鍋敷きの色紙
皇「ちょっと、待ってろ。」
瀬能「・・・・はい?」
皇「お。悪ぃ。待たせたな。」
瀬能「・・・・・誰ですか?あれ、知り合いですか?」
皇「いや、知らねぇ。」
瀬能「知らないおじさんと、なに、しゃべってたんですか?」
皇「新聞、買ってたんだ」
瀬能「新聞?」
皇「・・・・はぁ。うめぇ。・・・・・もう、コンビニでコーヒーが買えるようになるなんて、当たり前になっちまったなぁ。もう百円で買えなくなっちゃったのが、惜しいけど。」
瀬能「そうですねぇ。」
皇「・・・・・」
瀬能「それにしても・・・・・」
皇「なんだ?」
瀬能「公園、誰も、いないですね。・・・・・せっかく、市だか県だか、お金、出して、整備しているのに、誰も、使わないんじゃぁ、勿体ないですねぇ。」
皇「日曜日とかになったら、グランド、野球とかで、使うだろ? 平日の、昼間っから、ぶらぶらしている奴の方が、少ねぇだろ。」
瀬能「それを言っちゃぁ、それまで、ですけど。」
皇「誰も使っていねぇんだから、使ってやらぁいいんだよ。」
瀬能「平日の、昼間っから、コンビニでコーヒー買って、新聞、片手に、・・・・・優雅ですね。やっている事は、イギリス紳士なのに、日本だと何故か、・・・・・斜陽感があるというか、後ろめたさがあるというか、」
皇「・・・・そうか?」
瀬能「新聞だったら、コンビニで買えば良かったじゃないですか」
皇「コンビニで買うと、百円とか、もっと、取られるだろ? あの、おじさんから買うと、五十円で、買えるんだ。」
瀬能「え? どういう、」
皇「ま、これ、古新聞だけどな。」
瀬能「・・・・・・・え?それって、・・・・・・・かなり、グレイな、」
皇「グレイどころか、アウトだろ?」
瀬能「えええええぇぇぇ?犯罪者と一緒に、コーヒー、飲みたく、ないんですけど」
皇「なに言ってんだお前、私は、善意の第三者だ。おじさんから、新聞、買っただけだぞ?古新聞。・・・・・・なにか問題でもあるのか?」
瀬能「そういう、脱法な、逃げ道、残しているところが、嫌なんですけどぉ。」
皇「きひひひひひひひひひひ!!! お前も、身も心も、真っ黒に、染めてやるぅぅぅぅぅぅ!!!」
瀬能「重たい!重たい!重たい! 寄っかからないでぇ重たぁぁぁぁぁい!! コーヒー、こぼれるぅ!」
皇「昔はああいうおじさん、もっといたんだけどなぁ。法律とか厳しくなったり、ルールも変わったし、ある意味、住みにくくなったよなぁ。・・・・そのくせ、電話の詐欺とか、強盗だとか、極端な、事件が増えるし、おかしな時代だぜ、まったく。」
瀬能「昔はいい、みたいな事、言っていますけど、昔だって違法は違法だったけど、誰も、言わなかっただけで、許されていたわけじゃないんですよ」
皇「お、お前、いつから正義超人になったんだ!」
瀬能「今は、社会に遊びっていうか、余裕を持たせない、そんな風潮だから、なんでもかんでも、極端化しているように見えますけど。その、新聞のおじさんだって、社会の遊びで、生活している、っていうのは理解できますけど。」
皇「朝、サラリーマンが、新聞、読みながら、電車で出社する。読んだ、新聞を、駅の、雑誌専用の、ゴミ箱に捨てるんだ。乗降者数が多い、駅じゃぁ、とんでもない量の、新聞が、廃棄される。」
瀬能「新聞が、今より、読まれていて、メディアの王様は、新聞だった時代ですよね」
皇「その、捨てられた新聞を、あの手の、おじさんが、拾って、半分だか三分の一の値段で、売る。新聞なんて情報だからな。読めればいい。集めた新聞を、駅前とか、ちょっとした路地で、売っているんだ。それをまた、買っていくサラリーマン。そのサラリーマンも読んだら、捨てる。また、拾って、売る。・・・・・そういう、新聞のサイクルが、あったんだ。大都市圏ではな。
パチンコの、・・・・あれと、一緒だ。敷地の隅にある、小さい小屋と。」
瀬能「・・・・かなりグレーですよね。誰も何も言わないけど黒ですよね。あれも。」
皇「はじめて行くパチンコ屋なんか、場所がわからないけど、なんとなく、目で店員に、パチクリすると、場所、教えてくれたりするもんな。言葉に出しちゃうと、アウトだから、絶対、言わないけど。こっちも、言わないし。」
瀬能「突き詰めちゃうと、駅校内のゴミは、鉄道会社の資産だから、もれなくドロボーですし、仮に、正式に新聞を買って、売るをしているならば、古物商の、免許が必要になりますし、そもそも、道路で勝手に、商売をしていると、道路の占拠にあたりますから、どれもこれも、ぜんぶ、アウトなんです。誰も何も言わないだけで。
そういう、ホームレス然とした人を、逮捕していても、キリがないから、していないだけで。世の、本当の、隙間で、生きているおじさんですよね。」
皇「まあな」
瀬能「まあな、じゃないですよ。知っていてやっていたら、瑠思亜も、同罪ですからね。」
皇「なんかさぁそういうの、色々、厳しくなってさぁ。スーパーとか、コンビニの。弁当の廃棄物も、あれ、持って行ったら、犯罪になるらしいな」
瀬能「らしい、どころか、ドロボーですよ。あの、ゴミは、資産ですから、ゴミはタダっていう、感覚、改めた方がいいですよ?」
皇「どうせ捨てちゃうのにあ。捨てるのに、わざわざ廃棄業者に金、出して、引き取ってもらうんだから、タダで、くれたって、いいのにな?」
瀬能「今は、そういうのが許されない時代なんですよ。・・・・おかしい、とは思いますけどね。もう少し、融通が利いてもいい、と思いますけど。」
皇「ほら。漫画家の、・・・・・ななこSOSの、吾妻先生。失踪して、そういう、廃棄弁当で、食いつないでいて、失踪する前より、太った、なんてエッセイに書いていたよな」
瀬能「ホームレスが社会問題になった、何十年も前の話じゃないですか。だから締め付けが厳しくなったんじゃないですか。安易に、ホームレスになられても、困るから。」
皇「誰が、好きで、ホームレスになるよ?」
瀬能「それはそうですけど。」
皇「あ、あと、週刊少年漫画も、買ってきた。あの、おじさん、五十円でいいって。」
瀬能「・・・・・・・。・・・・・次、貸して下さい。読みたい、奴、あるんです。」
皇「十円、よこせ。」
瀬能「え? お金、取るんですか? 拾ったマンガ、買った、女が?」
