍えているところだが、トレーニングの強度のおかげで、まだ体が十分な熱を放っていて何とか耐えられる。


 確か今日は雪が降るとか言ってたな。冬はいつもそうだ。


 歩道に出て、左に折れる。家はそう遠くない。新宿区の、あの有名な街の郊外の住宅地にひっそりとある。


 巨大な商業施設や行政の建物が立ち並び、ネオンと、正直ほとんど無意味な広告の洪水に覆われた街だ。


 たまにゲームの新作発表やゲーム機の広告に目が留まることもあるが、それ以外はだいたいスマホか、目の前の道に視線が固定されている。


 文化交流プログラムでこの国に来た。ただの気まぐれで応募しただけで、本当に、選ばれるとは思っていなかった。


 正直に言うと、最初は日本に住むという発想だけでテンションが上がっていた。


 だが……時間が経つにつれ、その高揚感は薄れていった。


 たぶん、人間の「期待」というのはそういうものなのだろう。最初はものすごく興奮していても、時間が経つとだんだん飽きてくる。日常の一部になった瞬間、輝きを失う。人は手に入れていないものばかり追いかけて、いざ手に入れた途端、それは特別ではなくなる。


 何かを本当に大切にしたいなら……それは、手の届かないところに留めておかなければならない。


 少なくとも、俺はそう思っている。


 普通、海外交換留学プログラムは6ヶ月から12ヶ月くらい続くものだ。


 だが、なぜか――


 今回はもう少し長くなりそうな予感がしている。


 もう一度左に曲がると、街のカラフルな光は少しずつ消えていき、代わりに普通の住宅が立ち並ぶようになる。


 舗装された道に響く自分の足音だけが、この静かな景色に残る唯一の音だ。


 今夜は何を作ろうか。


 解凍しておいた鶏肉があるから、それを揚げてカレーを手早く作って、「カツ」ということにしようか。


 舌打ちをしながら、他に気にかけなきゃいけないことを頭の中で整理し始める。今度数学のテストがある。勉強しなきゃいけないが――


 ああ、誰を騙そうとしてるんだ。


 そんな現実的な責任、別にどうでもいいと思ってるくせに。


―――――――――


 今、中くらいの大きさの、赤茶色のドアの前に立っている。家の脇には、小さな青いSUVがきちんと駐車されている。


 鍵を取り出してドアの鍵穴に差し込む。手首に残る、さっきの負荷の感覚がまだ抜けきっていない。


 しっかりとひねって、ドアを開ける。


 さっきジムを出たときは、まるで顔を引っ叩かれたかのような、冷たくよそよそしい空気に迎えられた。


 今度は、この場所が、温かく優しい空気で包み込んでくれる。


「ただいまー!」


 柔らかな白い照明が部屋全体に広がり、点在する家具を照らし出して、出迎えてくれる。


「点在する」と言っても、物が大量に散らばっているという意味ではない。実際のところ、黒いソファが一つ、テレビが一つ、ダイニングテーブルが一つあるだけだ。


 これだけ大きな家なのに、置いてある物は驚くほど少ない。


 ポケットの中でスマホが震え、取り出す。届いたメッセージにはこうある。『おかえり』


 思わず唸る。


 階段降りてくるのって、そんなに難しいことか?


