番外編 100年前の記憶
100年前のカダル王国からずっと東に行った先の森にて……
(くそ! あんな魔物がいるなんて聞いてないぞ! まずい何とか倒せたが傷が深い……)
ルヴォス大陸の冒険者の間では有名な高ランク冒険者ユギルは依頼で東の森にいる魔物を倒しに来たが見た事のない強い魔物に出くわしてしまい深い傷を負って木にもたれかかっていた。
ギルドからは何人かで行くように言われていたがユギルはそれを拒みひとりで来ていたのは自信だった、それはまだ20歳という若さもあり恐れをまだ知らなかった。
「調子に乗っていた結果がこのザマか……」
ユギルは周りがボヤけてくると意識が遠くなっていった。
(ここまでか……)
意識が薄れていく中ザッザッと人の歩く音が聞こえた気がした。
目を覚ますとユギルは家の中にいた。
(助かったのか?)
キィとドアが開く音がしたのでユギルは視線を移すと綺麗な女性が姿を現した。
「目が覚めたわね、安心して後は体を慣らすだけよ」
ユギルは体を動かして確認すると深い傷が見事に治っていたので驚いて女性に聞いた。
「あの傷が綺麗に無くなってる⁉︎ あんたが治してくれたのか?」
「私は治療が得意なの」
「助かった、俺はユギル、礼を言う」
「じゃあ体が動くようになったらここの事は忘れて出ていきなさい」
そう言うと女性は部屋を出て行ってしまった。
ユギルはベッドの上で考え恩を返すまでここにいると決めた。
その夜再び女性が部屋に来た時、ユギルは女性に言った。
「俺に何か礼をさせてくれ」
「構わないわ」
「なんでもいい、それでは俺が俺を許さない」
「強情な人ね」
女性は苦笑して少し考えると。
「じゃあお父さんに話してみれば?」
そう言って部屋を出て行った。
ユギルがこの家にいた人に聞くとその女性はサラと言う名前で集落の族長の娘だと聞いた。
次の日、体が動くようになったユギルは族長の家に向かった。
族長に頼み込みもうこの村からは絶対に離れないと約束すると族長は条件にユギルに術をかける事を提案した、それはサラから一定の距離を取ると死ぬと言う術だった。
ユギルは条件を飲みこの村に迎えられたのだった。
その日からユギルは村のために狩や建物の補修などをして働いていた。
ある日ユギルが村を歩いているとサラが声をかける。
「お父さんからから聞いたわ、術をかけられてまでここに残りたいなんて変わった人ね」
「そうしたいからそうしたまでだ」
「ふふ」
サラは少し笑うと悲しげな表情で言った。
「あなただけよそう言う口をきいてくるのは、他の皆は私をまるで神様のように扱う……」
「俺はここの人間じゃないからな」
「あなただけはその調子でいてね……たまに話に付き合ってくれると助かるわ」
サラはそう言って去って行った。
その頃から3日に1回、夜になると村の近くにある湖で話すようになっていた。
たわいのない話をすることもあればサラは一族の話や亡くなった母親の事を話し、ユギルも冒険者として旅の話を聞かせるとサラは羨ましそうにそれを聞いていた。
日が経つに連れてだんだんとユギルはサラの事が好きになっていた。
話すのが待ち遠しくなり、会うのが楽しみになっていた。
いつも通りユギルと話した後サラは嬉しそうに家の中に入って行くと父親に呼び止められた。
「サラ、話がある」
「お父さん、何?」
サラは父親の前に座ると深刻な顔でサラに話し始めた。
「カダル王国が迫っているようだ、ここに来るのも時間の問題だ」
「そう……」
「奴らは魔物を操る研究をしている様だ」
族長であるサラの父親は昔カダル王国からこの地に逃げる前に偵察に出していた仲間から情報を得ていた。
「もしもこれが完全に操れるようになればこの大陸は奴らの手に落ちる」
サラの表情が暗くなっていたのを見て父親はサラに選択肢を提示した。
「サラ、お前はあの男とこの村を出てもいいのだぞ」
「な、何を言ってるの⁉︎」
サラは思いがけない言葉に狼狽えると父親は顔を緩ませて言った。
「ふ、お前があの男を好いているのは分かっている、あいつがここに来てからのお前の表情を見ていればな」
族長はサラの冷めた表情がユギルが来てから柔らかく変わっていくのを微笑ましく見ていた。
「もう一度言う、ここを2人で出ることを許そう」