瀬能「最近、1チャンネルは、アニメに媚てますね。そんなに、ツタジュウと、アニメを一緒くたにしなくてもいいのに。」
皇「大河は見なくても、アニメ、マンガは見るからな」
瀬能「いやぁそれだって、アニメそのものじゃなくて、アニメ、マンガ、ゲーム。それに、J-POPが世界のエンタメカルチャーだ、っていう、いかにも、宣伝的な番組で、オタクカルチャーに、意味合いを付ける方が、どうかしてますよ」
皇「アニメは子供騙しだから、見ないけど、カルチャーの動向には、ドキュメントとして面白いから、見る人間がいるんだろ? ある意味、日本の、輸出産業だから、公共放送として、コマーシャル、やってやってるんだろう?1チャンネルがつくると、嫌でも、イギリス、フランスの国営放送で、流されるからな。こんな、中身、ない、コマーシャル番組。」
瀬能「ヨアソビとミクと、ボンボンボンの、コマーシャルですもんね」
皇「ボンボンボン?」
瀬能「松永とR指定の、あれですよ。」
皇「松永ってバラエティ、向いてないよなぁ。音楽、やってる時はキレキレなのに、ラジオでもテレビでも、性格が暗い所が出ちゃって、一時期、ストレスで、太っちゃって、見るに堪えなかったなぁ。」
瀬能「かわいそう、でしたよね。向かない仕事って、誰にでもあるんですよ。・・・・・朝、起きられなくて、仕事、行けない事があって、・・・・・どれだけメンタル、中学生なんだよ!って思った事がありました。」
皇「仕事、してない、お前に、言われたくは、ないけどな」
瀬能「それを言っちゃぁ・・・・ダメですぅ」
皇「日本の、そういう、オタクカルチャー」
瀬能「1チャンネルが言うには、ポップカルチャーって、言うらしいですよ。オタク、なんて、もうクール過ぎて、使わないみたいです。」
皇「ポップ?カルチャー? いや、わかるよ。大学の教授だかがさぁ、文脈で、説明してくれて。たかがマンガ、アニメに、必要以上に、価値を付加してくれている。見ているわけだ。いかにこのマンガが優れていてぇ、世界で流行している、知らないのはおじさん、おばさんだけだよ? 教えてくれてありがてぇ、ありがてぇ、って見ているわけだ。何兆円ってビジネスだから、な。乗らない手はない、のは、わかる。けど、この、1チャンネルの番組は、露骨過ぎやしないか?」
瀬能「内容は教えられないけど、著作権とか、版権の問題で、でも、人気があって、売れているんですよ、ってコマーシャルするのは、OKなんです。中身なんか、どうだっていいんですよ。その、なにが売れていて、コンテンツの名前だけ、知っていれば、済む、話ですから。」
皇「けっきょく、そこなんだよ!」
瀬能「・・・・そこ?」
皇「中身なんか関係ねぇんだよ、モノ。売れている、モノ、さえ分かれば、それでいいんだよ。・・・・オタクカルチャーも、投機対象なんだ。儲かるから、ってだけの話なんだ。」
瀬能「まぁ・・・・そういうのが、一番、オタクが毛嫌いする部分なんですけどね。オタクとビジネスというか、そのポップカルチャーとビジネスの、お互いの、理解が、出来ない部分なんですよね。」
皇「そういうの早めに目ぇつけられた人が勝ちなんだろうけど、生産国の日本が、後追いしているっていうのが、な。海外の方が、ビジネスとカルチャーを、シビアに、分けて考えられるから、儲けられるんだ。日本で、それをやると、すぐ守銭奴とか、言われるからな。」
瀬能「・・・・・・ガイナックスが、ちゃんとしたビジネスモデルになれなかったのが、痛いですよね。」
皇「ニンテンドーアメリカが、昔、マリオ、コングで、ガッチガチに戦った記録が残っているから、売れるコンテンツは、企業が、守る、方向にはあるけどな。」
瀬能「まず売れなきゃ、話に、ならないですからね。」
皇「売れる、人気作品が世に出る確率が、どれくらいあるって話だよ。ま、コンテンツビジネスは、売れたものを守るのも大事だけど、これから、生まれる天才を、育てていく、風土も、必要だからな。」
瀬能「生まれる前から・・・・・囲い込みですよね。 プロ野球とか相撲部屋の、青田狩りと一緒で。・・・・・江川、謎の一日。」
皇「スカウトと言え、スカウトと。育てるにも、金が、かかる。売れたら、そこで、回収したいと思うのは、当然だとは、思うけど、な。」
瀬能「日本の売れている漫画を、海外で、翻訳して、出版するにしても、そっちの会社と、契約して、売るわけですよ。海外の出版社だって、人気が出そうなマンガを、青田買いするんです。先物取引ですよ。・・・・自身の目利きを信じて、契約するんですから。」
皇「金がからむ世界は、魑魅魍魎だからな。売れれば、一攫千金だ。日本で、人気がなくても、海外で、火がついて、日本に、人気が、逆輸入っていう、ケースもある。」
瀬能「現役の、マンガならまだわかりますが、昔の、マンガの、原画が、百万円、二百万円で、取り引き、されているそうですよ。」
皇「へぇ。・・・・どうせ、複製だろう?」
瀬能「いや、あの、生原稿。」
皇「生原稿が、売りに、出されているのか?」
瀬能「オークションハウスで、取り引き、されているみたいです。アニメのセル画とか、マンガの原稿とか。」
皇「大丈夫なのか、それ?」
瀬能「いや、知りませんけど」
油屋「あのぉもう少し、ご飯、入れて、下さいませんか?」
女「ああ、すいません。あの、皆さん、同じ、分量で、お渡し、しているので。」
油屋「そんなぁ、もうちょっと、・・・・・ケチ!」
女「・・・そんな事、言われても」
男「油屋さん、申し訳ない。みんな、同じ、なんだ。あなただけ、特別に、するわけには、いかないんですよ。ご飯、足りないなら、・・・・・・・・・お菓子、増やしますから。」
油屋「子供扱いすんな!」
男「油屋さん、次の日、順番、だから。先、行って、先。」
油屋「しみったれぇい!」
女「・・・・はいはい、また、来て下さいね!」
油屋「もう来るか! くそ!」
油屋「ああ、くそぉ。炊き出しも、セコくなったなぁ。」
瀬能「そんな事、言っちゃぁダメですよ。もらえるだけ、ありがたいんですから。」
油屋「なんだ瀬能さんは、体制側の、味方か?」
瀬能「・・・・・皆さんは、むしろ反体制ですよ。体制側が、ご飯、食べさせてくれるわけないじゃないですか。」
油屋「・・・・確かに。そりゃそうだ。・・・・・それにしても、前に比べると、炊き出しの量も、回数も、減ったなぁ。」
