表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
151/166

センス オブ マーダー

葵雪之丞「・・・・夢から覚めてしまうじゃないか」

・・・・・

ギャハハハハハハハハハ!!! うぉぉぉぉぉおおおおおおおおおお!!!! すげぇぇぇぇぇぇ!!!! ワハハハハハ!!! ひゃははははは!!! オホォー!!! さすがぁぁぁぁ!!!!しびれるぅぅぅぅう!!!



葵雪之丞「・・・・お疲れさま」

若手「ダンデライオン兄さん、勉強させてもらいました」

葵雪之丞「板を温めておいたから、君達、がんばってね」

若手「ありがとうございます!」




瀬能「どういう訳ですか?どういうツテですか?」

火野「いやぁ。まぁ。」

瀬能「寝たんでしょ?誰と寝たんですか? 誰と何回寝れば葵雪之丞と会えるんですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!       痛い!!」

火野「落ち着け!

誰とも、寝て、ないわ!」

瀬能「嘘ですよ、こんな地味で性格が悪い女が、スーパースターに会えるわけないじゃないですかぁ! 痛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!」

火野「誰が性格悪いだ!」

瀬能「・・・・容姿のことは、自信、あるんですね?・・・・・・・・・痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!」

火野「うるさいわ!

これでも、それなりに、芸能関係者とは、ツテがあるの!」

瀬能「売れない舞台俳優とか、売れないバンドとか、売れないお笑い芸人とか、売れない・・・・」

火野「売れない、言うな!

あんたねぇ、芸能の世界で、売れる方が、どうかしているのよ? テレビとかラジオとか、超大手、公共の媒体で、顔が出ている人間なんて、芸能界の、ほんの上澄み、上澄み中の上澄みよ。プリンで言ったら、カラメルソースより、少ないんだから。」

瀬能「その例えが、分かるような、分からないような。とりあえず、テレビラジオに出ている芸能人が、エリート中のエリートだって言う、感じは、伝わってきます。」

火野「今でこそ、インターネットメディアが普及したおかげで、これまで、アングラって言われていた、本当だったら、世に出ない、世に出せないアーティスト活動をしていた人間にも、スポットが、当たる、チャンスが出てきたわ。それだってものの数分で、埋もれてしまう。芸能界は百鬼夜行。食うか、食われるか、死んだ所で、草の根も生えやしない。その地獄の中で、かがやく、一筋の光。それが、”葵雪之丞”!!

お笑いコンビ、”ダンデライオン”のボケ担当! 既に、お笑い界に留まらず、屈指のスーパースターよね?」

瀬能「だから御影。どうして、そんなスーパースターと縁故になって、インタビューとか、できるようになったんですか?だから寝たんでしょ?・・・・よく知らないけど、気持ち悪いオッサンと」

火野「・・・・だから寝てねぇっつてんだろうが。」

瀬能「っつってるんですか?」

火野「そういう芸能界の偉い人と寝るぐらいで、葵雪之丞と会えるなら、誰だって、寝るわ。」

瀬能「ほら、本音が出た」

火野「寝たくらいで、葵雪之丞と、繋がるわけないでしょう?芸能界はそんなに、甘く、ないのよ。」

瀬能「まぁ・・・・御影みたいな貧祖な女、抱いたところで、おもしろ・・・・・・・・痛い痛い痛い痛い!!」

火野「あんただって、貧祖でしょうが!

葵雪之丞ぐらい、国民的、スターになっちゃえば、セキュリティだって固いのよ。それに、・・・・・彼が所属している事務所だって、ガードを固めるだろうし、スキャンダルだって起こさせないだろうし、・・・・・仮に、三流週刊誌で、元彼女とか、元恋人とか、登場したとしても、全部、嘘だから。・・・・・もう、ある程度の時点で、そういう話は、法的に、解決済みだから。

一人の人間っていうか、大事な商品だからね。傷がつかないように、鉄壁の要塞で、彼を守っているのよ。」

瀬能「その・・・・・鉄壁の要塞から、こぼれ落ちた、仕事を、たまたま、もらった、と?」

火野「まぁ言い方。・・・言い方は・・・・まぁ。そうだけど。

たまたま、都内の、劇場が、潰れることになってね。ビルの建て壊しで。・・・そこの劇場に、昔、若手の頃、葵雪之丞が、立ってた事があって、それで、そのツテで、インタビューさせてもらえる事になったのよ。支配人が、よせばいいのに、昔、ダンデライオンがこの劇場で、漫才、やってた、みたいな事、言っちゃったから、まわりまわって、話、聞ける事になったのよ。」