「皆を置いていくなんて出来ない……それに覚悟はもうしているから……」
「そうか……すまない」
ユギルがラーガの村に来て1年もした時、村人が何者かに襲われたと言う事件が起きた。
それを聞いた村人は皆怯えたような表情をしていた。
その夜族長の呼びかけで集会が行われた。
「きっとカダル王国だ、奴らがまた俺達を狙ってるんだ」
「ここが知られてしまったのか……」
「他国に取られると脅威になるから滅ぼそうとしているんだ」
広場では集まった村人が騒ぎ出していた。
「静まれ」
族長の一言で辺りは静まりかえった。
「ここを離れよう、それしかない」
族長の発言に皆俯き黙っている。
「そうだ、それしかない」
「またやり直しか……」
村人は離れる事を受け入れた。
「明日の朝にはここを離れられるように皆は準備を、サラ話がある」
「はい……」
サラは族長に呼ばれ家に入って行った。
夜中の事だった。
「魔物だ‼︎ 魔物の大群が来るぞ‼︎」
静まり返りっていた村中に見張りをしていた男の声が響きわたる。
それを聞いたユギルはサラの元に走って行くと族長の家の前にはすでに大勢の村人が集まっていた。
族長は地図を広げると大きな声で言った。
「これから4つに分散して逃げるぞ! 皆は自分の行く場所は知っているな? 集まったらすぐに出て行くんだ!」
ユギルは地図に書かれた場所を見てサラの向かう場所を把握した。
そして大きな音が鳴り響き魔物達が村に進入してきたのだった。
ユギルはサラを守りながら森を出て行くと待っていたかの様にカダル王国の兵士が武器を手に迫った。
「来たぞ! 捉えろ! 殺しても構わん!」
(おかしい、魔物が村を襲うのを知っていたのか? どうして……)
ユギルは不審に思いながらも何とか逃げ道を作りサラが目指す森に辿り着いた。
森に着いた時20人いた村人は5人になっていた。
奥へと進むと洞窟を発見した。
「もう逃げ道は無い、ここで私は結晶石となりこの力を守らなければならない」
サラは村人にそう告げると村人は答えた。
「分かりました私達もサラ様を守る守護者となりましょう」
1階、2階、3階と1人ずつ残って行く。
そして5階にサラとユギルはやって来た。
薄暗い洞窟には神殿のような光景が広がりユギルは戦闘で疲れたのか倒れた柱に座った。
サラはユギルの隣に座ると真剣な顔で話しかけた。
「あなたまで付き合う必要はないわ、ここから逃げて」
「何を言ってるんだサラ! お前を置いていけるわけないだろ!」
「行って……もう十分にお礼は貰ったわ」
「……俺はここを、お前のそばから離れない」
「まったく強情な人……」
サラはしょうがない人と呆れた表情でユギルを見ていた。
「じゃあお願いがあるの」
サラから初めてだった頼み事にユギルは少し驚きそれを成し遂げたいと思った。
「お父さんが言ってたの、カダル王国は魔物を操る研究をしているって」
「やはりな、おかしいと思っていたんだ」
「このままだとこの世界はカダル王国に支配されてしまうわ……でもまだ完全に魔物を扱いきれていないと思うの。だからお父さんは未来に託す事にした」
魔物が襲撃してくる前サラ達は族長に呼ばれ言われたのだった。
「このままではラーガ一族は滅びてしまう……使命を果たす時だ」
「これからいつになるか分からないけど、いつかここに来る者が現れるはず……その人の一族の力を集める導き手になって欲しいの」
「力を集めるとはどうすればいい?」
「虹色の結晶石を4つ集めて、場所はお父さんが4つに分けた場所にある」
「分かった、任せろ絶対にやってやる」
「任せたわね」
「これからあなたに術をかける。意識と体を封印するけど生命は絶たれるわ……復活してもマナがないと動かないからね」
「ああ、やってくれ」
「死ぬと分かっていても恐れもしないなんて本当に変わった人ね」
サラは術をかけ始めるとユギルのすぐ近くまで移動してくる。
ユギルの顔を手で触り何か言おうとしていた。
「……これは術をする上でしなくてはいけない事なの」
そう言うとユギルの唇にサラの柔らかい唇が合わさった。
「……さよならユギル」
ユギルの意識が薄れていく中サラの声が聞こえていた。
「あなたに会えてよかった」