瀬能「なんでもかんでも、値上げですからねぇ。もらえるだけ、ありがたいと、思わないと。」
油屋「瀬能さん。これ、食うか? キャラメル。子供騙しかよ。これで、腹、どうにかしろってよ。」
瀬能「いいじゃないですか。キャラメル。もらっておけば。・・・・油屋さんに、キャラメルあげたら、他の人にも、同じ様に、キャラメルあげないと、また、喧嘩の元になるんですよ?」
油屋「わかってるよ、そんなの。・・・・・はぁ。でも、なんか、・・・・さみしいよなぁ。」
瀬能「仕方がないですよ。」
油屋「安い、金で、働かされて、しまいにゃぁ、このザマだぁ。・・・・メシすら、腹いっぱい、食えねぇんだからなぁ。」
瀬能「油屋さん。漫画家なんだから、印税、たんまりと、もらったんでしょう? 貯金、ないんですか、貯金?」
油屋「あるわけねぇだろ、あったら、こんな所で、白飯、たかって、食ってねぇわ。」
瀬能「そりゃそうですけど」
油屋「本なんか、一冊も、出してねぇし。」
瀬能「油屋さん。本、出してないんですか? 漫画家なのに?」
油屋「あのなぁ、瀬能さんよぉ。・・・・・・キャラメル。食え。」
瀬能「ありがとうございます」
油屋「・・・・漫画家っていうのはなぁ、自由業だよ。自由業。今でいう所の、フリーランスだ。・・・・・この世に、何千、何万人って、漫画家がいると思っているんだよ?」
瀬能「さぁ?」
油屋「あんまり興味ねぇな」
瀬能「ええ、さほど。」
油屋「まぁ、いいよ。漫画家なんて腐るほど、いるんだ。漫画が描けりゃぁみんな、漫画家だ。雑誌に載ったり、そういうのは、一握りなの。・・・・漫画が描けるからって、それで、食えるとは、限らねぇ。」
瀬能「それはそう、かも、知れませんけど。」
油屋「雑誌に載って、しかも、本に、なるなんて、奇跡だからな? いくら雑誌で連載していても、雑誌社が潰れたら、それで、終わりよ? 描いても、描いても、編集者が、潰れて、本の話が、無くなった漫画家なんて、珍しくないからな。まぁ、漫画家にも、二種類、いて、自分が主役で、漫画を描き続ける人と、最初から、裏方に回って、アシスタントとして、漫画を描く。その、二種類が、いるんだ。」
瀬能「油屋さんは、どっちだったんですか?」
油屋「俺は、両方だ。
当然、若い時は、ギラギラしてた!石ノ森を超えるのは俺だ!って思ってたんだけど、・・・・・出版社に持ち込んで、自分の才能の無さに、気づかされた。漫画が好きなだけじゃぁ、漫画家には、なれねぇって事にな。絵が、綺麗なだけじゃぁ、売れねぇんだよ。世の中には、絵を上手に、綺麗に、描ける人間は、ごまんといる。俺も、その一人だった。俺は、ただ、絵が綺麗に、描けるだけの、男だったんだ。
漫画を描くっていうのはなぁ、映画監督みたいな、もんなんだよ。」
瀬能「映画ですか?」
油屋「ストーリー、キャラクター、構図、コマ割り、シーン割り、・・・・・・そして、絵、つまり、漫画だ。ぜんぶ、出来なきゃダメなんだ。
おんなじシーンを描かせたって、天才と、凡人じゃぁ、天と地の差がある。上手い絵じゃ、漫画にならない、こう、人が見て、驚いたり、泣いたり、感情を揺すぶらせる、絵を、描かなきゃ、漫画家には、なれねぇんだ。
・・・・・そこいくと、俺は、凡人だった。赤塚にも、藤子にも、石ノ森にも、なれなかったよ。
だから俺は、安い、ギャラで、アシスタント、やってたんだ。いろんな、漫画家先生の、アシスタントを、転々と、な。」
瀬能「へぇ。油屋さんに、そんな、過去が、あったんですね」
油屋「当然だ。漫画家だって、人気商売だ。ずぅっと、人気がある、先生ばかりじゃねぇ。売れている時、忙しい時は、アシスタントを雇えるが、暇に、なれば、お払い箱だ。俺は、俺は、雑誌社に頼んで、色んな先生、紹介してもらって、なんとか、食い繋いできたんだ。あれだぞ?アニメのセル画も、描いていたりしたぞ?」
瀬能「凄いじゃないですか!」
油屋「別に凄かねぇよ、アニメーターも漫画家も、似たようなもんだからな。狭い業界だし。先生伝いに紹介してもらったりも、してたし。」
瀬能「油屋さんは、自分の、オリジナルの、漫画を描いたこと、ないんですか?」
油屋「・・・・・ま、たまに、暇な時に、描いたこと、あるけど。・・・・・・・・ほんと、あいつら」
瀬能「あいつら?」
油屋「雑誌編集者だよ。あいつら、売れている、作家先生しか、相手に、しねぇんだ。・・・・・・・・・俺みたいな、歳いった、うだつの上がらない漫画家が、持ち込んだ原稿なんざ、ハナっから、見る気がねぇ。ロクに読みもしねぇで、あれが悪い、これが悪いって、貶すだけだ。・・・・・・若い時なら、言われても、また挑戦しようって気にもなったが、歳を取ると、そういう気持ちにもならねぇんだ。若い、編集者に、クソみたいに言われて、だったら、漫画家先生の、アシスタントを、やっていた方が、楽だからな。
それに、持ち込んだ、俺の、漫画原稿。やつら、ぐらぐらするテーブルの、足に噛ませて、高さの調節に、使ってやがったんだ。俺の、漫画原稿をだぞ?」
瀬能「・・・・・・は?」
油屋「売れねぇ漫画家の、原稿なんざ、ゴミ以下だ。ゴミなら、捨てれば、終わり。俺の原稿は、ゴミにも、ならねぇ。机の脚に、噛ましたり、糊の台紙に、使われたり、されたんだ。・・・・・・俺が、寝ないで、必死に思いついたネタで漫画を描いて、命、かけて、描いた漫画だって、そんなのは、俺の、感情に過ぎない。腹が立っても、悔しくても、金に、なるわけじゃねぇ。所詮、俺は、その程度だって、悟ったんだ。
俺みたいな、チンピラ漫画家が、何万人って、いるんだよ。
売れている、漫画家先生に、寄生して、生きている、漫画家崩れがな。」
瀬能「漫画家の世界も、弱肉強食なんですね」
油屋「なんだってそうだ。これも、資本主義。自然淘汰。・・・・・・・強い人間が、生き残る、それだけの、話だ。」
瀬能「油屋さんの、マンガ、読みたかったです。」
油屋「どうせ読んだって、面白くねぇよ。面白れぇマンガ、描いてたら、みんな、読んでるさ。」
皇「なぁ爺さん。もうちょっと、詰めてくれよ。」
油屋「ここは俺のベンチだ。お前達が、どっか、行け」
瀬能「いいじゃないですか、空いているんだから。ほら、油屋さん、肉まん、あげますから」
油屋「これ、さっき、炊き出しで、配ってた奴じゃねぇか!」