 靴と靴下を脱ぎ、もう一足の靴の隣に並べる。


 冷たい木の床が足の裏に触れて、ここでそのまま横になって寝てしまいたいくらいの気だるさを感じる。


 残念ながら、夕飯を作らなければならない。


 また。退屈な責任ってやつだ。


 自分の部屋まで階段を上がるのが、まるで拷問のように感じる。一段一段、全力を振り絞らないと足が動かない。


 ドアが3つある小さな廊下にたどり着く。2つは寝室、1つは浴室に通じている。


 俺の部屋は廊下の手前から2番目だ。


 ドアノブを回し、中を見もせずにバッグを暗闇に放り投げる。柔らかい音がしたから、たぶんベッドの上に落ちたんだろう。


 それからシャツを脱ぎ捨て、洗濯かごに向かって、ベテランバスケ選手みたいに投げ込む。


「ブルータス! こ……こっち来て!」と声がする。人付き合いを極力避けるタイプの人間特有の、どもりがちで弱々しい声だ。


 ちなみに「ブルータス」は俺の本名でも何でもない。彼女が勝手にそう呼んでいるだけだ。まるで自分がこの家のジュリアス・シーザーであるかのように。


 シャワーに向かおうとして、足を止める。歯を食いしばりながら。


 ため息をついて、廊下の一番奥のドアに向かう。


 ドアを開けると、見慣れた光景が広がっている。


 散らかり放題の最終ボス。


 不衛生の伝道者。


 堕落の支配者。


 カイリ・フルカワ。


 19歳、ニート。


 いや、ちょっと言いすぎた。実際にはニートじゃない。外では真面目で勤勉な、誰からも一目置かれるような人間だ。


 家では? 完全なる小鬼。


「知り合い一人一人の頭の中に、それぞれ別バージョンの自分が存在する」ということわざがあるが。


 彼女はまさにその体現者だ。完璧で、誠実で、見た目も整った、誰もが憧れる女性。だが、誰も見ていないところでは……これになる。


「お、お前、何そんな困惑した顔してんの?」彼女は画面からほとんど目を離さずに言う。


 ため息が出る。


「何だよ、カイリ」


 今の彼女はタンクトップ姿で、肩からずり落ちかけている。黒髪はぼさぼさで下向きに垂れている。視線はほぼモニターに釘付け。


 片方の画面には何かのプラットフォーマーゲーム、もう片方は……BLアニメだ。


(なんで分かるかって? 男二人の顔が数センチの距離にあるからだ。)


「ご、ごはんいつできる?」


「あと20分くらい。ジムから帰ってきたばっかりだから」


「もう餓死しそう、ブルータス。これ以上は無理かも……」


「本当に餓死寸前なら下に降りてくるだろ。冷蔵庫にいくらでも食べ物あるんだから」


「で、でも降りたくない……」


 唸る。


 チョコスティックの袋を投げてやる。


 だるそうにしているくせに、それを驚くほど素早くキャッチする。


 ああ、本当に餓死寸前なんだろうな。


「これで空腹は……一旦満たされた」彼女は画面の光に照らされながら、スティックをかじって言う。


「シャツちゃんと着ろ」とドアを閉めながら言う。


「は、裸の胸丸出しの奴に言われたくないんですけど」とドアの向こうから聞こえてくる。


 浴室に向かいながら、ズボンを脱ぎ、ずっと頭から離れないゲームのテーマソングを口ずさむ。


「レジェンズ! ゴー!」と英語で叫び、ドラマチックなポーズを決める。全身丸出しのまま。


 こうやって馬鹿になれるのは、誰も見ていない今だけだ。それ以外は、ただ……そこにいるだけ。


 シャワーに入り、蛇口をひねる。


 きしむ音が小さく響く。


 水が流れ始めると同時に、さっきまでの陽気な雰囲気がゆっくりと体から抜けていく。髪が頭にへばりつき、前髪が顔に張り付く。体に水が伝う感触は心地いいが、心にのしかかる重さがその快さを打ち消していく。


 責任。


 責任が嫌いだ。


 もし許されるなら、全部投げ捨ててしまいたい。大学受験のことも、人生のことも、まともな仕事に就くことも、何も気にしなくていいなら。逃げ出せるものなら逃げ出したい。


 大事なことだとはわかっている。本当に。


「わかってるよ……でも、わかってるからって、受け入れやすくなるわけじゃない」


―――――――――


 今、油の入ったフライパンの前に立って、衣をつけた鶏肉を投入している。じゅうじゅうという音が部屋を満たし、時折油が跳ねてシャツに飛んでくる。正直、もう気にする気力もない。


 右側の鍋がぐつぐつと音を立てて、背景の音を埋めている。


「おい、カイリ、火を弱めてくれ」と声をかける。


 ゾンビみたいな足取りで彼女がやってきて、スマホから目を離さないままダイヤルをひねって火を弱める。


 それから、レンガの袋みたいにどさっと椅子に座り込む。


 これが、世間の大半の人間より月収が多い女の正体だと、本当に信じろというのか?