瀬能「嘘じゃないんだから、いいじゃないですか」

火野「そりゃそうだけど、さ。・・・・・売れない若手が立っているライブハウスの、売れない、芸能界に、しがみついているような支配人よ? いくら売れたとはいえ、ダンデライオンよ? 比べる方がおかしいじゃない? 便乗っていうか売名行為が、あからさま過ぎて、嫌になっちゃうわよ。」

瀬能「それでお鉢が回ってきたんだから、いいじゃないですか。」

火野「私はいいけど、葵雪之丞が、かわいそう過ぎるわよ。そんな売れない時代の時の事を、掘り起こさなくても。」

瀬能「ねぇ・・・・あの、・・・・私も、ついて行っていいですか?」

火野「ダメに決まってるでしょ?」

瀬能「いいじゃないですか、その時だけのバイトで。メイクします、御影の、地味な顔を、派手にする、メイク係、やりますから!」

火野「インタビュアーのメイク係なんて、いるわけないでしょ?そもそも、私、映らないんだから。」

瀬能「じゃ、じゃぁ、運転手、運転手、します! 運転手ならついていって、いいでしょ?」

火野「・・・・・・運転手が、現場にのこのこ、入って来て、葵雪之丞の前に、いるのよ?おかしいでしょ?」

瀬能「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・じゃ殺せ! 葵雪之丞に会えないなら殺せ!今、ここで、こ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・嘘です嘘です嘘です、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい! 御影さん、許して下さい!嘘です、冗談です!」

火野「残念ねぇ。あんたと、お別れできると、思ったに。」

瀬能「やめて下さい。・・・・・ははは。冗談がキツ子ちゃんですねぇ、御影さんは。はっはっはっはっは。」

皇「・・・・・よぉ。」

瀬能「ああ!瑠思亜! 聞いて下さい、御影ったら、葵雪之丞に、会えるんですって?」

皇「・・・・・・・・・誰か、偉い奴と、寝たのか?」

火野「・・・・・・・・この件、もう一回、やるの?」






火野「

時代の寵児、葵雪之丞。

お笑い芸人、お笑いコンビ、”ダンデライオン”のボケ担当。テレビにつけ、なんにつけ、彼を見ない日はない。テレビだけで、レギュラー十三本。他に、インターネット動画配信で、自身の番組や、事務所の番組にも、出演。SNSを見れば、彼のショート動画が溢れ、また、彼がコマーシャルする商品で、溢れている。

既に、日本国内の人気に留まらず、海外メディアからも、注目されている。アジアのインフルエンサー、という、立ち位置だ。

葵雪之丞の、わかっている範囲の半生は、今時、珍しいものである。高校を中退して、漫才の師匠に、弟子入り。

昨今のお笑いというのは、ことに、お笑い芸人、それを、芸人と呼んでいいのか、タレントと呼んでいいのかは、賛否が分かれるところだが、お笑い養成所に、入所する者が、大半だ。芸能事務所が運営する、タレント養成所みたいな所で、入所希望者が、月謝を払い、お笑いの勉強をする。・・・・日本の芸能界、独自の文化で、他の国や、他の芸能では、あまり見ない、システムである。

このシステムは、芸能事務所とテレビ局、広告代理店が、作り上げた、テレビ時代の、タレント養成システムである事を、注釈しておかなければならない。芸能界の主戦場がテレビだった時代だからこそ、確立した、タレント養成システムである。これ以前は、明らかに、興行主が認めた人間しか、芸人ならびに役者とは、認められていなかった。それ以降は、テレビ局、広告代理店よりも、SNSの発信力の方が、強く、セルフプロモーションも行えるし、芸の実力よりも、SNSの発信力の方が、評価されるようになった。

葵雪之丞は、SNS全盛の時代、あえて、タレント養成所にも通わず、SNSで自力で、成り上がろうともせず、弟子入りという、古来の方法で、芸人の道を、始めることになる。

高校中退なので中学卒業という学歴なのだが、それには理由があり、漫才の師匠から、当時、弟子入りを申し込んだ時、せめて高校くらいは卒業しておけ、高校を卒業したらもう一度、やる気がまだあったら、来なさい、と言われたそうだが、結局、師匠の言いつけを守らず、高校を早々に中退し、弟子入りを果たしたそうだ。