瀬能「つめたいですけど、どうぞ」
油屋「・・・・せめて、レンジでチンしてくれよ、瀬能さんよぉ」
瀬能「かったい、肉まんも、あじがあって、いいですよ」
油屋「うまかねぇよ、そんなもん」
皇「食ってんじゃねぇかよ」
油屋「うまくなくたって、腹に入れなきゃ、生きていけねぇだろうが」
瀬能「そうですよ、はい、どうぞ。瑠思亜の分。」
皇「・・・・・・ごわごわしてんなぁ、これぇ、・・・・・・どっかに、チン、ねぇのかよ」
油屋「嬢ちゃんも食ってんじゃねぇか」
瀬能「なに、見ているんですか?また、変な、新聞売りのおじさんから、買ったんですか?」
皇「ああ・・・・・・ヘリテージで、魔女宅のセル画、三百万円で、落札だってよ」
瀬能「ヘリテージ? ホテルですか?」
皇「オークションハウスだよ。アメリカの。」
瀬能「へぇ。・・・・アニメのセルが、そんな、いい値段で、売れるんですね。」
油屋「あああああ!!! あんなモンがそんな高い値段で売れるのかぁぁぁぁぁぁああ!!!」
皇「っきったねぇなぁぁ!爺さん、しゃべってから、食えよ!」
瀬能「いやいやいや・・・・食べてから、しゃべって下さいよ」
油屋「どっちでもいいんだよ、そんなモン! ああああ?あんな、ゴミが? えぇぇあ? 見せてみろ!」
皇「やめろ爺ぃぃぃ! ひっつくなぁ!」
瀬能「ちょっとちょっと油屋さん、もうぉ!せまぁい!」
油屋「宮さんのじゃねぇか! こんなんが、三百万? ふざけんな!」
皇「返せバカ!」
瀬能「油屋さん、おさわり代、取りますからね?」
油屋「・・・・・触ってねぇだろぉが! ああああ、あんなゴミが、金になるなら、取っとけば良かったなぁ・・・・・」
瀬能「あ、そう言えば、油屋さん、アニメの仕事も、やってたって言ってましたよね? 魔女宅もやってたんですか?」
油屋「ん?・・・・・・忘れちまったぁ。ただ、宮さんトコの仕事は、何度か、手伝ったことがある。」
皇「なんだよ手伝ったことがあるって? 爺さん、そんな仕事、してたのかよ?」
瀬能「油屋さんは、漫画家で、そういう仕事、していたんですよ」
皇「そういう仕事ってなんだよ? 爺さん、漫画、描いてたのか?」
油屋「ああ、売れなかったけどな。マンガとかアニメは、上の方で、繋がってんだ。ま、例えば、マンガ原作のアニメ、やったりするだろ?アニメ制作会社の人間とかも、原作の先生の所に、頻繁に、出入り、するからな。出版社を介して、ツテが出来るんだ。」
瀬能「へぇ。」
油屋「まぁそういうツテで、漫画の進行具合じゃ、アシスタントだけじゃ食っていけねぇから、アニメの、色塗り、あれくらいなら、出来るからな。下請けの下請けで、やったことがある。」
皇「下請けの下請けって、相当、下じゃねぇか」
油屋「お嬢ちゃんよぉ、アニメ、舐めてんだろ?」
瀬能「舐めてんだろ?」
皇「・・・・・舐めてねぇわ」
油屋「テレビのアニメならまだしも、映画のアニメは、完全新作だ。使い回しが効かない上に、コマ数が多い。一秒二十四コマだ。それが約百分。何枚だ?」
瀬能「ナンマイダー ナンマイダ・・・・」
皇「・・・・・」
油屋「・・・・とにかく何万枚だよ。動画マンが描いた絵をとにかく、仕上げなくちゃいけねぇ。何人いたって、人が足りねぇんだ、わかるか?地獄だよ」
瀬能「いろんな地獄がありますからねぇ」
油屋「・・・・・空気は悪いは、・・・・空気が悪いっていうのは、雰囲気って意味じゃなくて、物理的な、酸素が、足りねぇって意味でな。狭い部屋に、タコ部屋だ。何人も、押し込まれて、引かれた線に、塗って、塗って、塗って・・・・。化学物質の嫌な臭いと、狭ぇ部屋でタバコなんざ吹かすから余計に、酸素が足りなくなる。・・・・納期があるから、昼も夜も、ぶっ通しだ。
地獄だろ?
おまけに給料は、安い。・・・・・最初は、出来高払いだったのが、枚数、数えられないし、意味ないしで、時間給になったんだが、それだって、時間で働いても、意味ねぇし。ずっと、そこで寝て、描いているだけだからな。
けっきょく、一人、幾ら、っていう、感じになったんだ。究極の、公平だろう?・・・・共産国家じゃねぇって話だ、でも
途中でいなくなる人間もいたし、俺みたいに、途中から、連れてこられた人間もいたし。」
瀬能「収拾がつかない現場っていうのは、想像できますね。」
油屋「下請けの下請け、なんて、そんなもんだ。上の方は、指示するだけで、いいんだからな。ま、俺も、そういう、仕事を、してきた、って話だ。
あんとき、使い終わった、セル、貰ってきとけば、今頃、億万長者だぜ?なぁ?」
瀬能「なあって言われても、ねぇ、ない物の話、されても。」
油屋「だから、あんなモン、俺の賃金で、換算したら、一枚、十円もねぇよ。何枚、色、塗らされたと思ってんだ? いや。あれ、みんな、撮影が終わったら、捨てるんだぞ?ただのゴミだ。それが、三百万?
俺からしたら、悪い、冗談だ。」
皇「捨てる・・・って爺さん。ああいうのは、アニメ会社か、映画会社か、わからねぇけど、そういう所の、資産じゃねぇのかよ?」
油屋「だから・・・嬢ちゃんは分かってねぇって言ってんだ」
瀬能「乳だけデカくて・・・・・痛い、痛いです」
油屋「最終的には、そりゃぁ、映画で作ったんなら、映画会社の所有物だろう?最終的な権利は、金を、出したところだ。
だがな、ようく考えてみろ? 大事なのは出来上がったマスターフィルムだ。それが、最終的な商品形態。アニメなんて、アニメで映像、作っているだけで、その過程に意味があるのか?
たまたま、アニメを作るにあたって、何枚も、絵を描く。」
瀬能「そりゃそうですよね、実写映画なら、カメラの前で、俳優が、演技して、終わりですから。」
油屋「絵を撮影して、動画をつくる。撮影が終わった、絵、それって、産業廃棄物だろ? アニメをつくる上で出た、ゴミだ。二度と、使う事は、ない。」
皇「・・・・確かに、マスターが出来た以上、セルを、何万枚も、保管しておく、意味は、ないな。」
油屋「そうだろう。じゃぁ、嬢ちゃんが言うように、映画会社の、資産だとしよう。アニメの映画をつくるたんびに、その、産業廃棄物を、・・・・まぁ、資産か。アニメ撮影で出た、セル画、何万枚を、保管しておくのか? ハリウッドみたいに、バカみたいに土地がある所なら、保管しておいてもいいだろう。日本で、それが、可能なのか?
