第三十八話
「……よいのですか?」
え、少年、なにが。
「え、いえ……なんというか、その……てっきり、あの状況、あの危機に、その足を赴かれるのか、と……勝手ながら、そう思いまして……」
ん、ああ、いいのいいの、だって別に今の俺、全面的な人間の味方ってわけじゃないし……助ける理由も無いし……そりゃ助けりゃなにかしらの報酬が発生するってんならまだしも、その保証だって無いし……
だもんで、あまり救出って点だと、あまり食指が動かない。いや、そりゃあ善良な一般の人が、あんな明らかに悪そーって感じの、やつらに拐われるってのは、ああ、心が痛むものさ。
でも、それだけだ。それ以上の同情は無い。それ以下の感想も無い。なにせそいつを助けて、得られるものの最低保証があまりに低すぎる。一考する価値も無い。
んで、もっかい言うけど、俺は善人の類いじゃない。むしろ昔、生きるための糧目当てに、出来ることはなんでもしたし……だもんで、それが俺の、基本的な行動原理だ。まず報酬ありきなんだよ。
だから、あえてこう言うが、あの、助けを求める誰かの手を、俺は取らない。身内やその知り合いってんなら、まあタダでも構わんが……他人を、ましておまえらにとっての仇敵たる人間を、殊更に助けようなんてのは──正直なところ、まったく思わないよ。
「そう、ですか……いえ、そうですね。今のあなたは我々の身内だ。そうなれば、確かにあの人間を助ける動機などありはしません……」
そういうこと。まあ? こっちも同じように拐われかけたってんなら、そりゃ全力で応戦するがね。あの距離じゃ、それも難しそう……え、あ、ちょ、ちょい待て。
あの奇妙な集団……なんか、大通りに、向かってきてないか……?
え、なんで? つーかちょっと、むしろなんだか、拐うほうが、こう……引きずられてないか?
「ちょ、この、この離せ、はなしてぇえ!」
「な、ん、こいつ……どんな馬鹿力、して……!」
あれ、しかもよく見たら、引いてる人数が、もう男全員に増えている……え、えええ……すげえな、なんだこの光景、人間同士じゃ滅多に見られない光景だぞ……
そんで、その、怪力としか言い様の無い、まさしく膂力、衆にまさるという言葉を体現しているやべーやつは……あれ、なんか外套目深に被ってて、顔とかあんまりはっきりわからんな。
だが、それ以外……例えば身長とかなら、そうだな……大体……あの村に住む、年長の子供ぐらいしか、無いな……それだけでもけっこう驚きだけど、加えて、掴まれてる腕。そこからちょっとだけ素肌がチラ見えしてんだが、……明らかに、人の肌色じゃない。
しかも……ここからだと、まだよく見えんが……なんだろう、毛かな? そういう人以外の特徴も、あからさまにその身に現れている。
であれば、そうか、あの子、あの子は……