後に彼は、一番最初の、師匠との約束を反故にした為、弟子入りさせてもらえないと思っていたらしいが、呆れ顔で、弟子入りが許されたと、記事にされている。

師匠の弟子時代、現在、相方となる、”鈴本平将”と出会う。葵雪之丞をして、鈴本は、”天才”だと言う。

鈴本は決して、二枚目とは言えない、個性的な、顔立ちをした男である。言うなれば既にキャラが立っている男だ。存在自体が、ひょうきんな、男だ。その、特徴的な顔立ちの所為で、かなり人生、損をしてきたらしい。真面目にしていてもふざけていると言われ、好きな女性に告白しては振られ、恋人も出来ず、苦しい思いを青春時代、過ごしてきたが、彼の生きる世界は、そこではなかった。彼は、お笑いの世界で、花開く、人間だった。誰もが、彼の顔をうらやましがり、金になる顔とまで、言わしめた。葵雪之丞が、初めて鈴本と、出会った時、嫉妬したというのは、有名なエピソードである。

鈴本は、お笑い養成所出身であったが、その講師を務めている芸人が、葵雪之丞の師匠に紹介し、二人は、コンビを、結成する運びとなる。

笑いに関しては対照的な二人で、漫才の台本は、鈴本が作った。葵は鈴本の台本通り、しゃべる。葵は、鈴本の、漫才の才能に長け、台本に関して出る幕はない、と言っている。その代わり、書かれた台本を、鈴本の期待以上の出来で、返してくることから、鈴本にしても、葵以外、この台本で、笑いを取れる人間はいない、と言っている。

漫才のスタイルは独特だ。基本にあるのは、上方漫才であるが、上方漫才のように、しゃべり一辺倒ではない。かと言って、浅草漫才のような、ひねった笑いでもない。まるで古典芸能を見ているかのような、芝居じみた、空気感があり、二人で掛け合いでしゃべっているのに、代々続く、演目を演じているような、漫才だ。鈴本が、話を広げて、上げて、葵が、一言で、綺麗に落とす。それは、とても古典的な、古めかしい使い古された、漫才としては、手垢が付き過ぎたものだ。新しいとは言えない。だが、葵が言う、ボケ。いや、下げの一言が、脳天を直撃する、的を射た、心を揺さぶられるものなのだ。

ピースとピースがかみ合った、理知的な興奮とも言うべきものだ。脳からエンドルフィンが大量に放出される感覚。・・・・・気持ちいいのだ。葵雪之丞の下げは、エクスタシーを感じるのだ。

そういうお笑い番組の、寸評を聞いた気がする。考えてみれば、葵の下げが天才的なのは、結局の所、台本を書いた、鈴本が天才なのであって、そこも、玄人好みするところでもあった。

どうしても葵雪之丞は目立つ。明らかに、二枚目であり、身長も高く、それでいて、色白で切れ長の目。細い指。でも華奢ではなく筋張った、良い体をしている。その優れた容姿から、漫才以外の仕事も、多い。バラエティ番組の司会もするし、歌番組の司会も行う。主婦向けの長時間ワイドショーで、テレビ通販を行えば、売り上げが、急激に伸びる。

漫才以外では、葵は鈴本を前面に押し出し、笑いを取る。彼は計算された笑いの台本もさることながら、瞬発力を求められるトーク力も優れており、第一、見た目が面白いのだから、外れがない。政治的な返答を求められる場面や、他の出演者なら凍り付いてしまう場面でも、絵面が面白いというだけで、許されてしまうところがある。そして印象に残らない。

逆に、葵は、台本がないと、何も出来ないタイプで、面白い事を急に思いつけるタイプではない。ただ笑いに関しては真面目で勉強家、練習を怠らない。単純に言えば、普段の葵は、面白くない。面白くないからこそ、緩急の笑いが生まれるのである。

葵は数年前、若手女優、ナンバーワンと言われた”渦橋さとみ”と結婚。第一子が生まれた。

これで人気が落ちるのかと思えば、まったく落ちる気配もなく、妻ともに、人気は更に、うなぎ上り。底が知れない。保育園に子供を連れて行く姿がスクープされるが、更に、人気が高まる始末。夫婦で、大型時代劇大河ドラマに抜擢されニュースを呼んだ。劇中でも夫婦役であり、その一年、テレビの顔となったのは言うまでもない。

人気が出た理由の一つに、葵が、渦橋の家に、婿に入った事も挙げられる。婿と言えば、一般的に、サザエさんのマスオさんのように、磯野家にあってフグ田だが、葵は、完全に、渦橋の人間になった。理由は簡単で、渦橋がひとり娘であり、娘が結婚してしまうと、渦橋の家がなくなってしまうからである。そういう話の中で、婿に入り、相手の名前を名乗るようにって、それが、古い世代から、後押しされる人気の要因となった。

