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勇者の盾は、もう要らず。  作者: あんころもち
第四歴 勇者の盾、その外出。
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第四十二話

「……それほどまでに、彼女は……」


 ああ、強い。いや、強いというか、ひどい(・・・)。さっき見た通り、まず人体程度なら軽く貫いたり潰したりできる怪力。そしてあの幼心。まず間違いなく、冗談抜きに、血の風が、それこそ台風のように吹き荒れるだろうよ。


 それもこれも、あの角。あの角のせいだ。あれさえなきゃ、まだこの区画程度で済んだものの、あれがあった以上、一度ああなったら、もう、自身の激情が、まさに心底すっきり(・・・・)するまで止まらない──まったく、厄介なものが混じってるもんだよ。


「角、ですか……気になるところではありますが、まずは二つ目の方案を。口調から察するに、そちらのほうが、確実、なんですよね?」


 ああ。っても、別にさっきのと大して変わりゃしない──俺が止める(・・・・・)


 俺が、あの第一級危険物の前に躍り出て、そんで思いっきり気を引いて、そこから、文字通り気が済むまで相手をしてやるって、言っちまえばただの囮作戦さ。


 これなら、まず間違いなく時間は稼げるし、最低でもそっちは確実に逃げられる。それに、俺も、あの程度(・・・・)で殺られるほどやわじゃないからな、死なない程度に付き合ってやるさ。


 ったくよお、あの野蛮人、余計な一言をくれてやったもんだぜ……ま、もう死んでるから、これ以上は文句言ってもしかたないけど。


「ですが、それでは……、いえ……」


 眉を寄せる。目を閉じる。──葛藤している。


 ああ、わかる。わかるとも。ここでその、ある意味、いや、間違えなく、俺をたった一人で死地に向かわせるような手段を取って、はたしてそれでいいものか、と。


 本当ならば、叶うならば、自身もその助太刀として、この場に残りたい。けれど、そうするには、自身があまりにも実力不足だということが、彼には理解できてしまっている。


 それはそうだろう。いくら彼が、そこらの同族の同年代よりは嗜んでいるといっても、所詮まだまだ子供の範疇。あの、一握りで命すら圧し砕く災害もどきには、逆立ちしたって敵わない。せいぜいが羽虫扱いだ。ただ払われただけで、その指先に当たっただけでも終わりだろう。


 だから、葛藤している。拮抗させている。


 ただ、憧れた人の隣に並び立ちたい、という幼い年相応と。


 だけど、憧れた人の足手を引っ張ってしまう縄にもなりたくない、という、大人びた年不相応を。


「……、……、……。

尋ねます。それが、最善なのですね?」


 絞り出すように。求めるように。そうであってくれ、と懇願するような。あるいはそうならないでくれと取り縋るような。そんな相反するなにかが込められた、問い。


 どう答えたところで、きっと彼が納得を覚える事は無く。なら、俺は──


「ああ。そうだ。これしかない。これ以外には存在しない。これが現状、最も確実に目的を達成できる。


……。だから、少年。おまえは、あの二人を、頼んだぞ」


 笑みを。頼られるぐらいの、余裕を込めた、込めたように見せつけられる、大人の笑みを、頑張って、取り繕う。えてるよな?


 わからない。こんな無理は、けっこう久しぶりで、今、自分の表情(かお)が、どうなっているかすら、我がことながらわからない。


 でも、ああ、きっと、目の前の、今にも泣き出しそうで。もう、実際に、涙袋にいっぱいの感情それを蓄えている彼にとって、必要だったのは、そんな精いっぱいの虚勢なんかじゃなく。


「っん、ぐぅ、……──、


はい! わかりました!!」


 自分の、迷ってばかりで情けないその背中を、無理矢理にでも押してくれる──言葉(手のひら)だったんだろうから。


「──あとは! お任せします!」


 くるり。身体を、未だ状況を飲み込みきれていない女性二人に向け直し、そのまま彼女達へと、激励を残して走っていく。


 そのときの、やけに水気を含んでいた声は……ま、気づかなかったことにしてやるか。

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