だいたい、撮影が終わったら、廃棄される。暗黙の了解でな。」
皇「どういう事だよ?」
油屋「だからぁ、監督とか、プロデューサー、偉い人間だよ。そういう奴等は、撮影が終わったセルが、どこに行こうと、お構いなしって話だ。まるで気にしていない。
だいたい、俺達、アニメーター・・・ま、俺は、色塗り、アルバイトで手伝った程度だけどな。アニメーターの事なんざ、それほど、歯牙にもかけちゃいねぇ。出来上がった、アニメの映像の方が、大事だからな。
だから、そういう使い終わった、セルを、秋葉原とか神田あたりで、業者に売るんだ。ちょっとした、小遣いになる。
昔は、ほんと、ゴミの日に、捨てていたらしいが、・・・・それをマニアが見つけて、拾って行ったって話は、聞いた事がある。売れば、金に、なるしな。」
瀬能「そう言えば、よく分からない、アニメムックの広告で、セル画、一枚、百円とか、見た事あります。いやらしい、アニメビデオの、通販と、だいたい、おんなじ会社だったと思いますけど。
オタクがカモにされていたんですよ、そういう時代です。」
皇「アニメの、セルが、オークションに出回るっていうには、そういうカラクリがあったんだな」
油屋「今は、どうかは知らねぇけどよ、何十年前の話だ。だいたい今、アニメなんて、セル画、描いてないだろ? みんなコンピュータだろ?」
瀬能「今は、みぃ~んな、デジタルですね。デジタルはデジタルで、データ消えちゃうとか、問題があるみたいですけど。」
油屋「あああああああ。俺にも、一攫千金のチャンスがあったのになぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、ああああああ、くっそぉぉぉぉぉぉぉぉ」
瀬能「油屋さん、元気だして下さい。ほら、おっきなオッパイ、揉んでいいですよ? イテッ」
皇「揉ますか!」
エージェント「!」
油屋「・・・・・なにがヤクルト、一家族、一パックまでだよ。誰が、買うか、そんなに!」
エージェント「・・・・・あなた、油屋ディスティニー先生ですよね?」
油屋「なんだ?お前ら!」
エージェント「・・・・お手間は取らせませんので、少し、ご相談が、あるんですが・・・・」
油屋「金ならねぇぞ!強盗する相手、間違えてるぞ!・・・・・・離せ!・・・はな・・・・・・・・・・・・なんで、お前ら、俺の、名前、知ってんだ?」
エージェント「どうぞ、」
油屋「本当にいいのか?好きな物、頼むぞ?」
エージェント「ええ、ご遠慮なく」
油屋「ああ、姉ちゃん」
ウェイトレス「はい」
油屋「コーシー、これ、・・・・・一番、量の、多いやつ。これ。」
ウェイトレス「はい、かしこまりました。少し、お待ち下さい♪」
油屋「・・・・・・それで、あんたら、なんなんだ? 名刺、もらっても、よく分からねぇんだけど」
エージェント「ええ、私共は、世界中の美術品や骨董品を扱う、卸しの、業者でして。」
油屋「ああ・・・・・・・早い、話、ブローカーか?」
エージェント「ああ、ああ、話が早い。・・・・・ええ。美術品専門の、ブローカーをやっております。」
油屋「話、聞く、相手を間違えてねぇか?俺は、芸術家でも、収集家でもねぇ」
エージェント「ええ、存じております。最近、私共の、市場においても、商品の幅が、広がって参りました。以前の様に、美術史に名前が残る方々の作品だけでなく、現代美術を大々的に、扱う事も、増えております。代表的な所だと、ムラカミ、それにクサマ。それにアジアの作家ブームの加熱もありまして、市場は右肩上がり。私共も、新しい商材を探しておりまして、その流れで、・・・・・コミックやアニメが、目を疑うような高額な取り引きを行う事が増えて参りました。先日も・・・・・」
油屋「ああ、新聞で見たよ。宮さんのアニメの、アレだろ。」
エージェント「予想落札額、六百ドル・・・・十万円程度だと思われていたものが大幅に、吊り上がり、三百万円。
私共としても、目が離せない、商材となりました。そこで、私共は、いまだ世界の市場に出回っていない、コミック、アニメを、収集しております。」
油屋「へぇ。世界にゃぁ、日本人以上のマニアがいるモンだねぇ。」
エージェント「油屋先生。まさにその通り。世界の、コレクターは、日本人の比ではありません。場合によっては、コミックの価値を、モネやゴッホより高く、評価している人間もいらっしゃいます。」
エージェント「人が、何に、価値を見出すかは、千差万別。美術品よりも、コミックの原稿を、何千ドルを出しても欲しいという、奇特な、コレクターも存在します。」
エージェント「実際、私共のようなボローカーが、日本の、コミックの市場を、買いはじめました。・・・・・言わば、早い者勝ち。早く、手をつけた人間の勝ちです。」
油屋「そうやって、あんた達みたいな、外人を、日本に送り付けて、買い付け、しているわけだな?」
エージェント「その通りです。油屋先生。」
エージェント「油屋先生は、”丸大豆ソイヤ”先生の、最後の、弟子であるとか。」
油屋「ああ、・・・・・アシスタントな。」
エージェント「おおおおおおおおおおおおおお!!!」「イエス、イエス、イエス!!!」
エージェント「ただ。・・・・ただ、私共も、あなたが、経歴上、丸大豆先生の、弟子という事しか、把握しておりません」
油屋「・・・・・・それだけ調べりゃぁ十分だろう・・・・・アメリカ、怖ぇなぁ」
エージェント「あなたが、本物の、丸大豆先生の、弟子かどうか、確かめさせて頂きたい。」
油屋「ああああぁ゛ぁ゛ぁ゛?」
エージェント「私共は、信用が、取り引き。信用”のみ”で商売を行っております。・・・・・・・・・ですから、あなたが本物の、丸大豆先生の、弟子か、確かめたい。ここに、丸大豆先生の代表作”男、ちん平”の、キャラクターを描いて下さい。それによって私共は判断いたします。」
油屋「いいか、お前ら?・・・・・お前らが、勝手に、俺を、連れてきて、コーシー、飲ませたんだぜ?そのくせ、俺が、本物かどうかだと?ふざけんなよ?
俺は、お前達の遊びに、付き合う程、暇じゃねぇ?」
エージェント「私共も、あたなを、本物と、信用したい・・・・・」
油屋「だから、順番が逆だ、っつてんだろうがぁ? まず、お前等が、俺に、誠意を示せ。」
エージェント「・・・・・・・コーヒー、飲みましたよね?」
油屋「そういう事じゃねぇよ。俺に、なにか、描かせるんだったら、金、払え。いいか? 俺は、漫画家だ。・・・・・そっちが、リクエストしたんなら、それ相応の、金を出せ。それから、だ。」
エージェント「・・・・・・」「・・・・・・・」
エージェント「あの、ここに、・・・・・・・QUOカードがあります。」
油屋「現金だせよ! 信用してねぇじゃねぇか、コノヤロウ!