「く、くそ、4KAZが準決勝で負けた」


 肉を一枚ひっくり返す。


「強いって聞いてたけどな」


「い、一人に頼りきりだったから。他のメンバーは正直ちょっと微妙なんだよね」


「ふうん」


 最後の一枚を皿に乗せたところでコンロの火を止め、両方の皿の横にカレーを注いでいく。カレーの具はだいたいジャガイモと、少し風味を強めるための玉ねぎだけだ。


 皿をテーブルまで運び、腰を下ろす。


―――――――――


 夕食は特に何も起こらない。


 何度か会話を試みるが、スマホとほぼ一体化しているカイリにことごとく封じられる。


 そろそろ「食卓ではスマホ禁止」のルールを作ろうと思う。


 ああ。


 すっかり「家庭の母」になりつつある自分がいる。


「て、天道さん、また今日来た」カイリが視線を逸らしながらぽつりと言う。


 天道さん。


 苗字しか知らないし、正直それ以上知りたくもない。


 太っていて、脂ぎっていて、しつこすぎる。


 俺が外出している間にこの家に来ては、カイリを外に連れ出そうとしていた男だ。空気が読めない、というか、脅しすら通じないタイプ。前に「いい加減消え失せろ」と凄んでからは、しばらく大人しくなっていたはずなのに。