まさに、老若男女。誰からも、好かれる男。見ない日はないし、見ない媒体はない。お笑い芸人の枠にはまらない、スーパースター、それが、”葵雪之丞だ”

・・・・・・っていう、話。なんとなく、ネット記事をみると、そんな事が書いてある。」

水島「雪之丞様は、まさに、完全無欠ですね。」

火野「いや、ほんと。悪い話が、一個もないもん。」






火野「あの、じゃぁ、・・・・・すいません。皆さん、スタンバイ、よろしいでしょうか?・・・・じゃあ、あの、」

葵「そちらのタイミングで、どうぞ」

火野「はい、わかりました。では、お願いしまぁす。・・・・・・・。・・・・、・・・。・・、・・、・、


では本日は、よろしくお願いいたいます。」

葵「よろしくお願いします。」

火野「本日は葵雪之丞さんに、”お笑い”について、お伺いしたいと思います。今回、葵さんが立たれていたライブハウスが建て壊される、という事ですが?」

葵「時代を感じますね。僕が、駆け出しのころ、立っていたライブハウスです。定期的に、漫才やコントのライブをやってくれて、事務所に関係なく、立たせてくれました。どこの馬の骨だか、分からないような、芸人なのか素人なのか、分からない人間に、ステージを用意してくださったんですから、感謝しか、ありません。」

火野「既に”ダンデライオン”として活動されていたんですか?」

葵「ええ。もちろん。

まぁでも、そうですね。ライブハウスの思い出としては、そこのライブハウスは、僕達、芸人だけでなく、もちろん音楽のライブだったり、色々な事に使われていました。・・・・支配人が、気前がいいのか、当時としても、かなり安い値段で、箱を貸してくれたんですよ。誰も、客が入っていない、一人芝居の人とか、いましたね。なんて言うか、熱気っていうか、殺気っていうか、そんなものしか、なかった記憶があります。

照明だって、やってくれる人がいないから、真ん中に、当ててるだけで。音なんか、マイク使うより、声、張った方が早かったり、お客さんの野次の方が、大きかったり、しましたからね。」

火野「ああ、わかります。」

葵「支配人、まだ、お元気でしたか? やめる、やめる言っていて、けっきょく、ここまで。・・・ビル壊す今まで、続けていたんですから、なんだかんだ、恩人ですよ。」

火野「今でも、アングラの聖地ですからね。」

葵「聖地というか、たかだか、三十人の客席も、埋められないような、連中の集まりですよ。たかがしれていますよ。」

火野「そこから、ダンデライオンはじめ、今や、大物芸能人、紅白出場歌手の方まで、輩出されているんだから、聖地と言っても、過言ではないと、思います。」

葵「馬鹿なだけですよ。

ただ、・・・・・今より、漫才に関しては、真摯に、向き合っていた、ような、気がします。

あ、もちろん、今も、真面目に、仕事には、取り組んでいますよ? でも、あの、タバコの吸い殻ひとつで、大火事に成り兼ねない、ライブハウスと言えば聞こえがいいですが、奥の、上座を、ちょっと高くしただけの、ただの平場で。お客さんと演者が、鼻の先を突き合わすような、場所ですよ?」

火野「・・・・近いですね」

葵「近いってもんじゃない。あの会場では、嘘がつけないんです。」

火野「嘘?」

葵「客と演者の真剣勝負ですよ。手を抜いたら、絶対に、受けないし、客もそれが空気で分かる。・・・・そもそも手を抜けるだけの芸があったかと言えば、ないから、ずっと真剣勝負でしたけどね。ええ、一対一の、真剣勝負ですよ。だからあの頃は、純粋に、ただ漫才の事だけを考えられていた、時間だったのかも知れません。今、振り返ると、とても、贅沢な時間だったのかも知れません。

売れる、というか、露出が増えると、余計な事まで、考えてしまうじゃないですか?