まあ、いい。・・・・・・・よこせ。幾らだ?五百円? シケてんなぁ。あ?いいか? じゃぁ五百円の仕事をしてやる。ほら、その、・・・・・メモ帳、貸せ。あと、描くモン。」
エージェント「・・・・・・。」
エージェント「! !!」
エージェント「おい、調べろ!」
エージェント「これは本物の可能性が高いぞ! 待て。待てぇぇぇぇぇぇ!!! 本物だ!・・・・・・・・・・・・・・・脇も脇、脇キャラクターの、”昭一”だ!」
エージェント「こんな不人気キャラクター、誰も、描けるハズがない!」
油屋「五百円じゃぁ、・・・・その程度だ。もっと金、出すんなら、もっと、いいキャラ、描いてやってもいいぜ?」
エージェント「・・・・・あんた、ホンモノだな?」
エージェント「本部と連絡を取れ! 油屋ディスティニーと接触したぞ!」
皇「最近、あの、変な爺さん、見ないな」
瀬能「ああ、油屋さんですか?」
皇「そうそう。漫画家とか、言ってた。」
瀬能「なにやってんでしょうねぇ。以前はよく、スーパーの最後、七十五パーオフの、握り寿司、取りっこ、していた仲だったんですけどねぇ。それはそれは、血で血を洗う、壮絶な、戦いでした・・・・・」
皇「しょうもねぇ事で、血で血を洗うな」
瀬能「しょうもなくはないですよ、お寿司が、七十五パーですよ? だいたい、みんな、半額で、諦めて、帰っちゃうんですけど、私ぐらいになると、ラスト、一分。全米が泣くまで、帰りませんから。」
皇「帰れよ。・・・・買って帰れよ、スーパーに迷惑だろうが」
瀬能「買って帰りますよ、七十五パーオフのシールを、貼ってもらったら、すぐ、帰りますよ」
皇「ああ、そうかよ。」
油屋「やあ諸君! 元気だったかね?」
皇「・・・・・」
瀬能「あれ、油屋さんじゃないですか!」
油屋「君達は、なんだね、また、炊き出しに並んでいるのかね?」
瀬能「そうですけど」
皇「ああ、メシ、作ってやってる方だけど、な」
瀬能「どうしたんですか? なんか、急に、見違えちゃって、・・・・・竹藪から、一億円でも、拾ったんですか?」
油屋「はっはっは。君達には、随分世話になったからなぁ。とくに、瀬能さん。あんたには、随分、世話になった。私が、ひもじい思いをしていた時、冷めた肉まんを、分けてくれたぁ。・・・・あの、冷えた肉まん、私はぁ、忘れもしないよ。とっても感動したよ。」
皇「・・・・・おい爺さん。・・・・・・・ヒヤシンスの根っことか、食ったんじゃねぇだろうなぁ?」
油屋「はっはっはっはっは。バカな事を言っちゃぁいけないよ。胸囲の大きい、お嬢さん。」
皇「・・・・気持ち悪ぃなぁ」
油屋「ちょっとした、小銭が入ってねぇ。まぁそれで、君達に、恩返しに、来た、わけだよ。まあ、これを取っておいて、くれたまえよ。」
瀬能「??? なんですか、これは?」
油屋「キューベーの、お弁当だよ。・・・・瀬能さんとは、よく、お寿司を、競い合って、いたからねぇ。・・・・あれはよくない。そういう、貧しい、せせこましい気持ちが、人間の心を駄目にするんだ。人間、余裕がないといけない。これは、ほんの、気持ちだよ。」
瀬能「キューベー? ・・・・・魔女っ子にしてくれる、あいつですか?」
皇「寿司屋に決まってんだろうが。銀座の。」
瀬能「あの、キューベーですか? あの、伝説の、ザギンの、シースー?」
皇「伝説でも何でもねぇよ、行けば、寿司、出してくれるわ」
油屋「はっはっはっは。胸囲の大きい、お嬢さんは、冗談が面白い。はっはっはっは。」
皇「・・・・・。」
瀬能「よく分かりませんけど、もらっちゃって、いいんですか?」
油屋「気持ちだよ、気持ち。受け取って、くれたまえよ。」
皇「爺さん、気前が良くなったけど、相当、小銭が、入ったみたいだなぁ?」
油屋「いやいやいや。・・・・・そうだ、これも、差し上げよう。持っていても、邪魔にはならないだろう?」
瀬能「??? ・・・・んん?? なんですか、これは、」
油屋「私の、サイン入り、割り箸の包みだよ。」
皇「・・・・・・は?」
瀬能「いらないですよ」
油屋「いやいやいや。瀬能さん。取っておきなさい。この、割り箸の、包みが、千円、いや、五千円くらいには、化けるから。」
皇「どういう理屈だよ?爺さん」
瀬能「なんか、微妙な、絵も、描いてありますけど・・・・」
油屋「いや、よく気づいた、さすが瀬能さんだ。・・・・・・この、キャラクターが、お金に、変わるんだよ。はっはっはっは。」
瀬能「どういう、理屈なんですか?」
油屋「まぁ、いずれ、分かるよ。 君達も、オークションくらい、知っているだろう?オークションじゃなくても、テレビの、なんでも、値段を付けてくれる、鑑定番組。そういう所で調べてみるといい。その、落書き程度の、包みが、金に、変わる、という事を。」
皇「どう見たって・・・・・・落書きだろう?これぇ。」
油屋「じゃぁ私は、これから、先約が、あるもんでね。これで失敬するよ。」
瀬能「油屋さん、炊き出し、持って、行かなくて、いいんですか?なくなっちゃいますよ?」
油屋「気にしないでくれ、瀬能さん。今日は、同じ外で、外食するとしても、ホテルの、屋上で、外食の予定だ。」
瀬能「はぁ」
油屋「ベンチで、冷えた、カレーを食べていた頃が懐かしい。では。また、機会があれば、会おう。はっはっはっは」
瀬能「・・・・行っちゃいましたね」
皇「フグのキモでも、食ったんじぇねぇのか?あの爺さん、大丈夫か?」
瀬能「御影に聞いたんですよ、そうしたら、アニメブローカーっていうのが、いるらしいんですよ」
皇「アニメブローカー? アニメイトの仲間か?」
瀬能「アニメイトも半ば、ブローカーみたいなもんですけど、違いますよ。いるんですって。世界中のマニア相手に、アニメマンガを、売りさばく、ブローカーが。」
皇「へぇ。 どんなモンでもブローカーっているんだな」
瀬能「興味ないんですか?」
皇「別に、アニメもマンガも、そんなに興味ねぇし。」
瀬能「じゃ、例えば、この、ポケモンカード。ポケモンのカードゲーム? ポケモンなんてゲームボーイで遊んでナンボだろ?、遊戯王じゃあるまいし、って言われていた頃の、初版の、オーキド博士です。」
皇「初犯のオーキド博士か・・・・・」
瀬能「なにもやってないですよ、まだ。なにか、やりそうなツラ、してますけど。」
皇「まだ?」
瀬能「これ、千円って、言ったら、どう思います?」
皇「これ・・・・・・千円すんのかよ?」
瀬能「最低価格ですけどね。出す所に出せば、もう少し、値がはります。カードゲームの場合、投資の対象になりますからね。