 それが、また来た。


 思考の端で何かが燃え上がるのを感じる。


「なんでもっと早く言わなかったんだ」


「忘れてた」


 ため息が出る。


 この男、いい加減にしないとまずいことになるぞ。


「わかった。次は絶対すぐ言え。冗談抜きで、警察呼んでアルカトラズ送りにしてやるからな」


 カイリが半分だけ頷く。肩の緊張は解けないままだ。


 それで、終わり。


 正直、かなり抑えている方だ。


 もし自分の感じていることの半分でも表に出したら、彼女をもっと不安にさせてしまうだけだから。


 ただし、次は。


 もう警告はしない。


 席を立って皿を片付けようとしたところで、ふと動きを止める。


 ここで、とても重要で、致命的に大事な情報を思い出す。立ち上がるという苦行から俺を救ってくれる情報を。


「待て、今日は皿洗い当番お前だろ」


 カイリの頭がこちらにバッと向く。


「悪いけど忘れたとは言わせないからな、カレンダー隠したからって」とニヤリと笑いながら言う。


「ま、待って! 決着つけよう! クラッシュブラザーズで!」


 鼻を拭いながら、にやけ顔で答える。


「上等だ! フルカワよ、覚悟しろ!」


 普通のまともな大人がいる家庭なら、こんな提案は即「却下」されるところだろう。だが残念ながら、俺たちはどっちも若くて馬鹿だ。


 これしかない。


―――――――――


「わ、私の勝ち! 楽勝!」彼女が叫び、鼓膜が破れそうになる。


 ずるい。こいつ、このゲームばっかりやってるんだから。


 まあ、何のゲームでもそうなんだけど。


「期待した俺が馬鹿だった……無敗のニート魂を相手にしてたんだもんな」


「もっと泣けば?」彼女はそう言って踊り出す。動きはひどいものだが、その自信が下手さを補っている。


 正直、こうしている彼女を見ると、口元が自然と緩む。


 きっと今日も一日中、部屋にこもりっきりだったんだろう。


 もちろん、それが嬉しいなんて口が裂けても言わないが。


 だから――


「一日中俺のこと待ってたんだろ?」とニヤッと笑いながら言う。


 次の瞬間、弾丸のような速さで枕が顔面に直撃する。その威力でソファに引っくり返り、足が宙にぶらぶらと浮く。


「ダサすぎ」


 親指を立てて返事をする。同意の証だ。


―――――――――


 時刻はだいたい深夜1時。


 本当ならもうベッドに入って寝ているはずだ――明日も学校がある。


 でも、友達に勧められたドラマを一話だけ見たい誘惑に駆られる。


「あー……」


 いや、駄目だ。寝ないと、学校で一日中船を漕ぐ羽目になる。


 ため息をつきながらスマホの電源を切り、充電器に挿し、ベッドに倒れ込む。


 天井を見上げる。


 ただの、いつもの一日。


 退屈で、何も起こらない、普通の学生の人生。


 この世界の一粒の砂――責任を背負いながら、漠然とした「成功」とやらに向かって歩いているだけの、ただの一人。


 俺は……


 これが変わってほしくない。


 何か一つだけ願いが叶うなら、このままでいたい。


 もう少しだけでいいから。


 高校最後の年だ。


 もうすぐ、すべてが変わる。


 瞼が落ちていく。闇が体を包み込む。


 静かな安らぎが訪れる。


 俺は、滝のそばに立っている。


 水流が強く押し寄せてくる。


 俺は、一歩一歩、それに逆らいながら上流へと歩いていく。


 だが、いずれは落ちる。


 そして、その時――


 二度と、立ち上がれない。


朝の光が窓を貫き、目を細めずにはいられない。


 キッチンで、急いでパンにバターを塗っている。出発まであと5分。凝ったことをしている余裕はない。


 バターナイフを洗って元の場所に戻し、パンを口に放り込む。片手でバッグの中身を確認する――教科書、ノート、筆箱。問題なさそうだ。


 あと3分。


 バッグを肩にかけ、玄関に向かう。


「もう出るの? 外、結構寒いわよ」声が聞こえる。


「送っていこうか?」


「これ以上待つと遅刻するから、歩いて行きます。ありがとうございます、フルカワさん」と、無意識のうちに丁寧な口調に切り替えて答える。


 今声をかけてきたのが誰なのかと言われれば、別人と勘違いされてもおかしくないが、実際はそうではない。これは紛れもなくカイリ・フルカワその人だ。ただし、もう少しきちんと整えられた身なりで、髪も綺麗にまとめている。


 まるで、実際に責任ある判断を下せるまともな大人に変身したかのようだ。


「そう、じゃあ気をつけてね」彼女は財布の中身を確認しながら声をかけてくる。


―――――――――


 家までの道のりは静かだ。


 通りはほとんど人気がなく、生徒たちはまだ部活動か、寄り道をしているのだろう。彼らとは違って、俺はどこの部活にも所属していない。ただ家に帰る。昼寝。ジム。勉強。それの繰り返し。


 見慣れた角を曲がる。


 帰り道に残っていたわずかな生徒の姿も消え、通りは静まり返り、どこか沈んだ空気に包まれている。


 ああ、そうか、雪が降ってる。


 これは死ぬな。


 笑いながら首を振り、ため息をつく。


 それでも歩き続ける。視線は空に向いたままだ。


 雪はゆっくりと、丁寧に降ってくる。世界を静まり返らせ、柔らかい白と静かな色調に塗り替えていくような降り方だ。


 雪は好きだ。


 歩き続ける。


 そういえば……


 タケルが今日学校を休んだ。珍しいな。生徒会の書記で、体調が悪くてもちゃんと来るのを誇りにしてるタイプなのに。今まで一度も休んだことがない。


 まあいい。とにかく今は家に帰るところだ。


 門の前に着いたとき、背筋に冷たいものが走る。


 いや。


 それはただの寒気じゃない、漠然とした予感でもない。


 確信だった。


 なぜ玄関のドアが開いているんだ?


 いや。違う、違う。早とちりするな。きっとまた閉め忘れただけだ。例の引きこもりモードに入って、急いで家に駆け込んで、こたつに潜り込むのを優先してドアを開けっぱなしにしたとか。


 ああ、きっとそうだ。


 門を閉めながら、彼女のうっかりさに首を振る。


 家に入り、ドアを閉めながらため息をつく。


 ドアがきしむ。何も考えずに、口から声が漏れる。


「おいおい、家の中にまで雪が――」


 声が喉の奥で止まる。


 噎せそうになる。


 なぜ、靴がもう一足増えているんだ?


 いや、彼女の友達だろう。確か「友達」を何人か呼んだことがあると言っていた。とはいえ、ほとんどの場合、相手が彼女に近づきたがっていただけで、互いに友情があったわけではない。だから正確には「知り合い」と言うべきだろう。カイリには友達と呼べる相手はいなかったから。


 靴を脱ぎ、冷たい床に足を踏み入れる。


 床。


 なぜ、こんなに冷たいんだ?


 廊下を進んでいく。静けさが、まるで人知を超えた化け物の口の中を歩いているかのように、息苦しいほど不気味だ。


 ヒーターの音もしない。物音もしない。


 ただ、静寂だけがある。


 そして、それが目に入る。


 壁の染み。


 何だ、これは?