だから、生活、すべてが、漫才で、漫才の事しか、考えなくて済んだ、あの頃は、僕の宝だと言えるでしょう。

僕だけじゃなくて、バンドの人も、演劇の人も、そうです。・・・・みんな、お金が無かったから、あんな、ボロくて狭い、ライブハウスに入り浸っていたわけですから。たかだか、千円の出演料が、出せなくて、・・・・支配人に、頭、下げて、出させてもらって、客が入るようになったら、返済するって約束で、・・・・・・・最後まで、約束、果たせなかったなぁ。」

火野「え?じゃぁ、・・・・・タダで、箱を使っていたんですか?」

葵「ああ、誤解がないように言えば、僕達、ダンデライオン以外の、コンビは、しっかり払っていたと思いますよ。たぶん。

たぶん。・・・・・・でも、みんな、似たり寄ったりだったから、誰一人、払えなかったようにも、思いますけど。お金がある時は、二百円か三百円くらいは、払った記憶が、ありますね」

火野「・・・・二百円?」

葵「電車賃を浮かす為に、歩いて行って、それで、浮いた分、支配人に、渡した、ような、・・・・・・・、その二百円だって、芸人仲間から借りた、お金だったんですけどね。」

火野「当時から、ダンデライオンは、今のような、漫才スタイルだったんですか?」

葵「いや、もっと、尖った、気がします。鈴本が、神がかっていたなぁ。

あ、今もですけどね。

・・・・・当然、誰も見に来ないライブハウスですから、」

火野「当然?」

葵「ネタをお客さんにかけて、様子を見られないんですよ。客がいないから。いたって、演芸マニアか、そんな連中でしょう? サンプルにならないんですよ。変に、玄人に、受けたって、万人受けの、笑いじゃありませんから。

鈴本は、漫才に関しては、一切、手を抜かない人間ですからね。一回、徳川天一坊を漫才に落とし込んだ事があるんですよ。正気の沙汰とは、思えませんでしたね。」

火野「天一坊?」

葵「ああ、そういうのがあるんですよ。

僕も、台本をもらって、

ああ、そうそう。僕達、ダンデライオンは、台本を、鈴本が書いているんです。僕、こういっちゃなんですが、鈴本みたいな、本、書けませんから。鈴本は、間違いなく、天才の一人だと、思いますよ。僕は。ええ。

ま、それで、僕、台本を、もらっても、まったく、意味が分からなかったんですよ。セリフだけ、言っても、何が面白いのか、それこそ、間の取り方とか、よく分からないじゃないですか。受ける、受けないじゃない。なにがなんだかよく分からない。って鈴本に言ったら、これを読めって、その、徳川天一坊っていう、本を、渡されたんです。

こんな、分厚い。お前、よく読んだな?って言ったら、暇だからって。いくら、暇だからって、こんな、厚い本、読む奴、いますか?

ま、僕も、鈴本も、時間だけは、腐る程あったから、僕も、読みましたけど。

読んだところで、意味なんか、分かりませんよ。学が無いから、歴史的背景とか、作品の成り立ちも、一切、分からない。それでも類推するに、悲哀っていうか、悲劇なんですけど、・・・・・元を正すと、加害者? この場合、加害者っていうのかなぁ。天一坊も、ある意味、被害者なわけで。自分が、将軍の、子供だ、なんて言われて育たなかったら、こんな目にはあっていないし、こんな大それた、今で言ったら、三億円事件ですよ。まんまと、金品を盗んで行ったわけですから。」

火野「はぁ・・・・・」

葵「まぁ何が面白いかと言えば、夢の通り、嘘がばれて、潔く、死ぬか、っていうオチで、僕が最後、こう言うんですよ、”・・・いい気分だ”って。

ま、これ。・・・・・説明すると、酒に酔って、いい気分っていうのと、将軍一味を騙していい気分っていう、二つの意味が、かかっているんですけどね。」

火野「・・・・・・えぇぇ、・・・・・はぁ」

葵「ははははは。・・・・いや、あの、当時も、そんな、感じでしたよ?客席は。いやでも、元ネタ、知らなくても、漫才としては、ちゃんと、オチているし、流れも、フリも完璧だし、ほんと、鈴本は、笑いに関して貪欲な男だとは、思っていました。鈴本を天才せしめているものは、天賦の才ではなく、圧倒的な、演芸に対しする造詣の深さ、探求心だと思います。それを可能にする才能を持っている時点で、天才なのだとは、思います。鈴本と出会って、コンビが組めて、僕は幸せ者だと、思いますよ。」

火野「では、・・・・最近のお笑いについては、どう考えていらっしゃいますか?」

葵「”笑い”というのは、時代によって変化するものだと僕は考えています。

あ、それから、”お笑い”という言い方は良くない。”笑い”に接頭辞の”お”を、あえてつける事で、”笑い”という言葉が、謙譲語になってしまう。どういう事か、火野さん、分かりますか?」

火野「・・・・・・丁寧な、言い回しって、ことですか?」

葵「丁寧ではありませんよ。”笑い”を”お笑い”と自ら言うことで、芸を、低俗なものだと、言っている様に聞こえます。芸人自ら、自分達の芸を、卑屈に捉えていると言って過言ではありません。

