第54章 囚われの兄弟
アイルは8歳になったばかりで4歳の弟と後は知らない大人達と小さな家で暮らしてる。
アイルはあの時の事を覚えている、家族で船に乗っていた時海から怪物が出てきて暴れていたのを見た。
母親に連れられて船の中に入った時大きな音がして気づいたら浜辺にいた隣りには弟が寝ていて何が起きたのかさっぱり分からなかった。
周りには荷物がいっぱい落ちていて両親の姿は無かった。
そこに運悪く盗賊がやって来て荷物と一緒に連れて行かれたのだった。
檻の中に入れられてアイル達は泣き叫ぶと怖い大人が黙ってろと大きな声で言われた。
盗賊はアイル達を売りに出すと運が良かったのか、たまたま来ていたカザックに買われた。
カザックはアイルに働けば弟と暮らせるようにしてやると提案した、アイルは一生懸命に働いたが子供ではやる事が少なく掃除ばかりで臭くて汚い場所を毎日掃除していた。
アイルの夢は冒険者になって色々な所を旅する事だったが毎日同じ事の繰り返しで段々とその夢もいつからか諦めがみえていた。
今日もアイルは朝から掃除をして疲れた顔で帰って来ると弟がトボトボと歩いて迎えに来る。
「お兄ちゃんお母さんはまだ帰って来ないの?」
ユウは寂しそうな顔でアイルにいつも同じ事を聞いていた。
「まだだよユウが泣かなくなったらね」
アイルもまた同じ言葉で返した。
弟のユウはまだ4歳で毎日夜になると寂しさでお母さんと言いながら泣くと一緒に寝てる大人に怒鳴られていた。
「おいアイル! カザックさんがお呼びだ! 弟と来いとさ」
アイルは弟とカザックのいる部屋に連れて行かれた、そこにはカザックとエレナがいた。
エレナが笑顔でアイル達の元に来るとハンカチでアイルの顔を拭いて挨拶をする。
『こんにちはエレナって言うんだよろしくね』
アイルはエレナの顔を見て母親を思い出す。
(お姉さんお母さんみたいに優しい顔をしてる)
エレナはユウを抱き上げるとユウはエレナに母親を重ねたのか笑顔になって抱きついていた。
『名前はなんて言うの?』
「ユウだよ!」
『そっかぁユウね、君は?』
「アイル……」
エレナはアイルを抱きしめる。
アイルはエレナの包み込む温もりに安心感を感じる。
エレナはアイルに優しく囁いた。
『今までよく頑張ったね』
アイルはその言葉が嬉しかった、ここに来て言われた事がなかった言葉に今までの辛いことが消えていく気がした。
『じゃあ行こうか』
建物を出たエレナはユウを抱き抱えてアイルと手を繋いだ。
外に出るとアイルは何処に行くのか気になってエレナに話しかける。
「ねえ、これから何処に行くの?」
『僕の家だよ、ふたりとも今日から僕の家族だからね?』
アイルは最初何を言っているのか分からなかった。
(どう言う事だろう? このお姉さんに買われたのかな? その家で働くのかな、でも今までの掃除に比べたらいいかもしれない)
アイルはあのボロボロの家で怒られながら住むよりこの優しいお姉さんの元で仕事をするならいいかと思っていた。
アイルは街の人が全員エレナを見ているのに気がつく。アイルは知らなかったエレナがこの街の英雄であり有名人だという事を。
(お姉さんは有名人なのかな?)
やがてエレナの足が止まるとアイルは大きな家を見上げた。
(凄い! お屋敷みたいだ!)
「お姉ちゃんはお金持ちなの⁉︎」
エレナに抱きかかえられているユウが興奮気味にエレナに聞いた。
『まあ少しね、でもここはアイルとユウと同じお父さんとお母さんがいない子供がいっぱい住んでいるんだよ』
エレナが答えると入り口を開けた。
ドアが開く音に気がついたメアがやって来るとアイルとユウに視線が動いた、エレナは風呂の準備をお願いする。
『ただいまメア、ちょっとお風呂の準備してくれる?』
「はーい、その子たちは?」
『今日からここに住むから宜しくね』
エレナのその言葉だけでメアは理解すると兄弟に挨拶をする。
「分かった。私はメアよ宜しくね!」
「アイルです……」
「お姉ちゃん僕ユウだよ」
メアはふたりの頭を撫でると風呂場に向かった。
エレナは風呂が沸く間応接室でお菓子を出す。
『どうぞ、もう夜も近いから少しだけね』
甘くて美味しいクッキーをふたりは美味しそうに食べていた、それをエレナは微笑みながら見て話しかける。
『これからはここでいっぱい遊んで勉強するんだよ』
「え? 働かなくていいの?」
アイルは働くと思っていた為驚いて聞き返した。
『ここはアイルやユウみたいにお父さんお母さんがいない子たちが将来なりたいものに向かって勉強してる……アイルとユウは将来何になりたい?』
「冒険者‼︎」
アイルはつい大きな声で言ってしまった。
「僕も!」
ユウも元気に手を上げた。
『じゃあ頑張って勉強しなきゃね? そうすればなれるよ絶対』
コンコン
「お姉ちゃんお風呂湧いたよ!」
メアの声が聞こえたのでエレナは返事をする。
『分かった! さ、行こ』
エレナは兄弟とお風呂に入ると湯船に浸かりながらアイルからこれまでの話を聞いた。
『そうか……大変だったね。時間はかかるかもしれないけどアイルとユウのお父さんとお母さんを探してみるよ』
アイルは母親のような優しいエレナが大好きになっていた。
ユウも既にエレナにベッタリとくっついていた。
お風呂を出ると綺麗な服を着せられた兄弟はエレナに連れられていい匂いのする食堂に入った。
そこには孤児の子供達がいてアイルは少し緊張する。
エレナは兄弟を連れていくと皆に紹介した。
『今日から皆んなの仲間を紹介するね』
エレナは兄弟を見て話しかける。
『じゃあ名前を皆んなに教えてあげて』
アイルは緊張しながらも名前を言うとユウも元気に声を出す。
「ア、アイルです」
「ユウです!」
子供達はわぁーと騒ぐとアイルとユウを温かく迎えた。
「よろしくね!」
「友達になろう!」
「「うん!!」」
それを聞いたアイルとユウは嬉しそうに返事をした。
その後子供達に混ざって美味しい夕食を囲んでいた。
寝る時になるとアイルに不安が襲った、ユウの夜泣きが心配になっていたのだ。
アイルはエレナを見つけると話しかける。
「あの」
『どうしたの?』
「ユウが夜にいつも泣くんだ、だから……」
エレナは無理もないと思った、母親がいないあの歳の子だと。
『じゃあ今日は僕と一緒に寝ようよ』
エレナはユウの所に行くと抱っこしてアイルの元に来る。
『さ、行こう』
エレナの部屋のベットに入るアイルとユウは温かいエレナの体温が心地よくユウはすぐに寝てしまった。
エレナはユウの頭を優しく撫でるとアイルに言った。
『アイルは偉いよユウを守ってきたんだから』
エレナはアイルの頭も優しく撫でるとアイルはエレナの顔が母親に見えていた。
「お母さん……」
アイルはエレナの腕に顔を押し付けると声を上げて泣いた、今まで我慢していた分も全て出すかのように。
『もう心配しなくていいんだ』
「うん」
この日からユウは夜に泣かなくなった。
アイルは冒険者になる夢をまた目指して頑張ろうと勉強を始めるのであった。