 ああ……


 血だ。


 ドクン。


 壁を伝って、ゆっくりと滴り落ちている。


 胃が、ぐっと落ちる。


 考える間もなく、自分が一つの自我であることすら意識せずに、階段を駆け上がる。


 廊下が回るように歪む。


 ものすごい勢いで走っている。階段を踏みしめる足の力で、爪が一枚剥がれたかもしれない。


「カイリ!!!」


 喉が今にも破裂しそうだ。世界がどんどん暗くなり、視界がどんどん狭くなり、目の前のことだけに焦点が絞られていく。


 頼む、神様。


 頼むから、無事でいてくれ。


 頼むから、あの部屋にいてくれ。座って、画面を見ているだけでいい。


 それ以外、何も望まない。ただそれだけでいい。


 彼女の部屋の前で転びそうになりながらたどり着く。汗でぐっしょりの手が、ドアノブを滑る。


 鍵がかかっている。


「くそ、くそっ!」


 体ごとドアにぶつかる。一度。二度。


 肩が今にも砕けそうだが、構っていられない。


 木が割れる音が聞こえて、自分の努力が実を結びつつあるという確信を得る。


 下がる。


 そして突進する。


 ドン。


 ドアが開く。


 嗅覚。


 鉄の匂いがする。


 鉄?


 なぜ鉄の匂いがするんだ?


 味覚。


 ひどく苦い。柑橘のような。あるいは汗のような。わからない、ずっと唾を飲み込み続けている。


 触覚。


 手にとげが刺さっている。痛みはあるが、気にしている場合じゃない。


 聴覚。


 見知らぬ男のすすり泣きが聞こえる。いや、見知らぬ、ではない。


 だが今はそれどころじゃない。


 そして視覚。


 視界に映っているのは――


 俺の視界に映っているのは――


カ イ リ ・ フ ル カ ワ の 死 体


うそだ


うそだうそだうそだうそだ


うそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだ


うそだ


そんなの


そんなの嘘だ


死んで


死んでない


こんなの現実じゃない


こんなの起きてない こんなの こんなの こんなのありえない


カイリ


おい


おい


冗談やめろよ


頼むから起きてくれ


頼むよカイリ


起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ


頼むから


わかった、今起き上がったら笑ってやるから、頼むから


手を動かしてくれ、何でもいいから


カイリ


カイリ


俺


わからない


わからない


門は閉まってたのに


鍵もドアも


どうやって誰かが入ってきたんだ


どうしてこんなことが


ここにいたじゃないか


なんで息してないんだよ


なんで息してないんだよカイリ


嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ頼む


やめてくれ


行かないでくれ


お前は行っちゃ駄目だ お前は行っちゃ駄目だ お前は行っちゃ駄目だ


頼むから


目を開けてくれ


少しでいい


瞬きだけでもいい


指を動かしてくれ


頼むから俺の名前を呼んでくれ


頼むから何か言ってくれ


「お、お、俺はやってない……ただ、ただ……」天道がどもりながら言う。シャツは脱げ、ズボンはずり下がっている。


「彼女が、勝手に……俺はそんなつもりじゃ……」


 泣いている。


 俺は彼に視線を向ける。


 殺してやる。


 殺してやる。


「……」


 一言も出ない。


 ただ無言になる。


 そして、彼に向かって歩き出す。


 今、優先すべきことがもう一つある。


 この野郎を殺すこと。手段なんかどうでもいい。


 涙が顔を伝う。


 俺は彼に飛びかかり、殺す。


 ……


 そうなっていてほしかった。


 残念ながら、現実というのは決して思い通りにはいかないものだ。それが人生というものだ。どれだけ懇願しても、決して台本通りにはならない。


 そう思った瞬間、横腹に何か鋭いものが突き刺さる。電流のような衝撃が体を走り、それが何であるかを脳が理解する……痛みだ。


 白く焼けるような痛み。


 よろめき、辛うじて体を支える。呼吸が荒くなる。抑えられない。


 視線を落とす。


 包丁が脇腹に刺さっている。


 そして、手が――


 それをさらに押し込んでいく。


 他に誰がいるんだ?


 こんな状況に自分から首を突っ込むような、いったいどんな異常者がいるんだ? こんなことをするのは誰だ?