もしかしたら、謙遜する意味で、”笑い”を”お笑い”と言っているのであれば、それこそ、芸に対する冒とくだと、僕は思います。僕は、漫才師ですが、自分の芸に、誇りを持っている。だから、謙遜する必要は、これっぽっちも無いんですよ。この事は、てんぷくトリオでいらっしゃる伊東四朗先生もおっしゃっていました。僕も同じ意見です。

例えば、漫才、ひとつ取ってみても、戦前戦後の、昭和初期。大衆演芸をやるような人間は、どこか抜けている人間ばかりで、他に出来る仕事がないから、仕方なく、芸人をやっていた、風潮があります。それでも彼等は、生きる為に、興行主から与えられた台本を覚え、必死に、笑われようとしました。おぼつかない足取りだったり、驚いたような表情。どちらかと言うと、話芸というより、しぐさで、笑わせる。別に、面白い事を言う必要がないんです。彼等は、客より、明らかに、品性がなく、知性もない。客はそれを笑いにきた。出オチという奴です。だから個性的な、顔立ちの、人達が、重宝されました。彼等は、笑われて、笑われる事が、仕事だったのです。

漫才師が、漫才師だけはありませんが、”イロモノ”と言われる所以が、そこにあります。明らかに、イロモノで、笑われて、場を温める。それが、イロモノの役目でしたから。

ですが、テレビ時代に入り、漫才ブームが起こると、世間の評判が、変わってきました。落語、講談といった、高尚な演芸よりも、これまでイロモノだった漫才の方が、客を呼び込めるようになったのです。落語が”上”で漫才が”下”と思われていた大衆演芸が、同等に、扱われる様になりました。むしろブームの最中では、漫才師の方がより多くの客を呼び、笑いを起こしていたのも、事実です。

個性的なキャラクターを演じる事で、笑いをとっていた時代から、漫才という話芸で、笑いを取って行く、時代に、更に変貌、していきます。

漫才師は”笑われる”のではない。自らの芸で、”笑わす”のだ。僕は、そう自負しています。」

火野「”笑わす”・・・・とても素晴らしいと思います」

葵「・・・・・。懸念があるとしたら、僕は、芸人の、タレント化に、危惧しています。

多くの漫才師の仕事場は、舞台です。大衆演芸場です。大衆演芸場が興行主になっている所もあれば、芸能事務所が、舞台を持っている所もあります。漫才師として、立てる舞台があることは、とても望ましいものです。ですが売れている芸人の主戦場は、テレビです。当然、テレビのギャランティーの方が高いから、高い報酬で、働いた方が、良いでしょう。誰しも、そう思います。そうなってしまった場合、自分達は、何者なのか?と問う必要があると思います。

僕は漫才師なのか?それともただの芸能人かぶれのタレントなのか?

・・・・仕事の種類、それによって、要望に応えるのは良いでしょう。

昨今のテレビは、芸人を、タレント化することで、放映時間を埋め合わせて、消費してしてるだけに思います。消費された芸人は、飽きられ、姿を消すだけ。そこに、何の意味があるのでしょうか?

僕には、一時の人気だけで、使い捨てにしているようにしか、思えません。それで、芸が磨かれると言えるのでしょうか?そもそも、テレビや、その視聴者は、芸を見ているのでしょうか?いいえ、見ていません。タレントを見ているに過ぎないのです。

・・・・・・使い捨てられた、タレントが、山のようにいるじゃないですか。テレビはそれに関しては見て見ぬふり。自分達で、消費したくせに、責任を取ろうともしない。人気が無くなれば用済み。

僕達は、人間ですよ。芸人である前に、人間ですよ。

賞レースもいいでしょう。ショートネタもいいでしょう。・・・・・・・ですが、テレビに踊らされては、いけないのです。それは芸人、自ら、襟を正さないといけないと、思っていますが。

更に言えば、テレビをご覧になっている方々。・・・・みなさんにも、襟を正していただかなくては、ならないと思っています。」

火野「・・・・私達?ですか?」

葵「ええ。テレビだけでなく、あらゆる、メディアをご覧になっている皆さんです。若い世代の方は、テレビを見ず、スマートフォンで、情報が完結すると、言われています。友人知人とのコミュニケーションから始まり、買い物、道案内、そして、僕等、芸人の、評価まで、スマートフォンで行われています。どの芸人がいいとか、悪いとか、見ていただく分には一向に構いません。僕等を知って頂ける機会が増えるのですから、むしろありがたい事だと思っています。

ですが、多くのSNSが、他人の評価から得られているという事を、自覚しなければなりません。高評価の数であったり、支持者の数であったり、芸人の評価が、何かしらの”数字”で決まってしまう危険性。数字が多ければ多い程、面白い?その感覚は、正常ですか? あなた自身の感覚と差異はありませんか?