値段の高いカードが、ゲーム上、強いかと言われれば、決して、そうではない場合もあります。発行枚数の少なさとか、人気の需要が勝るから、価値が高くなるんです。
アニメブローカーは、こういった、投機対象になり得る、アイテムを、買い漁っているみたいなんですよね。」
皇「マニア相手の、商売なんざ、メジャーリーグとかスーパーボールの、スター選手のサイン入り、ユニフォームだったり、ヴィンテージの、ジーパンとかだったのにな。
中には、気が狂った、スターウォーズのコレクターなんかも、いたけど、日本のアニメだろ? 日本のアニメが、世界で、受けるのかよ?」
瀬能「このバカチンがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!! 私は、あなたを、こんな子に、育てた覚えはありませんよ!」
皇「育てられた覚えもねぇよ!」
瀬能「むしろ、アニメ、マンガに関しては、日本の独壇場です。どういう訳か、アメコミは、世界じゃ受けないんですよね。本土のアメリカですら、さほど、人気もない。やっぱり、ジャパニーズアニメの方が、しっくり、くるみたいで、人気が高いんですよ。それにほら、今、ネットフリックスとかの、配信会社が、とかく、マネーを握ってますから。ネトフリ独占配信とか、ドラマでもアニメでも、ザラですからね。そのうち、地上波じゃ、面白いアニメ、見られなくなるかも、って言われています。」
皇「現に、スポーツが、そうだしな。有名な、スポーツ大会、動画配信会社に、専属契約で、売りつけたり、してるもんな。
ふつうの、地上波じゃ、なぁ~んにも、見られなくなる時代だな。」
瀬能「いくら、これまでマニアが、マニアなりに、お金を持っているからと言っても、せいぜい、ヴィンテージのジーパンが、百万円、二百万円程度ですよ。
でも、もうアニメ、マンガは、マニアよりも、投機対象として、認知されてしまいました。高額なものになれば、五百万、六百万、・・・・一千万円。マニアですら、手が出せない領域ですよ。
しかも、右肩上がりの、市場に成長しつつあるみたいですから。・・・・・半分は、ブローカーの仕業ですけどね。」
皇「タダ同然で、仕入れて、高く、売り払うのが、ブローカーの、仕事だしな」
瀬能「そう! それで、この前、話していたような、アニメ制作会社から、セル画を、タダ同然で、仕入れたり、
漫画の編集者が、原稿を、小遣い稼ぎ程度に、売り払っている、っていう、話なんですよ。
漫画家の人が、原稿を、返してもらおうと思って、編集者に、連絡を取ったら、原稿を紛失した、っていう話で。紛失した、っていうのも、それ自体も、問題ですけど、漫画家に、黙って、原稿を売って、しかも、知らんぷりして、開き直る。そういう話が、あったみたいで、御影が、取材した、って言っていました。」
皇「あいつ・・・・仕事、するんだな」
瀬能「その話が、有名な、漫画家らしくって。それで、調べ始めたって話です。
ほら、海賊王に俺はなる!っていう漫画。あの、漫画家の、師匠にあたる、先生の。その原稿を、編集部が、紛失したらしいんですよ。」
皇「超、有名、漫画家じゃねぇかよ!」
瀬能「師匠だって、その週刊少年漫画連載時は、ものすごく、売れていた、漫画家ですからね。アニメにもなった作品もありますし。その、原稿が、こともあろうに、海外のコクレターに、渡っていた事が、判明するんです。
紛失した、って言われていたのに、海外のコレクターが、持っていたんですよ。早い話、ドボローじゃないですか。
原稿の、所有権は、誰の物みたいな話になって、漫画家の作品なんだから、漫画家の物じゃないですか。常識的に考えれば。でも、お金を出して、ブローカーから買った、その、コレクターも、所有権を主張しています。現に、今、彼が原稿を、持っているわけですし。」
皇「ほら、ちょっと前に、日本から、仏像が、盗まれて、韓国のお寺に、渡された、っていう事件だか、なんだか、そういう事案があったじゃねぇか。
あれだって、仏像の、所有権は、誰の物?って話だろ?」
瀬能「まあ、はい。それと、酷似した話だと思います。」
皇「あれだって、最初は、韓国のお寺に、あったものを、韓国から、日本に、持って行って、それが、盗んだものなのか、譲渡したものなのかは、不明だけど、でも、結果的に、日本のお寺に渡った訳だろ。それで、日本のお寺が、所有権を訴えているが、元を正せば、韓国のお寺に、あった、わけだからな。もう、意味わかんねーよ。」
瀬能「戦国時代の混乱した時代ですし。譲渡と言いながら、奪い取って行った可能性だって、あり得ますからね。むしろその方が、歴史から見て自然ですし。」
皇「マンガの原稿だろ? 著作物なんだから、著作者に、所有権、あるだろう? 紛失した、会社に、責任、あるだろ?裁判したら、負けるだろ?」
瀬能「最近は、漫画雑誌社も、訴えられたら敵わないから、原稿の管理は、しっかり行っているそうですが、そうなる以前の話みたいですからね。
だいたい、油屋さんも言っていましたが、マンガなんて、描いて、ナンボの世界らしいんですよ。原稿一枚、幾ら、っていう。だから、マンガだろうが、ルポだろうが、原稿を、編集に渡したら、それでお終い、っていう風潮もあったようなんです。」
皇「その後、本とかにする場合、どうするんだよ?」
瀬能「あんまり頓着してなかったみたいですよ。本になるなんて、人気作家だけで、将来、もらえるお金よりも、すぐもらえる原稿料の方が良い、って考えだったみたいです。まぁ、御影が調べている大師匠先生が、そういう考えかどうかは知りませんが。」
皇「少なくても、所有権、著作権を、示している場合は、きっちり管理する必要はあるわな。」
瀬能「そうなんです。
それで、これ、見て下さい。これ。」
皇「生、原稿・・・・・五万円?」
瀬能「これ、油屋さんですよ」
皇「は?」
瀬能「ほら、油屋さん。昔、漫画家、やってたって言ってじゃないですか。実は、有名な漫画家先生の、アシスタントだったみたいで。丸大豆ソイヤ先生の。」
皇「・・・・・・いや、知らん」
瀬能「知らないんですか?”男、ちん平”の! ”墨田区住み棲み”の! 超、カルト人気ですよ、丸大豆ソイヤ先生は。」
皇「んで、それで、そおの、丸大豆ソイヤ先生が、どうしたんだって?」
瀬能「違いますよ。油屋さんの話ですよ。」
皇「あ、そうだ」
瀬能「油屋さん。油屋ディスティニーっていうペンネームで、活動していたらしいんですけど、新しく、原稿を、描いて、そうしたら、五万円で、売れたんです。
有名漫画作品ですよ。本物の、アシスタントが描いた、生、原稿。
こういうのも、ブローカーの仕業です。」
