第四十一話
「ああ、やぁっぱり、ただのひとって、とぉっても脆いんだねえ……まったく、なんでこんなよわっちいのに、わたしのこと、連れてこう、なんて、おもえたのおぉ?」
みぢゃ。最後の、もう、戦意どころか抵抗の意思すら無く、ひざまずき、両手を祈るように組み、ただただ命乞いを、顔中からどろどろ体液流して繰り返していた男の頭を、その小さく幼い片手で、おっくうそうに握り割る。
そこでようやく怒りが収まったのか、一度大きく、なにかを抜くように深い息を吐くと、血やらなにやらでべしゃべしゃになった外套を、煩わしそうに自分の身体から剥ぎ落とした。
そこで、ようやく彼女の全貌が明らかになる──つの。
ほかにも、灰色の肌とか、服の袖とかからはみ出る動物らしき白い体毛とか、まあ気になるところはままあったものの、一番興味を引かれたのは、その頭に小さく生えている、やけに見覚えのある、特徴的な一対の角だった。
いや、いやおま、おま……あれ……
「うわ、あえあおああ……!」
「ひ、ひと、しん、しん……!」
「う、うえ、うえうううぅ……!!」
っと、それどこじゃねーわ。こんな人の往来が激しいところで、こんな大々的に人の内臓ぶちまけちまったら、そりゃ周りの人たちはこんな恐慌状態に陥るわな……くそ、出来ればここからさっさと離れたい。離れたい、が……
「あっれぇえ? どうしてこんなにうるさいのぉ? ちょっと邪魔なもの、かたづけただけなのにぃ。
あ。もしかして──あなたたち、わたちの邪魔、する、つもりなのぉお???」
──ああ、くそ、まずい、まずいまずい! あいつ思った以上に頭の留め具がひどく緩い! さっき収まったはずのイラつきが、辺りの、ばたばたとした、悲鳴混じりの喧騒で、また空いた脳みそにだくだくと流し込まれてやがる……!
あのままじゃ、ここ、いやこの町で──
癇癪に任せた大量虐殺が、開かれちまう……!
「──どうしますか、ライトさま」
少年。ここで、事態をじっと、機をうかがうように静観していた少年が、今が動くべきだと感じたのだろう、こちらに指示を仰いできた。
うん、うん……うし、まずは冷静になれ。まだ、あの間人は行動を起こさない。あの手の幼稚は、まず自分の快不快で動いていて、そこから見ると、今にも近くの人間に飛びかかってしまいそうだが、けれど、まだ、まだまだだ。
だってあいつ、今は人が起こす騒音より、まず自分の服や肌ひっ付いた血やら肉やらに気を取られている。取られてくれている。あれなら、あと少しだけなら、そっちに集中してくれそうだ。
なら……
「……。よし、まず、自分たちの安全が第一だ。正直、ほかの人間が死ぬのは、まあ最悪どうでもいい。俺たちの目的は、まだ果たされたとは言えないし、そもそもこんな事態になったんだ、誰ものんきに買い物だなんてしようと思わなくなるだろう。つまりこの時点で、俺の装備を買い揃える目はほとんどなくなった。
なら、あとは、いかにあの、爆発寸前の危険物から逃げるか、といったところだが……」
これについては、二通り経路を考えてある。
一つ。まず、周囲の人間の虐殺をあいつが開始し、そうしてほかの誰かに夢中になっているところで、こっちはさっさと荷物まとめてすたこらする。
だが、これは難しいだろう。なにせ相手は人を一撃で、しかも流れる水みてーな滑らかで仕留められるやべーやつだ、いくら人がいようと、こっちが逃げる準備している間に、矛先がこっちの急所目掛けてすっ飛んでくる。
そうなれば、俺たちのうちの、俺以外の誰かが確実に一人か二人は死ぬ。だろう、なんて曖昧は付けん。これは確定事項だからだ。