他人が面白いと言うから、自分も面白いと、思う。これが、今の、インターネット上で常態化している、評価の基準ではないでしょうか?

僕は”笑い”というものは、決して、そうではないと思います。世間に迎合した、平均化された”笑い”、そんなものは、”笑い”でもなんでもありません。”常套句”というものです。”笑い”とは過去、誰も、成し得なかった新しい境地。新しい感覚。未開の心境。それが”笑い”であり、僕達、芸人が目指す、作り上げなければならない”笑い”なのです。

新しいものは、既存の感覚に、受け入れられないことも多いです。芸人の開拓者達は、それを切り開いてきた。だから僕は、芸人を賞賛するのです。そして僕も、同じ、”笑い”の開拓者にならなくてはならないのです。”笑い”は常に新しくならねばならない。新しいものが、”笑い”になるのです。恐れず、突き進むことが、新しい”笑い”を生むのです。

他人に評価された、”笑い”なんて、クソ以下の、何の価値もないものです。是非、皆さんには、自分の”笑い”の感覚を信じて、笑って、もらいたいです。」

火野「確かに、・・・・人が面白いって言っているものが、面白いと、錯覚してしまうものですね。」

葵「テレビに出ず、出られずと言った方がいい場合もありますが、舞台に立ち続けた方が、漫才師としては、本望なのかも知れません。自分の”笑い”を追求する、という意味では。」

火野「・・・・・葵さんは、大河ドラマにも、出演なさっておられますが?その点につきましては、どうお考えですか?」

葵「とても、不本意です。」

火野「不本意?」

葵「はい。僕は、漫才師ですから、漫才をする事で、金を稼ぎたいんです。

ですから、ドラマ、それから、モデル。・・・・テレビ番組の司会も、携わる事がありますが、それらは全て、相方である、鈴本と、相談して、決めています。

僕は、先程も言いましたが、台本がないと、何も出来ない人間です。僕が輝けるのは、すべて、鈴本のおかげなんです。漫才以外の仕事であっても、鈴本がいてくれなければ、僕は、何の、役にも立ちませんよ。」

火野「いや、・・・・そんなご謙遜を。葵さんが出ていらっしゃるテレビは、どれも、高視聴率で、鈴本さんだけの、お力ではないと、思いますが?」

葵「僕を上手に、面白く、捌いてくれるのは、いままでもこれからも、鈴本だけです。

僕は一度、鈴本に、そういうテレビとか雑誌の仕事は、僕の本分ではないから、ギャラはいらないって言ったんですよ。そうしたら、お前がテレビに出ている時、俺が、ネタを考える。だから、五分と五分だ。遠慮しないで、やって来いと、背中を押してもらった事がありました。

本当に、人間的にも、凄い男なんです、鈴本という奴は。おかげで、妻と、ドラマの競演を機会に、知り合う事も出来ましたし、子供も授かる事も出来ました。」

火野「女優の、渦橋さとみ、さんですね?」

葵「僕が、漫才師で一生、食っていくと、言っても、ついて来てくれると、言ってくれた妻です。僕は、彼女の為にも、生涯、漫才を続けていくつもりですし、彼女の為に、生きたいとも思っています。」

火野「渦橋さんは、ダンデライオンの漫才を、高く評価されていると、うかがいましたが?」

葵「僕達のファンであることは、公言してくれています。いくら、妻が、ファンだとはいえ、手を抜くことはありませんし、贔屓することもありません。むしろ、喉元に、切っ先を突きつけられたような、辛辣な思いです。彼女の、嘘偽りのない、真っ当な評価が、僕達の、漫才の質を、高めてくれると、信じています。」

火野「・・・・それから、人間国宝、成田右近次さんが、ダンデライオンのファンで、いらっしゃるとか?」

葵「ええ。とても光栄な事です。中学しか出ていない、漫才師風情に、成田先生が、お声をかけていただけるなんて、とても、とても。青天の霹靂と言いましょうか、奇跡だと思っております。いつぞや、食事に誘っていただきまして、成田先生に。・・・・その時は、緊張どころか、岩になってしまって、何を食べたのすら、覚えていません。あの時は、無礼をしてしまったと、後悔しております。なにせ人間国宝の先生と、食事の席を一緒にするなんて、一生で、・・・・一生でも、あり得ない事ですから。