皇「あの爺さんが、有名な、漫画家だろうが、ディスティニーだか、知らねぇけど、その、元の、先生。元の先生が、黙っちゃ、いねぇだろ? 勝手に、その先生の名前で、マンガ、描いて。」
瀬能「・・・・・・油屋さんが、アシスタントをしていた頃の、先生ですよ? もうとっくにこの世に、いませんよ。」
皇「死んでんのか?」
瀬能「ええ。おまけに、アシスタントも、てんてんばらばら。丸大豆ソイヤ先生の、最後の弟子。正確には、アシスタントですが、そう言われていたのが、油屋さん。
実際、晩年、丸大豆ソイヤ先生は、ネームを切るだけで、作画をしていたのは、アシスタント陣だったみたいですけどね。だから、正式な、新しい、正当な、生、原稿なんです。
世に出せるのは、油屋さんしか、いない。」
皇「・・・・それで、原稿が、五万円で、取り引き、されたって事か。」
瀬能「私達が、もらった、割り箸の包み。あれも、油屋さんが言うように、・・・・・出す所に出せば、千円くらいの、価値は、出て来るんです。」
皇「すぐ、・・・・捨てちまったわ。」
瀬能「あら残念、あげませんからね。私の、あげませんからね。」
皇「いらねぇわ、ハゲ大豆デステニーのなんか」
瀬能「・・・・丸大豆ソイヤと、油屋ディスティニーです」
皇「おい、爺さん、ちゃんと並べ。メシは逃げねぇから。おい、婆さんも・・・・あれぇ? 油カスソイジョイ先生じゃねぇか、なんだ? きゅうべえ、行かなくていいのかよ」
油屋「・・・・・・。
うるさぁぁぁぁぁい!!! いいから、焼きそば、もっと、よこせぇぇ! 入れろぉぉぉぉぉぉぉおおおお!!!」
瀬能「油屋ディスティー先生ですよ」
皇「ほら、爺さん。少し、おまけ、してやるから。」
油屋「・・・・キャベツ、多めで・・・・・」
皇「おい、杏子。あの、爺さん。どうしたんだ?景気が良かったんじゃないのか?」
瀬能「いや、聞いたら、・・・・・本物が出て来たそうですよ」
皇「本物? 本物、死んだって、お前が言ってたじゃねぇか」
瀬能「ご遺族です、ご遺族。丸大豆先生のご遺族。漫画原稿や、カラーイラスト、一切を、保管・・・・・っていうか、残っていたものが、出て来たんですって。」
皇「出てきた?」
瀬能「ええ。丸大豆先生が、漫画家だったっていうのは、ご家族も、承知だったそうですけど、家族は、一切、興味なかったみたいで、先生ご本人が、お亡くなりになった際、なんでもかんでもまとめて、納屋に仕舞い込んでいたそうなんです。」
皇「漫画はあくまで、食う、種、ってことか。」
瀬能「奥さんは、ご主人が漫画家ですから、お世話していたようですが、子供の世代になると、とたんに父親の仕事なんて興味がなくなっちゃうみたいですね。奥さんが、仕舞い込んだ原稿、すっかり忘れていたみたいなんですが、油屋さんが、体よく儲けたじゃないですか。”男、ちん平”の原稿で。・・・・それで、思い出したそうなんです。自分達の父親が、丸大豆ソイヤだった、ってことを。
奥さんが、綺麗に保管してくれていたおかげで、原稿が、仕舞った時のまま、奇跡的に、見つかって、それを、例の、マンガ、アニメのオークションハウスに、出したら、物凄い、金額で、落札されたそうです。
・・・・・来年の、税金が、怖いくらいに。
本物が、出てきてしまったら、言っても、アシスタントが描いた、イラストなんて、たかが知れているじゃないですか。油屋さんの価値も、暴落。・・・・・紙切れ同然、ゴミ同然。」
皇「・・・・・」
瀬能「投機の、怖いところですよ。人気で、価値が、変わるんですから。」
皇「それで、炊き出しに、逆戻りって、わけか。」
瀬能「ええ。そういう訳です。」
皇「あの爺さんも、マンガに、人生、踊らされてるな。踊り、狂わされた、って感じか。」
瀬能「可哀そうですけどね。」
皇「鍋敷きの色紙、みたいな、話だな」
瀬能「なんですか? 鍋敷き? 色紙?」
皇「ほら、漫画家の、ゆうきまさみだか、島本和彦が、言ってたんだけど、家で、鍋、したんだってよ。鍋の下に敷く、ちょうどいい、鍋敷きが、見つからなかったから、そこら辺にあった、色紙を、鍋敷きにしたんだそうだ。鍋、突きながら、途中で、その、色紙、漫画の神様の、色紙だったって事に、気づいたんだ。
うわぁぁぁぁぁ!って思って、色紙、取ったらしんだけど、価値のわかる人間には、金に換えられないお宝だけど、価値のない人間からしてみたら、ただの、鍋敷きって、話だ。
あの爺さんだって、同じだろ? ただの鍋敷きになっちまったんだからなぁ。
おい、これ、やるよ」
瀬能「・・・・・。瑠思亜、捨てたんじゃないんですか?
ちょっと前まで、千円の価値があったのに、もう、ただの、紙切れ。割り箸の包みに、逆戻り。・・・・・ゴミになってしまいました。」
皇「おい、あの爺さん、元気、出させてやれよ? お前の、オッパイ、揉ませてやれば、元気に、なるだろ? きひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ!」
瀬能「・・・・・・・嫌ですよ!」
瀬能「御影が言っていましたけど、ほら、週刊漫画の、原稿なくされた先生の話。・・・・先生、出版社、訴えたみたいですよ?」
皇「そりゃぁ当然だよな。無くなれたんだから。」
瀬能「これから益々、過去の、紙の原稿時代の、漫画作品が、また、出版される事は、難しくなるでしょうね。」
皇「出版したくても、原稿が、無い場合があるんじゃ、どだい、出版、できねぇからな。」
瀬能「絶版されてしまったら、未来永劫、読む機会を失う、作品が、多い事でしょう。それこそ、国会図書館に行って、読まない限りは、読めなくなってしまいます。」
皇「一度でも、デジタル化、してあれば、アーカイブ、できるんだけどな
ほら。国宝の、襖絵とか、天井絵なんかは、保存が難しいから、デジタルアーカイブ、しているって話、聞いたぞ。」
瀬能「仏像なんかも、3Dスキャンしているって。
マンガもそういう時代に、なってくるんでしょうね。」
皇「どうしても、生の、本物の、原稿じゃなきゃ、ダメだ、って人間と、作品として、読めればいいっていう、人間に、分かれるだろうしな。」
瀬能「そうそう。うちで、飼ってるゴッチ。」
皇「ああ、お前んちの、クソ猫か」
瀬能「クソ猫は余計です。プロレスの神様の名前をもらった、由緒正しい猫です・・・・たまに、うちの、可愛いゴッチを、買いたい、って言ってくる人がいるんですよ。ま、可愛いのは、分かりますけどね」
皇「お前、猫のエサ、なにか、陶器の、器で、くれたな?」
瀬能「ええ、あの器で、エサをあげだしたら、そういう人が、増えたんです、猫、買いたいって。」
※全編会話劇