 少年だった。


 俺が知っている少年だ。


 タケルという名の、俺が知っている少年。


 その顔は、パニックに陥った表情をしている。


「タ――」


 刃が引き抜かれ、俺は叫ぼうとするが声にならない。体が言うことを聞かない。彼の腕を掴もうとするが、遅すぎる、弱すぎる、そして――


 もう一突き。


 今度はみぞおちに、まっすぐ。


 血がシャツの前面を伝って流れ落ちる。白いシャツだ。今朝着たばかりの。


 今は赤く染まっている。


 濡れた感覚がする。冷たい。


 抵抗できない。眠りに落ちていくような感覚だ。


 そして、また一突き。


 痛みが脳まで突き刺さり、目が覚める。彼を押しのけようとするが、彼が後ずさったせいで、俺はそのまま倒れ込んでしまう。


「お、伯父さん! 行こう! 言ったじゃん、言ったじゃん……!」


 その先の言葉は、もう聞き取れない。


 何を言っているんだ?


 聞こえない。ただの雑音、ホワイトノイズだけだ。


 あの野郎は、ズボンを引き上げながら、すすり泣く惨めな姿で転びそうになりながら去っていく。


 臆病者。


 もう、俺一人だけだ。


 俺と、彼女の遺体だけ。


 この家にはもう誰もいない。ただ一人の少年に、死がゆっくりと近づいているだけだ。


 手を伸ばす。


 彼女の頬は冷たい。何の生気も感じられない。


 顔がくしゃくしゃに歪んでいくのがわかる。嗚咽が漏れる。みっともなく、大きく、すがるように。


 なんで俺なんだ。なんでこんな目に遭わなきゃいけないんだ。


 ……いや、まだ間に合うかもしれない。警察を呼べば、救急車が来てくれる。そうだ、それだ。


 体に残った力を全部かき集めて立ち上がろうとする。


 全身の神経が悲鳴を上げる。血が止まらずに流れ続ける。でも、耐えられる。何かのためなら――何でもいい――耐えられる。


 階段に向かってよろめく。


 そして、足が滑る。


 転がり落ちる衝撃に、四肢が痛みで弾ける。


 冷たい床に、壊れた体で、息も絶え絶えに倒れ込む。このままここで眠ってしまえそうな気がする。


 うつ伏せになり、床を這いながらドアに向かって体を引きずる。


 スマホ……すぐそこにある。


 ドアは大きく開いたままで、雪が部屋の中に降り込んでいる。かつて温もりに満ちていたこの場所が、冷気に飲み込まれていく。


 それを許さない。


 許してたまるか。


 這っていく。


 血まみれの手が画面を擦る。脇腹を押さえながら、温かさが抜けていき、目眩がするような冷たさに取って代わられていくのを感じる。視界が明滅する。


 立ち上がるか、せめて体を支えなければ。


 ドア枠に寄りかかりながら体を押し上げ、画面についた血を拭おうとする。


 電源ボタンを押す。


 つかない。


 電源が切れている。


 カイリと同じだ。


 何を今さら。


 彼女が死んでいることなんて、最初からわかっていた。ただ、信じたくなかっただけだ。ずっと、自分に嘘をついていた。


 呼吸がだんだんゆっくりになっていく。


 気づけば、雪を見つめている。


 責任が嫌いだ。


 なぜなら、ひとつでも手放してしまえば、あるいはほんの一瞬でも怠ってしまえば、こうやって罰が下るから。責任が嫌いなのは、絶対に手放せないからだ。一秒たりとも気を抜けない。そうしないと、こんなことが起きる。


 現実が嫌いだ。


 この世界が嫌いだ。


 何が起きるかわからないということが嫌いだ、好むと好まざるとに関わらず。


 こんな場所に生まれてきたこと自体が嫌だ。


 でも……


 少なくとも、雪はある。


 安心できる感覚。


 世界がどれだけ暗く醜くても――雪はそれを覆い隠して、すべてを反射して、穏やかなものに変えてくれる。


 スマホが手から滑り落ちていくのを感じる。


 眠りに落ちていく。


 そういえば、昨日も結構遅くまで起きてたな。


 ちょっとした昼寝も悪くないかもしれない。


 床に落ちる音――


 近所の誰かの悲鳴――


 それが、最後に聞こえた音だった。


 眠りに、


 落ちる前の。


―――――――――


L I F E E X P U R G A T E D


―――――――――

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