後日、妻と一緒に、非礼を謝りに行った際も、快く、ご自宅に、上げていただきました。成田先生のご自宅に上げていただけるなんて、夢のような、ひと時でした。

・・・・・成田先生に言われました。”芸は、自分自身の現身”だと。”磨けば磨く程、輝く”、それは”歌舞伎も漫才も同じ”だと。イロモノである漫才を、歌舞伎と、しかも、人間国宝である成田先生が、同格に、扱って下さっている。その事に、胸を打たれました。一生、精進するしかない、漫才をするしかない、と、僕は、そう誓いました。逆に、成田先生の芸に、負けない、ダンデライオンの漫才を、披露し続けていく、それが、成田先生にお返しする術ではないかと、僕は、思います。」

火野「とても、素晴らしいお考えですね。」

葵「僕は、まだ、若輩者です。人を感動させられる笑い、腹をかかえて笑ってもらえるような、笑い。そんな”笑い”を、見ていただきたいです。」

火野「葵さん。本日は、ありがとうございました。」

葵「・・・・ありがとうございました。」

火野「ありがとうございました、この後、スチール撮影に、移ります。」



火野「あの、・・・・・・私のセリフ、大丈夫でした?」

鈴本「あ、火野さん、問題ないですよ。さすが高校演劇出身! セリフ回し、完璧! なぁ葵」

葵「ほんと完璧でしたよ。鈴本、僕のセリフ、直す場所、あるか?」

鈴本「お前の方はあれでいいんだよ。俺が、一字一句、書き起こしているんだから。」

葵「じゃ、このまま、写真、撮って、お開きか?」

鈴本「そうだな。うん。・・・・あと、取った動画を、短く、編集して、SNSに上げるだけだ。そっちは、事務所に回しておくから。」

葵「じゃぁ鈴本。俺はこれで帰るから。」

鈴本「気を付けて帰れよ。」

火野「ほんと、凄いですね、葵さんは。下手な、役者よりも、台本の、入りが、完璧で。」

鈴本「あいつの才能だよ。・・・漫才とか、コントとか、・・・・ま、落語とかもそうだけど、あ、もちろん、芝居もそうだけどさ、セリフ、入れるのが、天才的なんだ。一字一句、完璧に、覚えるんだ。天才だよ。

ただ、・・・・あいつ、その分、フリートークがダメなんだ。なんにも喋れないの。馬鹿なんじゃないかって思うくらい、喋れないんだ。

ああ、なんて言ったっけ?サバン?サバン症候群っていうのかな?ま、違うと思うけど、たぶん、そういう、類の天才なんだよ、葵は。

自分の、素の感情を、表に出すのが、駄目なんだ。こうやって、芝居になっていないと、一切、感情、出せないんだ。

あいつ、家に帰れば、奥さんにベッタリで、奥さんの言われた通りの事しか、出来ないんだ。それはそれで、まぁ、本人が、幸せなら、幸せなんだろうけどさ。」

火野「・・・・・はぁ。」

鈴本「奥さんも、・・・・・見た目のいい、カッコイイ、人形が欲しかったんだよ。だから葵がピッタリだったんだ。葵の奴、・・・・何も言えないから。文字通り、何も言えないから。掃除、洗濯、子供の送り迎え、なんでもやらされているらしいぜ? ま、その方が、天才漫才師葵雪之丞のイメージアップにも繋がるから、いいみたいだけど。

俺は、ごめんこうむるけどね。・・・・・・あんな、気難しい女優なんか、こっちからゴメンだけどな。」

火野「・・・・はははは」

鈴本「じゃ、今日は、これで俺も、失礼するよ。なんかあったら、事務所、連絡して。はい、ありがと、さん。」

火野「ありがとうございました。」






瀬能「ねぇねぇ、どうでした?御影? 葵雪之丞のインタビュー? カッコ良かったですか?サインもらいました?写真、一緒に、撮ったりしました?」

火野「・・・・・うるさいなぁ」

瀬能「ねぇねぇ、どうでした? 葵雪之丞、いい匂いしました? 匂いかいじゃいました?」

火野「・・・・・・まぁ、そうねぇ、無味無臭・・・・・かなぁ」

瀬能「えええぇぇえぇ、やっぱり、葵雪之丞ぐらいになると、変な、おかしな、匂い、しないんですねぇ・・・・・」

火野「うん、無味無臭・・・・」


※全編会話劇

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