第三十四話
「ああ、それも合ってる。というより要素の一つ、と呼ぶべきか……まあ、一番目に見えやすいってのがそれだよな。我を通すだけの、純粋な力、ってか……」
必ずしも必要、というわけではない。というより、それを、様々な理由によって持てない誰かだっている……けれど、それだけで立っている人間を、俺はあまり見たことが無いし、そしてそうでなくても、これは敵わない、と思わず唸った誰かだって見てきた。
まあ、大抵そういったやつは、どこかとんがった特技とか特徴とか技能とか、つまるところ武力に代わるなにかを身に付けていた、というオチなのだが。
そして、それは別に一つじゃなくていい。誰もそうでなくてはならない、なんて決まりごとは無いし、事実複数やべーのを持っている誰かと相対したこともある。あのときほど自身を丈夫に産んでくれた親に感謝したときは無い。でなかったらとっくに死んでいた。
「だが、それだけじゃない。いや、それだけじゃなくていい、と言うべきかな……」
例えば。慣れない手つきで、指を一つ立て。
「とある町、いや村でもいいが、とにかくそんな人が集まって暮らす場所が、突如なにものかに襲われたとする。既にそこはその襲撃によって大半が壊滅状態にあり、暮らす住人らは避難して助かっていたものの、けれどそこには寝床も、食料も、どころか衣服すら着の身着のまましか残っていない……さて。
こんな絶望的な状況で、果たしてそちらが言った武力だけで、すべてどうにかできるかな?」
我ながら、意地の悪い問いだと自覚する。こんな例え話を出されて、先ほど答えたたった一つの力だけで全面解決できるなどと、どう答えられようかって話だ。
そりゃ、その力を持ったやつが、襲撃の原因を排除するってだけならいい。けれどそれ以降、町の修繕や物資の補給まで手配しようってんなら、これはそれだけではどうにかなる、はずもない。
結果、少年は予想したとおりに、それは、と、困ったようにのどを震わせ、それから苦虫を噛み潰したみたいに、くしゃりと顔を内側に歪ませた。
「少し意地悪な質問をしたな、すまん。
だが、これでわかったと思うが、人は別に、強さなんて、複数持ったって構わん、ということだ。
少年。ここでさっきの問いに答えるが……強さってのは、そいつ個人の強みであり、そしてそいつがそれまでで得てきた全てによってかたどられるのだと、俺はそう思う。
だから──さがせ。自分にはなにが出来るのか。これまで歩いてきた道で、一体なにを拾い、育て、重ねてきたのか。
見返してみろ。そんで、そうして──まだ強さと呼べるなにかがまだ無いって思ってしまったときには……もっと、経験と道程を進めてみろ。強さだなんだといちいち議論を交わすのは、またそこからだ」
その結果、果たしてそうした誰かはどんな強さを持つのか。持ってしまうことになるのか。それは得た、と確信するまでわからない。
けれど、それは、きっと、たった一つだけなんかじゃない、はずだ。きっと、そこまで飛び抜けてはいないけど、これはそうなんだ、と、ほんのちょっぴりだけ自信が持てるなにか。それを、それらと呼べるくらいに、たくさん、あるいはたったわずかだって持っている、と気付けたとき。そこが本当の意味で強くなれる出発点ってやつなんだろう。
まあ大抵のやつは、そこに至るまでに、その生涯を駆け抜けてしまうのだが。そこはご愛嬌、というやつだ。




